第113鮫 シャークカラミティ
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SIDE:???
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俺はアメリカの〈百年の指示者〉ことアリレオンだ。
ある朝起きたらサラムトロスなんて異世界に飛ばされていて、持ち前のワニ技術で何とか生きながらえている。
何より、魔獣ってのが厄介だ。即席でワニマシーンを作り出しては相打ちになるような場面が殆どなぐらいにはな。
俺は遺伝子工学専門で機械工学には弱いんだぞ、専門分野で戦わせろってんだ。
大体、あとから知ったが俺が飛ばされた場所はピンポイントに魔獣出現地帯なんて所で、生活圏を固定された魔獣達の巣窟だったらしいからな。
そう思いながらも、毎日がサバイバルな生活自体は楽しかったのもよく覚えている。
実際、魔獣と戦っている生活の中、1人の冒険家の女性、ルーツ・メッシーと出会えた事は大きい。
最初はいがみ合ったり食い物を取り合ったりしたが、最終的にはお互い恋に落ちて結婚した訳だからな。異世界さまさまだぜ。
――そう、あの日から俺はかけがえのない宝物を手に入れたはずだったんだ。
ルーツと愛を育むようになってからは、彼女の故郷であるアミキナ王国に住むようになり、時には冒険を、時には家庭を、それぞれの時間を楽しんでいた。
また、次第に家は大きくなり、研究設備も整った。サラムトロスだろうがなんだろうが、ワニの研究はしたいからな。強いていえば、この世界にワニがいないってのが残念な話だが俺には嫁がいる、気になんねぇよ。
それから数年が経ち、息子のアート・メッシーも引き連れ家族3人で冒険に出かけ、お宝も手に入った事で家へと帰ったある日、問題が起きた。
家の中になぜがアミキナ王国の兵士達が入っていたのだ。
どうにも、国は俺の技術に気付き、それを求めたらしい。
当然お断りだと思い3人で国外逃亡を企てた。
だが、敵も敵で根回しをしていたのか嫁と息子はフレヒカ王国へと亡命に成功したものの、俺自身は国で囚われの身となってしまった。
はっきり言ってここまで人を恨んだことは無い。
祖国だって、ここまで酷いことはしなかった。両親だって平和に暮らせる措置をしてくれたし、過度に自由を奪うことなく協力と情報の隠匿を求めたぐらいだ。
だが、奴らは俺の技術を求めていたんだ。
世界を支配したかったから。
だから、その中で何とか抵抗を続けた。
アミキナ王国がワニ技術で世界を統べるのであれば、それによって様々な争いが起き、その中で、嫁も息子も戦火に巻き込まれ傷つきてしまう可能性だってある。
そう、その手段として、当時の女王を口説いてやったんだ。
浮気? 不倫? 確かにそう言うやつもいるかもしれないから俺は否定したりはしない。
結果、統合戦争終戦をきっかけに国家間での戦争がほぼ存在しない社会になったことで跡取りのための婚姻に国同士の友好関係のための許嫁制度などが無いこともあって、その抜け穴として俺は女王の婿になれた。
これは本当に上手くいった。
おかげで、いつの間にか俺の技術は国の保有物である前に王族の力ということにすげ変わっていったのだから。
そうなれば、俺の研究は自然と王家で隠匿された王位を継承するための情報になっていくわけだ。
全く、計画通り家族を守れちまったな。
――ここまでが、俺の勘違いの話だ。
現実を話そう。
本当はルーツ・メッシーは亡命に失敗して死亡しており、息子のアートも行方不明となっていた。
俺自身、昔から偽の情報を掴まされていたのだと分かってしまったのだ。
じゃあ、何のためにここまでやってきたんだ?
ふざけるな、こんな国を、世界を滅ぼしてやる。
だから俺は、死ぬまでに無限に拡大する"ワニウィルス"と、災厄と呼べる最強のワニたる"カラミティ・イリエ・アリゲーター"を生み出した。
その技術は、いずれ欲に眩んだアミキナ一族が引き金を引くことで動き出すだろう。
さあ、世界よ、俺の手で破壊されろ。
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SIDE:鮫沢博士
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あっという間に、女王が向かった先へとたどり着いた。
そこは富豪層区の中央であるが、戦争でも起きたかのように建物という建物が燃え盛っており、その中では未曾有の光景が繰り広げられている。
ただただ巨大な、四足歩行で地を這う薄緑のイリエワニ。82mと有り得ないほどに大きく、それはもはや怪獣と呼んで差し支えの無い存在じゃ。
その上に、片腕を失った後、何らかの応急手当を済ませた女王が立っている。
彼女は〈百年の担い手〉なのじゃろう、その怪獣の力は本来の力を更に超えて暴れ回っているのが見て取れる。
しかし、どうにも白目を向けてしまっており、意識を失ったまま〈担い手〉としての力を与えているだけの、半場苗床にされてしまっている状態にも思える。
反面、彼女の〈担い手〉補正によるパワーアップは8分20秒間1.82倍に力を問答無用で引き上げるのだと考えるのが妥当じゃ。それも、対象があの怪獣となってはキメラアリゲーターと比べても桁違いなパワーアップをしておるじゃろう。
ただ、そんな敵だろうと立ち向かう戦士達もまたいる。
1匹は全長52mはあるタカアシガニで、体中から機関銃にミサイルにレーザーとあらゆる火器を発射しながら爪により挟み込む攻撃を行っていた。
しかし、その程度の攻撃ではビクともしないのか、はっきりいえば押され気味。
また、もう1匹は同様に50mの魚人種シャケ科の人間で、おそらく魔法で巨大化して上手く力比べに持っていこうとしているのだが、ワニの口をこじ開けようとしながらもそこから炎が吹き出され身体中火まみれじゃ。
この際何故鮭王がこの場にいるのかは気にせんでおこう。地上もワニ達も活性化しかのように何百という数で暴れ回っており、熊王や〈螃蟹勇者団〉の組織員達が対抗して抑えにかかっておる姿を見るに、元々この国へ旅行にでも来ておったのじゃろう。……何故かその中にあのサンタクロースがいるのが気になるが。
「そろそろ操作権を変わってくれ博士」
「もちろんじゃ彩華よ」
「私も巨大化して加勢するわ |I'm Shark human《私はサメよ》!」
「似たような能力はありますが、巨大化は羨ましい限りですね……鯱変身!」
「打つのはこの2本の遺伝子シャチ! ギガントゴーレム! リヴァイアサン! シャチと混ざりあえシャチ!」
「鯱三郎、一緒に背へ乗るオルカよ」
セレデリナはワールド・カジノ・シャークから落ちながら単眼鮫魚人へと変身、鯱崎三兄弟は鯱一郎が同様に落ちながら注射を行うと元の鯱人な体を50m大に巨大化させながら身体中が鎧のような岩に包まれたような姿となった。その右肩の上には2人の弟が乗っている。
「魔獣シャチ9号"アクアギガントオルカ"だシャチ」
かく言うわしらは、蜴王女を乗せたままこの黄金に輝くサメで戦うまでじゃ。
「ボールルーレット、スロット、ポーカー、チンチロダイス、全フル稼働!」
彩華がそう叫ぶと、ワールド・カジノ・シャークの体中に存在する遊戯設備が動き回る。
それはスリーセブンやロイヤルストレートフラッシュにピンゾロと、最高の役を弾き出していき、サメは大きな力を蓄えていく。
それは何かのエネルギーなのか、役に合わせて蓄積されていく力は口の中へと収束していった。
「ジャックポットゥ! 皆さんが来てくれれば一安心デース。このワニ、〈担い手〉が乗ってからかすり傷ひとつ付けられない程硬くなってる上にどの攻撃も喰らえば深手を負うか即死クラス! とにかく慎重に戦ってくだサイネー」
わしらの合流に気付いたハンチャンから忠告を受けたが、もはやこの世界一のサメを前にそのような事は心配ご無用じゃろう。
彩華の〈騎乗者〉としての制限時間も1分半は残っておるからな。
そして、ワールド・カジノ・シャークの口部からは黄金に輝く電磁砲が――怪獣そのものを覆い尽くす程の巨大な規模の光の線が放たれたのじゃ。
もはや一撃必殺も同然、仲間達に余計な力を使わせる前にトドメを刺すぞい。
「お母様、これで痛い目を見てくださいまし!」
「よし、これでやったか!?」
「いかん、そのセリフを言うとダメな気がするのじゃ」
じゃが、電磁砲を撃ち尽くした視界の先では、無傷でピンピンしている怪獣の姿があった。
流石に無傷は無いじゃろ無傷は。
「マジですの」
「残念ながら現実のようじゃ」
「あの攻撃を見たのかセレデリナが明らかに攻撃手段に困っているな、本当にどうすりゃいいんだこれ」
敵は破壊の限りを尽くしながらも絶壁。
もはや自然災害のような理不尽との戦いになっていた。