第110鮫 贋作鮫と真作鰐
まずは1発、女王贋作鮫は拳を振り上げ右ストレートを女王の頭部を狙いぶつけた。
「……なるほど、そういう事か」
それと同時に、女王もまた女王贋作鮫の頭部に右ストレートをぶつけた。完全に同タイミング、シャークシンクロじゃな。
そう、このサメの真価は女王が行う全ての行動をトレースして実行するというモノ。当然味方に攻撃を行わないようにもなっておるぞい。
つまりは実質的にあらゆる動作の妨害を行うことが出来るため、彩華との連携を行なえば一方的に攻撃を通すことが可能という訳じゃわい!
「すっげぇサメだな。それだったら、俺もこいつで!」
彩華は女王に向かって、膨張させたペンライトセイバーを振り下ろした。
「そう上手くはいかんぞ!」
じゃが、鯱崎兄弟と格闘しておるキメラアリゲーターの右腕をまた切り離して彩華を直接殴りつけ、攻撃の起動を逸らしてしまった。
悲しいかな、ワニをピアノ線でコントロールする彼女の現状まではトレースできん、その間、女王贋作鮫は身動きを取れなくなるのじゃ。
「大技はやめといた方がいいってことか……」
「何なら鯱崎兄弟次第じゃぞこれは」
しかして、女王贋作鮫は自動で動いて戦うサメじゃ、その間にわしは次のサメのための素材を辺りから調達することができるのじゃ。
「玉座の奥の祭壇に飾ってあった聖杯じゃ、これを使えば相当なサメを造れるぞい」
「家宝を取ったか、許さん!」
わしの動きを察知した女王は、またキメラアリゲーターの腕を切り離してそれをわしに目がけて飛ばそうと目論んだ。
じゃが、今は複数人戦、互いにそう上手く行かんようにできておる訳じゃな
「やらせんオルカ」
「シャアアアアアアアアアアアチ!!!!!」
隙間という隙間からシャチが浮き出る異様なシャチは大回転すると見事に切り離す寸前の腕に命中し、部位ごと削り取ろうとする。
これが上手く決まったのか、腕ごとボロボロの肉塊状態にまで持ち込むことに成功したぞい。
「なんということをしてくれたのだ!」
「じゃが、続けてわしはその家宝をサメにさせてもらうぞい」
シャークゲージを注入された聖杯は、その杯の中から凄まじい勢いを出して泥のようなモノを排出していく。
そして、その中から2本の剣が出現する。
剣は真っ黒な邪剣! 刃がサメの歯な如くノコギリ状にギザギザしておる! その上に先端からはサメの目が刻まれ、2本を束ねることでサメの頭部を再現出来ることは間違いなし! なんだこのサメ双剣は!? いや、その名は!
「現れよ、異世界サメ71号"選定の鮫サメバーン&聖鮫エクスカリシャーク"!」
「闇に堕ちちゃってるじゃんかその聖剣!」
やはりただの聖杯で聖なる剣を造るのは無理があったか。
じゃが、ただでこんなサメ武器は造らん。
わしはソレが完成次第、女王贋作鮫に向かって2本の剣を投げてやった。
奴は見事に両腕でキャッチ、それによって新たなるサメが生まれる。
『アーシャー!』
女王たるサメ、それが担いし2本の剣は白く浄化されていく。
おお、この色合いはホオジロザメとそっくりじゃ。
王のための聖なる剣、それを持つサメ。
それこそが、究極にして最強のサメと言えるじゃろう!
「俺も合わせて三刀流だ!」
彩華も同時に剣を構え、2匹のサメナイトがそこに君臨した。
まさしく"アーシャーク・サメドラゴン"がそこに誕生した以上、恐れるモノなんぞ何も無いぞい。
「下らぬ、我の聖杯で造るのがその程度のモノか。ならばこの聖なる拳で同様に相手してやるまでだ」
そう言いながらも、鯱崎兄弟の2人と戦うキメラアリゲーターを操る女王はそのワニの全ての部位をバラバラに分離させる。
「まずはお前達から終わらせてやろう」
「いかん、これは予想してなかったオルカ」
キメラアリゲーターは、鯱二郎に向かってバラバラにした手足による同時攻撃を行う。
動揺していたせいか、彼はそれを避ける事が出来なかった。
それによって、空中で自在に動く手足が彼を拘束しながら蹴り殴りつけている状態を維持する地獄絵図と化した。
「俺を捨てて逃げろシャチー!」
「それだけは嫌オルカ!」
更には、離れた胴体と顔が再合体し、それ自体が鯱二郎に食らいつこうとする。
悲しいが、これでお陀仏じゃろう。
助けることは出来ん。
「さらばじゃ鯱崎兄弟! あの世でも会う気は無いぞい!」
「この老人は仲間をなんだと思っているんだ」
「それが〈指示者〉って奴なんだとよ」
食われる鯱崎兄弟を無視して、わしは目の前の戦いに集中した。
今やアーシャーク・サメドラゴンは2本の剣を握り、贋作として女王をトレースする必要がなくなっておる状態じゃ。
つまり、その力を更に彩華に足せば、〈鮫の騎乗者〉の力が合わさり最強となる。狙わぬ手はなかろう。
「彩華よ、真なる王の力を継承するのじゃ!」
「畜生、マジで何を言ってるのかわからん!」
彩華はそう言いながらもペンライトセイバーの鎧展開機能を解除すると、それに合わせてアーシャーク・サメドラゴンは光の粒子を放ちながら2つの浮遊物体に変わっていった。
それぞれはエクスカリシャークとサメバーンに取り込まれていき、彩華は改めてそれを握る。
「マジで意味がわからねぇが、伝承の英雄になったみたいだぜ」
そして、ついに振るわれるはサメなる聖剣。
悪たる王を穿つ一閃!
「その程度、耐えることは容易だぞ」
対して、女王は天井から新たにもう1匹のキメラアリゲーターを落とした。
斬りかかる彩華に対して、防御するための壁を用意したのじゃろう。
「くらえぇぇぇぇ!!!!!」
2本の剣は、キメラアリゲーターを真っ二つに切り裂く。
だが、それだけでは女王にダメージが通らず、それどころか思いっきり剣を振るった分隙を許してしまった状態じゃ。
しかも、左手を手刀の形にして一撃必殺の刺突攻撃を狙っておる。
「ここで負ける気はねぇ!」
「その意気じゃ彩華!」
わしは彩華に合わせつつ、わしは肉薄する2人に向かって聖杯を直接投げ込んだ。
すると、それは彩華の頭上でひっくりかえり、黒い泥を吐き出しながら滝内状態となったことで刺突攻撃は彩華に触れる事無く泥に絡まれて止まる。
「通らない!?」
「ここで終わるのが鮫沢博士のサメじゃねぇんだぜ!」
まだ終わらん、泥は加えて彩華の全身を覆い、そのまま刺々しいサメの姿を形状していった。
更には、泥そのものがどんどんと膨張し、部屋中を覆い尽くしていくのじゃ!
「浸水してきている」
「何をする気なんだ!」
「俺もわからねぇが、てめぇを食い殺す準備は出来たって所だ」
もはや部屋は海となった。
そこで泳ぐ聖杯の黒い泥で出来たサメは、女王を狙って一直線じゃ。
「2本の剣は口の役割ってことだな、つまりはハサミの要領で……こうだ!」
そうして、今度こその一撃が決まった。
「な……」
『アーシャーク!!!!』
女王の右腕をバッサリと切り裂き、鳴き声を上げるサメ。
それは彩華と一体化し、贋作を超え、真作を打ち倒したのじゃ。
「右腕を狙ったおかげであのワニのコンロールも止まったようだな、上々だ!」
……これで戦いが終われば苦労しなかったのじゃがな。