第105話 スティール・シャーク・ラン
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SIDE:???
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彼らは特に何かを失うことも無く、どんどん王都を侵攻していく。
丸1日生き残ったのが何よりの証拠だ。
まるで自分達に正義という大義名分があるかのよう。
いや、違う。お母様こそが正義だ。
そうであるはずなのだ。
「きっと今日にも彼らはこの王城にやってくるだろう。城の前で待ち構えて返り討ちにしてやるのだ」
「わかりましたわ。お母様が世界を支配するその日のために尽力させて頂きますの」
落ち着こう、わたくしには信じるものがあるのだから。
お母様と、己の拳。
決して負けるはずがない。彼らに本気を見せてやるその時までは。
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SIDE:鮫沢博士
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遡ること、朝。
わしらは、王城へと向かって走っていた。
実は、ホテルの近くにある森は王城への裏道へ直通となっており、計算通りならワニとの戦闘を避けて目的地への移動が可能となるのじゃ。
「魔獣シャチ3号"ホワイト・シャチオット"だシャチ!」
「この速度なら鮫沢に負けないオルカ!」
「そういう訳で、お先です」
「なんの、異世界サメ68号"サメグウェイ"じゃ! カジノの運搬用台車をサメにしたこれは地を泳ぐことでわしの速度を引き上げる。つまりは馬だろうがシャチだろうが牛歩に見える!」
「「どのみちこっちは徒歩になるんだけど!?」」
なお、気がつけばどちらが先に王城へ辿り着くのかレースが始まっておった。
昨日のバトルは消化不良な終わり方になってしまったので、これはわしら〈指示者〉の三四番たるレースは平等なマウントバトルとして機能するのじゃ。
地を泳ぎ背から台車の手持ちを生やすことでわしは直立したまま走ることが出来るのじゃ、お気楽すいすいじゃぞい。
「俺ら、マジでどうすんの?」
「完全に距離を離されたわね。せめて大木にでも揃ってぶつかって倒れてる間に合流できることを祈りましょう」
5分後、だいたい目的地まで半分ほど移動することが出来たのじゃが……事故が起きた。
目の前には2つの大木! 並走状態だが2組揃って減速も方向転換もできない速度なのじゃ!
「「「「ぎゃあああああああああ!!!!!」」」」
それによって、4人揃って1時間程気絶してしまった。
目を覚まし顔を上げると、視界の先では彩華とセレデリナが養鮫場のサメを見る目でわしのことを見つめておった。
「あのね、今は一大事だから余計なことをしたくないの。私もサメらしくシャチに勝ちたい気持ちは常にあるけどね、レースするのは速度優先で1人乗りのサメを作って先に行くのはやめなさい」
「この裏道がワニのいない地帯じゃなかったら本気で許さなかったし今も許さねぇよ!」
セレデリナには説教され、彩華には横腹に蹴りを1発食らった。痛いぞい。
「老人虐待反対じゃ!」
「うるせぇ! あと、そこの3人ももっとゆっくり全員で歩幅を合わせて移動を心がけろ、黒幕がいるかもしれない場所に足を踏み込むなら、人数が多いことに越したことはないだろ?」
「そう言われてしまえば、賛成するしかないでしょう」
「マジレスはやめろシャチ」
「オルカ」
彩華はそう言うが、まだ女王が黒幕とは決まった訳では無い。蜴王女だってそうじゃ。
何せ、キャビアが待っておるからな。わしは2人を信じているぞい。
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結局、全員の移動速度を合わせる為に鯱一郎が改めてホワイトシャチオットに変身、荷台の上に乗り込む形で全員同じ歩幅で移動した。
彩華が「スピードも急がず焦らずにしろ」と圧をかけたのもあり安全運転による移動じゃ。
そうすることで、最終的には20分後に王城の裏門前へたどり着いた。
王城そのものは西洋特有の真っ白で丸く尖った屋根が何本も立つ作りであり、特筆することは無い。何となく遠くから見えていた時と印象は変わらん。
ただ、その裏門前には警備兵のような者は立っておらず、ただ1人、トカゲ王女ことルーイダ・アミキナーが腕を組んで、それこそわしらを待っていたかのように佇んでいた。
衣装は御伽噺のお姫様のようなものでは一切なく、体の部位を程よく支えるボクサーやレスラーが着けるパンツに上半身も大胸筋周りを覆いつつも腹筋は露出しており、とにかく動き回るためのモノじゃった。1部に輝く煌びやかな宝石の装飾が着いているが、光で反射しなければ見えにくい程に小さいもので、とにかく彼女がどのような生き方をしている王女なのかを思い知らせてくる。
「おお、トカゲ王女じゃないか! 待っていてくれたんじゃな。ささ、早くわしにキャビアを」
「すごい、鮫沢博士ってこんな一大事ですら不敬罪を恐れない無礼さを振る舞えるんだ」
そうじゃ、今この場で出会えたということは、キャビアを食してもらうために待っていてくれたという証。
わしは興奮しながら彼女に駆け寄ったぞい。
「お黙り」
じゃが、目の前まで来た瞬間、目にも止まらぬ速度で何かの攻撃がわしの腹部に直撃し、視界の先が真っ暗になったのじゃった。
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SIDE:セレデリナ・セレデーナ
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ルーイダの右の拳がおじいさんのみぞおちに打ち付ける瞬間を、何とかこの眼で捕えることが出来た。
武術に対しての観察眼を鍛えた成果だろうか、バーシャーケー王に感謝だ。
それにしても話の限り、怪しい女王に対して王女の方は比較的信用におけるかもしれないと思っていたが、そんなことは無いらしい。ルーイダは間違いなく私達の敵だ。
「ルーイダ王女、貴方は……我々の敵ですね?」
「ご名答ですわ。私はお母様が大好きでして、お母様が夢見た世界の王になる夢が叶う手段を得たのならただ手伝うだけですの」
しかも、金銭や報酬が理由でもなくただただ信頼関係で〈破壊者達〉に手を貸していると来た。
つまりは正真正銘、サラムトロスという世界の中で生まれた敵。魔獣のような感情を持たない存在でもない、自らの意思で世界を敵に回す者。
そんな脅威を今から相手にしなければならないようだ。
「彩華、それにシャチ共、おじいさんを連れて先へ進みなさい、私はこいつを抑えるわ」
私は彼女に何を感じた。
それに白黒を付けるためにも、相手しなければならない。
「うおっ、死にそうなセリフシャチ」
「お言葉に甘えさせてもらうオルカ」
「全く、重たい荷物を押し付けやがって」
皆、私の指示に従ってくれる様子だが、1人だけそうではない者がいた。
「私も残りますよ。彼女だけでは不安ですので」
「くっ、鯱三郎がそういうなら何も言えんシャチ」
「オルカ」
彼は間違いなく頼りになる、残りのシャチと比べても連携に困らないだろう。
「ありがたいわ」
「確かに全員の足止めまでは望まれていませんの、貴女方を素早く片付けお母様の加勢をさせていただきますわ」
その言葉と共に、先へ進む4人は門を通り、私と鯱三郎はルーイダの前へと立ちはだかった。
「|I'm Shark human《私はサメよ》!」
「鯱変身!」
それぞれ、単眼鯱魚人と鯱獣へと変身し、準備は万全だ。
対して、彼女も武術の構えを行う。
「お見せしましょう、私の愛の姿を」
更に、同時に放ったその言葉に合わせ、彼女の体が、全身が、光り輝き大きく変質していく。
「これこそが、私がお母様から頂いた力、ワニの力!」
光が消えると、その姿は定まる。
全身が薄緑の鱗に覆われており、口が真っ直ぐに長くギザギザな歯を持つワニの頭部、蜴人種らしい爬虫類的人体と引き締まった筋肉が目立ち、それでいて衣装は変わらない。
つまり、鱗と顔だけがワニへと変身したルーイダ・アミキナーがそこにいたのだ!
「では御二方、2分でケリを付けてさしあげますわ」