第103鮫 超電磁シャークSの字噛み
「とりあえず、合体するかのう」
「OKデース」
このまま分離を続けていても無駄に体力を消費し続けるだけだ。
まずは1匹のカニに戻るべきであろう。
「完全完成! ルーレット・ズワイガニデース!」
全体的にサイズが大きくなり、だいたい等身大になった。
この状態なら万全に戦える。
問題があるとすれば……敵はワニだけでは無いということだ。
「当然ゴリラは知恵だけやない、腕力も優れとるんやウホ!」
四足歩行、時速にして80kmで突進してくるゴリラビア。
近接パワー系の対処は1番めんどくさいんだ!
「うおおおうぉぉぉぉデエエエエエス!!!」
どのワニよりも早く肉薄するそのゴリラ相手にできることは両腕の爪で受け止めるのみ。
とにかく気合いで受け止めることに成功した。
「スピードもパワーも1級品、あの時のショウコーに匹敵する強さデース」
「お褒めに預かり光栄ウホ」
全方位カメラで確認したところ、ワニ達は一斉にこちらに向かって飛びかかっており、ほんの数秒で袋叩きにされることがわかった。
そうなれば、受け止めながら可能な反撃を行う他ない。
「ルーレット・トルネード・ミサイル!」
叫んですぐ、背中のルーレット台の数字がそれぞれパカッと展開する。
そこから手のひらサイズの小型ミサイルが発射されると、同時にルーレットが回転してミサイルが渦のように舞った。
それは、ゴリラビアを受け止めながら上手く脚を動かし、背中の位置を変えていき迫り来るワニ1匹1匹を撃ち落としていく!
「小癪なウホ〜!」
「デーモンキング、やっぱり私だけで抑えるのは無理デース! 雑魚は任せマシター」
「もちろんなのだ。魔神覇者斧技・双頭龍の突撃!」
加えてアノマーノもサポートに回ってくれた為、少しはゴリラビアに集中しやすくなった。
ただ、今回のワニは富裕層区なだけあって巨大ナイルワニを除く鉤爪型飛翔型ハリネズミ型と相変わらず強烈だ。
ボブとショウコーもあの中にいるとなると、復活したところでこの戦闘中に復帰は不可能と言える。
「これでどうやウホ」
そして、こちらとしても楽な勝負じゃない。
純粋な力比べでは圧倒的に負けているのだ。
気がつけば、身体の両側面を捕まれ持ち上げられた。
「ウッホ!」
続けて、思いっきり地面に向けて叩きつけられる。
「痛いデース!」
痛覚を遮断している分別に痛くはないがとりあえず叫んだ。ただの癖だ。
しかし、そこから続けて両腕を握りしめて叩きつける攻撃が飛んでくると、流石にヘラヘラもしていられない。
「ルーレット・トルネード・ブースター!」
現状腹を晒して裏返っている状態。
回避しなければ後に響く身体的損傷を受けてしまう。
であれば、背中のルーレット台を全力で回転させればそこから竜巻を起こし、一時的に空中へと飛び上がるのが有効だ。
「な、なんやその攻撃はウホ!?」
「次はこっちが攻める番デース!」
一時的な緊急飛行ではあるが、相手が捉えにくい位置にまで移動した。
その状態で行うのは射撃攻撃のためのターゲットロックだ。
「目・口・爪・脚・甲羅、全展開。キャンサーフルバーストデース!」
ゴリラビアへの狙いを定めると、言葉の通り身体のあらゆる箇所に穴が開き、ミサイル機関銃レーザー砲と火器の雨あられが発射される。
これを喰らえば一溜りもないだろう。
彼の居た位置から煙が立ち込めており、晴れた頃には勝利は確定だ。
「ヤリマシター」
だが、姿を現したゴリラビアは右腕だけが血まみれになっているだけで耐えていた。
「よくもやってくれたら甲殻類風情がウホ」
全てを右腕で受け止めたとでも言うのか!?
同じ攻撃を何度も当てればいずれは倒せるかもしれないが、リチャージ時間が52秒ある、上策ではない。
それに、この施設は倒したワニから復活する人間達の避難施設として使いたい。巨大化で壊すのはもう少し控えたいものだ。
「これで、どうやウホ!」
だが、そんな甘えたことを考えていられるほど楽な相手ではない。
浮遊が終わり地面に落下した直後、背のルーレット台甲羅に向けてゴリラビアはかかと落としを決めてきた。
「ルーレット・トルネード・ディフェンス!」
反面、前動作でなんとか予測こそついたおかげで、ルーレット台を高速回転させる手に出る。
が、その立ち回りまで予想されていたのが、かかと落としを切り上げ倒れるような姿勢からスライディング蹴りで襲いかかってきた。
顔面に思いっきり直撃する蹴りはもう1発喰らえば本体回路にまで響きかねない。
やはり、巨大化でゴリ押しするしかないのだろうか。
「よし、諦めマース、やぶれかぶれデース」
そう、落ち着きつつ、一言呟いたその時だった。
「メリークリスマース」
ホワイトリッチの窓を叩き割り、鉄球入りのプレゼント袋がゴリラビアに向かって飛び込んできたのだ。
「えっ、なんやウ……ゴッフ!」
それはゴリラビアの頭部に直撃し、確実なダメージにまでなった。
そして、割れた窓からひょっこりと……サンタ衣装に180cmと高身長、金髪ストレートで筋肉がたくましい美女、クリ・スマスが入ってきた。
「おー、やってるねー。そろそろここが冬になるから早めに滞在してたらこれだよー、嫌になるねー」
彼女は確かにこの場において最も頼もしい存在だ。
アノマーノは雑魚を斬って斬って切り伏せて、こちらに一切のワニを近づけないように立ち回りながら、こう言った。
「まさかお主が来るとは、これ以上にない最高のゲストなのだ」
「ヤッホー、サンタさんが来たからにはー、もう安心だよー」
「うむ、彼女は魔法なし同士の条件なら余を超える戦士であるからな、雑魚は抑えておくから全力で奴を叩き潰すがよい」
なお、頭部にプレゼント袋が直撃したことで暫く麻痺状態だったゴリラビアだったが、何とか立ち上がり戦闘姿勢を取り戻そうとする。
「よりにもよってあの英雄クリ・スマスが来るとは、おもろい勝負になってきたウホ」
しかし、クリ・スマスの実力はそんな余裕を見せられるようなモノではない。
「サンタキッーク」
「どわば!」
ほんの一瞬で移動し、また頭部を狙って蹴りを入れる。
更に、それによって怯んだ隙を見るとプレゼント袋を回収し、横腹に向かって振り回してぶつけた。
「ゴ!?」
ゴリラビアは、ギャグ漫画のようなポーズになって横に吹き飛ぶが、クリ・スマスはわずか1歩で目の前まで移動し、プレゼント袋を前にぶん回すとそのまま彼を地面に叩きつける。
「ま、待ってくれやウホー!」
「ハンチャンを殴った罰だよー。死ぬまでやるからねー」
「愛が重いデース……」
一方的、どうしようもなく一方的な攻撃だ。
このままだとゴリラビアは死んでしまうだろう。
だが、ここで死なれては困る上に、紅白の存在意義を問うカニの宿敵であるサンタクロースにいい所を持っていかれるのも嫌だ。
なので、このように声をかけよう。
「次でトドメになるようにサポートしマース。あと、そいつは貴重な情報源なので殺さないでくださいネー」
「りょーかーい」
直ぐに首を立てに振ってくれた。ならば、この姿を活かした攻撃を行うまで!
「ルーレット・バインド・トルネード!」
背中のルーレット台を前に向けて高速回転させる事で横向けの竜巻を発生させる。
それは地面で倒れ這い上がろうとしていたゴリラビアに直撃した。
「泣きっ面に蜂かいなウホ!」
「カニデース!」
目の前に強く吹く風は、抗おうとすればするほど身動きを奪う。
そうなった彼はどうしようもなく無防備となる。
「メリー……クリスマースー!」
そこに入るは、暴力のような鉄球入りプレゼント袋をぐるぐると振り回し、勢いがつけた状態で振り下ろす一撃必殺だ。
「ウホホホホホホ」
クリ・スマスの全力投球が直撃したゴリラビアは、しめやかに気絶した。