第101鮫 サメリス神
「そ、その姿は!?」
「そう、ゴリラやウホ」
待て、何故ゴリラ!?
だが、冷静に分析しよう。
そもそもゴリラはサラムトロスに存在せず、同時に我々の世界には西アフリカの〈百年の指示者〉であるゴリ=ライがいる訳で、彼が関連するのは間違いない(もちろん西アフリカは大陸名である通り、大陸単位に1人しかいない事からまとめて1人で代表ということになっている)。
更に、彼自身サラムトロスにいた痕跡がまるでなく、何人かいるサラムトロスには飛ばされていない〈指示者〉としてカウントしてしまっていたが、完全にこちら側のミスらしい。
であれば、尚更気になることがある、聞いておこう。
「その力はどのようにして手に入れた?」
しかも、ゴリラの姿になる能力だ。あの鯱三郎同様、セレデリナに似たサラムトロスと我々の世界の〈中間点〉であろうこの男は、貴重な情報源になる。
何せ、〈中間点〉に関しては初観測がセレデリナ故に〈螃蟹勇者団〉の総力を持ってしても何も分かっていない存在だから。
「それについては、ゴリ様っちゅう中管理職のおっちゃんがくれた禁断の果実を食べた結果やなウホ。似たような奴はあと54匹おるゴリよ」
ダウトだ! しかも55バナナなる数字から気になっていたがやはり同類が無数にいる始末!
「おっと、ここから先はワイに勝ってからやウホ。本当は言いたないけど、ワイも負けたら意志を奪われるから色々喋ってまうわウホ〜」
「ハンチャンよ、こいつはどうにも気になる情報を多く持っておる、ゲームに勝てば意識を奪える分全ての情報を奪えるであろう」
「言われなくともわかっている」
こうなってしまえば、どんなゲームだろうと勝ってやるまで。
何が待っているか分からないが、全身義体の分析機能ならこういう場でのゲームでも有利に立ち回れるだろう。
「じゃあ、ルール説明するウホ。やるのはダブルボールルーレットって奴や、あの1〜34、赤と黒に別れて数字が書かれたルーレットにボール落として数字当てるアレやアレウホ」
「おっ、それならコックの俺でも行けそうだな」
「落ち着けコック、賭け事は余裕こいたやつから負ける」
「最後まで聞きやウホ〜。なお、チップの賭け合いみたいな細かいルールは簡略化、シンプルに自分の出番になったら2つの数字を提示してルーレットを回転、2つとも当たったら勝ち、そうでなければ相手に交代してルーレットを回転を繰り返すっちゅうやつや」
なるほど、駆け引きとしてはイマイチだが、わかりやすい。
「ちなみに、はよ終わらせたいからそっちは2人ずつの参加でそれぞれが数字を合計2つ言う形で頼むわウホ〜」
だが、まずは様子見をしたい、そのルールであるなら、2人にやってもらおう。それで勝てたのならラッキーにもなる。
「それじゃあ、まずはコックとエビの2人にやってもらおう」
「おっいいぜ、こういう場でもないとまともに活躍できなさそうだしな」
「人使いの荒いマスターだ。了解した」
承認もしてくれた。あとは信じ、任せよう。
「では、ゴリース・猿・ジェントルゴリ! 今宵は始まりますダブルボールルーレット! まずは2人でお好きな数字をどうぞ」
その言葉と共に、ルーレットは回転を始めた。
「コックだから5だぜ」
「とりあえず32かな」
「承ったでウホ」
宣言される数字。
「では、ボール投下やウホ!」
それと共に、ラビアもといゴリラビアはルーレットの中に2つのボールを落とす。
2人の運命そのものにゴロゴロとボールは回転を続ける。
「当たってくれ!」
「まっ、1発なんて無理な話だろうがねぇ」
自分のことではないはずなのに、妙に緊張してきた。
ギャンブルは資金稼ぎにカウンティングを駆使したブラックジャックぐらいしかまともにやった事がなくほぼ無縁というのもあるが。
「い、いつまで回り続けるのだこれは」
「まあ、そろそろであろう」
早く止まって結果を見せて欲しい。
そんな感情が強くなっていく。
「おっ、止まったで」
「「「ハァ〜」」
ついにボールが静止した瞬間、ボブと一緒にため息をついてしまった。アノマーノとショウコーは平然としているが、まさかよりにもよってボブと被るとは。
「数字は……5と10やな」
公開された数字。当然これはハズレだ。
「なるほど、確率との不毛な勝負って訳か!」
「悪い奴らと一緒にやる分には盛り上がるんだがなぁ、何か味気ない」
何がどうあれ、2人の番は終わった。
次はゴリラビアだ。
「じゃあ回すでウホ、数字は5と15やウホ」
自分で宣言して自分で回すとは、どうにも胡散臭い。
もちろん、疑っていようと彼の動きが止まるようなことはなく、手に持ったボールがルーレットに向けて投下される。
「この緊張感、たまらえんわウホ〜」
そう言う彼の顔に、焦りも余裕も感じられない。
「ベテランなワイに度胸で勝つのは不可能やウホ」とでも言っているようだ。
もちろん、だからといって確率というのは神だけが操れるモノ。
回り続けるボールは常に公平であり、彼と同様だ。
「なんか嫌な予感がしてきたぜ」
「おいおい、焦るんじゃあない。こういう場だと焦る奴ほど余計な行動に出しちまうからな」
ボブが焦るのも無理はない。
実は、今ルーレットに蟹の眼で分析をかけたところ、妙に凹凸が動き続けている。
さっきはそのような動きがなかったはずだが、まさかイカサマか何かだろうか。
「おっ出たでウホ」
そして、その結果は。
「5と」
「15か……」
見事にホールインワンだった。
あまりにも出来すぎている程に。
「という訳でお前ら2人の負け、意志を奪わせてもらうでウホ」
結果が出たと同時に、ゴリラビアは水晶のようなものを取りだした。
「す、吸い込まれる〜!」
「なんだこりゃ!」
その瞬間、水晶は2人から何かを吸い取っていく!
そして、驚いているのもつかの間、気がつけば完全に2人は白目を向き無言になっていた!
「「……」」
「これこそ私が与えられたゴリラ能力やウホ!」
彼がそう言った時、同時にワニが数匹入った檻の1つが開く。
それとほぼ同時に、2人は白目を向いたまま走り出し、檻の中へ入っていった。
入ればすぐ様に檻は閉じ、ワニ達はモグモグと2人を捕食していく……。
「ギャオオオオン!!!!!!」
結果、2人はワニになってしまった。
「な、なんて悪趣味なのだ」
「……最悪であるな」
とはいえ、相手がどのような人間なのかはよく分かった。
であれば、2人の犠牲を無駄にしないためにも次の勝負で勝てばいいだけ事。
「ええい、その程度でカニが恐れを成すと思ったら大間違い! とっとと次のゲームを始めろ」
「そのやる気……信じよう、ハンチャンよ」
アノマーノは鎧を脱ぎ、いつものちっこい魔王の姿へと戻った。
つまり、彼女のやる気は十分ということだ。