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サメ・ファンタジー~混沌異世界サメVS混沌生物! 建築物も、クトゥルフも、ペンライトも、彼の前では全てサメになる!~  作者: リリーキッチン
第三章三節 アリゲーター・オブ・ザ・カジノ〜イン・ザ・シャーク〜
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第100鮫 ハンドレッド・シャーク

「ていうカー、なんでここに来たんデスカー。ホテルで待機しておけば安全だったじゃないデスカー」


 ……しかし、正直言っていないよりマシな数合わせの戦力であることは否めない。

 だからこそ、彼の意思を確認しておこう。


「ああ、それはだな、元々俺は師匠である"厨房不敗ちゅうぼうふはいマスターコック"に会うために来たらこの騒ぎに巻き込まれて未だに顔すら見れていなくてよ、こんな一大事だ、みんなと行動出来る今だからこそ師匠を探したい」


 帰ってきた答えは、胡散臭い名前の師匠を探しているとの事だ。

 しかも、その師匠自体が既にワニと化している可能性もあるというのに、そこまでやる気を出させると着いてくるなとは言いづらいじゃないか。


「料理人風情が調子に乗らないでくだサーイ」


 改めて、確かに数合わせなりの活躍は期待できるだろうから、罵声を浴びせても離れないのならその意思を尊重してやるべきだろう。


「同じ厨房に立った者同士、上手くやっていこうや」

「余としては、最低限の戦闘をできる分には今は助かる戦力で歓迎したいぞ。てっきりホテルで待機すると思っておったからな」

「よっしゃぁ!」


 そして、次はどうするか、という状況になったが、そこにワイヤー鎌使いのスペイカーが建物から建物を蜘蛛のように立体機動で渡り、皆の前に立ち現れた。


「師匠、可能な限りの情報が集まりました」

「ご苦労デース」

「また奇っ怪な奴が来たのだ。お前の組織員は皆こんな感じか?」

「き、傷付くぜ……」


 それで、スペイカーが集めた情報なのだが、要約するとこの富裕層区にある最も高級なカジノ"ホワイト・リッチ"に向かった組織員が誰一人帰ってこないという問題が起きているという話だ。

 あまりいい話ではないが、情報としては大きい。それは間違いなく()()()()

 

「行くしかないのだ」

「デース」

「あたぼうよ」

「付いてくぜ、マスター」


 話を聞いた皆のやる気は十分だ。


「俺は遠慮するよ師匠、外で上手く立ち回るさ」

「ええ、あなたのその情報はタダで手に入るとも思えまセーン、今度のライブの最前列権を差し上げまショー。ナノデー、もっと街を駆け回ってくだサーイ」

「ありがとう!」



***


 スペイカーに別れを告げると、また先程のように変異ワニ達との戦闘をこなしながら進み続けた。

 毎度毎度ワニから失神した人間に戻るシステムは平和的とはいえ面倒であり、安全を確保した場所を作っては運搬するのも嫌になる。

 実際、立地としては30分の徒歩でたどり着く場所だと言うのにもう2時間はかかった。

 事実として、皆身体的にはまだ余力があるようだが、精神的には疲弊し始めている。


「これは本当に骨が折れるのだ」

「マスターがいなれば俺は火力不足でお陀仏だしな、そういうことまで気になるとあまり気のいい戦いじゃない」

「デカイのを倒すはやっぱり厳しいぜ」

「マー、到着自体はしましたシー、さっさと入りまショー」


 そのカジノは、金で塗装された建築物であり、至る所に宝石が装飾として埋め込まれているまさにかねの城。

 もし機械の身体でなければ、目が眩しさで参ってしまっていただろう。


「は、入るまで目をつぶっていていいのだ? 心眼で敵意は見えるから、許して欲しいのだ」

「俺も軽くだが心眼は使える、許してくれ」

「流石に心眼は使えねぇよ……」


 実際、3人はその眩しさを前に負けている。

 だからといって、ボブを除けばさも当然のように心眼で対処できるのはサラムトロス人らしいとも言える。

 そうなのだ、サラムトロス人というのは、明確に我々が元いた地球の人類より強い!

 鍛錬を重ねるだけで当然のようにこのような会話を自然と行えるの至る証拠。全身義体フル・サイボーグでなければまともについていけるモノではないため、実のところ鮫沢はシャークゲージ無しだと特に本体がただの地球人故に頼りなかったりする。


「さて、ここに入るならこの姿が最適だろう」


 そして、ホワイト・リッチに入る直前、己の姿を変形させた。

 一見すると背が170cmと高めのナイスバディな金髪の美女であるが、衣装は黒くてピッチリ露出度高のバニースーツ、人間らしい耳があるであろう箇所は髪で隠れ頭の上から狐耳が生えている。お尻の上あたりには衣装に穴がありそこから生えるはモッフモフな合わせて50cmはある大きな尻尾。

 これこそがカジノ正装、九尾のキツネだ。


「か、カニなのかキツネなのかどっちなのだ……」

「すまぬ、わらわは昔から細かいことは都合が悪くない限り気にせん主義でな」

「偉い人の喋りをする奴が増えた……だと」

「こりゃ楽しくなりそうだ」


 3人の反応はイマイチで滑ったようだが、あまり気にするつもりはない。性別にも姿にも、自分が固定されすぎないようにしたいだけのことだ。

 姿も変えたので早速カジノの中へ入ると、そこもまた床から壁から天井まで、金色に塗装された超ゴージャスな作りだった。

 3階建ての建物で、設備は一般的なカードゲームにボールルーレットやスロット等、前に避難所にしていたカジノ場ともさして変わらない。

 ただ、これだけ治安が悪化したにしては外も中も目立った傷がない手入れされた状態の施設であり、そこが非常に不自然である。

 何より、人っ子一人とて気配すら感じない無人の空間であり、火で灯される明かりが全て付いている状態なのも不気味だ。


「1階だけなら豪華であったな」

「流石に気分が悪くなっちまう」


 だが、2階へと上がると、悪い意味で世界が変わってしまう。

 それは、至る所に動物運搬用の檻が設置されているのだ。


「ギャオオオン!」

「ギャオギャオ!」

「ギャアアアオ!」


 しかも、中には入っているのはどれもワニ。

 パーティー会場にも使えそうな広い奥行きのある部屋に、これでもかとワニの入った檻があるとくれば、これまでの戦いもあり気が滅入ってしまう。

 どうにも我々を襲う意思はないようだが、だからといって気が進む訳では無い。

 ひとまず、1階から2階にかけてもそうなのだが、上の階へと上がる階段がRPGのダンジョンかと思うほど離れていたため落ち着いて、ゆっくりといつ襲われても反撃できるように構えて歩き、3階へと上がって行った。



***


 3階に到着した。

 先程と同じく、ワニの入った檻に囲まれた空間であり気味が悪い。煌びやかな設備に対して圧倒的なミスマッチを起こしている。


 パチ パチ パチ


 相変わらず気分が減退していた我々であったが、そんな中で、部屋中に響き渡るワニの鳴き声とは別に、拍手のようなものが聞こえてきた。

 よく見れば、部屋の奥に1人の男が立っている。

 正装で落ち着いた雰囲気の竜人種(所謂リザードマン)で、背中の羽が邪魔そうだ。

 赤い鱗は確かに美しくこの場に合ったモノだが、そんな奴が平然とした顔で拍手をしながら他者を出迎えるというのは怪しさを大きく放つ。


「何者だお前は」

「ワイはラビア、このカジノ"ホワイトリッチ"の支配人をやっている者や」


 妙に、というより日本で言うところの関西訛りな喋りで不思議な雰囲気を放っている。

 恐らく、彼こそが今のこの空間を産み、組織員達を行方不明にした元凶だと考えるべきだろう。


「お前が例の螃蟹飯炒(カニ ハンチャン)やな、〈螃蟹勇者団カニ・ヨンジェアトゥアン〉の大将をやってはるようで、今日は九尾な姿かいな。しかも魔王なんて連れて、怖い集まりやわ〜」


 ……何!?

 組織の存在を明確に認識しているだと!?

 隠密組織として情報を統制し、1部の国の極わずかな王族ぐらいしか存在を認識していないはずだ。

 しかも、フルフェイスの西洋甲冑を装備して姿を隠している魔王ことアノマーノの正体を見破った上で冷静に対応している。


「これはひょっとして危険な状況では無いかなのだ?」

「しかも、姿が混沌で不定形なマスターの存在を認識しているぐらいだ、今までの敵とは訳が違うぞ!」

「なんだかわかんねぇがピンチなのはわかるぜ」


 正直、何となくだが、サラムトロスと〈百年の指示者ハンドレッド・オーダー〉、〈破壊者達〉といったモノを点と点で結んでいった先に、〈全ての黒幕〉がいる。そんな予感は確かにしていた。

 自分自身のこれまでの活動も全て、その〈全ての黒幕〉と戦うための備えも兼ねるものだと考えていたぐらいだ。

 つまり、目の前のラビアという男は、その〈全ての黒幕〉に関与する人物。

 ただの落ち着いた雰囲気の人間にしか見えないが、今までにない緊張感が全身を駆け巡っている。

 それでも、やるべき事は変わらない。

 今この施設で何が起きているのか、どうしてここに入った組織員達が帰って来なかったのか、何故檻に入ったワニに囲まれた空間なのか、それを聞き出す必要がある。


「ほう、妾のことを認識しているとは何者だ? 何故ここはワニまみれである?」

「いやぁ、単にワイはゲームが好きなだけなんよ〜。T様がな、わいに力をくれた、それを応用してるだけなんや」


 T様……か。

 おそらく、それが〈全ての黒幕〉なのだろう。


「ワイの能力はワイと勝負した時の敗北者から全ての意志を奪うっちゅうヤツや。つまり、ここにいるワニはぜーんぶワイに負けたあとワニに噛まれたヤツらってコト」


 語られるその力は、現状を理解するには容易い話だった。

 皆、彼にゲームで負けたのか。情けない話だ。


「もちろん、ワイが負ければワイ自身が意志を失いお前らの命令も全て聞くことになる。仲間を助けたかったらワイを倒せばいいわけや」


 だが、やることはシンプル、ラビアをゲームとやらで倒すだけでいい。

 中には組織員に限らず戦闘能力の高い者が被害者の中にいるかもしれない。

 そんな彼らを復活させるためにも、ゲームに参加せねばならぬということだ。


「趣旨は理解した、是非とも参加させてもらおう」

「望むところなのだ」

「やってやるぜ」

「料理専門だがおもしれぇ!」


 仲間達も皆やる気のようだ。

 そうして、ラビアは答えを聞き入れると、指を鳴らしてゲーム開始の宣言を行った。

 

「さて、まずは改めて自己紹介。ワイの名前はラビア……又の名を、ゴリモン55バナナの1房(ひとふさ)"ゴリラビア"や。今宵は始まるデスゲーム、もう逃げ場はあらえんウホ」


 その言葉と共に、彼の素肌が黒く変色していき、服まで覆う謎の黒いオーラに包まれて行った。


「まて、何が起きておるのだ!?」

「どういうことだ!?」


 黒いオーラが消えるとその形は整い、彼は……ゴリラになった。

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