第95鮫 シャーク・オブ・ファイターズ
多くの観客に囲まれながら、わしらは金網の中のフィールドの上に立っておるぞい。
さっきはあっさり負けてしもうたからのう、次こそは勝ってやるのじゃ。
「レオルカメーンシャチトルメーン! これより、シャチVSサメの因縁のチームマッチが始まるシャチ」
「俺達の活躍、とくと見てくれオルカよ!」
「私もちゃんと戦いますからね、大船に乗ったつもりで頼ってください」
また、ボードを見てみると、
・シャチ:5.0
・サメ:5.0
あえて倍率は固定されておった。双方が大穴になるように設定したみたいじゃな。
「この勝負、どうなるかわかんねぇ!」
「楽しみだぁ!」
「「「「「うおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
そのためか、観客の盛り上がりはさっきの比ではない。
このバックを前にすれば、俄然やる気が出てくるというものじゃわい。
「勝負開始シャチ!」
こうして、戦いのゴングは鳴った。
「シャチ・変身!」
最初に、鯱三郎が謎のポーズを決めると、全身がサイバー化し、あっという間にメタリックな鯱人へと変身を遂げた。
頭部には獣の耳のようなパーツや尻から生える尻尾パーツもあり、鯱獣とも見れるかもしれんのう。
もしや、セレデリナのサメ変身能力と同系列の何かじゃろうか。
そうであるなら、油断できん相手なのは間違いないわい。
「シャークチェンジャー!」
実際のところ、彩華もセレデリナも今日の異能を使える時間は34秒程しかない。
短期決戦を狙うのが上策じゃろう。
なので、わしはこういう時のための秘密兵器、異世界サメ50号"シャークマンサー"を起動し、鉄のサメ鎧を身にまとった。
「鮫沢博士もそんな隠し球を持っていたんだな」
「カッコイイじゃない」
「新規のサメを生み出せんかわりに既存のサメなら触れていなくても作り出せるのじゃ、トリッキーに攻めていくぞい」
そして、最初に前へ立ったのはセレデリナじゃった。
「|I'm Shark human《私はサメよ》、サード・アイレイ!」
単眼鮫魚人へと変身しながら、己が瞳をもって放つ光線を発射すると、それを避けるためか鯱崎三兄弟は鯱一郎と鯱二郎の2人に、そして鯱三郎の1人の二手に散開した。
この姿なら〈サラムトロスキャンセラー〉でも対応出来ず、直撃すれば死すらありうる。散開させられる。これ以上にない手じゃろう。
「私はあのメガネを倒すわ、ほかの2人は任せた」
「OKじゃ」
「おう!」
制限時間のためかセレデリナは即座に変身を解除しつつ、鯱三郎に向かってドロップキックを放った。
「マーシャルシャーク・ドロップシャーク!」
相手は回避と同時に足を止めておる、命中は間違いないじゃろう。
更には、
「|I'm Shark human《私はサメよ》!」
足が命中する直前に再度変身を行い、威力を加速させたのじゃ。
「うぐぅ!」
全身が鉄のシャチになろうと、単眼鮫魚人が放つ一撃をそう易々と受け止められるはずがない。
一気に金網に向かって吹き飛ばざれ、衝突したぞい。
「さあ、わしもやってやるぞい。異世界サメ8号"サメ・ボルグ"!」
なお、わしはその間に今の位置からすぐ真下の地下にある武器庫を狙ってシャークゲージを込めると、地面を突き破り何本ものサメ頭な刃を持つ槍を出現させた。
「この位置にいる限り弾はいくらでもある、任せたぞ彩華よ」
「なるほど、それなら時間短縮にもなるな!」
サメ・ボルグはジャランと地面に落ち、そのうちの1本を彩華は槍を拾い上げる。
そして、間髪入れずに鯱崎兄弟の2人へと投擲したのじゃ!
その槍は飛ぶ勢いを付けながら3本に分裂! 数の暴力を得た投げ槍は、彼らの眼前にまで飛び込んでいく!
「よ、避けられないシャチ!」
「いっでぇオルカ!」
2人ともしっかり後頭部を噛みつかれておる。いい気味じゃわい。
「1本あたり3秒、なら、もっと投げてやる!」
更に、彩華はサメ・ボルグを3本同時に束ねて投擲すると、〈鮫の騎乗者〉の力なのか空中で10本に分裂して追撃の命中となった。
「ぎゃあああああああシャチィィィィィ!!!」
「こんなチクチク攻撃、恥ずかしくないのかオルカ?」
「知らん、わしはお前らが苦しむ姿を見たいだけじゃ」
現在ガレオス・サメオスが圧倒的に優勢、その状況下でセレデリナはさらなる攻勢へと移る。
「これで終わりよ、セカンド・アイレイ!」
脚部を狙った一撃。これでまずは1人KOじゃな。
「ポイズントリガー・"マグマカエンタケ"!」
じゃが、赤く燃える拳で鯱三郎はそれを受け止めておった。
「な!?」
「アイレイは熱による攻撃魔法、なので同じ熱で相殺が可能です。確実に当てる為に大きい蹴りを入れたのでしょうが、その分こちらが準備する時間を与えてしまったようですね」
あの見た目でそこまで多機能のは恐れ入る。
「それに、まだこの毒は終わりません。セカンド・サンダーフィスト!」
加えて、鯱三郎は燃える右腕に魔法で電撃を纏わせると、空に向かって右ストレートを放った。
その腕から炎と電撃が混ざりあった砲弾のようなものが飛び出し、セレデリナに向かって直進していく!
「まずい、セカンド・アイレイ!」
繰り返すように魔法を放ち攻撃を相殺しにかかっているようじゃが、余裕がなくなってきている。
いかんな、あやつは雷と毒らしきものを万能に操る戦闘スタイル。時間が無いのかまた変身を解除しているのもある、セレデリナ1人に任せておけんが、だからといって鯱崎兄弟の2人を放置は出来んぞい。
「よそ見をしたなシャチ!」
そう考えているうちに、あっという間に鯱一郎は首に向かって拳銃のような形状をした注射器を打ち付けていた。
すると、一瞬で彼の体は変質していき、燃え盛る炎に鯱人の肉体が象られているかのような姿と化す。
「魔獣シャチ15号"フレイム・オルカマン"、言うなれば火焔人間とも言うべき魔獣が元シャチ」
「兄上、その姿だと俺は力を貸せないオルカ、槍を振り払ったら別の姿になるオルカよ」
なんという事じゃ、いつの間にか鯱一郎は魔獣の遺伝子を取り込んで変身する能力を身につけていたとは。
こうなると、雑に攻めてもいられん上に時間もない。
ならば!
「このままでは埒が開かない、プランSを決行じゃ!」
「あれをやるの!? 仕方ないわね、|I'm Shark human《私はサメよ》!」
わしは、真下にある武器庫からロングソードにシャークゲージに力を込めると、それは地面を突破って地上へと舞い上がった。
その姿は水色の布で縫われた柄! 丸い鍔は2匹のサメが陰陽のマークになっている彫刻的デザイン! 刃の側面からは双方に胸ヒレ! 峰からは背ビレが大きく生える! これぞかの剣豪、鮫々木小判鮫郎の刀!
「異世界サメ45号"物干し鮫"! 握るのじゃ彩華!」
その刀は彩華の元へ渡ると、更に彼はベルトに吊り下げていたペンライトを1本取り出す。
「なるほど、あとはペンライトセイバーを展開してェ!」
彩華はペンライトセイバーのスイッチを押すと、物干し鮫とペンライトセイバーの二刀流となり双方を天に掲げながらX字を作り出す。
これで準備は完了じゃ。
「あいつら、大技をやるつもりシャチよ」
「なら、俺達も全力全開でいけってことオルカ」
「あなた方の気の向くままに立ち回ってみせましょう」
次はセレデリナ!
「まずは、サード・アイレイ!」
彼女は瞳から光線を放った。
その狙いは彩華がX字に重ねている物干し鮫とペンライトセイバー!
「ま、マジで受け止めきれるのかこれ!?」
見事に直撃すると、大きく反動を起こしながらも魔力エネルギーをその2本の刀は吸収していく。
何度か耐性を崩しそうになった彩華を前に、わしもサポートじゃ。
「異世界サメ44号"サメ砲台固定装置"!」
なんと、武器庫には大砲があったので、それを運搬するための車輪を拝借して過去に造るだけ造って放置した、セレデリナのラスト・アイレイの反動対策用の足元を固定する台座を装着させてやったぞい。
「うおおおおおおぐおおおおお!!!!」
こうすれば、サメマジックパワーを確実に蓄積させることができるのじゃ。
なお、鯱崎三兄弟は狙い通りわしらが大技を決めることに乗じて、姑息な手は使わず同様に大技を狙うようじゃぞ。
「合成魔獣シャチ4号"オルカ・バスター・キャノン!"」
「これは、自爆する炎球体魔獣バスタースピリットの遺伝子をエネルギーそのものに変換し、ウォール・キャノンという砦を守る砲台型魔獣と融合させた姿オルカ!」
「話の通りなら、この腕でエネルギーを供給出来ますね。ポイズントリガー・"エナジーボムリーフ"!」
砲身がシャチな列車砲が如き巨大な砲台がフィールドにそびえ立つ。
そこに鯱三郎は右腕を突っ込むと黒く線になっている箇所が全て発光!
向こうの準備は整ったようじゃ。
「サード・アイレイ! エンチャント完了、オーバーレイ・フリント! 決めるわよ彩華!」
ならばこちらも同様じゃ。
全てのアイレイを受け止めサメの身体形状で固定された光のエネルギー体と化している2本の刀を握るの彩華と、己が魔法を込めた光り輝く右腕のヒレを構えるセレデリナ。
サメ砲台固定装置も解除したことで、2人は残り時間を使い切る前に全てを終わらせる一撃を叩き込もうとしていた。
「「「一撃必殺オルカカノン!!!」」」
もちろん、鯱崎三兄弟も同様。
凄まじい質量の荷電粒子砲を砲塔から発射!
そのエネルギー弾丸はシャチの顔となり、わしらに向かって直進していく。
「「光陣双歯斬!」」
2人はそのシャチ弾丸に向かって同時に刃を振り下ろす。
すると、刃は金網に囲まれたフィールドギリギリまで伸び、シャチ弾丸を巻き込んで吸収、最後にはオルカ・バスター・キャノンまでをもバッサリと真っ二つに斬っていた!