第94鮫 サメロワイヤル
目が覚めると、視界の先に魚人のような影が見えた。
しっかりと目を凝らしてやると、その姿は鮮明に写り……鯱崎兄弟であることが分かった。
「シャーチシャシャチ、まさかあの場に現れるとは思わなかったシャチ」
「オールカッカッカ、愚かなり鮫沢悠一オルカ」
「へぇ、彼が例の鮫沢ですか、相棒とは一緒にいなかったようですが1人だとこの程度なんですね」
!?
なにか1人増えておるぞ!?
流石に気になる。確認するぞい。
「鯱崎兄弟はともかく、お前は何者じゃ!?」
「申し遅れました。私は鯱崎鯱三郎。彼らの義理の弟です」
くっ、意味のわからん情報が展開されてしまい余計に困惑してきたわい。
一応は、何かの拍子で彼らの新たな仲間が現れ、結果として本名を捨ててまで鯱の名を語りたくなった精神異常者と解釈できるが、そんな者が現れるケースを予想できるわけないじゃろう。
彼は長袖のトレンチコートを羽織っており、メガネに帽子、そして両手に手袋とシャーロック・ホームズか何かと勘違いする程に探偵めいた衣装であり、その全ての衣装にシャチの白黒柄だったりマークだったりが刻まれた奇抜なファッションじゃった。
立ち位置でいえば、ジェネリック彩華とも言える人物じゃろう。
あやつも今回は変なトレンチコートにトップハットと変な衣装をしておるからな。鎖をジャラジャラさせたファッションは流石のわしから見てもどうかと思うぞい。
「というか、お前さんらはここで何をしておるんじゃ」
そうじゃ、忘れてはならん。折角顔を合わせた以上はこの施設の存在について確認を取っておかねば。
元々このような怪しい施設がワニパンデミック中に発生したことの調査が目的じゃからな。
「そんなことが気になるシャチか。なら、教えてやろうシャチ」
「というかシンプルに、この街に来てから鯱三郎が『資金稼ぎになりますよ』と言い出してあれよあれよと話を動かし、避難民を受け入れてシャチのイメージアップも図れる賭博施設が誕生しただけオルカ」
「そういうことです」
胴元として資金稼ぎをしていることは何となく分かるが、それで何をしようというのやら。
そして、わしが次の疑問の答えを求めようとした時、彼らがやってくる。
「探したぞ鮫沢博士」
「まさか医務室がこんなに入り組んだ場所にあるとは、自動マッピング機能を使っても強敵デース」
「って、鯱崎兄弟じゃない!」
「ここで会ったら百年目なのだ!」
そう、観客席でわしを見ておった4人が合流したのじゃ。
つまり、サメとカニとシャチが同じ場に揃ったことになる。
「ゲゲェー! 螃蟹飯炒じゃないかシャチ!」
「どうしてお前がここにいるオルカ!」
「本名呼びはやめてくだサーイ!」
わしは彼らに鯱崎兄弟達の現状を語ろうとしたのじゃが、その前にハンチャンがなんやかんやでわしらの現状を説明してくれたぞい。
「うぐぐ、カニがそのような組織力で行動していたとは予想外シャチ」
「俺達の敵はサメだけでは済まなかったということオルカか」
「これって、思った以上に危険な状況じゃありません? 私の方である程度弁明させてもらいますよ」
また、鯱三郎がわしの口を塞いで自分達はあくまで拠点ついでに避難所を設けていることを素早く皆に説明した。
なにか都合の悪い説明をしてくると察したのじゃろうか。その通りじゃが。
じゃが、肝心の何が目的で行動しているのかまでは説明せんかった。
なので、魔王は更にそれを揺さぶる立ち回りを見せておる。
「お前達の目的は何なのだ?」
「それは言えません」
くっ、本当に面倒くさい奴らじゃわい。しかも1人増えた上に特に態度が変わらんときた!
しかし、その上で彼らとしてわしらに持ちかけたい話があるみたいじゃ。
「だーが、これだけは言わせてもらおうシャチ」
「俺達は正直に言ってこの街の現状が気に入らないオルカ。自分以外の〈指示者〉が王都支配したわけオルカらね」
「何が言いたいのじゃ」
「つまり、俺達と手を組んでこの王都を巣食う黒幕を倒さないかシャチ?」
なんという事じゃ。一時的な同盟を結ぶ事の提案じゃったとは。
「鮫沢博士、これは戦力も増えていい話じゃないか?」
確かに、彩華の言う通りじゃ。
とても好都合な話なのは間違いないからのう。
なので、こう答えてやるぞい。
「だが断るのじゃ!」
理由はシンプル、シャチとつるむことはわしのプライドが許さん。
敵に送る塩など清めの塩で十分なのじゃ。
「おいクソジジイ!」
彩華が怒っておるがそんなの知らん!
誇り高きサメのプライドを傷付ける行為は何があってもやらん!
セレデリナと魔王が無言でドン引きしている表情を見せておるが気にせん!
「シャーチシャチシャチ、それでこそ鮫沢シャチ!」
「なるほど、これがサメ。話の通りどうしようもないヤツらですね」
そこ、明らかにあること無いこといろいろ吹き込まれておるのではないか?
そう疑問を感じるような会話を繰り広げ始めた鯱崎兄弟であったが、鯱二郎のこと一言によりこの件に終止符が打たれる。
「その答えは予想出来ていたオルカ! なら、これはどうオルカ? お前らのうち3人の代表を決めて、俺達鯱崎三兄弟と同人数であのフィールドに立ち、勝負するというのはオルカ」
「加えて、勝った方がリーダーとして絶対的な発言権を持つというモノですよ」
ほう、面白い提案をしてきたのう。
それならやってやってもいいかもしれん。
「なるほど、それならわしと彩華とセレデリナの3人でやってやるぞい」
「勝手に決めるな」
「まあ、そうは言ってもガレオス・サメオスとして戦うしかないでしょ、この場合」
なお、話はまだ続くようじゃ。
「そうだ、飯炒も仲間を連れて第3陣営として参戦していいシャチよ」
どんどん面白い話になってきておる。熱いのう。
「いえ、私は遠慮しておきマース、内輪もめにリソースを使いたくないデース。それにサメはもう倒しマシター、シャチは次の機会までとっておきマース」
なるほど、ハンチャンは引くのか。
それもいい、3対3のデスマッチになるわけじゃからな。
「なんか、決まったもんは決まったわけだし、久しぶりにシャチ退治といくか!」
「その意気よ。ちなみに私としては、アノマーノのアノマーノの指揮の元じゃないと不安ってのもあるのよね」
「うむ、セレデリナ、負けるでないぞ。あやつらの指揮など信用できそうにないのだ」
皆やる気十分。
わしらのファイトが始まるぞい。