第92鮫 ハートのS(シャーク)が出てこない
「SHARK(このチャンス、逃さない)」
そんな怯む仮称サメラに対して、セレデリナは小さく飛び上がると宙を泳ぐようによこに回転していき、そのまま距離を詰めて頭部を掴む。
「SHARK、SHARK!(マーシャルシャーク・螺旋投げ!)」
横回転の勢いのまま相手をくるりと捻るように頭から地面へと投げ落とし、自身は両足で見事に地面へと着地したのじゃ!
「まだじゃ! 彩華よ、次のカードを引くんじゃぞい!」
しかし、これで勝負が決まる訳では無い。わしらも追撃に加わる他ないじゃろう。
「OK、引くぜ!」
彩華が引いたカードはクラブの3にダイヤのA、クラブの A、スペードのAに……ハートのAじゃ。
「これ、フォーシャークか?」
「よくわかっておるじゃないか」
「はぁ」
役が揃った瞬間、彩華の持つ4枚のAは光り輝くと、宙を舞いながらポーカー・シャークの前端と後ろ端にぺたりと張り付く!
すると、その4枚のAは黄金のホオジロザメへと変質!
まるでサメの形をしたジェットエンジンと化してポーカー・シャークに飛行能力を与えたぞい。
「なんだよこれ……」
「こんなところで驚いては序ノ口じゃ。次のカードを引くが良いぞ」
わしらのバトルシャークはまだ終わっておらん。
何より、今1番火力を出せるセレデリナへバトンを繋がなければならんかな。
「はいはい、ドロー!」
引いたカードはハートの10、ハートのジャック、ハートのクィーン、ハートのクィーン、ハートのキング、そして最後に、ハートのAじゃ。
「この役、もしかして」
「大当たり、ロイヤルストレートシャークじゃぞい!」
もはや4つの黄金に輝くホオジロザメをジェットエンジンにするポーカー・シャークはわしらを乗せたまま自身すら黄金に光り輝く。
ここ光こそ、カジノという夢の世界にのみ現れる究極のサメ!
「異世界サメ66号改"ロイヤルストレート・シャイニング・ポーカー・シャーク"じゃあ!」
黄金にして5mのサメ空母はジェットエンジン・シャイニング・ホオジロザメを射出すると仮称ワニラの口部へと突進した状態になる。
「ギャオオオオオン!!!!!!」
流石にそれをくらう訳には行かないのか、火球を吐き出して応戦しておるものの、この射出自体がフェイク。
ジェットエンジン・シャイニング・ホオジロザメが火球に被弾したことよって生まれた煙が消え去ると、そこからわしらの乗るロイヤルストレート・シャイニング・ポーカー・シャークが現れ即座に口に中へと入り込む!
つまり、ジェットエンジン・シャイニング・ホオジロザメそのものが肉壁だったのじゃあ!
「うげぇ、怪獣の体内に入っちまったぞ」
「正直にいえば、技術を盗むためにも体内構造は知っておきたいのじゃよ」
わしらは|R・S・P・S《ロイヤルストレート・シャイニング・ポーカー・シャーク》と共に仮称ワニラの体内へと入り込んだ。
そこは、ワニの臓器を巨大化させたとしか言いようがない胃やら肺やら心臓やらと、体を縮小させて人体の中を冒険しているような気分になる絵面である。
まあ、わしらもわしらで|R・S・P・S《ロイヤルストレート・シャイニング・ポーカー・シャーク》がこやつの顔から下の半分ぐらいのサイズはあるため、そこまで探索もできんが。
しかし、見渡すことで敵の技術というのも理解出来る。サイバー系ではなくバイオ系、1から生物を造るのに特化していると見えるじゃろう。
「……ていうか、指示者は基本的に既に死んでるってことを考えると、こんな怪獣を造れるってどういうことだ?」
「奴らは遺産を残しているモノじゃ。大方黒幕の実家の地下に生物兵器収納巨大格納庫でもあったと見える」
「つーことは、こいつは氷山の一角かよ」
体内に入ったのならやることはひとつ、内蔵一つ一つを|R・S・P・S《ロイヤルストレート・シャイニング・ポーカー・シャーク》に喰らわせるのじゃ。
『モグモグ、カジノシャーク!』
これは完璧な致死攻撃。
とはいえ死に悶えている間に、街中で暴れられても困る。
適当に心臓と肺を喰らった所で腹を突破って脱出したぞい。
『カジノシャーク!』
「大分グロいもん見せられたな……」
「じゃが、カジノとは常にこれほどの修羅場なのじゃ」
そして、内蔵攻撃のダメージによって、自分の攻撃を捌ける程の余裕がなくなったと判断したセレデリナはトドメの必殺攻撃を放つ。
「SHARK、SHARK!(追い詰めてくれてありがとう、サード・アイレイ!)」
それは、口を無理やり開けて大量の液体を体内に流し込むかのような動作で放たれた。
口から体内への直接的な焼却攻撃は、小さく射線を動かし続ける事で全ての内臓を焼き払い、これで生きていられる生物はまず存在しないであろう一撃となる。
「ふぅ、いっちょあがりね」
魔法の効果時間が終わると、変身時間を34秒程残してセレデリナは元の人間の姿へと戻った。
「流石なのだセレデリナ!」
「エッヘン、もっと褒めなさい」
「クレイジービームガールデース」
また、彩華も同じぐらいの時間を残して|R・S・P・S《ロイヤルストレート・シャイニング・ポーカー・シャーク》から降りると、そのサメはただのポーカーシャークに戻る。
『カジノシャーク!』
そして、カジノ場の天井へと這い上がり、吠え出した。
恐らく、今日が終わるまでか彩華の制限時間が切れるまではそこを守り続けるのじゃろう。
その姿はまるでカジノ場の守護神じゃ。
***
こうして、仮称ワニラとも呼ぶべき怪獣の討伐に成功した。
本来の予定に割り込んできたサプライズ・アリゲーターとしては迷惑極まりない存在であったが、倒せたのなら万々歳と言えるじゃろう。
「では、改めて競魔獣場へ向かいまショー」
ハンチャンもいつの間にか似非外国人フォームに戻っておる。
人を指揮するならこの姿がしっくり来るのじゃろうか?
「俺はマスターが案内するよりも余計な情報なく誘導できるぜ」
「チョット、余計なマウント取らないでくだサーイ」
「誰が案内しても変わらんじゃろさすがに」
「お前が他人のマウント合戦に冷静なツッコミを入れるの、説得力が妙にあるな」
***
***
SIDE:???
***
「お母様、ワニラが倒されてしまいました」
「お前の遠隔操作を持ってしてもか?」
「ええ。というより、あんな怪獣より私が生身で戦った方がよっぽど強いと思いますの」
「そうか、なら先祖のいう自動操縦モードで十分だったかもしれんな」
私は、愛するお母様の言うことを全うしていた。
お母様の目的はただ1つ、世界を支配すること。
争いなき世の中は人々から闘争心を奪う。そのための争いを産む。
だから、先祖の残したワニウィルスという生体兵器を使うことに決まり、今や国中大惨事。
私は、本当にこれでいいのだろうか。