第91鮫 サプライズ・シャーク
それから続けて、
1. 〈螃蟹勇者団〉は王都中で諜報任務にあたっており、ショウコーは富裕層区での調査を終えたところ
2.ワニの生態や仕組みはわしらが分析した通りで、やろうと思えば普通のサラムトロス人でも倒せるものの、皆魔法を使えないため魔王のように理不尽な物理攻撃能力を持たない者には厳しく、そうであっても普通は1度でも噛まれればアウトのため〈螃蟹勇者団〉の団員すら半数がワニとなっている
3.この避難所はそれらの問題から、これ以上ワニを増やさないための措置も兼ねて上手く無人のカジノ場を利用した突貫工事による施設であるものの、結局キャパに限界があり現在は事件解決のための拠点以上の機能はしていない(避難民の精神安定のためにライブなどの娯楽は提供している)
4.これらの状況から、つい先程まであくまで慎重な諜報戦をしている段階であり、大きく動くのはちょうど今から(なので、サメとカニがこのタイミング合流できたのは本当に好都合)
5.ハンチャンの右腕とも言える人物の1人"レール"との合流ポイントがあるため、次は競魔獣場に向かうこととなる
という形で情報の整理が行われた。
わしとしてはもはや何が何でも王城へと向かいたい。
次の進路はどうやら一般市民区と富裕層区のちょうど境目にあるらしく、確実に王城へ近づく。ならば、〈螃蟹勇者団〉と共に向かうのが安定と言えるじゃろうな。
「よし、わしもついて行くぞい」
「鮫沢博士が乗り気とは……まあいい、俺も同様だ」
「雑魚狩りは余に任せるが良い」
「殲滅戦なら私担当よ」
こうして、ヒョウモン島の時のようにサメとカニが手を取り合い巨悪と立ち向かうべく決意を固めた……その時じゃった。
「ギャオオオオオオン!!!!!!!」
このカジノ施設の3階に大きな穴が砕けるように空いた。
その正体は大きな穴ワニの口、それこそ、視認できる範囲に限定しても5mはある。
口は一旦外へと引っ込められたが、空いた穴に視線を向けてみた。
「な、なんじゃあれは……」
そこには、後ろ足で立ち上がり、手に向けて火を噴き吠える15mの巨大ワニがいた。
正しく怪獣。そうとしか表現できん。
「な、なんですかカーアレハー!」
「ありゃ富裕層区でも見なかった個体だ、油断するなよマスター」
こうなれば緊急事態じゃ、あれを倒すことを全ての最優先事項にするしかないじゃろう。
何、魚介揃えば文殊の暴力、皆で叩けばいいだけの事なのじゃ。
「わしは一旦サメを造る、任せたぞ皆の衆よ」
「こればかりは了解デース」
「俺は避難民の誘導を優先させてもらう、マスターをよろしく頼むぜ」
「あの巨体、相手できるかどうか」
「|I'm Shark human《私はサメよ》!」
皆が穴から外へと出ていき、セレデリナは敵のサイズに合わせてか15mの単眼鮫魚人へと変身した。
そして、わしは彩華と共に後ろに下がりサメの準備に取り掛かったぞい。
外を観察しておる限り、あのワニ怪獣"仮称ワニラ"は暴れ回っているというよりは明らかにわしらのことを狙ってこのカジノ場を襲撃した様子じゃ。
そうでなければ、外はボヤ騒ぎになっておるじゃろうからな。
「で、造るサメは?」
「それはもちろん、カジノシャークじゃよ」
では、第三の目で見た外の状況を中継しよう。
あくまで巨大化するのはセレデリナだけにしつつ、ハンチャンは漢服を纏い無精髭が目立つダンディな姿へと変形、両手に握る青蟹刀を振るい地につけた右後ろ足攻撃しておった。
「魔神覇者斧技・諸行無常!」
加えて魔王も2本のサメ斧を左後ろ足に向けてこれでもかと振り回して斬りつけている。
「俺たち」
「余たちはどうやら」
「「結構息が合う!」」
両足への攻撃により移動を不自由にしたところで、次は同格な巨大化しておるセレデリナの出番じゃ。
「SHARK!(サード・アイレイ!)」
開幕で放たれるその光の線は、足の動きを止められた怪獣にとって致命的な一撃じゃ。
「ギャオオオオン!!!!」
しかし、火炎放射器のように口から火を噴射し出すとそれで鍔迫り合いのような状態に持ち込み、双方の攻撃は消滅。
更には、手のひらをクイックイッと動かして彼女を煽り始める始末じゃ。
「SHA、SHA、SHARK(妙に人間くさい怪獣ね、なら、やってやるわ)」
セレデリナは誘いに乗ったのか、その巨大な拳を仮称ワニラに向かって振るっていた。
「SHARK!」
「ギャオオオン!!!!!!!」
じゃが、仮称ワニラも負けてられないようで、その口で向かってくる拳に噛み付いた!
「SHARK、SHARK!(やっぱり私は既にサメだからか感染しないみたいね、だったら!)」
痛みに悶えることなく、左腕の鋭い刃なヒレを噛み付く口にブスっとさしてハンバーガーにしてしまおうと攻撃。
「ギャオオオオン!!!!」
対して仮称ワニラは一旦噛み付くのをやめ、それからすぐに彼女の胴体に向かって火の球を吹き出した。
「SHARK!?」
直撃してしまったセレデリナは吹き飛び、後ろの建物をクッションにするが同時に倒壊させる。
お互いに巨体じゃと、プロレスをしようにも周囲の被害が馬鹿にならんぞい。
「SHARK、SHARK!(何やってもどっちつかず、やってらんないわねぇ)」
では、準備は完了した、ここでわしらの登場じゃ。
「異世界サメ66号"ポーカーシャーク"!」
「これ、結構無理ないか!?」
わしらが選んだサメ素材はカードゲーム用のテーブルとトランプセット!
そのテーブルを無理矢理2人でカジノ場に空いた穴に向かって押して運搬しつつ、そのまま下に落としながらわしらも共に落下状態でサメに変換したぞい。
そのサメは……5mにも巨大化した縦長に緑のマットが敷かれたカードゲーム用テーブル……の先端部がそのまま磨かれた木を素材にサメの頭部へと変質した変化球ウッド・シャーク!
自身を中心にトランプが舞い散り、それはまるでオーラ!
なんだこれはと言われても、そんなものはわしが聞きたい!
交通バスと同サイズな空母にも見えるそのサメは一体どんな力を持つのか!
「いやぁ……いやぁ……これなんだ?」
「さあさあ、困惑しとらんでわしとポーカーをするんじゃ」
「なんでだよ!」
わしと彩華はポーカーシャークの上に乗った状態で共に地面に着地すると、緑のマットの上で座り込みポーカーを始めたぞい。
ディーラーがわしで、彩華はプレイヤーじゃ。
「つまりじゃな、揃った役に合わせてこのサメは強くなるんじゃよ」
「非効率的では!?」
そうして、セレデリナが裏で立ち上がり、同時にじたばたとサメラが暴れだした事で2人がその場から一旦離れた状態になりながらもわしらはゲームを始まった。
「急ぎでやるぞい」
「まあ、そうだな、とりあえず5枚引いて……ってマジかよ」
すぐ様に彩華は手札を広げた。
ハートのシャ――エースと、ダイヤのシャ――エース、クローバーにダイヤにスペードのキング。
つまり……!
「おめでとう、フルシャークじゃ」
「言いたいだけだろそれ!」
じゃが、役が揃ったこともまた事実。
そう、彩華が手に持つ5枚のカードが光り輝くと、それは宙へと舞い上がり、1枚1枚がしなやかな肌を持つアオザメへと変身したのじゃ。
「全部サメになった以上は間違いねぇわなぁ」
「そうじゃろそうじゃろう」
一方、仮称ワニラは斬り裂かれる両足のダメージを減らすべくバックステップをとっておるが、その程度は対応可能と言える。
アオザメ達は鳥のように空を舞い上がりながら前進してゆき、仮称ワニラの首筋にそれぞれ噛み付いたのじゃ!
「ギャオオオオン!!??」
「でかした! ならば追撃するのだ。魔神覇者斧技・双頭龍の突撃!」
更には魔王が斧を投擲し、見事に2本共右目に命中!
「グオオオオン!?」
等身大なりに怪獣を追い詰めた。あとはセレデリナにもしっかり活躍してもらわねば。