第90鮫 ザ・リビングデッド・シャーク
それから改めて仕切り直し、わしらは街を進んでいくことにしたぞい。
なお、具体的には、
「どうにも1度ワニから人間に戻っても眠りの深さから考えると24時間は起き上がりそうになく、ワニサイドからの情報入手も難しいと言える。その上で、王城にいる王族達の身柄の確保や現状整理もしておきたいのだ」
と、魔王が勝手に仕切った。
シンプルな目的でアミキナ王国に来たはずが、ここまで面倒なことになるとはのう。
「何としてでもキャビアを食べてみせるぞい!」
「この状況下でそれを諦めないあんたの根性には何か憧れるよ……」
とにかくこれからは、
1.移動
2.ワニを発見次第討伐
3.安全確保した場へ安置
4.1に戻る
のサイクルで行動することになるじゃろう。
本音を言えばわしはワニを全てスルーして王城へ向かいたいのじゃが、恐らくそれはこのメンバーだと口に出した時点で怒られてしまう、一旦は黙っておくぞい。
***
「行くのじゃ、異世界サメ64号”ルービックシャーク”!」
「何だこのパズル!? 面が揃う事にワニがサメに喰われてくぞ!?」
「頼もしいわね!」
「しかし、本当に数が多いのだ」
それからは、焼く3時間40分程皆で交代交代にちぎってはワニ、ちぎってはワニと討伐しては近くの廃墟などに避難させたり、生き残りの住民に身柄を任せる交渉行うなど大変な戦いを繰り広げた。
上手く圧縮はしたが、彩華の制限時間も1分は消費してしまっており、リソース的にもジリ貧になっていく一方。
この力押しを計画的にやっていけば、街のワニを全て駆逐して平和を取り戻すのも現実的では無いか? とすら思えてくるぐらいじゃ。
「おい、何か警備員みたいなのが守ってる施設が見えないか?」
「おお、人が集まっていそうなのだ」
「これでやっと情報整理が出来そうね」
「流石じゃぞ彩華!」
そんな中、彩華が1つの施設を見つけた。
こうなればそこへ向かう以外の選択肢もあるまい。
わしらはすぐ様に駆け寄ったそい。
「おっと、あんたらは何者だ? ここはもう定員オーバーで人を迎え入られるキャパはない。悲しいが、上手く生きのびてくれ」
警備をしていた男は褐色でスキンヘッドなのが特徴的なのじゃが、フライパンを握っているのが気になる。本職はコックなのじゃろうか。
……いや、違う。
「って、鮫沢に彩華じゃないか!」
「「ボブ!」」
彼はボブ、わしと共に"異世界サメバーガー"を作った戦友じゃ。
まさかこんなところで会うことになるとは、不思議な縁もあったものじゃのう。
「知り合いなのだ?」
「俺の友達だよ。本当はフレヒカでハンバーガー屋をやってるんだがな」
「ああ、彩華が言ってたあの店の」
「ちょっと待て、ちょっと待ってくれ。今この瞬間何か飲み込めない情報が押し寄せていたぞ!?」
しかし、皆の顔を合わせた所で、
「なんで魔王様がいるんだよ! セレデリナ・セレデーナがいるのは知ってたけど、流石に有名人なんてレベルじゃねぇぞ!」
何を驚くことがあるんじゃ……と思いながらもわしと彩華だけで固まって小さくこう質問をしてきたのでちゃんと事情を説明せねばなるまい。
「行き先が同じで同行してるんだよ」
「そういうことじゃわい」
「ま、それぐらいお前らにとっては当たり前ってことか……。世界のために戦ってるもんな、今回の件もガレオス・サメオスがいれば340匹力ってところだろう、頼りにさせてもらうぜ」
彩華が相談相手として〈ガレオス・サメオス〉周りのことをボロってしまっておるあいてとはいえ、流石に魔王は有名人過ぎたようじゃ。
「よし、流石にフレンズが2人にビーストマーダーと魔王様ってなりゃ話は別だ、ボスに話を付けてるために上がってくれ」
それからは、あっさりとボブは折れてわしらを中へ案内してくれることになったぞい。
***
ここは元々3階立てのカジノ場だったようで中に入ればポーカーやブラックジャック等のカードゲーム用のテーブル、スロット台(魔力で駆動しているらしい)、ルーレット台、対戦型のダーツなど多種多様なゲーム設備が部屋中に配置されているが、そこには客やディーラーなどはおらず、いるのは避難民が細々として居るだけ。
アミキナ王国らしく小鬼種や獣人種等が中心となっており、それこそ彼らはこの街の住民だろう。
そんな環境を尻目にわしらはひたすら施設の中をボブに案内されながら歩いていく。
「アイラーブ?」
「「「「「カニ!」」」」」
――だが、3階にたどり着いた時、全ての状況が一転する。
「待て、この歌声とコール&レスポンスは!?」
部屋の奥にライブステージを配置し、そこで避難民を励ますためには歌唱しているハンチャンがいたのじゃ。
あの姿はいつもの似非外国人フォームじゃろう。
「うおおおお、俺も行ってくる!」
「常識人の頭数が減るのはやめるのだ!」
そうして、彩華もライブの客に混じり始めたりと紆余曲折あったが、最終的にはライブも終わり、避難民達がその場から散っていきつつハンチャンと話すことが出来た。
「まさかこんなところで会えるとはラッキーデース。デーモンキングまでいるとは、あまりにもコウツゴー!」
「なら、サクッと事情を話すのだ」
あっさりとこちら側の情報共有も終わった事もあり、この緊急事態でハンチャンに会えるのは本当にラッキーじゃのう。
そういう訳で、ハンチャンサイドで何があったのかを教えて貰えたぞい。
「大雑把にいえば、私達〈螃蟹勇者団〉は鯱崎兄弟の手掛かりがあると睨んでこの国へやって来ましター。フレヒカとはあまり友好な関係ではありまセーンから、隠れ蓑にはピッタリデース」
「それで、来てみればこの有様ってわけか」
「ただ、今ちょうどこちらが欲しい情報の整理も終わったようなんデースヨ。いるんでショー、エビ野郎」
ある程度の情報を共有し終えると、ハンチャンは指を弾き出した。
「あいよマスター。理不尽な人種差別なのか人使いがふた周りほど他より荒いのは改善して欲しいねぇ」
すると、この部屋の天井から1匹のエビ人間……エビマンことショウコー・エビデンスキーが現れ降りてきたぞい。
そういえば、彼はハンチャンの〈螃蟹勇者団〉に入団したんじゃったか。エビ嫌いのボスがいる組織となると、仕事を押し付けられ気味なのじゃろうな。
そして、ショウコーは自分で集めてきたこの国についての情報を語り始めたぞい。
「現状推理できるのは、女王が怪しいってところだ」
「「「「!?」」」」
なんと、それは聞きたくなかった話じゃ。
トカゲ王女の母でありこの国で1番偉い人物が黒幕の可能性大ということなのじゃぞ。
「そんな……これではキャビアは……」
「はいはい、このジジイは黙らせておくから続けてくれ」
くっ、不満を漏らした所で彩華に口を腕でホールドされてしまった。モゴモゴとしか喋れんぞい。
「ああ、何となくじいさんの都合もわかった。お構いなく続けよう」
「頼むのだ」
「それでな、証拠になる情報なんだが、城へ向かわせた俺の部下が帰ってこなくてなぁ、こりゃあくどい奴の匂いがぷんぷんするって訳だ。恐らく娘がじいさんを勧誘したのは計算外なんだろうが、こりゃある意味俺たち〈螃蟹勇者団〉からすれば予定が早まって好都合と言える」
うぐぐ、ここまで言われるとわしも認めざるを得えん。
「じゃが待っておれ! 殺してでもキャビアは! 超鮫は頂くぞい!」
「ゴラァ暴れんな!」
実は筋力ならわしの方が彩華より強い。
故に、怒りのあまりホールドを振りほどいて宣戦布告してやった。
女王本人はおらんが、気持ちの問題じゃ。
「……まあいい、でかい情報は話した。後は細かい話を続けよう」