第89鮫 真(サメ!!!)ゲッシャークロボ〜太平洋最後の日〜
それから、セレデリナは変身を解除し、わしは念の為にと倒したワニの死体を確認した。
「消滅させたのよ、無理に確認する必要は無いと思うのだけれど」
「なんというか科学者の勘が働くのじゃよ。そもそもこのワニが何なのかわかるかもしれん」
ワニがいた地点からは、魔法による熱で溶けた肉体から出る煙が少し立ち込めていた。
それをしばらく観察しておったのじゃが、何か煙の動きが不自然で……というより、人の形を象っているように見える。
すると、その煙はそれこそわしのシャークゲージで変質する物体の如く獣人種ネコ科の男性へと変異していき、ワニが人間に変化したのじゃ!
「むむ、どういうことじゃ」
と言っても、男性は意識を失った状態で起き上がる気配を見せない。
立て続けに問題が起きている以上目を覚まして何でもいいから情報を聞きたいのじゃが、どうにも上手くいかん。
しかし、それでも分かることがある。
「これ、元は人間だったってコト?」
「何かの実験か、悪趣味極まりないぜ」
ワニは人間を改造した何か。
これは間違いないじゃろう。
それに、足りない謎のピースも一瞬で埋まることになるぞい。
「お、おい、あんたらは人間か!?」
通りかかってきた街の住民らしき人物が、わしらに声をかけてきたのじゃ。
なら、それに返事してやるのが礼儀じゃわい。
「うむ、わしらガレオス・サメオスが来たからにはもう安心じゃ」
「な、なら助けてくれないか、俺はアレに追われてるんだよ」
彼はわしらに助けを求めているのか、後ろを指さした。
その先をよく見ると……数十という数の大量のワニが街の通路いっぱいに迫ってきておった。
種類はさっきと同じアメリカワニ、緑のミシシッピワニ、黄色いキューバワニ、少し暗く黄色のナイルワニの4種にバラけておる。
「大惨事じゃん!」
「一体何をしたらああなるのかしら」
「今はこういう社会なんだよ!」
しかも、問題はそれだけではなかったのじゃ。
「あっ……」
追われていた男は、一言そう呟いた。
彼女の足元をよく見ると、付近にあった路地裏から口を伸ばしたワニに足を噛まれておったのじゃ。
「ごめん、もう手遅れだったよ」
「おい、諦めるでないぞ!」
「俺だって嫌だよ! あいつらにはなりたくない!」
この会話、もしや……。
「ギャオオオオン!」
嫌な予感も束の間、彼の皮膚が爬虫類特有の鱗に変質し始める。
それから数秒もしないうちに体が歪な変形を繰り返すと、姿がアメリカワニへ変わってしまったのじゃ!
「やっぱりゾンビじゃない!」
「どうして外交に来ただけなのにこんなに問題が起きておるのだ! 理不尽なのだ!」
ちょうど彼の近くにいた魔王は、怒りを顕にしながら奥のワニ軍団に向かってソレを蹴り飛ばした。
こうなってくると、目の前に合わられるワニはサーチアンドデストロイの理論で抹殺せねばならんと見える。
なので、さっそくわしはサメを造る準備を始めたのじゃが……。
「そうだ、ここは余に任せるのだ。前の会議でちょうど【対〈百年の指示者〉に限り戦闘行為を許可する】という国際法の調整を完了させていてな、まずは肩慣らしに暴れたいのだ」
魔王が奴らを倒すと言い出したのじゃ。
「待ちなさいよ、魔法を使えない上に武器の呼び出しも魔法に依存してるあんたがどう戦うって訳?」
「それについては、丁度都合のいいモノがある。鮫沢、例のものを頼むのだ」
突然無理難題を押し付けてきているように聞こえるが、これこそが素の魔王なのじゃろう。
それに、実際のところわしは彼女のために対〈サラムトロスキャンセラー〉用のサメ武器を造っていたのじゃ。
「なるほど、早速使うんじゃな」
「ささっさとよこすのだ」
せっかちな小娘じゃのう(1425歳も年上じゃが)。
そう、わしは溜息をつきながらも四次元に繋がっていると噂される上着の内ポケットからあるものを取り出し、魔王に向けて投げた。
それは2本の手斧と1本の突撃槍じゃ。
見事にキャッチした彼女は携帯していたのであろう革紐を取り出すとそれぞれを背中に固定するように巻き付け装備完了、すぐ様に敵陣へと飛び込んでいった。
「おい、流石に1人はまずいんじゃないか?」
「いや、ここはアノマーノに任せてしまっていいわ。武器があるならあんな雑兵大した相手にならないもの」
さて、ここで渡した武器について解説しよう。
「魔神覇者斧技・双頭龍の突撃!」
まず、2本の斧は異世界サメ60号"シャーク・トマホーク"じゃ。
今彼女が敵陣に向かって思いっきり回転を付けながら投げたように、鮫肌や牙のギザギザさを再現したノコギリ状の刃が特徴的な手斧であり、今現在手に戻ってくるまでの一投だけで15匹はワニを引き裂いておる切れ味を誇り、その斧の軌道は、正しく双頭の龍が暴れているように見る!
これは、「もし物理すら無効にする〈サラムトロスキャンセラー〉が相手になってもいいように、下手なギミックのないシンプルな手斧が2本欲しいのだ」と依頼され、鍛冶工房を借りて鋳造した逸品じゃ。
製造費は当然向こう持ちで、尚且つ今後の資材提供の融通を強化すると言われれば造らん理由もないのう。
「お前のその目が気に入らんのだ、死ねぃ!」
続けて、魔王は突撃槍を握り持ち手に仕込まれたスイッチを押し込むと刃がドリルのように高速回転。それによる刺突で目の前のキューバワニの目を抉った。
「お前は耳ィ!」
あの突撃槍は逆にギミックを指定して依頼されたサメ武器。
本来は魔力を流し込むことによって使用する機能じゃが、わしには性にあわん仕組みで太陽電池による電気式で再現しているぞい。
その名も異世界サメ61号"サメドリルマキシマム"じゃ。
しっかし、魔王は回転する武器が大好きなんじゃな。
「鼻ァ!」
背後にいるワニの鼻に目掛けて更に刺突。全方位に突いて突いて突きまくるドリル地獄がそこにはあった。
「そこにもいたかァ!」
路地裏のワニが改めて顔を出してくると、そこに向けて槍を投擲、物の見事に突き刺さり回転により全身を砕く。
だが、素手になった彼女の目の前に、1匹のワニが接敵する。
反撃の背に戻した斧を取り出すにも間に合わないと思われたが……。
「魔神覇者拳技・デスエベレスト!」
両手でその口を塞いぎつつ大きく全身を持ち上げ、遠心力を利用してグルグルと回転させる。
そして、掴んだワニを遥か彼方へと投げ捨てていった。
「これで終わりか、口程にもないのだ」
……僅か1分、何十匹といたワニの軍団はたった1人の覇者によって駆逐された。
気が付くと、そのワニ達の姿も変質していき人間の姿へと戻っていく。
やはりこれはゾンビのように感染する性質を持つと同時にワニが死すれば元の人間に戻るという特殊なタイプに見える。
一見すると平和に解決できそうに見えるが現実はそう甘くない。
早い話、このワニゾンビはどれだけ倒しても事実上の頭数が減らないのじゃ。
言ってしまえばリサイクル・リビングデッド・アリゲーター。
少なくともゾンビ映画を参考にするだけでは対処しきれんじゃろう。
事実、ワニから人に戻り失神状態の人間が目の前に何十人といる訳じゃ。
更にいえば、治安だって見ての通りめちゃくちゃで、仮に事件が終息に向かってもその後の復興は大変そうじゃわい。
「とりあえず、近くに集団住宅があるわよ」
「じゃあ、一旦避難させるためにも運べってか?」
「それについては、魔法は使えずとも力ならある、彼らの運搬は任せるが良い」
「おお、頼もしいのう」
そうして皆で協力した結果、近くの集団住宅にて失神状態の彼らの避難を完了させた。
しかし、結局中には何匹もワニがおり、安全確保から運搬まで30分は時間を食ってしまった。わしらは本当に王城へとたどり着きキャビアにありつくことが出来るんじゃろうか……。