第87鮫 疾海(しつみ)!熱海(あたみ)!サメバスター
皆様お久しぶりです。本日より三章三節が完成したため、更新を再開します。
本ページに当たる第87鮫についてですが、こちらはしばらく出番が不遇気味だったセレデリナにスポットライトを当てるために勢いで書いた短編になります。
三章三節とも直接つながる要素があるため、そのまま1話目として取り込ませていただきました。
それでは、サメ・ファンタジー三章三節『アリゲーター・オブ・ザ・カジノ〜イン・ザ・シャーク〜』、約一ヶ月という期間になりますが、よろしくおねがいします。
***
SIDE:セレデリナ・セレデーナ
***
あの日、バーシャーケー王と拳を交わした。
その結果……私は負けた。
最初こそ牽制の魔法に自己流のシャ拳法で追い詰めていたが、1度攻撃を避けられるとそのままタックルをくらい体制を崩し、流れるままにジャーマンスープレックスが炸裂して気絶。
目が覚めた頃には担架の上で、体は生身《人の姿》。
その時の私はただただ悔しく、サメとしてもセレデリナ・セレデーナにも勝てなかった事に対して全てが嫌になったくらいだ。
そもそもヒョウモン島で私がバーシャーケー王に勝てたのは、彼自身が強靭な精神力で敵の力を抑えていたという背景があったから。そこで勝てたことを喜ばないようにしていたが、だからといってこの結果は本当に私ではシャケに勝てないのだと言っているようなものじゃないか。
だから、私はもっと強くならなればいけない。
そう心に誓い、私は鍛錬を続けていた。
***
おじいさんが王位奪還スリーマンセルバトルを終えた頃。
「アノマーノはいるかい?」
この話は、ある日、アノマーノがゼンチーエに構えている別荘をノックする声から始まった。
現状、ハスキーな女性の声だが、少なくとも私はこの人物との面識がないことだけはわかる。
今アノマーノは最終会議がなんだとかでここを夜まで留守にしているため、どう返事したものか。
なまじ世界で最も偉い人物と関わりを持つ者だ、邪険に扱う訳には行かないだろう。
なので、素直に玄関を開けることにした。
「今はいないわよ。どなたかしら?」
目の前に現れたのは、アノマーノと同じ紫肌にこめかみの角が特徴的で、背が170cmはある魔神種だった。
長く銀髪でポニーテールで、タキシードを少し華やかにしたような黒い衣装と、中性的な印象を受ける外見だ。
「おお、君は確かにアノマーノのお嫁さんだったかな」
……!?
突然とんでもないことを言われた。
いや、正直にいえば嬉しい言葉ではある。アノマーノのことは大好きで、最近はやっと結婚したいと決心も出来てきたところだから。
ただ、私も私で彼女が何者なのか分からない、そこから一つ一つ要件も含めて確認しておこう。
「その一言で顔を赤くするとは、言わずもがなと言った所だね」
「ええ、否定しないわ」
「その程度の言葉で喜んで貰えるなら何よりだ」
「それで、結局貴女は何者なの?」
「ああ、自己紹介がまだだったね。僕はフレデリカ・マデウス。アノマーノの姉だ」
なるほど、彼女はアノマーノの姉か。
……って、アノマーノのお姉ちゃん!?
私の未来の義姉さんってこと!?
「落ち着きたまえ義妹よ」
「そ、そ、そ、そうね、それで、結局どういう要件できたのかしら」
「おっと、言い忘れていたね。僕は世界中を駆け回っていて、偶然にもゼンチーエの滞在期間中アノマーノも長期滞在していると聞いたから会いに来たのさ」
ああ、今の一言で思い出した。
彼女は妹であるアノマーノに並ぶ実力を持ち、人魔統合戦争においても多くの武功を残した実力者。
戦後は自分の出る幕はないと世界を放浪していたというが、本当にこのような場で出会うことになるとは。
「どっちにしてもアノマーノは夜まで帰ってこないわ。中でゆっくりしていく?」
「なら、そうさせてもらおう。……相変らず多忙だね、僕の妹は」
***
この別荘は非常に広い。
おそらく、私の屋敷以上の大きさだ。
もちろん、魔王ともあろう人物が滞在するために造られたものなのだから、観光地の宿等とは比べ物にならないのは当然とも言えるが。
アノマーノが護衛いらずの強さかつ、家事も要人のもてなしも1人で出来てしまうためか、月に1度来る清掃屋以外に人がいない殺風景な場所であることがある意味ここの特徴的だ。(今は私も含めてここに住んでいる訳だが、それでも近いうちに離れる)
なお、フレデリカはその別荘の客人部屋でくつろいでいる。
豪華な部屋に美しい麗人と魔王の愛人の2人だけ。なんというか不思議な光景だ。
「流石はアノマーノだ、いい紅茶葉を用意してある」
ひとまず茶をいれティータイムを過ごしてもらうことにしたが、どう考えても彼女の暇を潰すには夜まで持たない。
こちらとして無理に何かをする義理はないが……そうだ。
「ねぇ、異世界の娯楽に興味はあるかしら?」
せっかくだから、サメ映画でも見てもらおう。
おじいさんがタブレットのデータを複製して作った映像再生設備"プロジェクシャーク"がこの部屋にはちょうどあるのだ。
「つまり、何をしたいんだい?」
ここで、そういえば私というかガレオス・サメオスの存在はまだまだ各国の要人ぐらいしか知らないことを思い出す。
ええい、説明しながら再生してしまえばこっちのものよ!
「私の立場はつまり――――ということなの」
「なんと、僕の知らないところでサラムトロスがそんなことになっていたとは驚きだ。そうは言っても、知らないことに無理もないが」
「それで、異世界の演劇を見て時間を潰してもらいたいわけ。実際面白いわよ」
「おお、いいじゃないか、楽しませてもらうよ」
カーテンを閉めて部屋を暗くすると、吊るされた白いマットにプロジェクシャークから放たれる光が当たり、映像は映し出される。
周囲にはスピーカーも設置済みだ、音響設備もバッチリ。
今回流す映画は、ツギハギのサメ魚人が暴れ回る低予算系の作品だ。
現地の言葉を翻訳できるおじいさんがいない以上、その物語を完全に読み解く事は出来ないが、前に見た時に「ナチスなる過去に滅んだはずの組織が作り出したクリーチャーが暴れること以外意識しなくていい」と教えてくれている。彼女に見せても問題はないだろう。
「さあ、始まるわよ」
「楽しみだなぁ、異世界の文明というのは」
***
映画は終わった。
似た系列のサメ映画としてはこれが一番良質で、最後の屋根の上の決戦は2人で固唾を飲んで見守ってしまう臨場感がある。
何回見ても、面白いモノは面白いということだ。
主役の鮫が自分の単眼鮫魚人としての姿に似ているのがひとつの理由かもしれない。
「うん、演劇としてはなんとなく棒読みなのが伝わるけど、何かいいモノを見れた実感があるよ。時間も潰せたしね」
「それは何よりね。他にもいろいろあるけど、見る?」
なんだかんだ、彼女とは上手くやれる気がしてきた。
未来の義姉なのだから、険悪な関係になっては困る。
「今回は遠慮しておくよ。もちろん次の機会があれば楽しませてもらうけどね」
「わかったわ」
だが、その空気は、彼女が持ちかけた話題によって維持することが不可能になる。
「そういえば、アノマーノの昔話を聞きたくはないかい? さっきの映画というやつのお礼としてね」
「ええ!? 聞きたいわ!」
最初は、本当に気になる話だった。
あまり過去を語らないアノマーノの事を知れる機会は貴重だから。
いや、厳密には、私もこれまであえて聞こうとはしないせいで教科書通りの彼女しか知らないというのはある。だからこそ、このチャンスを逃したくないのだ。
「そうだね、彼女は昔から本当に強かったんだ。当時魔王だった父と、その右腕とも言える力をつけていた僕の背中を見て育ったのだから、強くならないわけがないけど」
話は始まった。
アノマーノ・マデウスという私の好きな人の原典が語られている。
幼少期の彼女はサラムトロス最優種族とされる魔神族の中でも、魔王の血を持つだけあって血気盛んでそれはもうたいそう強かったそうだ。
父の雇った師範を学んでたは倒してしまうを1週間サイクルで行ったというのは今でもフレデリカにとって印象が強い様子。
強くなるのが楽しかった。それが主な理由と思ったのだが……。
「実は、アノマーノが強さを求めたことには理由があるんだ」
「へぇ、何なの」
「彼女は……僕のことが好きだったんだ」
その一言に、私は絶句した。
「彼女の初恋は僕で、好きだからこそ僕を倒せるほどの猛者になろうと切磋琢磨していたんだ。家族が初恋なんてよくある話だね」
「……」
「そして、ついに僕を倒したあの日、正直妹に恋愛感情を抱けなかった僕は代わりとして唇を交わしてあげた。そういう過去があって、今の魔王ことアノマーノ・マデウスがいるわけなのさ」
……ベラベラ喋らないで欲しい。
私の浅はかさがただただ浮き彫りになるから。
その事実をアノマーノの口からではなく姉であるフレデリカの口から聞いている自分が嫌になるから。
今まで、私にはアノマーノしかいなくて、よくやくサメという趣味と推しを手に入れたところなのに、何を得たのかだけに満足して深入りしなかった自分自身の愚かさがただただ降りかかる。
「もちろん、それからは彼女は僕を諦めた。『叶わぬ恋もあるのだ』と半泣きで事実を認めていた姿は今でも記憶に残っているよ。だけど、彼女はそこで終わらず、僕を倒した後ももっと強くなると逆に決心したんだ。ある意味、それこそが"魔族最強の武神"と人魔統合戦争で恐れられた人物を作り上げる物語の始まりだったのかもしれないね」
わかった、今私が知るべき事はここまでだ。
これ以上聞きたくない。
――だから、理不尽な八つ当たりを今からさせてもらう。
「ごめん、その話はそれぐらいで十分だわ」
「そうかい、ここからが面白いんだけど」
「いやね、どうせ暇なら、ひとつ手合わせでもどうかと思ったのよ」
私もアノマーノのように、彼女を、フレデリカ・マデウスを倒したい。
そうすることで、なにか憂さ晴らしをしたかったのだ。
「いいよ、面白いじゃないか。流石の僕もラスト級の魔法には至ってなくてね、本物の天才の実力を見ておきたかったんだ」
「へぇ、私を魔法だけで見てると後悔するわよ」
戦いの火蓋は切られた。
***
場所は移り、別荘の後ろにあるプライベートビーチに2人は立った。
魔力を活用することで荒波になるギミックがあり、その中で逆流に向かって泳ぐトレーニングを行うアノマーノ専用の施設である。
もちろん、純粋に友人等を呼んで遊ぶことを想定もしているようだが、まともに娯楽目的に扱われた記録はあまりない。
「念の為、安全確保はさせてもらうよ。少し人里から離している立地とはいえ、一般人への流れ弾なんて出たら大惨事だ。『我が魔の力よ、魔を弾く結界を張り巡らせろ!』サード・マジックカットフィールド!」
勝負の前に、プライベートビーチ全体にドーム状の結界が展開された。
確かに、私としても余計なことを考えないで済むし、何より別荘を巻き込んで大惨事になることもこれでなくなって助かる。
「流石にラスト級の魔法は防げないけど、それ以外なら安心できるものだ」
「ああ、それについては心配ご無用よ。だって、アレを使うと私のMRが0になるから真剣勝負である程非効率的な魔法なの」
「ならよかった。だからといって油断ならないわけだけどね」
準備は整った。
これより、馬鹿な女の八つ当たりという名の真剣勝負が始まる。
「さあ、勝負開始だ!」
「OK、|I'm Shark human《私はサメよ》!」
私は即座に単眼鮫魚人へと変身し、海に飛び込んだ。
ここは2.3mと油断すれば溺れてしまう深さがあるが、サメにとっては丁度いい泳ぎ場でしかない。
私はバーシャーケー王に負けてから1週間が経ち、その中で新たな業を身に付けた。それを彼女で試してやる。
「さっきの映画みたいな姿になったと思えば潜水、中々のセンスだ! セカンド・スイミィー!」
対しフレデリカは、水中行動補佐の魔法を唱えると同時に海へと飛び込んで、同じ土俵に立った。
だが、実質的な先手は取ったも同然だ。なら、そこでやることはシンプル極まりない。
「速い!?」
水中を蹴って加速しながら彼女へ接敵、すぐ様に腕を掴んで組み伏せにかかった。
見様見真似で覚えたバーシャーケー王のシャ拳法から応用し、四肢を持つサメの肉体を活かして軍隊体術を行う私だけの武術、それが、今から行うマーシャルシャークだ。
「マーシャルシャーク・水神!」
アイレイだけが私ではない、そうだと自分に言い聞かせるためにも固有名詞まで付けた。これが私の意思だ。
「いきなりしてやられたものだね」
まだ終わらない、この状況なら絶対に外さない一撃を与えてやるのだ。
「セカンド・アイレイ!」
瞳から放たれる光の線は水中で一閃を生む。
流石にセカンド級に抑えなければ即死させてしまいかねないので、そのうえで狙いやすかった脚部狙いだ。
「取った!」
私は勝利を確信していた。
「甘い、セカンド・オートウィンド!」
いや、それは相手が素人ならばの話だった。
私の頭部にフックパンチのようなものが炸裂する痛みが響くと、自然と首の位置が射線《視界》の先には何もいなかった。
「さあ暴れるんだ、風の妖精たちよ!」
組み伏せているはずなのに炸裂した打撃。
それは1度だけではなく、続けて腹部を強打しすぐ様右腕へ、更には四肢の全てを同時に殴り付けた。
そうだ、オートウィンドは自動的に動く風の塊を複数同時に出現させ、このように相手に打ち付ける魔法だ。
つまり、組み伏せるだけ不利、一旦振りほどこう。
流石はアノマーノの姉だ、セカンド級以下の魔法は詠唱無しで使用可能と見える。
「魔法の扱いは1枚上手のようね、でも負けてられないわ」
「僕は風魔法専門だけど、それと同時に本来は使えない水中でも適用可能にコントロール出来る。だから、ここが有利な戦場とは思わないことだ」
立ち上がったフレデリカは、腰に添えていた剣を鞘から抜く。
「セカンド・ウィンドエンチャント!」
水中でもはっきりと剣に緑の風がぐるぐると回って付与されているのが見える。
斬撃は何倍にも強化されているはずだ、あれを直撃する訳にはいかない。
「サード・アイレイ!」
なので、あえてこの魔法を放つ、もちろんこれは牽制だ。
「罠のようだが、避けない選択肢もないのは卑怯にも思えるね」
私に斬りかかろうと水地を前へ蹴ろうとしていたフレデリカは、方向転換し右側に体を蹴りあげて移動。
回避に成功こそしたが隙だらけ、私はまた水中を蹴って距離をとったフレデリカに向かって前進する。
それと同時に、こうだ。
「サード・アイレイ! そして、オーバーレイ・フリント!」
単眼鮫魚人が持つ鋭く曲剣状に伸びた右腕のヒレに魔法を放つとそれを吸収した。
追撃でそのまま相手に向けて魔法を撃ってもまた避けられるだけならば、この技で攻めるべきだ。
何より、魔法の等級差で鍔迫り合いになれば力量差のゴリ押しでトドメまで持って行ける可能性が高い。
「てやぁ!」
「避けてばかりもいられない、その手は受け止める!」
よし、相手が受けに回った。
なら、このまま押し切ってやるまで。
「これで私の勝ちよ、未来の義姉ちゃん!」
付与された風魔法魔法を貫き、刃と刃が重なった。
流石にこの状況では名工の造った剣だろうと数秒と持たないはずだ、完全に有利な状況に運べたと見える。
「キミ、対人戦を――戦場での戦闘経験がほぼないだろ? ビーストマーダーあるあるって所だね」
だがその瞬間、フレデリカは不敵な笑みをしながらそう発言した。
「ふぇ!?」
「人間の倒し方は教科書には載ってないってことさ!」
言葉を続けながら、更に魔法を唱える。
「セカンド・ウィンドムーブ」
すると、フレデリカは鍔迫り合いを切り上げて1歩下がる動作をした。
加えて、それに連動し彼女自身に追い風が吹いたかのように見えると、結界が張られている範囲のギリキリまで一瞬で移動してしまった。
「まずい、どこかで魔獣を相手にしてる感覚が抜けてなかったわ」
いや、落ち着け、次に何をしてくるか予測できないからこそ、もう一度攻めるのだ。
オーバーレイ・フリントによってヒレに込められた魔力もまだ残っている。
そう考え、再び水中を蹴って距離を詰めようとした。
「まだまだ、『我が魔の力よ、我に風の翼を授け給え』サード・ウィンドウィング!」
だが、追い詰めたその時、フレデリカは飛翔した。
空高く、水中から飛び上がった。
背中には緑に輝く風を収束させて生み出した羽根のようなものが生えている。
つまり、飛行魔法か!
「な!?」
僅かな時間互いのスピードを把握し、相手の攻撃が自分に当たるまでを少し距離を離したことで得られる時間の猶予でこの回避手段を思いつき、計算し、行動に移したとでもいうのか!?
確かに彼女は私と生きてる世界が違う、この瞬間に思い知らされた。
「じゃあ、決めてしまおうか!『我が魔の力よ、破壊をもたらす砲弾の雨を降らせ給え!』サード・ウィンドボムレイン!」
そして、降り注ぐ半径1mはある風が収束した球体。数にして10はあるだろう。
あれら一つ一つが建築物を破壊するほどの風圧だけが籠った爆弾。あんなもの、1発で海に穴を開け、もう1発で一撃必殺になるのは目に見えている。
それに、連続でサード級の詠唱を許してしまうなんて……流石にこの短時間に形勢逆転を決められてしまったというのは厳しい状況だ。
「決まったかな」
ここでアイレイを対空射撃で放つのは無駄に立ち止まるだけ。
私には、こういう攻め方も同時にある!
「サード・アイレイ!」
私は水面へと飛び上がりながら、水地に向けてアイレイを放った。
飛躍と同時に私は至近距離と衝突した魔法の反動をモロに受けて押し出される。
それはつまり、飛行にも等しい大ジャンプを擬似的に行える応用技だ!
「マーシャルシャーク・フライングシャーク! いい? あの映画ではなかったけど、サメによっては空も飛べるのよ!」
敵の飛行位置は上空20m、決めるは1発勝負。
私は、思いっきり拳を振るい、魔力の籠った右腕のヒレでフレデリカを狙い突撃した。
「避けても面倒な追撃が来そうだ。それじゃあ、こちらも必殺技と行こう」
「やられる前にやってやる!!!!」
これで決まりだ!
そう思った瞬間。
「魔神覇者剣技奥義・イレイザーウィンドストライク!」
フレデリカは直剣を私に向けて突き出すと、風を己の全身に纏わせていく。
すると、剣の先端が鳥の頭部を象り、全身が大きな翼に変わり果てることで緑の不死鳥のごとき姿になる。
そして、その不死鳥は私に向かって突撃していった!
「!?」
「やっぱり、キミはまだまだ素人だね」
サメと不死鳥、2つの生物はお互いに衝突し合う。
生き残った方が……勝者だ。
***
目が覚めた。
視界を広げてみると、今ここは客人部屋だった。私はそこに配置されているソファの上で寝ていたようだ。
自分の腕を見てみると人間としての私に戻っていることがわかった。やはり、私は負けたのだろうか。
元々は自分の無関心さへの気づきに対して八つ当たりをしただけの戦いだ、それでこの結果とは馬鹿なことをしたものだ。
「しかし、まさかこんなタイミングで会えるとは驚いたのだ」
「僕としても、フレヒカと比較的友好な国にあえて留まっているとは予想外だったよ」
視点を動かして少し離れたテーブル席を見てみると、フレデリカと……仕事から帰ってきたアノマーノが喋っている。
「おお、起きたのだな、調子はどうである、セレデリナよ?」
流石にそれには返事しておこう。
「なにか頭を大きく打った感覚はあるけどそれ以外は大丈夫、直に落ち着くわ」
「正直やりすぎた気はしたけど、あれを耐えられるサメとしての肉体は本当にすごいんだね」
良かった、フレデリカは私相手に手加減などしていなかったようだ。
そうなると、負けたのは本当に私の実力不足が原因か……。
「しかし、セレデリナと姉上が戦っていたとは、よく分からないことも起きているものなのだな」
「僕としては楽しかったよ」
この状況、姉妹で久しぶりの出会いを楽しんでいる場面だと見るべきだろう。
私の体も落ち着いてきた、自分の部屋に移動しておこう。
「あとは2人の時間を楽しんでて。私はこの場から離れるさせてもらうわ」
そう、部屋のドアノブに手をかけた時だった。
フレデリカが私に声をかけた。
「セレデリナ君、キミにひとつ言っておきたいことがある」
「なによ」
「今のキミは、きっと相手を理解する能力が足りてないような気がするんだ。だから僕の攻め手を読み切れないで負けた、そうに違いないね。あれもどうせ何かの八つ当たりだろう?」
その言葉は嫌味にも聞こえたが、何か最後まで聞いておくべきものにも思えた。
何なのだろうか、彼女の考えは。
「そう言われたらそうとしか言えないわ」
「じゃあ、そうだな。キミはこれから仲間にせよ敵にせよ、相手を理解して戦うようにするといい。その成長はきっとキミを最強の戦士へと導くだろう」
なるほど、確かに友達が1人増えたぐらいで喜ぶ程度じゃまだまだなのは確かだ。
彼女の言葉には説得力がある。彼女は私を理解した上で勝負に勝った、それは間違いない。
では、こうしよう。
私はフレデリカ・マデウスを倒すことを今後の目標のひとつにする。
もちろんこの話を教訓を実践に移したいからこその考えではあるが、アノマーノの初恋相手に勝てば私はより彼女に相応しい女になれる。しかも、何より強くなれば指示者相手にも当然有利になり、得をすることしかない。
この考えにはサメとしても負けた以上、プライドとしてなお許せないのもあるが。
……いいえ、何か今になってアノマーノの元妻であることに腹が立ってきたから女神ことアールル・エンシェルもぶっ倒してやるわ! 指示者との戦いが終わったぐらいに突然現れる気がするし、そこが勝負どころよ! 私の方がアノマーノの隣にふさわしい女って事を証明しなくちゃね!
「忠告ありがとう、今後の参考にさせてもらうわ」
「もちろんさ、キミの成長を期待しているよ」
決意を新たに固めながら、私は部屋から出た。
待ってなさい、私こそが、サメこそがサラムトロスで2番目に強い生物な世界を作ってやるわ!
1位はアノマーノのモノだけど、2位が私なら言うことなしよ!