超ショートショート『ガラス細工とマーケット』No115
冬の日の小さなフリーマーケットで、動物のガラス細工を見つけた。
午後の陽射しに当てられて、半透明のソーダ水のような影を落としている。
10センチくらいの小さなものなのだけれど、今にも動き出してどこかへ行ってしまいそうなくらい、とても精巧に出来ていた。
その上値段も、その技巧に比べたら、とてつもなく安い。
私はくまのガラス細工を買い、店をあとにした。
それから私はたくさんのお店を見て回って、両手いっぱいの掘り出しものを手に入れた。
タペストリーや、珊瑚色の石鹸。
中には何に使うのか分からない奇妙な形の鍵やら、薔薇の花の透明な立体パズルやらがある。
もう空はだいだい色に染まり、人もまばらになってきた。
そこでふと、さっきのガラス細工のお店を思い出す。
...あのお店、まだやってるかな...。
私はバックを探り、あのくまのガラス細工を取り出そうと...
あれ?見つからない...
どこかへ落としてしまったのだろうか...?
と、そこで、半透明な影が目の前に落ちているのに気づく。
影の出どころを見ると、たくさんの例のガラス細工達がそろりそろりとした足つきで、私の横を通り過ぎるところだった。
私に見つかるや否や、彼らはてんでばらばらに逃げ出した。
私は呆然としながら、彼らが夕日に向かって走るのを眺めていた。
斜めに差し込む夕日に当てられたガラス細工が、マーケットの会場の全体を余すことなく虹色に照らし、幻想的な雰囲気だ。
他の人たちも、虚を衝かれたよえにあたりを眺める。
彼らが1匹も見えなくなってしまったあと、私は少し笑いながら立ち上がり、大きな夕日を眺める。
それから振り返り、帰路につくことにした。
帰ったら、他の商品もよく調べないと。
どんなかわったことが起こるのだろう。
今から楽しみだ。