表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

第4話

 家での生活は、彼女を徐々に回復させていった。

 一ヶ月もすれば、彼女は故郷に住んでいた頃と変わらないぐらいにまで回復し、積極的に家事をしてくれた。

 俺はと言うと、別の遺跡に挑んでいた。

 完治の秘宝がある俺には、生活費を稼ぐ最も楽な手段が遺跡の攻略だった。秘宝を新しく見つけることができなかったが、遺物は何個か見つかり、生活費に困ることはなかった。

 その遺跡の再奥に辿り着くと、何かを研究していたような部屋で、前と同じように大量のレポートがあった。でも、ひとつだけ前と違ったのは、秘宝を一つ見つけたことだ。

 その秘宝は剣の形をしていて、帰り道に魔物と戦った時に試しに使ってみた。俺に咆哮をしてくる魔物に向かって、一振りしただけで、凄まじい威力の光線が放たれ、魔物を跡形もなく消した。詳しく調べると、それだけじゃなかった。この剣の所有者は、どんなことがあっても傷つけられない加護が付与される。

 とんでもない最終兵器だ。

 こんなものがある遺跡とは何か。俺はそれが気になって、見つけた秘宝は売らずに家に持ち帰った。

 俺は古代語の勉強を始めた。見つけたレポートにその答えが書いてあると思ったからだ。

 古代語の勉強をしつつ、新しい遺跡に潜った。

 その時は思った以上に地上に戻るのに時間がかかってしまった。遺跡の罠に引っかかって、下の階層まで落とされてしまったからだ。

 遺跡にいたのは三日間ぐらいだろう。

 家に帰れば、リーナが急いで駆け寄ってきてくれた。と思ったら、いきなりビンタされた。


「この馬鹿っ! 死んだと思ったじゃないっ!」

「心配してくれたのか?」

「心配したに決まっているでしょう!!」


 彼女は泣いていた。

 本気で心配してくれていたのだろう。嬉しいと同時に、悪いことをしてしまったという気持ちになった。

 涙を流す彼女が俺に体を預けてきた。彼女の身体は震えていて、少しでも安心して欲しくて、しばらく頭を撫で続けた。


「ねぇ、遺跡にはもう行かないで……」

「そんなわけにはいかないって。生活費を稼がないと。今は戦争中だから、どの職業も人を雇う余裕なんて無いし」

「平和な時代になれば、貴方は冒険家をやめるの?」

「誰もが職を選ぶ自由を持てば、俺も冒険家なんてやめて別の職で働くさ」


 魔王がいる限り、平和な時代なんて来るはずがない。

 そう思っていたが、俺が甘かった。

 彼女は俺とは違う考え方だったのだ。

 それは、俺がまた三日間ほど遺跡に篭ってから帰ってきた時のこと。


「リーナ?」


 家の中で彼女の名を呼ぶが、返事はなかった。

 代わりに、テーブルに書き置きがあった。


『平和な時代にするために、魔王を倒してきます』

「……は?」


 彼女は、平和な時代が来るのを待つのではなく、自分が平和な時代にするという考え方だったのだ。

 家から秘宝の剣が無くなっていた。その剣の力を彼女に話したことがある。魔王を倒せると思って、彼女が持って行ったのだろう。

 彼女を追いかけようと思った。でも、その時、ちょうどレポートの解読が終わったところだった。


 レポートの内容は俺に衝撃を与えた。

 簡潔に説明すると、遺跡は強力な兵器を開発するための研究所であり、秘宝や魔物はその研究の成果だった。そして、研究所は最終的に、強力な生体兵器を作り出す研究を始めた。生体兵器を作り出すことに成功はしたが、生体兵器は自我を持ち、暴走。研究所は破壊され、転移装置で、暴走した生体兵器を無理やり遠くの地へと転移させた。その暴走した生体兵器こそ、魔王と呼ばれるものだった。

 魔王は何処からともなく現れたという噂を聞いたことがあるが、その謎が解明された。


 そして、最大の問題は、三大遺跡の再奥には、魔王と同じシリーズの生体兵器が冷凍保存されているという記述だった。これが本当なら、誰かが間違って起動でもしたら、新たな魔王が生まれてしまう可能性がある。もし暴走しなくても、その生体兵器を利用して、世界征服をすることを考える人間だっているだろう。

 どんなことがあっても、それは阻止しないといけない。俺が誰よりも先に三大遺跡の再奥にたどり着いて、生体兵器を壊さなければ。

 ギルドにはこれを報告できない。誰が邪な考えを持つか分からないから。

 リーナを追いたかったが、俺は自分がすべきことを見つけてしまった。彼女ならきっと大丈夫。あの剣を持っていれば、魔王軍など簡単に蹴散らすだろう。

 俺はそれから五年間、ずっと三大遺跡に挑んできた。













「……」


 昔のことを夢見て、思わず起きてしまった。

 まだ夜中だ。隣を見れば、リーナがすやすやと寝ていた。

 こいつがここにいるのはおかしい。俺は一人で寝たはずなのに。

 俺が寝ている時に侵入してきたのか。


「まったく……」


 よだれを垂らす彼女に毛布をかけ直す。気分転換に夜空を見たかったから、俺は部屋を出た。

 外に出れば、空気がひんやりとしており、吐いた息が少し白かった。ちょっとした丘まで歩き、夜空を見る。数多の星が自己主張をしている風景は綺麗だった。


「ごめん、起こしたか」


 俺は、毛布を被って音を立てないように背後から近づいてきていたリーナに話しかけた。どうせ俺をビックリさせようとしていたのだろう。


「バレちゃったか」

「ああ。家から出る音で気づいた。悪いな、寝ていたのに」

「いいのよ、子供の時に何度も魔王軍の夜襲を受けて、ちょっとの物音でも起きるようになっちゃったから」

「そっか、俺と同じだな」


 故郷から逃げた時に、何度も魔王軍が夜に襲ってきた。あんな経験をすれば、そんな体質になってしまうのも無理はなかった。

 彼女は俺の隣に座って、毛布を共有してくれた。

 彼女の体温が冷えた俺の体を温めてくれる。


「綺麗な夜空ね」

「ああ」

「そこは君の方が綺麗だって言うべきじゃない?」

「なんだ、言って欲しかったのか」

「まさか。それを言うぐらいなら、キスして欲しいわ。デコピンじゃなくてね」

 

 まだ根に持っているらしい。

 謝罪の代わりに、俺は毛布の中で彼女を抱き寄せた。彼女も体重を俺に預けてくる。

 しばらく夜空を眺めて、彼女がポツリと呟いた。


「……ほんと平和ね」

「ああ、お前が魔王を倒してくれたおかげだ。よく頑張ったな」

「ねぇ、村の皆のことを覚えている? 私ね、実はーー」

「知ってる。村の皆と戦ったんだろ?」

「なんだ、知ってたんだ……皆、洗脳されてた」

「辛かったんだな」

「うん」


 今にも泣きそうな彼女の頭を撫でる。

 女勇者が洗脳された同郷の者たちを泣きながら倒したというのは、有名な話だ。その話を初めて聞いた時、俺も胸が苦しくなった。でも、それ以上に彼女は辛かっただろう。


「あとね……魔王はこの村の遺跡のことを知ってた」


 彼女は俺が気になっていたことを教えてくれた。

 やっぱり、遺跡のレポートに書いてあったことは正しかったか。


「私の剣を見て、どこで手に入れたのかしつこく聞いてきた。この村のことを言ったら、村がどこにあるかまで聞いてきたわ」

「その話し合いの最中に、お前は剣の光線をぶっ放したらしいな」

「だって面倒だったから。というか、さんざん皆を殺しておきながら、なんで話を聞かなくちゃいけないのよ」

「気持ちはわかるけど、そのせいで王族たちに、不意打ちの勇者って呼ばれているらしいじゃないか」

「なんでそんなことまで知っているのよ……」

「知り合いに噂好きの奴がいるんだよ」

「まさか、そいつは女じゃないでしょうね?」

「昼間から酒飲んでいる野郎だよ」

「なら良し」


 俺の答えに満足したのか、彼女は抱きついてきた。

 本当に女性らしく成長したと思う。五年前に比べると色々な所が大きくなって。


「ねぇ、アレル」

「なんだ?」

「平和な時代にしたよ? もう冒険家はやめるよね?」

「……」


 不安げな表情で、彼女は俺を見てきた。

 俺だって好きで遺跡に潜っているわけじゃない。でも、生体兵器を壊さないといけない。

 それに、秘宝だって、邪な考えを持った人間が手に入れたら危険な代物ばかりだ。遺跡で手に入れた秘宝は全て売らずに保管している。今日、家に帰って来た時に放り投げた物だって、売れなかった遺物ではなく売らなかった秘宝だ。

 だから、俺は冒険家をやめるわけにはいかない。たとえ平和な時代になったとしても、それがすぐに終わらないようにするには、遺跡に潜る必要がある。


「冒険家はやめることができない」

「どうして?」

「……」

「お願い、話して。何か理由があるんでしょ。あなたが何か抱えていることぐらい、私はお見通しなんだから」


 できれば話したくなかった。魔王を倒したばかりの彼女に、これ以上重荷を背負わせたくなかった。

 でも、彼女の綺麗な瞳には、強い意志が込められて。

 話さない限り、彼女は諦めずに聞いてくるだろう。

 俺はその瞳に屈するように遺跡の秘密を話してしまった。

 彼女は何も言わずに俺の話を聞いていた。そして、俺が全部話し終わった後に、その口を開いた。


「そう……あなたも平和のために戦っていたのね。でも、私と違って、誰かから賞賛を受けるわけじゃない。誰も貴方の努力を知らずに平和な時代を生きていく……」

「別に俺は褒美が欲しくてやってるわけじゃーー」

「だけど、私は知ってる。だから……」


 俺の言葉を遮るように彼女は囁いて、俺の右手を優しく握ってきた。

 そして、そのまま俺の右手に自らの胸を押し当てて来た。


「な、何してっ!?」

「だから、アレルに私をあげる。平和を守ってくる報酬にしては不十分かもしれないけど」


 元々近かった彼女の顔がさらに近づいてくる。


「今度は、デコピンしちゃ嫌よ?」


 くすりと笑った彼女の唇。

 その唇と触れそうになる直前で、俺はーー


「……待ってくれ、リーナ」


 彼女を止めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ