第3話
誓いを胸に、俺は金を稼ぐ方法を本気で考えた。
そして、ふと思い出したのは、この村が遺跡に囲まれていることだった。
これだと思った。遺跡に潜って遺物を持って帰れば、多少なりとも金にはなる。
冒険家になる。どこにも雇ってもらえなかった俺の最終手段だった。
初めて遺跡に潜った時は、怖くてすぐに逃げ帰った。
何度も挑戦した。幸運にも、魔王軍との戦争で、俺はある程度魔法を覚えていたから、遺跡の魔物と戦うことができた。何度も死にかけたが、その度にリーナへの誓いを思い出して、彼女を残して死ねないと奮起して困難を乗り越えた。
俺は遺跡で手に入れたものを売った。パン一つ分の金にしかならなかったが、雇ってもらってもまともに給料が貰えなかったことを考えたら、充分な成果だった。
「リーナ、パンを買ってきたよ。ほら、焼きたてだ」
「……」
温かいパンを買って、リーナに持ってきても無反応だった。
このままじゃダメだ。彼女の心をどうにかしないといけない。
この環境がいけない。汚い路地裏での生活じゃ、彼女の心だって良くならないのは当然だ。
俺はひたすら遺跡を潜った。家賃を払えるまで稼げば、部屋を借りることができると思ったから。
遺跡の再奥を目指していたわけじゃない。奥を目指しても、自分の力ではすぐに死んでしまうのは分かっていた。俺はただ金になるものが見つかれば良かった。
そして、ある時、幸運なことが起きた。
魔物の一撃を食らって、吹き飛ばされた時だ。壁にぶつかると思ったら、その壁は魔法で作られた幻覚であり、俺は偶然にも隠し部屋に入ったのだ。
隠し部屋には、中央に光り輝くネックレスが一つだけ置かれていた。
そんな部屋は今まで見たことがなく、金になると思い、俺は咄嗟にネックレスを取った。
その瞬間、ネックレスは光り輝き、俺の身体の傷が癒えた。
その後、追いかけてきた魔物と戦ったが、傷つけられてもすぐに傷は治り、俺は魔物を圧倒した。
特別な力を持った遺物、俺はこれを秘宝と呼ぶことにした。
完治の加護を得た俺は、死ぬ恐れが無くなったため、遺跡の奥へと行くことにした。奥に行けば行くほど、まだ誰も手をつけていない財宝が手に入ると思ったから。
しかし、再奥には何も無かった。高価な遺物は道中で何個か見つけたが、再奥はまるで研究室のようだった。壊れて使えないであろう機材が何個かあって、研究のレポートと思われる紙が床に散らばっていた。レポートは古代語で書かれていて、俺には読むことができなかったが、一応、全部拾って持って帰った。
拾った遺物を売って得た金は予想よりもかなり多くて、部屋を借りるだけの予定だったけど、俺は小さな家を買った。
「リーナ、ここが今日から俺たちの家だ」
「……」
リーナと二人で住むには充分な大きさだった。リーナの手を取って、家の中に入る。
晩御飯を作って、二人で食べた。リーナは相変わらず、食事も自ら取ろうとはしなくて、口に運んでやらないと食べてくれなかった。
路地裏から家へと環境が変わって、リーナの心が少しでも回復するかと期待したけど、あまり変化は見られないように感じた。
でも、それは俺の勘違いだった。
家を買って初めての夜、路地裏生活で汚れて身体を洗おうと、風呂場に入った時。
彼女の身体を洗うためにも、彼女の服を脱がして裸にして。
流石に俺も裸だとまずい気がしたので俺は服を着たまま、風呂場に入った。
湯の温度を調整して桶に湯を溜めて、彼女の身体を洗おうとした時、
「で…て……」
「え?」
か細いけど、確かに彼女は呟いた。
驚いて固まっている俺に、彼女はさらに話しかけてくる。
「出て行って……」
「で、でも、身体を洗わないと」
「出て行って、裸見られたくない……」
「リーナ……!」
「早く出て行って! 身体は自分で洗うから!!」
「ご、ごめん!」
すぐに風呂場から出た。
リーナに怒られてしまった。
でも、この村に来て初めて、彼女が自分から行動してくれた。
それが嬉しくて、思わず涙が出てしまった。一度涙が出ると、もう止まらなくて。
脱衣所で座り込んで、彼女が風呂場から出てくるまで俺は泣いてしまった。
「なんでここにいる、の、よ……」
俺が無様に泣いているのを見て、彼女は驚いたような顔をして言葉を止めた。
俺は何も考えられず、彼女に抱きついた。
「リーナ……!」
「……」
「よかった……本当に、よかった……!」
「…………今まで、ごめん…………それから……ありがとう」
彼女のその一言で報われた気がした。
そのまましばらく俺は、戻ってきてくれた彼女を感じながら泣いた。




