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朝食の準備をしている母さんはご機嫌なようで鼻歌が聞こえてくる。
昨日はログアウトしてからすぐに眠気が来たので寝てしまった。
2人は遅くまで話していたのか那月はまだ起きてない。
起こそうとしたら母さんに止められたんだよね。
「母さん機嫌が良さそうだね」
「えぇ、スノウちゃんやプリメラちゃんと意気投合しちゃってね。女王様のドレスとかコートを作ろうって話をしてたのよ」
「そうなんだ?」
「中脚?腕?どっちでも良いけど、それも考慮してどんなドレスにするか盛り上がったのよね」
「でも女王様がドレス着る機会ってあるのかな?」
「普段着ても違和感がなくて威厳を感じる恰好よね。でも動きは邪魔しないようなデザインにしないと…」
そう言って考えながらも手を動かしている。
朝食の準備が終わると母さんは那月を起こしに行った。
「おはよ~…」
まだ眠そうに目を擦りながら那月は挨拶をする。
「おはよう」
「早く顔洗ってらっしゃい」
「ふぁ~い」
母さんに言われると、欠伸をしながら洗面所の方に歩いて行った。
しばらくすると部屋で着替えも済ませてきたみたいで戻ってきた。
「朝ご飯~」
那月はテーブルの上に準備された朝食を見て、嬉しそうに自分の席に着く。
揃ったので手を合わせて挨拶をする。
「「「いただきます」」」
朝食には珍しくステーキが出ていた。
那月はそれを見て嬉しそうにしてたんだろう。
ちなみに私と母さんは半分ずつで那月は1枚だ。
そこまで大きくないし多分1枚100gぐらいかな?
サラダやスープもあるから私は半分で十分だ。
「やっぱり牛肉はこっちの方が美味しいわね」
あぁ、朝からステーキなのはゲームで食べたお肉が頭に残ってたからかな。
そう言われるとこっちの方が美味しい気がする。
ステーキソースをかけてるし味付けが違うのもあると思うけどね。
「向こうではやっぱり豚が美味しかったかなー」
「鶏の方が好みだったわ。雪菜も食べれば良かったのに」
那月は豚で母さんは鶏が気に入ったみたいだ。
食べたのは夕食じゃなくてメギーアー女王様の所でやったバーベキューの時かな。
「やりたい事があるときに飛べなくなると困るし、それ以上にぽっこりお腹を見られるのはイヤだったんだよ」
「そんなに酷くなるの?」
「ホントにお腹だけ膨らむからマンガみたいだよ」
「へぇ~、見てみたいわね」
「イヤだよ」
流石にあの状態を見られるのは抵抗がある。
飛べないだけじゃ無くてちょっと動くのもしんどいしね。
だからゲームでお肉を食べるのは何もする気がないときぐらいかな。
現実だといきなりそんな事にはならないから安心だよね。
モグモグと食べ進めていき、私はご飯を食べ終える。
那月はお代わりをしてるからまたちょっとかかるかな。
「お姉ちゃん、夜は何してたの?」
食事の合間に気になっていたのか那月は昨日の事を聞いてくる。
私は分かれてからやってた事を話していく。
と言っても道を作った事とシュティと2人でルガードさんを案内したぐらいだ。
那月としてはポイズンスパイダーと戦闘になった事が気になるみたい。
「聞いてる感じ遠距離攻撃型っぽいから、戦ってみたい気はするけど微妙かなー」
「そうなの?」
「遠距離から弱らせて来る相手だと剣じゃ戦いにくいからね」
「魔法使えばいいじゃない。火属性の魔法使えるんでしょ?」
那月の言葉に母さんが思った事を言う。
私も母さんと同じ事を思ったから那月の様子を見てみるとちょっと渋い顔をしている。
「それも有りだとは思うんだけど…。森で火を使うと、どうなるかわからない気がするんだよねぇ…」
「火事になるって事?」
「変なとこでリアルだからその可能性が否定できない気がするんだよね。私もボス戦とかでは使ってたけど、アレは結界で遮断されてるからみんな気にしないんだよ」
「そうなんだ。気にしてなかったけど結界ってそんな効果もあったんだね」
「そだねー。まぁ、森って入手物は良いけど不人気エリアなんだよ。薄暗いしジメジメしてたりするから嫌がる人多いし。虫とか植物系の敵は見た目もアレだしね。でも火事になったら絶対まずいと思うんだよね」
那月の話を聞いて母さんも私とシュティが行くと言ったボスの事を思い出したのか顔をしかめる。
けど、続く言葉を聞いて頷いていた。
「それより那月の方はどうだったの?」
「そうそう、聞いてよ!女王様の巣を北に向かって歩いて辿り着いたのは。何と!」
そう一度言葉を切り溜める。
「荒地になってましたー!」
「それは知ってるよ」「写真であったわね」
「アレ、写真…?あっ……」
以前スノウさんが風景を撮ってたことで、周りの風景がわかると言う事に気づいた。
ルガードさんに見せたのは街のある南側と草原の広がる南東、それに東側だ。
その後で自分達が確認のために北や西の方も写真を撮って確認していた。
だから北に進むと徐々に木々がなくなり荒地になるのはわかってた。
那月はそれを忘れてたみたいで、言われて思いだしたようだ。
「そういえばそんなのあったね…。結構岩場もあって敵の種類は多かったよ。お母さんが喜びそうなのは蜥蜴とか蛇かな?」
「あー、バッグとか財布ね」
「まるっと手に入れば数メートルのもいたけどね」
「それは加工が大変そうね」
「後は岩に擬態してる亀とか…、地中からワームが出てきたかな」
「ワームってミミズだったかしら?」
「うん。ただ荒地で一番大きいのがワームだったよ。10メートルぐらいあったんじゃないかな…」
何か思い出したのか疲れたようにそう言う。
「何かあったの?」
「地中から出てきたと思ったら追い回されてね。蜥蜴とかと一緒に走って逃げたんだよ…。木々が増えてくると、ワームは来ないみたいで引き返していったけどね…」
「ワームは蜥蜴も食べるのかな」
「食べるんじゃないかな。亀は食べられてたよ」
「そうなんだ」
ワームはボス的な存在なのかな?
「あ、涸れた川の跡もあったよ。人がいた痕跡もあったってガイさんが言ってたけど、今は住める環境じゃ無さそうだって」
荒地って事は土壌も痩せてて作物は育てにくいんだろう。
もし拠点を作るなら水の確保からかな?
正直なところ森を越えた先に転移可能場所があれば、無理に森に来る人はいなくなると思うんだよね。
山の方に開拓も進むと何か見つかるんじゃないかな。
鉱石とか?
私としてはどっちでも良いかもしれない。
話しながらも那月は食事を終えてお茶を飲んでいる。
普段ログインしてる時間まではまだあるし、私は端末で調べ物をする。
端末から顔を上げると母さんと那月が片付けをしている。
それを見ていると、ある事が思いだされる。
私は再び端末に視線を落とす。
チラッと時計を見るといつもの時間になっていた。
普段は早くやろうと声をかけてくるのにと思って那月の方を見る。
「お姉ちゃん難しい顔してる。考え事?」
ゲームの事より私の心配をしてくれてるようだった。
「何でもないよ。ちょっと調べ物があるから那月はゲームでもしてきたら?」
私がそう言うと那月は考える素振りを見せて母さんの方を見た。
「雪菜、やっぱり昨日の事気にしてる?」
母さんにそう言われて思い出されるのは女王様が言った事だ。
-働かざる者食うべからず-
私は事故に遭って退院してから、ずっと迷惑ばかりかけているのだ。
このままじゃダメだという漠然とした思いはあった。
だから、女王様の言葉を聞いたときに何かやらないとって思ってしまった。
2人にはそれがわかってたのだろう。
「今の時代調べれば色々見つかるかもしれないけど、まずアンタが相談するべき相手がいるでしょう?」
「母さん…?」
「私じゃないわよ。アンタの前では巫山戯てる私達に合わせてくれてたけど、きちんと考えてくれてるみたいよ?社長さんは」
「ぁ…」
そう言われて度々様子を見に来てくれていた社長のことを思い出す。
確かにいつも巫山戯ていたけど、当然ながら会社で会ったときはそんな態度は取っていない。
会社での印象は真面目で私達社員に対しても丁寧な人だった。
きっと私が自棄になってた時にも会っていて状態を知っていたから気を遣ってくれたんだろう。
「相談してみる…」
「そうしなさい。それがうまくいかなくても、私の仕事の手伝いをして貰うわよ?だからやる事はあるから安心しなさい」
そう言われて少し楽になった気がした。
携帯を取り出して社長に仕事の事で相談がしたいとメールを送る。
返事はすぐに着た。
社内で話しあっていたが、まだ途中らしく少し待ってて欲しいと書かれていた。
ちなみに途中なのは連休に入ってしまったからだそうだ。
そのメールに返事を返すと、さっきまであった焦りはなくなっていた。
一応携帯で調べていたサイトのうち幾つかはブックマークをしておいた。
時計を見るといつもよりは遅い時間だけど向こうではお昼ぐらいかな。
「今からゲームやる?」
「うん!」
私がそう聞くと那月は嬉しそうに返事をする。
「私は買い物行ってくるわ。お昼食べたい物はある?」
「お肉!」
「さっき食べたでしょうが…。雪菜は何かある?」
んー、そういえば仕事をしてた頃は時々食べてたんだけど最近食べてなかった物が…。
「ハンバーガーはダメかな…?」
「良いわよ。どこのお店の何がいいかしら?」
あっさりと許可が下りたからちょっと驚いてしまう。
母さんはそれを気にせずに幾つかあるハンバーガー店のどこで買うか聞いてくる。
那月と一緒にちょっといいお値段はするけど人気のお店にした。
食べたい物を選ぶと母さんはそれをメモして出掛ける準備に部屋へ戻った。
私の部屋に移動してゲームにログインするためにベッドに横になって機器を付けていった。




