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私達はPTチャットでガイさんに現状を伝えて他のメンバーを待っていた。
ガードとの訓練中に使っている装置はメギーアー女王様が起動させているから使えないという。
こればかりはガード達では起動させれないというのだから仕方ないかな。
そう思っていると女王様が以前引き籠もりだという長女にケーキを届けるために開けていた地下への扉が開いた。
「ハハヨ ニンゲンノ タベモノ ワケテ」
「久しぶりに顔を見せたと思えば言う事はそれか…」
「ケハイ シタ ワケテ」
「娘よ。妾は妖精達と話して学んだことがある」
「ソレハ ナニ?」
「働かざる者食うべからず。つまり欲しければ働くのじゃ」
そうメギーアー女王様が言った言葉は私にも突き刺さった。
思わずシキ姉さんの手の上で四つん這いになる。
「ワカッタ ナニ スレバ?」
「うむ…。おぉ、闘技場のフィールドを展開せよ。それぐらい出来よう?」
「デキル マカセテ」
「ユキよ。特殊フィールド内で戦える…って何故崩れ落ちておる?」
「何でもないんです…何でも……」
「何でもないって態度ではないぞ!?妖精達の言っていたことか?ユキは依頼で妾の所に来たり働いておるではないか」
うん、ゲーム内では色々してた気がする。
魔道具作ったりもしてるしね。
けど私現実だと考えなくても働いてないんだよ…。
シキ姉さんは私をルナに預けて女王様の所へ向かった。
聞こえてくるのは服やらアクセサリーの話…?
うーん、話題を変えてくれたのか、来るとき言ってた事を話してるのか。
多分どっちもかな。
働くことに関してはまた後で考えるとして今は魔法見直そうかな。
ちょっとルナやシュティに相談してみよう。
・
・・
・・・
連絡してから準備をしてきたみたいで、ガイさん達は普段のラフな恰好ではなくきちんとした装備で来ていた。
「挑戦してえとは言ったけど早くねえか?」
「ごめんなさい」
「いや、責めるつもりはねえんだが…。こうなった流れも聞いてるからな」
ラギさんはウインドウで何かを操作しながら私に話しかけてくれていた。
今私達は闘技場の内部にある部屋の一室に案内されていた。
ここにいるのは戦闘に参加するチームのメンバーだけでシキ姉さんは闘技場の観客席に多分いるはず。
急にメギーアー女王様に挑戦することになったからか、みんな忙しそうにしている。
合流してから特殊フィールドで戦えることを伝えると、皆もちょっと気が楽になったようだ。
私のせいだけどガイさんにはお礼を言われた。
他のみんなも責めたりはしないでくれた。
逆にやる気を見せるメンバーの方が多かった。
「私は身体のこともあり痛みがほぼ無いのでユキ様を守るようにしますわ」
「無理しないでね。今回は死んで戻されるんじゃなくてフィールドから追い出されるだけだから」
「わかっていますわ。ユキ様、頑張りましょうね」
「うん、頑張ろう」
スノウさんに言われて返事を返す。
周りを見ると他の皆もそれぞれ話をしているようだ。
「訓練の時に見られてる手は使えないだろうな…」
「ダメだろうな…。最悪プリメラから渡されたのイヤイヤでも使うしかねえか…」
ラギさんはリグさんの所へ移動して一緒に使えそうな物を考えてるようだった。
手には取りだしたアイテムらしい物を持ち、足下にもそれらは広がっている。
それが何かわからないけど危ない物じゃないんだよね…?
一方で遠距離の魔法組はと言うと。
「チームに入ってから1PTで何かする事はあったけど-、2PTで戦ったりするのは初めてですねー」
「連携…出来るか不安……」
「大丈夫よ。遺跡でやったみたいにするだけでも威力が上がるし効果はあるわよ」
光葉さん、闇菜さん、プリメラさんは魔法をどうするか話しているようだ。
光葉さんは光属性がメインで魔法を組んでいるようだった。
闇菜さんが土を会ったときから使ってるのは影属性をとりたいからだそうだ。
闇属性はずっと使っていて熟練度は条件を満たしているんだとか。
遺跡でと言えばプリメラさんの魔法を利用して闇菜さんの魔法の威力を上げてたっけ。
ガイさん、ルナ、シュティ、アエローちゃんは近接組で集まってた。
ボルグさんは一緒にいて話は聞いてるみたいだけど何故か筋トレをしている。
鎧を着込んでるのにあんな事してて体力は大丈夫なのか心配になるけど、みんなスルーしてるから私も気にしない事にした。
「近接は俺達が担当することになる。お互い隠している手はあるだろうから言える範囲で情報交換しようか」
「はい!」「そうですね」「私は隠してる手段とかまだないですけどね」
ガイさんの言葉に3人が返事をして情報を交換していた。
ガイさんやボルグさんの防具が替わっているのも気になるけど、それよりもアエローちゃんの恰好に驚いた。
武器として選んだと言っていた手甲はつけている。
しかし腕が隠れる服装をしていたのに今はノースリーブの服を着ていた。
その為腕が翼になっていると言うのを初めて見たのだ。
「ガイさん達の装備もだけどアエローも思い切って変えたねぇ」
「やっぱり羽で風を受けた方が方向転換とかスムーズだったんだよねー」
「その恰好も似合いますよ」
「あはは、ありがとう」
ルナも私と同じようなことを考えたみたいでアエローちゃんに声をかけていた。
近接組は自分たちの得意とする動きの再確認を始めた。
やっぱり一緒に戦う以上ある程度はお互いの動きを知っておいた方が良いのかな。
色々考えてる皆を見てもう一度組んだ魔法を確認してスノウさんに相談をしてみる事にした。
・
・・
・・・
「そろそろPT組み直すか?」
「どういう風に分けましょう」
「ん~、単純に遠距離と近距離で分かれるというのは?」
チームの役員のようになってるラギさんとシュティが一応のトップである私に聞いてくれたので意見を出してみる。
「近接組はガイとボルグ、ルナとシュティナにアエローの5人か?」
「そうですね。そのままだと5人と7人になりますか」
「なら俺が近接PTに入って回復支援でもするかね」
近接PTの方にラギさんが回復役として入って貰うことに。
「えっと、お願いします。遠距離は私とプリメラさん、スノウさんとリグさん、光葉さんと闇菜さんの6人ですね」
「だな」
今組んでいたPTを全員一度解散して新たに今決めたメンバーで組み直す。
遠距離PTの方は私がリーダーでメンバーを誘っていく。
『遠距離組よろしくお願いします』
『よろしくお願いしますわ』『よろしくね』『よろしく』『よろしくですー』『…よろしく』
『正直俺が一番役に立てるか微妙なところなんだよな…』
『リグさん、さっきラギさんと確認してたのは何ですか?』
『アレはとりあえず作ってみた蜂避けやら催涙液入りの容器やらだな…。流石に殺虫剤みたいなのは用意できなかった。燻煙系のも作ってはみたけど味方にも影響あるからなしだな』
『いや、殺虫剤とか物騒なのは用意しないでくださいよ!』
『あっても効くかわからないけどな』
『それにしてもドキドキしますねー』
光葉さんがそう言うと私達は頷いた。
「おし、とりあえずわかる範囲で女王様の情報を共有しておくか」
「私が挑戦した中級は速度だけで当てれずにタイムアップだったわ。アレは移動に魔法使ってるわよ。まったく攻撃が当たらないんだもの…」
「ルガードさんがメギーアー女王様は魔族だと言っていました。魔族は魔力を生み出す器官を持つ魔法のスペシャリストだそうですよ」
「私が挑戦したときは風の魔法で攻撃してきたのかな…。使ってきた攻撃方法は2つで、そのうちの1つは多分風の塊を飛ばしてきてたんだと思う。もう1つは風の刃だと思うけど、こっちはかなり威力が高かったんじゃないかな」
「お姉ちゃんの氷柱は風の塊が当たっても砕けなかったけど、刃の時は切れちゃってたよね」
「刃の方は威力がヤバそうだな…。ぶっちゃけ、わかってるのはそれぐらいだよな」
ラギさんがそう言うと全員が頷く。
「まぁ、何でここからは予想でもしていくか。予想もしてなくて驚いてやられましたじゃ情けねえしな」
「多分竜巻のような風の渦を利用した攻撃はありそうよね。私でも思いつくことだし」
「風の鎧みたいな防御系の能力もありそうだよね」
「あー、そんなのあったら本気で俺役に立たなくなりそうだな…」
ルナの言った風の防御は弓を担いでいるリグさんとは相性が悪いみたいだ。
気になってルナに聞くと風を周りに展開して飛んできた物を逸らすみたいな感じだそうだ。
「思うんだが魔法だけとは限らないよな?」
ガイさんにそう言われるまで私は女王様の攻撃手段は魔法だけだと思ってた。
「確かにそうですね。スレイブは色々な武器を扱っていましたし、スピアハニービーは名前の通り槍を持ってました」
「一番可能性が高そうなのは槍かも。プリンセスハニービーは直接教わってたからその子供も槍を持ってるんじゃないかしら」
「もし武器を使うとなると苦戦するのは私達近接組かな?相手が槍だとリーチの差が厄介だなぁ…」
武器の可能性をシュティが肯定してプリメラさんが予想を立てている。
それを聞いてルナがちょっと渋い顔をして言う。
「いや、そうとも限らねえ。投げれる物があれば投げるだろ?」
それを聞いてラギさんが自分の考えを言う。
武器を投げる事なんてあるのかな…?
気になったので聞いてみると。
「あるだろうな。厄介なのは速いから武器投げてそのまま回収される気がすることか?」
ガイさんの肯定に近接組は頷いてたり唸って首を捻ったりしている。
反応を見る感じ人によるのかな。
でも可能性があるなら考えておいた方が良いかも。
遠距離組がもし狙われたら一撃でやられちゃう可能性があるもんね。
「後何かあるとしたら毒か?」
「アナフィラキシーショックがあるかどうかだよな」
「そもそも現実にある毒じゃない可能性もあるよね」
「それもそうか…」
私は大きさ的に当たらないだろうし大丈夫な気がするけど。
「お姉ちゃんは特に気をつけてよ?油断して当たっちゃったら身体が小さい分、少量でも重症化の可能性があるんだから」
そっかそう言うリスクもあるんだね…。
ルナに注意されて頷きわかったと伝えた。
「私は身体が雪ですし毒は大丈夫だと思いますわ」
スノウさんが手を上げてそう言う。
「あのー。毒がどんな物かわかりませんし身体だけでなく魔力等に影響がある場合だと、スノウさんも危険じゃないでしょうかー?」
そう光葉さんに言われてスノウさんはしょんぼりとしてしまう。
でも情報がない現状は注意しすぎるくらいが丁度良いんじゃないかと思う。
「現状は情報が殆どないから戦闘中でもわかったことはなるべく早く情報を共有しよう」
私がそう言うと皆頷いてくれた。
「毒とか当たらないのがベストだろうが…、今後のために受けておくのも皆のためかもしれないな」
「わざと受けて確認しようとしないでよ?そういうのは検証班が何とかしてくれるわよ」
ガイさんは真面目そうな顔でそんな風に言っていたが、プリメラさんに注意されて苦笑しながらも頷いていた。
「そういやユキさん。地面を凍らせたりってのはできそうか?」
ラギさんにそう言われて少し考える。
足下を凍らせるなら妨害になるかな?
それなら弱体で組めばいけるんじゃないかと思うけど…。
形状は…、氷が張るって言うしイメージ的には何だろう?
膜で覆っていく感じかなぁ…。
[氷属性魔法][土属性魔法][膜][氷][弱体]
とりあえずこんな感じで試してみよう。
「《アイスフィールド》」
使ってみると範囲は狭くしていたけど近くにいたスノウさんとラギさんの靴も凍っていた。
「うお、結構頑丈に凍ってるな。抜けねえぞ…」
ラギさんは足を上げようとしてビクともしなかったのか、しゃがみ込んでナイフで靴の周りを削っている。
「これなら私達が凍らないように移動できる道があった方が良いと思いますわ」
「だな。凍らせた後は滑るだろうが、その対策はユキさんとアエロー以外には渡してあるから大丈夫だろ」
「あぁ!来るときに渡されたアレですね。靴につける滑り止めでしたか」
「アエローには種族的にいらないと断られた。ユキさんの分がないのは飛んでるのもあるがサイズ的に用意できなかった、すまん」
「いえ、大丈夫ですよ。あ、今度みんなと同じサイズので良いので1つ用意して貰えませんか?」
「わかった。けど何に使うんだ?」
「秘密です。でも女王様が飛んでたら意味ないんじゃ?」
「ハンデで頼んでみるぐらいだなー。もしokを貰えたら最初にスノウさんが氷の足場を作って、俺達はそれを利用。ユキさんが地面を凍らせてくれたら挑む感じで良いか。こっちは対策がある分ちょっとは有利になると良いんだけどな」
みんな私達がしていることを見ていたようでこちらを注目していた。
話も聞いていたみたいで、先に滑り止めをつけている人がいた。
ウインドウの時計を見ると思ったよりも時間が経っていたので、そろそろ女王様の所へ向かった方が良いかな。
みんなの方を向いて口を開く。
「えっと、こんな急になってごめんなさい。でもせっかくの機会ですし胸を借りて頑張りましょう」
私がそう言うとみんなは頷いてくれる。
「それじゃ、行こう!」
「「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」」
私達はワイワイと話しながら部屋を出てメギーアー女王様の待つ場所へと向かっていく。




