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誤字等の修正いつもありがとうございます。
休憩を終えた私達はのんびりと移動を開始した。
ここからはラギさんしか行った事がある人がいなかったので前をルナ後ろにシュティが居る。
ルナの後ろに私と闇菜さんでその後ろにラギさんと光葉さんがいる。
私と光葉さんは魔法を使った盾役だね。
ルナが止まった事で私達も足を止める。
前方に見えるのは…。
『牛……?』
見た目は牛にしか見えないけどその大きさが違った。
高さだけで見てもルナ達の倍近いのだ。
そんなのが森の木々の間をゆっくりと歩いている。
『ラギさんアレなんですか!?』
『牛だろ?』
ラギさんの方を見ると目を合わせないようにか、横を向いていた。
『みろ。右だ』
そう言われてラギさんの見ている方を見る。
そこには負けず劣らず大きい豚がいた。
しかし単純に大きくなっている牛と違い横にデカい。
無理矢理引っ張って伸ばしたみたいに横にデカいのだ。
横幅が5メートル以上あるだろうか。
木々に挟まって身動きが取れなくなっている。
『デブいね』
『あの垂れたお腹はみっともないですね』
ルナとシュティは辛辣だった。
『あー、豚と牛の中間地点。上からも来たぞ』
そう言われて中間地点を見ると枝が折れる音がして鶏が落ちてきた。
羽をばたつかせているがやっぱり大きい鶏だ。
ズドンと大きな音をたてておしりから落ちたがダメージは無さそうな感じかな。
牛と同じように大きく脚から鶏冠まで2メートルぐらいはあるだろうか。
鶏は落ちてきてすぐに木々を蹴ってまた上に登っていった。
『鶏が三角飛びしてるよ!?』
『あの鶏何食べてるんですかね』
『以前木の実を咥えてる所が確認されてたか?牛はジャンプしてボディプレスをしてくるぞ。ちなみに豚は横飛びで攻撃を回避してくる』
『豚さん木に挟まってるようですけどー?』
『アレはどうなるんだろうな…。ボーナスの可能性もあるか?』
『美味しい……?』
『美味いが倒す苦労が取れる食材の量に見合わないって不人気だ』
みんなの質問にラギさんが返事をしている。
チームに入る前から指揮をしていたみたいだったから情報を調べたりはラギさんがやってたんだと思う。
『ラギさん達は戦った事あるんですか?』
『一度だけだな。3種類ともHPがボス並に多くて面倒なんだよ…』
そう言われて鑑定で名前を見ていく。
牛はオフェンシブホルスタインで豚がディフェンシブイベリコとなっていた。
何故か品種名だった。
どこかいい加減さが漂うこの名前に少し可哀想に思えた。
『鶏の名前は何だったんですか?』
『サプライズシャモだったはずだ。ちなみに木の上から奇襲するからサプライズだそうだぞ』
『そんなサプライズ要らない!』
『とりあえず戦ってみるか?』
ラギさんがそう言うと各々が頷く。
私はまだ狩猟はセットしないでおく。
『行くぞー』
ラギさんはそう言うと振りかぶって投げた。
投げたのはナイフだったようで牛に当たり刺さると思われた。
しかし予想に反してナイフは弾かれ地面に転がった。
『『『えぇ~!?』』』
ルナと光葉さんだけじゃなくてシュティも驚いていた。
『弾かれた…何故……?』
『あの牛皮は投げナイフ程度じゃ刃が通らなくてな…。脂肪か筋肉、どっちかわからねえけど衝撃も吸収されてるんだよ…』
ラギさんが肩を落としてそんな事を言う。
ここに来る前と言いあまり戦力になれてないと感じたのだろう。
『とりあえず散開するぞー』
気を落としたままそんな事を言って走り出すラギさん。
それを見た私達も習うように移動し始める。
次の瞬間ヘッドダイブするように私達が居たところへ牛が突っこんできた。
急だったためキャーキャーと逃げ回る私達。
振り返ると牛がしゃがんで力を溜めているようだった。
『あ、やべえ。牛が跳ぶぞー!』
ラギさんがそう言った次の瞬間牛の姿が消えた。
跳び上がったのだ。
あっという間に落下を始めてルナとシュティが居たところ目掛けて落ちてくる。
「《沈降せよ》」
焦ったような闇菜さんの声がして2人の足下に闇が広がる。
そしてオフェンシブホルスタインが降ってきた。
落ちてきた衝撃でラギさんと闇菜さんはふらつき、光葉さんは転んでしまっている。
これが以前言ってたストンプの効果だね。
それよりも…。
『ルナ!シュティ!』
『何とか無事ー』
『闇菜さんありがとうございます』
PTチャットで二人の返事が返ってきて少し安心した。
どうやって助かったんだろうか。
その時牛がビクリとして立ち上がる。
そのお腹には剣が刺さっていた。
地面から生えているように見える剣だけどよく見ると穴になってるところから突き出されていた。
それに腹を立てたのか、牛は上下に動いてお腹で押しつぶそうとしているようだった。
『上下運動…激しすぎる……』
『闇菜何を考えたのー!?』
ラギさんは2人のやり取りを無視するように切り替える。
『俺達も攻撃するぞ』
『はい』『はい…』『はいー』
私と闇菜さんは魔法を唱えていく。
光葉さんは防御魔法の準備をしているようだった。
ラギさんは…。
沢山の入れ物をとりだしていた。
『どれかが効けば儲けもんだな』
そう言うと走って近づいていき投げつけていく。
ぶつけられた内容物はカラフルだった。
そして掛かるとヤバそうな色の煙?が上がっている。
『お、毒が入ったか』
治癒する人が毒物まいてたんだね…。
私は迷宮で使ったドリルやチェーンソーを使っていく。
魔法の攻撃を受けるとオフェンシブホルスタインは起き上がってこちらを向いた。
その隙をシュティとルナは見逃さず後ろ足の1本を2人で攻撃していく。
それにより倒れ込んだ。
そこからはラギさんが薬物を口に入れたり闇菜さんが魔法で拘束していく。
ルナとシュティ、私の攻撃もあってHPはどんどん削れていき何とか倒す事ができた。
そしてドロップしたアイテムは…。
・毒物汚染された牛肉
複数の毒物を大量に摂取したために汚染された肉。
食用には向かない。
『やべぇもんができたな』
そう言ったラギさんは4人に睨まれ両手を上げて素直に謝った。
倒した事で気が抜けていたのだろう。
上から降ってきている敵に気づくのが遅れた。
「《ライトウォール》ー!」
光葉さんの壁魔法が一瞬それを止めるが次の瞬間にはパリンと綺麗な音を立て割れていく。
その一瞬でも動き出すには十分だった。
反応しきれなかったのか固まっていた闇菜さんと魔法を唱えて無防備になった光葉さんはラギさんが抱えていた。
ちなみに私はシュティが掴んで移動してくれていた。
『すまん、近くにいたの忘れてたわ』
そう言うラギさんはちょっと余裕が無さそうな感じだ。
ルナとシュティも回復する前だったのでHPが減ったままだ。
転かして拘束してもその巨体が少し動くだけでもこちらに被害が出る事があった。
どうなるかわからないけど覚悟を決めて試してみる事にする。
狩猟をセットする。
胡散臭い人から聞いてからずっと考えていたのがある。
拘束用の魔法だ。
その組み合わせは…。
[影魔法][氷属性魔法][土属性魔法][鎖][氷][拘束]
「《チェーンバインド》!」
木々に覆われた森には影が多い。
その影から一斉に氷でできた鎖がサプライズシャモに巻き付いていく。
そのまま私は次の魔法の準備をしていく。
私が詠唱している間に暴れているので鎖が千切れて消えていく。
後衛組が距離をとって前衛の2人が剣で攻撃を始めていた。
思ったよりもダメージを与えていない状況で私は詠唱が終わった。
「《アイスチェーンソー》!」
唸りを上げる刃を剣を振り下ろすように縦に振るう。
それはサプライズシャモの首に当たった。
そしてあっさりとその首を両断した。
頭がゴロゴロと地面を転がり頭を失った首からは血がふきあがり雨のように降り注いだ。
私は降り注いだ大量の血を浴びて気を失った。
優しく撫でられているような感覚に目を覚ますと私を覗き込むシュティがいた。
「おはようございます」
「おはよう…?」
当たりを見渡すと近くで戦闘しているのが見える。
ラギさんとルナは見えるしPT以外の人も数人いるようだけど…。
「ごめん、私どうなったの?」
「妖精さんがサプライズシャモの首を狩ったからか、血が辺りに飛び散りましてそれを浴びて倒れてたんですよ」
『今起きましたご迷惑をかけて済みません…』
『おう、今度は何をやらかしたんだ?ほれ、怒らないから吐け。な?』
『お姉ちゃんを脅す気なら私が相手になるよ?』
『良いからお前はこいつを何とかしろ』
ラギさんとルナが言い合いをしながら戦っている。
シュティを見上げると。
『私は今休憩中です。妖精さんが倒れた後私以外の女性陣が吐いたりグロッキー状態で動けなくなりまして』
『セーフティー…戻った……うっ…』
マップで位置を確認すると闇菜さんはまだ吐き気がするようで隠れたところで見せられない状態になっているようだ。
光葉さんはすぐ隣で青い顔で寝ていた。
他にも女性が2名ほど寝かされている。
『あの人達は…?』
『偶然見てしまったPTがいたみたいで…』
『ホントごめんなさい…』
私達がやり取りしている間に倒れなかったメンバーで戦闘をしていたみたいだ。
ラギさんが指揮をして盾持ちが防ぎルナと槍持ちが攻撃して魔法使い2人が魔法で攻撃していた。
即席とは思えない連携で敵を圧倒していた。
最後は魔法使い2人の魔法を受けて戦っていたサプライズシャモは倒れた。
戦闘を終えたメンバーがこちらに戻ってくる。
シュティが桶をだしてそこに水を張る。
私を見てきたのでコレかなっと予想をして氷を入れていく
正解だったようでお礼を言われる。
そしてタオルを入れて絞り戻ってきた人達に渡している。
『あー、生き返るな』
『冷たくて気持ちが良い』
話を聞くと倒れた女性2人がヒーラーと斥候の方だったそうで変わりにルナとラギさんが入って戦ってたのだそう。
それからは何をしてああなったかの確認をされた。
隠すほどの事でもないと思って伐採や採掘みたいに生き物も丸っと取る方法があるんじゃと思って試してみた事を伝える。
ラギさんは頭が痛そうな様子で相手PTの方は興味深そうにしている。
相手PTの人達に巻き込んでしまった事を謝る。
面白かったから良いと言ってはくれたけどラギさんがお詫びをすると言って話を付けてくれた。
別PTの人達は皮を集めに来ていたのだそうだ。
「お姉ちゃん自重して?」
「ですが今回はそのおかげで焼き肉パーティーができそうなので良いじゃないですか」
責めてくるルナにシュティが庇うように言う。
「まぁ詫びをするにもまだ皮は取れてねえから…、ユキさん今度はアレを頼む」
ラギさんがそう言って親指で指したのは木に挟まれて動けなくなった豚だ。
気絶する前からずっと挟まってて動いてなかったみたいだ。
私が渋るとラギさんが睨み付けるような目で理由をお話してくださったのでコクコクと縦に頷く事しかできなかったよ…。
一応離れたところでも問題ないだろうから血がかからないと思う位置に立ち魔法を唱える。
「《アイスチェーンソー》」
木に挟まって動けない状態だった豚は鶏と同じように首を落とされ地に伏した。
シュティはそれを見ると嬉しそうに近づいていって頭をしまう、そして豚の脚にロープを縛り木を登っていった。
しばらくするとシュティが落ちてくる。
すると縛ってあったロープが持ち上がっていき豚が吊された。
「出荷の準備です」
シュティはそう言うとロープを別の木に縛って吊った状態にして血抜きをしているようだった。
血の方もとっておくのか下に容器を置いて確保していた。
しばらくそうして血が流れなくなると腹を開いて臓器を容器に入れてしまっていく。
肉も部位毎に分けてしまっているようだった。
何となく遠くから見て手慣れてると思えた。
以前言ってたサバイバルの成果なんだろう…。
しばらくすると笑顔で解体が終わったらしいシュティが戻ってきた。
血まみれだったのは魔法で洗って綺麗にしてからこちらに歩いてきている。
シュティは取れた皮を一纏めにして別PTの人達に渡す。
「どうぞ。お詫びの品です」
リーダーなのか男の人が受け取ってしまっている。
「まだ加工前ですので素材として使うのに色々手間がかかると思いますのでそこはご了承下さい」
シュティがそう言って頭を下げた。
それから少し話を聞くと私がやらかした鶏もシュティがきっちりさばいて保存してあるそうだ。
「ユキさん」
ラギさんに呼ばれて振り返る。
そこには凄い勢いでこちらに突進してきている牛がいた。
「アレでラストな」
「ひぃー」
私は悲鳴を上げながら魔法を紡ぐ。
突っ込んでくる牛の前に氷の壁を築いて行く。
そのまま次の詠唱をして止まった牛に気絶する前に初お披露目したチェーンバインドをかける。
動きを封じたらアイスチェーンソーを使って頭を落とす。
初めて戦ったときは凄く苦戦しただけに呆気なく落ちた頭部を見て…。
私は吐いた。
メギーアー女王様がコッコの頭持ってた惨殺事件の時は我慢できたけど血の量が違うのだ。
気分の悪い私をルナは支えてくれて背をさすっている。
一頻り吐いてもう出る物がなくなった頃、私の所にラギさんが来た。
「コレで牛豚鶏の肉コンプしたから夜は焼肉だな!ちなみに皮は詫びであいつ等に渡した」
そう言って指さした先には別PTの人達がいた。
寝ていた2人も起き上がっていて帰る準備をしているようだ。
シュティも解体がすんだのか戻ってきた。
「ラノベとかの異世界物で良くある、魔法を使って血抜きができないか試したんですけど。水の魔法でできました。流石ゲームですね」
嬉しそうな様子でそんな事を言うシュティ。
お肉は量が多かったから一部別PTの人達にも渡すそうだ。
今回の事も掲示板に上げる事にしたそうだ。
ただ血塗れになる可能性があるしグロ注意と注意喚起はする様子。
血の処理については解体してアイテムボックスにしまってしばらくすると木や周りに飛んだ血は消えたそうだ。
流石ゲームだね。
別PTの方達と分かれた私達は帰路についた。
お肉を食べるのが楽しみなルナとラギさんはもうその事で頭がいっぱいの様子。
光葉さんと闇菜さんはまだちょっと顔色が悪かった。
エリア間で出るウッドゥンボアゴーレムだけど…。
ルナに言われてウッドゥンビートルゴーレムを《アイスチェーンソー》で一刀両断した事があるのを思いだして試したら見事に瞬殺。
ラギさん達の表情が引き攣ってたよ。
拠点に戻ったらボルグさんや火の子と呼ばれていた妖精と一緒にお肉を焼いていった。
森に囲まれた自然の中で行うBBQは格別に思えた。
私もゲームで初めてお肉を食べたけど凄く美味しかった。
その後飛べなくなって部屋までルナに運んで貰う事になったけどね。
妖精でお肉を食べてたのは私だけだった。
私以外の妖精達はラギさん達が買いに行ってくれたケーキを食べて楽しそうにしてたよ。
残ったお肉は氷が沢山積まれている食料庫に入れられた。
そろそろ真面目に料理もできるように調理場を準備していきたいと思ったよ。
お腹一杯になった私達はそのままログアウトする事にした。




