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いつも誤字報告ありがとうございます。
私達は再び、ラギさん達からすれば初めて遺跡に足を踏み入れる。
遺跡に着いてすぐにリグさんとボルグさんが通路を窺いつつ進んでいた。
「あー、まずはPT組み直すか…。うちはスノウとリグ以外で1PT、スノウとリグで組んでくれ」
ラギさんに言われてスノウさんが抜けてラギさん、ボルグさん、プリメラさんがPTに。
リーダーだったシュティはラギさんにPTリーダーを渡した。
ファエリはシュティと連絡が取れるからリグさんのPTと行動することに。
「こっちはこれで良しと。そっちは悪いが近接できるヤツと魔法できるヤツが一人ずつ抜けてリグの所入ってくれ」
「待ってくれ。何で丁度6人の俺達まで分かれないといけないんだ!?」
ラギさんの言葉に不満を持った青年が抗議をする。
「そりゃ決まってるだろ?残ってる3人の状況が知りたいから入ってない2人をそっちに入れてくれって言ってんだよ。リーダー渡せば盾しながらでもPTには誘えるだろ」
「あいつ等の仲間を入れろというのか?」
「できねえならリーダーを別のヤツに渡して帰れ。邪魔だ」
青年の言葉にラギさんがキツく言う。
「この際だからはっきり言っておくがお前の仲間が今も生きてるのは多分2つの理由だ。まず1つは人型の遠距離を耐える事ができる装備だな」
「多分、それはあいつの盾だろう。魔法耐性のあるモンスターの革を何重にもしてる盾があったはずだ」
「それがどれだけ有効かわからねえが、死んでねえって事は効果はあるんだろうな。もう一つはヒーラーの存在だ。いくらタンクでも一人じゃ長期戦は無理だ」
そう言われて青年が口をつぐむ。
どうやらラギさんの言う通りみたいだ。
「理解したらさっさとしろ」
そう言いながらラギさんはアイテムボックスから来たときに引いていた荷車を取り出す。
何に使うのかと思ったら氷で補強してくれと言われる。
車輪の床に触れる部分は出来ないけどそれ以外は氷でコーティングしていく。
「コレ何に使うの?」
ルナがラギさんに確認する。
「ユキさんありがとな。とりあえず今回はメンバーを2つに分けるつもりだ。奥に行くチームと職員を護衛して進むチームだな」
「先行するメンバーが敵を倒して、その後を職員を含めたメンバーが追うのは理解しましたけどこの荷車は何に使うんですか?」
荷車の説明をしてないラギさんにシュティが聞く。
「急ぐんだから決まってるだろ?」
ラギさんは皆を見回してニヤリと笑って言った。
「乗っていくんだよ」
・
・・
・・・
最初はプリメラさんや青年のPTの人達に馬鹿にされていた。
けど私が言われた通り念力で荷車が動かせると確認できると掌を返した。
直接氷に触れない様にした荷車にラギさん、プリメラさん、ボルグさんが乗り、青年のPT3人が乗った。
ルナとシュティは荷車の前を走るのだそうだ。
理由?
遺跡とかだと大玉に追いかけられるのが定番だけどその代わりなんだって。
「ついでにトラップの対処頼むぞ」
ラギさんに言われた2人は真面目な顔で頷いた。
「そっちもなるべく急いで移動してくれ。現状奥からしか来てないらしいが転移してきたらまずいからな。何かあったらメールですぐに連絡、職員の無事が最優先だ」
「はい」「任せろ」「わかった」
ラギさんが職員とその護衛のメンバーに言うと了解の声が上がった。
「行くぞ。まだ向こうは回復アイテムがあるらしいが急いで合流しねえとな!」
「出発進行!」
ルナのかけ声で2人が走り始めてぐんぐん速度を上げていく。
私はそれをみてから念力で荷車を進ませ始める。
こちらも加速していき2人に迫っていく。
「左床罠」
ルナとシュティが罠の位置を教えてくれる。
荷車の罠がある方に乗ってる人は上から落ちてくる罠に対処するべく盾を持ち上げる。
そんな事を繰り返し進んでいく。
しかし遺跡は一直線ではなかった。
「ラギ!ラギ、カーブよ。どうすんの!?」
「ユキさんの氷で何とかなるだろ」
「床や壁は魔法が霧散しちゃうんですよ!」
「そういえばそんな事言ってたな…」
ちなみにこの荷車は箱形のボディーに車輪が4個ついただけの簡素な作りである。
「どうすんのよ!」
プリメラさんがラギさんを揺さぶって抗議している。
前を行くシュティが曲がり角で盾を構えた。
凄まじい音をたてて強引に曲がっていく荷車。
「シュティ!」
私が声を上げると追いついてきたのかシュティが併走していた。
「妖精さんどうしましたか?」
「大丈夫だった?」
「えぇ、盾で防ぐのも御爺様に習っています。それに今回は壁に盾が当たり私には衝撃がなかったので」
どうやら曲がり角に盾を立てかけて強引に道を曲がらせたようだ。
荷車がぶつかっても壊れなかったのは補強してあったからだろう。
盾の方は一度で限界だったけどシュティ曰く予備があるので大丈夫だそうだ。
ただ乗っている人への衝撃はかなりキツいけどね。
「ま、まぁ何とか早く着けそうだし良いだろ」
ラギさんがそんな事を言うが乗っていた人達に睨まれて顔を逸らしていた。
「右側罠ー」
そんな中ルナの声が響き降ってきた金だらいが頭に当たった。
それをみたメンバーはしばし笑い声を上げるのであった。
私達はカーブの度に絶叫と衝撃で揺さぶられながら進んでいく。
そして部屋まで直進するだけとなり、青年のPTメンバーと残った2人が戦っている姿を確認できた。
かなり疲労しているのか後衛にいる1人はふらついている。
ルナとシュティがそこへ突っこみ3人を援護する。
「ねぇ、ラギ。コレってどうやって止まるのかしら?」
「何言ってんだ。このまま突っこむぞ!」
そう言うと乗っていた他のメンバーは悲鳴を上げる。
ラギさんとボルグさんは何となく楽しそうに見えた。
先行していたルナとシュティが戦っていた3人を壁に張り付く様に立たせて通路を確保していた。
荷車の横幅は中央を走っていても左右に人が立つ事ができた。
叫び声や悲鳴を上げながら荷車は球体ゴーレムの群れに突っこんだ。
衝撃で気を失ったのかプリメラさんと青年のPT2人が動かない中、ボルグさんは飛び降り盾を構える。
その横を乗ってなかったルナとシュティが走って行く。
そして構えた武器で球体ゴーレムに攻撃を始めた。
「本体は硬いけど脚や頭部はそうでもないようですね!」
相手がゴーレムと言う事でラギさんが持ってきたメイスを2人は持って振るっている。
スキルを取ってないからか、ルナはデタラメに振ってぶつけているように見える。
扱いづらそうには見えるけど野球のバットを振るように振っていた。
ルナと違ってシュティは適当ではなく正確に頭を狙って振るい、敵を吹っ飛ばしている。
私も氷属性魔法で作ったハンマーを振り下ろして援護する。
しかし天井に触れてしまったり壁や床に当たると当たったところが消えてしまうので結構面倒だ。
そうこうしてるうちに他のメンバーも回復して戦闘に加わる。
しかし人が増えると通路なので戦いにくくなる。
ちなみにラギさんは仲間からぶたれて頬を赤くしていた。
倒した球体ゴーレムはアイテムボックスに回収して足下を確保している。
「まったく切りがねえな!」
ラギさんはそう言いながらも回復魔法を使っている。
その時だった。
前方から光が走りボルグさんのHPが一気に失われた。
「またあいつが来たか」
そう言って生き残っていたガタイの良いタンクの人が前に出る。
そしてレーザー攻撃を盾で防いでいる。
「何でさっきまであいつはいなかったんだ?」
「わかりませんけど、一定回数攻撃すると奥に戻ってました」
ラギさんの疑問にガタイの良いタンクを回復させていたヒーラーの女の子が言った。
もう1人の残ってた魔法使いの子とプリメラさんは魔法を唱えている。
前衛はボルグさんが今下がっているからルナ、シュティ、槍を持った青年とガタイの良いタンクの4人だ。
青年のPTメンバーは後ヒーラーとハンマーを持った男性だ。
ハンマーが大きすぎて通路で振るのが難しく援護に徹している。
その援護が鉄球を投げてるんだけど球体ゴーレムが陥没するぐらいの威力があるみたい。
当たったら絶対ヤバイヤツだね。
「球体ゴーレムって尻尾があるってギルドでは言ってたんですけど私達が見た感じ尻尾じゃなくてコードじゃないかって話してたんです」
「って事はあの人型、エネルギーを一旦使い切ったら回復に戻ってるのかよ!」
「そういえば球体ゴーレムもビーム撃つって情報なかったかしら?」
私がルナ達と話してた事を伝えるとラギさんはポーションを飲みながら人型の行動を推測する。
青年PTのヒーラーの方が言った事で私もギルドで言っていたのを思いだした。
「多分ですがアレは種類が違うのでしょう。遠距離攻撃はないと思います」
シュティが休憩に下がってきたみたいで、ポーションを飲みながらそんな事を言う。
「何でそう思うんだ?」
「ギルドで言っていた球体ゴーレムは脚が6本でしたがあれらは4本です。攻撃法も脚で引っ搔こうとしてくるだけですし」
そう言うとまた走って前衛に戻っていった。
しかし倒しても倒しても減っている様子がない。
まるで椀子蕎麦のごとくおかわりが来ている。
「全員壁際によって!」
プリメラさんの大声が響く。
全員射線から離れるため壁際に行く。
プリメラさんが魔法を発動させると前方に竜巻が発生し球体ゴーレムは吹っ飛ばされたりしている。
そこへ残っていたもう1人が竜巻の中に石つぶてを作り飛ばす。
竜巻でさらに加速した石つぶては当たった瞬間に弾けるが衝撃は凄いようで次々とゴーレムを吹っ飛ばしていく。
魔法が消える瞬間ガタイの良いタンクが盾を構えたまま突っこんでいく。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
球体ゴーレムにぶつかってもそのまま押して進む。
それを見た他のメンバーも続いて走り出し敵を蹴散らしながら進んでいく。
そしてついに私達は何もなかった部屋の入り口に到達した。
しかしそこには巨大なゴーレムが存在した。
そのゴーレムはお腹の所にガチャガチャの取り出し口にみえるモノがあった。
そこから球体の物体が転がってくる。
球体の物体は変形して球体ゴーレムになった。
「いつの間にあんなのができたのかな」
ルナが興味深そうに言う。
よく見ると床の上に板が敷かれていてその上に巨大ゴーレムはある様だった。
「巨大ゴーレムの下に板があるんだけど転移魔法陣か何かがあるんじゃないかな?」
私がそう言ってる間にもシュティとボルグさん達は球体ゴーレムと戦闘している。
見上げていたルナも慌てて戦闘に加わりに行った。
それにしても天井ギリギリまである四角い箱形を見てると大型の…。
「大型の自販機みたい」
つい思った事を言葉にしてしまった。
「よし。コレより仮称大型自販機ゴーレムの排除だ!ちなみに命名ユキさん」
隣で聞いたラギさんが大声で皆に伝える。
すると「おー」とか「了解」という返事が返ってきた。
とりあえずラギさんの耳を引っ張っておく。
「できれば左右と後ろがどうなってるか情報が欲しい!俺達は通路から援護する」
ラギさんの言う通り後衛は通路から攻撃や回復を行う。
護衛はガタイの良いタンクの方がするみたいだ。
「お、後ろに怪しいコードと人型ゴーレム発見」
「コード内は魔力とモノが通過してるようですよ…っと」
横に回ったルナとシュティが報告をしてくれるがそれ以上は攻撃が激しくなる様で近づけない様だ。
「人型は動いてるのか?」
「ううん、自販機にくっついて動いてないー。って、うわ。あぶな」
ルナが報告しながら回避している。
ギリギリだった様で球体ゴーレムの脚にある爪がかすっていた。
数を減らしても自販機から出てきて数が補充されている。
大型自販機は魔法攻撃をしても壁と同じ素材なのか霧散してしまった。
ならば取り出し口はというと球体ゴーレムが守りに入って狙わせて貰えていない。
そしてまた人型ゴーレムが動き出した。
今回はシュティを狙っているみたいでそちらに攻撃を続けている。
シュティはただ狙われているだけじゃなくて時折モノを投げて反撃している。
中には何かあったときのためと言っていたハンマーもあった。
ついに持っていたメイスまで投擲した。
それは真っ直ぐ人型ゴーレムに飛んでいき当たったのか金属がぶつかる音がする。
シュティは球体ゴーレムを踏み足場にして移動していく。
自販機に隠れて見えなくなったけど投げたメイスを拾って人型ゴーレムに振り下ろしたようで凄い音がした。
それは一度で収まらず何度も何度も音が鳴る。
時折自販機の後ろから球体ゴーレムが吹っ飛ばされて壁に当たっていた。
「お姉ちゃん大変!人型ゴーレムどころか球体ゴーレムもぼこぼこになってる!」
ルナはシュティの行動を見て報告してくれた。
そのルナも手に持ったメイスで球体ゴーレムを吹っ飛ばしている。
ボルグさんは下がって後衛の護衛に徹していた。
槍を持った青年とハンマーを持ちが自販機の前方では球体ゴーレム相手に戦っている。
青年PTが死に戻ってしまったのは人型ゴーレムのビームだけが原因だったんだろう。
槍で脚を払ったり頭を突いたりして動きを止めてハンマーでとどめを刺している。
お互いを背にして入れ替わったりして戦っているのを見ると連携がしっかりできているんだと思う。
「これで!」
シュティの声がして後ろから爆発音がする。
「シュティが後ろのコード壊したよ!」
ルナがそう言うと同時に自販機からできてきていた球体ゴーレムが止まった。
「お?打ち止めか。なら後はあのデカ物だけだな」
ラギさんが笑いながらそう言う。
大型自販機ゴーレムはそれで動きが止まるのではなく形を変えていく。
前方に頭部のようなモノがでて左右に一部板状の装甲が落ちて手ができていた。
大型ゴーレムは人のお腹から上の姿になった。
ただし頭部は上ではなく前方に出ているため人型と言って良いのかはわからない。
「チッ、大型自販機が第2形態に移行した。攻撃方法がわからないから気をつけろ!」
舌打ちしてラギさんが後衛陣に指示を出す。
装甲がパージされた腕は魔法が霧散しないのではないか試すのだ。
私はそれと同時に胴体の取り出し口を狙う。
残っていた球体ゴーレムと戦っていた青年が自販機の腕に捕まってしまう。
自販機は青年を後衛に向かって投げてきた。
咄嗟にボルグさんが盾を手放し受け止めるが勢いがあった為、後衛を2人巻き込んで倒れてしまう。
そこへ球体ゴーレムが攻撃をしかけるために突っこんでくるが後衛が魔法で押しとどめ防衛する。
ボルグさんはダメージが殆どなかったのか立ち上がると盾を拾い防衛に戻る。
青年は腕が折れているのか寝かせられて回復を受けている。
巻き込まれた後衛もそこまでダメージは酷くなかったのか攻撃と回復に戻る。
『妖精さんイビルトレント戦で使ったときの魔法みたいな切り札はありませんか?』
シュティが突然PTチャットで言ってくる。
シュティの方を見ると壁際で攻撃をしのぎつつ反撃をしているようだった。
手に持っているのはメイスではなく私が作った木刀だった。
『あまりコレで戦ってるのを見られない方が良いと思うのでお願いします』
ラギさんとプリメラさんも私を見ていた。
『お姉ちゃんあれは?実験で使った槍の魔改造版』
そう言われて思い出した。
アレならいけるかな?
消費MPは20に設定して保存してあった魔法を選択する。
[氷属性魔法][土属性魔法][ドリル][氷][攻撃]
土属性で硬くなる事を狙いつつ形状は以前の槍からドリルに変更してある。
どうせ回転させるからね!
私が魔法を唱え始めるとラギさんが指示して後衛を私の前からどかす。
前に居るのはボルグさんとタンクの人だけだ。ハンマーの人はルナの近くにいるみたい。
チェーンソーも長かったけどコレはそれ以上に長くなってる気がする。
詠唱が終わった私はできあがったそれを見る。
氷でできた大きなドリルだ。
『放ちます!』「タンク2人退避!」
ラギさんがそう言うと2人はすぐに横に移動し射線から外れる。
「《アイスドリル》」
発動キーとなる名前を言うとドリルは回転を始める。
止めようとしてるのか球体ゴーレムが飛びつくが回転に弾かれて吹っ飛ばされている。
回転はどんどん速くなっていく。
「いけ!」
そう言って突っこんで行くのを想像すればドリルは槍の時みたいに進み始める。
狙いは取り出し口に見えるところだ。
あそこは魔法を撃てば防ごうとしたし、私達は霧散しないと予想していた。
大型自販機第2形態は両手で止めようとしてくる。
しかし装甲を剥がした後に撃った魔法は手に傷を付ける事が出来ていた。
だから威力が勝れば突き破れるはず。
ルナが言ってた事がある。
ドリルは最強なんだそうだ。
ならゴーレムに負けるはずがないよね。
ギュイーンという音をたてながらゴーレムの手に当たるとガリガリと削っていく。
そしてゴーレムの腕を貫通したドリルはそのまま大型自販機第2形態の取り出し口に到達する。
内側から外へ向かうときは霧散しないのか凄い音をたてて削っていく。球体ゴーレムも防ごうとしているのか未だ飛びつくが弾かれてグチャグチャになるだけで効果がない。
貫通し魔法が消える。
そこにはもう動くゴーレムはなく、沢山の残骸と大型の粗大ゴミがあるだけだった。
「またやらかしましたね。妖精さん!」「流石お姉ちゃん!」
2人が私に声をかけてくるけどシュティの言葉で私のテンションはちょっと下がった。
「これがうちの暴走兵器か…」
ラギさんは惨状を見てそんな事を言っている。
プリメラさんや他の人達は唖然としているようだった。
私は部屋の中に入って大型自販機に近づく。
顔らしき部分を見るけど動いていたときに着いていた光が消えているから止まってるんだとわかった。
けど残骸もだけど消える様子はなかった。
その時ボンボンと小さいけど爆発音がした。
そちらに目を向けると大型自販機ゴーレムが崩れているようだった。
気づいたときにはもう降ってきていた。
思わず恐怖で目を閉じてしまう。
「お姉ちゃん!」
ルナの声がして拘束されて飛ばされる。
シュティがキャッチしてくれるが私は見てしまう。
ゴーレムが崩れてルナに降っていくのを。
「ルナ-!」
凄まじい音をたてて崩れているゴーレムに加え煙が立ちこめ視界が制限される。
私はルナの方に行こうとするけどシュティに抱きしめられて行く事ができない。
「放して!ルナが、ルナが!」
「妖精さん落ち着いて」
私は必死にそう言うがシュティは放してくれない。
音が止み煙が少しずつ晴れていく。
崩れたゴーレムの瓦礫に埋まったルナの姿がそこにはあった。
シュティの手を振り解きルナの近くまで飛んでいく。
「お姉ちゃん…」
「ルナ!」
「お姉ちゃんが…、無事で…良かっ…た……ガクッ……」
「ルナ-!」
私の事を守ってルナが下敷きになったのが辛くて悲しくて涙が溢れてくる。
そしてルナは光になっていき消えていった。
私は泣いた。
みっともなく声を上げて泣いている。
「ゆ、ユキさん落ち着いてください」
焦ったようなシュティの声が聞こえる。
「ルナが…うわぁぁ」
しゃがんで私に手を伸ばすシュティの胸に飛び込み縋り付いて泣く。
「シュティナちゃん、ユキちゃんは誰かが死ぬのを見るのは初めて?」
「だと思います」
『ルナちゃーん』
『はいはーい』
プリメラさんとシュティが話してたのは何となくわかったけど私は悲しくて内容までは理解できてなかった。
けど今ルナの声がした。
PTチャット?
『ルナ…?グスッ……ッ』
『お姉ちゃんどうしたの?え、泣いてるの?何で!?』
『ユキちゃん初めて他の人が死んだのを見て、それが自分を庇ってくれたルナちゃんだったらしいわよ』
『え、それって…』
『凄いショックを受けたみたいですね』
私は鼻をすすりながら目を擦る。
『えっと、お姉ちゃんごめん!ゲームだから痛みはそこまでないし死んだ時ってβの時からノリで行動してたからつい癖で』
しどろもどろになりながらルナがそんな事を言う。
ルナの声を聞いてちょっと落ち着いてきた私は氷を生成してアイテムボックスから布を取りだし巻き付け目に当てる。
『ルナの馬鹿-!』
『お姉ちゃんごめんってばー!?』
そうならそうとすぐ言ってくれれば良いのにそう思いながらも、ゲームとはいえ誰かが死ぬところを見るのはイヤだと思った。
ゲームだからルナが生きているとわかっていてもちょっと不安で胸が苦しくなった。
戦闘で緊張していたのが緩み泣いた事で疲れたのかウトウトとしてきてしまう。
私はシュティに抱きしめられたまま眠りに落ちた。




