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 母さんからの連絡でログアウトした。

 時間は11時10分ぐらいのはず。

 母さんはもう出掛けているはずだからいつ来るんだろう。

 今日は平日だから社会人は違うとして冬休みの学生かな?

 でも知り合いに御見舞に来るほど親しい人いたかなぁ。

 そんな事を思いながら機器をとって伸びをする。


「雪ちゃんおはよう」


「おは…よう……?」


 挨拶されて返しかけたけど途中から違和感を感じた。

 聞き慣れた声がしたけど私からするとここにいるはずない人物だ。

 朝霧(あさぎり) 美花(みか)先輩。

 だって会社の先輩だから仕事があるはず。

 声の方に顔を向ける。

 ベッドに寝ている私の腰ぐらいの位置に腰掛けて微笑んでいる美花先輩がいた。

 起きようとすると手を差し出してくれる。

 何も考えないままその手をとる。

 グッと引っ張られて身体を起こすがそのまま勢い良く美花先輩の方へ倒れてしまった。

 抱きしめられる形になり慌てて身体を離そうとする。

 顔を上げて美花先輩を見るとひどく安心したような表情をしていた。


「良かった。雪ちゃんが塞ぎ込んでなくて」


 何で知っているのだろう。

 私が事故に遭ってから来たのは社長だけだったと思う。


「雪ちゃんのお母さんがね、塞ぎ込んで乱暴になってて何かあったら後でその事を気にしちゃうだろうからって会う人制限してたの」


 そう言われて初めて仲が良かったと思っていた人達が来なかった理由を知った。

 今は落ち着いて考えたりする事ができるけど当時はそうじゃなかった。

 お母さんや那月には酷く当たっていたし見舞いに来て下さった社長には布団をかぶって顔も合わせず話そうともしなかった。

 誰にも会いたくなかったし何も考えたくなかった。

 ずっと仕事に行けなくなった私なんていなくなった方が良いと思っていたくらいだ。

 話を聞いて私は大事にされていたんだと実感させられる。

 それと同時に迷惑を掛けて申し訳ないのに嬉しくて視界が滲んでくる。

 我慢しようとするがかなわず嗚咽を漏らす。


「ご、ごめん。苦しかった!?」


 抱きしめていた美花先輩が慌てて肩を掴んで離す。

 私はそれに首を振って答える。


「ちがっ…嬉し…くて……」


「そっか、泣いても良いよ」


 そう言いながらもう一度抱きしめて背中をさすってくれる。

 我慢していた感情が爆発した。

 私は思いっきり声を出して泣いた。


 ・

 ・・

 ・・・


「落ち着いた?」


 10分ぐらい先輩に抱きついて泣いた。

 その間何も言わずに私の背をさすってくれていた。

 正直恥ずかしい。

 もう大人なんだからしっかりしないとって思ってたのに。

 今は美花先輩からちょっと離れてベットに座っている。

 逃げたい気持ちはあるけど車椅子が美花先輩を挟んだ向こうにあるから這って移動する事しかできないので無理だ。

 俯いている私に対して凄くにこにこしている美花先輩。

 色々と聞きたいことは浮かぶけどさっきの醜態が浮かんで恥ずかしくて顔を上げれない。

 しかしどんな時だろうと身体は正直なようで空腹を訴えるようにお腹が鳴った。


「そうしてる雪ちゃんも可愛いけどリビング行こうか?」


 笑いながら言われますます恥ずかしくなったが行かないというわけにもいかず素直に頷く。

 一応自分の恰好を確認する。

 冬なので薄着ではないけど部屋にいるのでそれなりにラフな恰好だった。

 以前はズボンを履いていることが多かったけど最近はスカートが多い。

 一応車椅子に座っているときに見えないようにロングスカートだけどね。

 美花先輩が手伝ってくれて車椅子に移る。

 念のために洗面所によって顔を洗う。


「ふふ、そこまで洗わなくても大丈夫よー」


 美花先輩はそう言ってくれるけど気になるので洗っておくのだ。

 リビングに行くと準備の途中だったのか良い匂いが漂っている。

 喉が渇いていたので冷蔵庫から飲み物を取りだしテーブルの上に出した。

 美花先輩が渡してくれたコップに注いで一気に飲んでいく。

 喉を潤して一息ついたら少し落ち着いてきた。

 美花先輩はキッチンの方へ行き途中だった調理を再開するようだ。

 手伝おうとするけど話し相手になってくれればと言われる。

 私としてはまず気になった何故ここに美花先輩がいるのかと言うことだった。

 家から会社まではちょっと距離があるからアパートを借りてたのだ。

 御見舞に来ることを聞いた母さんが会社の場所を知っていたから迎えに行ってくれたようだ。

 連絡が遅かったのはわざとらしい。

 後は私と美花先輩が話す内容は大体食べ物の話が多かった。

 そんな話をしているとチャイムが鳴った。

 美花先輩は火を止めて玄関に向かっていく。

 玄関の扉を開けて応対しているのがかすかに聞こえる。

 あれ、この声って…。

 そう思っていると美花先輩が知り合いを連れて戻ってきた。


「よう、久しぶりだな!」


 千石(せんごく) 恭助(きょうすけ)。

 私の幼馴染みで昔からよく遊んだ事もある漫画やゲームが好きな男性だ。

 幼馴染みはもう一人いるんだけどその子は女性で恭助と趣味が似ている様で私よりも恭助と遊んでいたが今日は一緒じゃないようだ。

 私も勧められた作品を観たりしていたけど二人ほどのめり込まなかっただけでイヤでは無かった。

 二人との関係は普通に仲の良い幼馴染みという感じだったけど高校を卒業してからはあまり連絡を取らなくなっていた。


「キミも食べていくでしょ?」


「ごちそうになります!」


 そんな事を考えていると美花先輩が昼食に誘っていた。

 多分だけど来る事を知っていた様で余分に作っていたんだろうな。

 もうちょっと掛かるみたいだったので恭助と2人で席について待つことにする。

 何故なら恭助も手伝いを断られたから。

 美花先輩は調理をしながらも自己紹介をした。


「雪ちゃんが働いてる職場の先輩で朝霧 美花です。よろしくね」


「俺は幼馴染みの一人で大学生の千石 恭助です。よろしくお願いします」


 恭助が頭を下げて挨拶をしている。

 何かいつもより丁寧な気がする。

 じーっと見るとそれに気づいたのか口を開く。


「雪菜の先輩って事は年上だろうが…。俺だって敬語で挨拶ぐらいするわ」


 そう言ってこっちを批難する様な目で見てきた。


「あら、気にしなくても良いのに」


 美花先輩は明るくて気さくな人だから会社でも話しやすく人気があったりする。

 挨拶が終わると私の近況を聞かれたので答えていく。

 途中で連絡を怠っていた事を謝り、仕方ないなぁという様子で許して貰った。

 話している途中で昼食ができた様で美花先輩が運んでくると手伝うために恭助が席を立った。

 こういうときはどうしてもちょっと申し訳ない気持ちになる。

 手伝おうと思っても車椅子だと移動範囲が限られるしモノを運ぶには不便だ。

 運び終わると3人で昼食をとる。


「「「いただきます」」」


 会話の内容はお互いの近況が多い。

 美花先輩は私が事故に遭ってからの会社や同僚の話。

 特に上司である伯父さんの様子を教えてくれた。

 伯父さんは口が悪いけど優しい人でいつも気にかけてくれている。

 父さんが亡くなってからはよく相談にのってくれて就職もお世話になった。

 そんな伯父さんだからやっぱり凄く心配してくれていたみたいで今日美花先輩が来たのは伯父さんの指示だそうだ。

 伯父さんには後で連絡しておこうと思った。

 恭助からはもう一人の幼馴染みと良く一緒にいた後輩の話を聞いた。

 二人も私が事故に遭った事を気にしているそうだ。

 後輩の子は私達より二つ下で第一志望に受かって県外に部屋を借りて一人暮らしをしているらしい。

 恭助ともう一人の幼馴染みは近場の大学に入ったらしく実家から通ってる。

 二人はもう就職を決めており余裕はあるみたい。

 今日一緒じゃなかったのは丁度バイトの日だったからみたい。

 食事を済ませ片付けをすると恭助が洗い物をすると言ってキッチンへ行った。

 私達は懐かしい思い出話に花を咲かせた。

 美花先輩が学生だった頃の話を聞きたがったためだ。

 学生だった時の話や働き始めてからの失敗談や何故か恋愛話まで。

 恋愛話は苦手だったのであまり喋らずに聞いておいた。

 それなのに二人の話題が私の恋愛事情になっているのは謎すぎる。

 その話題が一段落すると最近の話を聞かれた。

 恭助はゲームを良くやっているようで気になっていたみたい。

 端末を持ってきて貰って画像を見せたりしながら話していく。

 二人も興味を惹かれたようであれこれ質問される。

 しかしながら私自身は詳しくないから殆ど答えれないんだけどね。

 長いこと話していたみたいで時間は3時になろうかという時間になっていた。


「ぁー、そういえば土産で買ってきたケーキでも食うか?」


「駅前の人気店でケーキ買ってきて貰ったのよ」


「あそこってかなり並ばないと買えなかったんじゃ?」


「平日だけど冬休みだからかヤバかったぞ」


 恭助はどうやってか連絡を受けて駅前のお店まで買いに行ってくれたみたいだ。

 買って来てくれたお店は駅前にあってテレビでも紹介された事もあるちょっと高級感のある感じだ。

 もちろん私もお店も行ったことがあるし残ってた物を買っていったことがある。

 お値段はそこそこするけど美味しかった。

 美味しかったのだ。

 そんなお店のケーキを買ってきてくれた二人はもう崇めるしか無いのではなかろうか。


「ありがたやありがたや」


 そう言って私に分けられたケーキにフォークを伸ばす。

 恭助は私の好みを覚えていてくれた様で買ってきてくれたのはどれも好きなモノだった。

 買ってきてくれたケーキは全部で10個あった。

 そして今私の前には2個の美味しそうなケーキがあるわけです。

 贅沢ですね。

 ちなみに2人は1個ずつ食べたいのを選んでる。

 残り6個は家族で分ければ良いって言ってくれた。

 ちなみにスポンジケーキ系が4個、チーズケーキ系が2個、パイ系が2個とタルトが2個で私が選んだのは定番のショートケーキとスフレチーズケーキ!

 以前買ったときはもう売り切れていて買えなかった物もあって目移りしてしまったけど好きな二つを選んだ。

 二人に微笑まれながらも美味しくケーキを食べていると玄関の方で音がした。


「あ、那月が帰ってきたのかな」


 ケーキを飲み込みチャイムが鳴らずに扉が開いたからそう思った。

 恭助が玄関の方へ確認に行く。

 案の定那月が帰ってきたみたいで洗面所で手洗いうがいをしている様だ。


「たっだいまー!」


「おかえりなさい」「お邪魔してます」


 那月への返事は私と美花先輩、恭助は玄関の方で挨拶をしていたみたいだ。

 恭助はキッチンの方でお皿とフォークを用意していた。

 昔から配置は換えていなかったからどこにあるのかは把握しているようだ。


「あれ、ケーキ!?私の分は?」


 そう言って確認する那月。

 恭助は適当にあしらいながらも冷蔵庫から出して選ばせている。


「わーい」


 嬉しそうにこちらに来る那月を見て美花先輩が何となく悪い笑顔をしている様に見える。

 那月が私の隣に着席したのを見計らってケーキを一口分取るとこちらに向けてきた。


「雪ちゃん、あーん」


 差し出されたケーキを素直に食べる。

 だって気になってたから仕方ないんだよ。

 新作だったみたいなんだもの。

 うん、これも美味しい!


「あー!ちょっと、私のお姉ちゃんに何してるんですか!?」


 自分のを食べようとしていた那月が気づいて声を上げる。


「だって雪ちゃんこっち見て食べたそうにしてたから」


 笑いながら美花先輩は楽しそうに答える。

 なるほど、那月をからかって楽しんでるんだなぁ…。

 何とか宥めたいけど、どうしよう。


「お姉ちゃん!」


 那月が批難する様な視線を向けてくる。

 若干拗ねてる様な感じもする。


「那月、あーん」


 美花先輩のマネをして私のケーキを一口分差し出す。

 何か言いたそうだけど素直に口を開いて受け入れる。

 モグモグと口を動かして食べ終わったようで。


「お姉ちゃん、あのね!」


 那月がこれぐらいじゃ誤魔化せないのはわかってる。

 と言うわけで。


「あー」


 口を開いて那月のケーキをねだる。

 それを見てちょっと驚いたみたいだけど私に一口分スプーンで取って向けてきた。

 それをぱくりと口にする。

 那月の持ってきたのはレアチーズケーキでこれもやっぱり美味しい。


「ありがと」


「むー、お姉ちゃんずるい」


 美味しかったから微笑むと流石の那月も怒り続けることはできなかった様で顔を背ける。

 ちなみに二人はこっちを見てニヤニヤしてる。

 若干那月の顔が赤くなってる?

 人前では恥ずかしかったのかな。

 誤魔化せたわけでは無いだろうけどご機嫌取りはしたから良いかな?


「そういえば穂風ちゃんとの用事は済んだの?」


「んん?済ませてきたよー。機器を選ぶところから初期設定に接続まで」


「穂風ちゃんもやるんだ?」


「そうなんだけど。事前に買いに行く予定が彼氏やら用事を優先されたから今日になったんだよー」


 ぁー、だから行くのちょっと渋ってたのかな?

 ほんとなら事前に用意して遊びたかったんだろう。


「ぉ、機器にお薦めとかあるなら教えてくれよ」


「恭兄もやるの?」


「話聞いてたら気になってな」


「私も教えて貰って良いかな?」


「はい、美花さんもやるんですね」


「雪ちゃんと遊べるならやってみようかと思ってね~」


「私のお姉ちゃんは渡しませんよ!」


 そんな事を言ってる3人をのんびり眺めながらケーキを食べる。

 器機の話をしていたのが気づいたらゲームの話になってたり。

 そういえば那月と美花先輩って面識あったんだねー。

 私が入院してた時かな。

 連絡先は交換してなかった様で交換していた。


「長いことお邪魔しちまったし俺は帰るかな」


「私も居座っちゃってたし帰るよ」


「機器の事は参考程度でお願いします。私も専門家じゃ無いので」


「うん。参考にさせて貰うよ」


「はい!」


 那月に押して貰って玄関まで見送りに行く。


「「お邪魔しました」」


「またね~」「今日はありがとうございました」


 二人が出て行き扉が閉まると那月は鍵をかけて一緒にリビングへ行く。


「お姉ちゃんゲームやろうよ」


「はいはい、晩ご飯はどうしようか。出前取る?」


「ううん、あるモノで適当にすませよう」


 夕食について聞くと冷凍庫の冷食やら棚にあるカップ麺を確認してそう返事をしてきた。

 私は反対する理由がなかったから頷いておく。

 ずっとやりたかった様でそわそわしている。

 私もインしたらアイテム整理しないとね。


「そういえばお姉ちゃん死に戻りしたんだって?すっごい話題になってたよー」


「そうなの?噴水の所で休憩所作って反省会してたからその時かな」


「誰にやられたの?」


「ん?PKじゃなくてボスにやられちゃっただけだよー」


「そうなんだ?なら後でそう言っておくけどどんなボス?」


「メープルベアの多分レアかな」


「へー、出会えて運が良かったのか悪かったのかとりあえず詳しくはインしてからにしようか」


 私は頷いてからベッドに移動してゲームの前に連絡しておきたいことがあると伝えて携帯を操作する。

 伯父さんの番号を選択して電話をかける。

 仕事中かなとは思ったが美花先輩が来てくれたのは伯父さんのおかげなのでお礼が言いたかった。

 コールしてすぐに電話は繋がり今まで連絡してなかったことを謝罪する。

 今は落ち着いてこれからのことを考えようと思ってることを伝え、美花先輩が来てくれて嬉しかったこと。

 お土産のケーキが美味しかったとお礼を伝えた。

 電話を切ると那月がこっちを伺っていたので私も準備して寝転ぶ。


「お姉ちゃんゲームで!」


「うん、ゲームで」


 機器に表示されている時間は16時前。

 もう少しで数少ないゲーム内外の時間が同じになる瞬間だと考えゲームにログインした。

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