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 VR器機の初期設定を済ませてから数日が経った。

 今日はゲームのサービス開始日だそうだ。

 事前にダウンロードしてインストールも教えて貰って済ませてある。

 平日だけど妹は一昨日から高校の連休に入っている。

 冬休みだ。

 冬休みなんだけどやるゲームは《常夏の楽園》。

 うん。

 サービス開始する時期を間違ってるんじゃないかと思う。

 あえて逆を狙ってきたのだろうか…。

 現実は寒いけどゲームでは暖かいよ!的な?

 どこかの布団みたい。


「βを去年の夏にやってたんだけど調整やら修正、追加でサービス開始が遅れに遅れて今年の冬になったみたいだよ~」


 妹に聞いてみたらそんな答えが返ってきた。

 テストバージョンにはなかったのが多いみたいだしその辺の調整があったのかな?

 調べてみるとテストバージョンの時は人間以外の種族はなかったみたい。

 種族はどうするか聞いたら他の種族も気になるけどテストバージョンからの引き継ぎをする場合は変えれないらしく人間でやるそうだ。

 ゲームでは人間は平均的な能力をしていることが多いとか。

 魔法と剣を両方使った魔法剣士をやるそうだ。

 何でもテストバージョンを始めたばかりの頃に助けてくれたプレイヤーに憧れてるとか。

 私は特に何も決めてなかった。

 テストバージョンのサイトを見て考えてたけど種族は載ってないんだよね。

 どんな種族が選べるか現状わからないんだよね。

 でも運動は得意じゃないし武器を持って戦うのは不安があるんだよね。

 そうなると後衛職って言われる弓使いや魔法使いが良いのかな。


 とりあえずゲームにログインしたら設定したアドレスを使って連絡は取り合ってすぐに合流しようと言われた。

 一緒にやるために始めるのだから断る理由はない。

 ちなみに今は妹と一緒にベッドに横になっている。

 元々私の部屋にあったシングルベッドは母さんの部屋に移し、母さんが父さんと寝てた頃のキングサイズを持ってきた。

 妹が一緒にやりたいと駄々こねた結果である。

 ダメだって強く言えなかったんだよね。

 もちろん女手で運ぶ事は出来ないので私の御見舞に偶然来ていた勤めている会社の社長と運転手の方に手伝って貰った。

 次どんな顔をして社長に会えば良いかわからなくなったよね。

 なので考えない事にした。


「お姉ちゃんはどんな名前にするの?」


「まだ決めてないけど…」


「そうなんだ?名前の重複はOKだったから好きな名前で良いと思うよ」


 そう言われて頷いておく。

 名前か。

 リアルバレしないように気をつけた方が良いらしいからその辺も考えないとダメらしい。


「もうすぐだよ!ゲーム立ち上げて準備しておこう」


 そう言ってフルフェイス型の器機をつけ起動させていく。

 右手につけた手袋のような機器で操作して事前にインストールしたゲームを立ち上げる。


「お姉ちゃんゲームで!」


「うん、ゲームで」


 そう言って15時ジャスト、起動させたゲームの世界に飛び込んだ。




 初めてのゲームの世界は真っ白な空間だった。

 突然何も知らずにだと混乱したり焦りそうだなぁと思いながら自分を見る。

 器機の設定時に作った自分のアバターだ。

 何も変更してないからまんまの私。

 恰好は何故かスーツだ。

 変な恰好じゃないから良いけどね。

 そんな事をしていると音声ガイダンスが始まった。


「《常夏の楽園》へようこそ!

 今からこの世界で活動するアバターの設定をして頂きたいと思います!」


 音声だけだと思って前を見たらナビゲーター?がいた。

 疑問系なのは何故かメイド服を着た女性だったからだ。


「ぁ、初めまして。よろしくお願いします」


 そう言ってお辞儀をする。


「これはご丁寧にどうも。こちらこそよろしくお願いします」


 相手もお辞儀を返してくる。

 何か動きが人間みたいだ。

 これがAIなら上手くできてるなぁ…。


「それではまず最初にいくつか質問をさせて頂きます」


「はい、お願いします」


「その前に質問に正しい答えはありません。

 答えを参考にして選択できる項目が変わりますのでご了承下さい」


「わかりました」


「まず最初にファンタジーと言えば?」


「魔法でしょうか」


「好きな動物は?」


「鳥です」


「好きな季節は?」


「冬です」


「最後に好きなモノは?」


「何でもいいんですか?」


「はい、大丈夫です」


「雪」


「……。ありがとうございます。

 それではこの中から種族を選んで下さい」


 そう言うと5枚のカードが回転しながら現れた。

 止まるとそこには種族が書かれていた。


[ヒューマン][エルフ][バードマン][セイレーン][スノーフェアリー]


 左から順番にまずヒューマン。

 そのままなのでスルー。


 次にエルフ。

 魔法が得意な種族で固有の魔法もあるみたい。

 ファンタジーの定番種族だったはず。


 真ん中のバードマン。

 このゲームでは獣人族の一種に当たるみたい。

 人の背中に羽が生えてるのが特徴かな?

 得意な魔法は当然風属性。

 どこまで設定できるかわからないけどこれだけ見てると顔が鳥なのが辛そう。


 四つめに選べる種族セイレーン。

 このゲームでは魔族に分類されるみたい。

 見た目は人魚に鳥の羽が背から生えてるって言えばわかりやすいかな。

 陸は移動できる様に見えないから基本水中なのかな?

 でも羽あるからどうなんだろう…。

 得意な魔法は風属性と水属性、固有の能力に呪歌とある。


 最後はスノーフェアリー。

 種族は妖精種になってる。

 得意なのは氷属性の魔法みたい。

 20㎝ぐらいで手の平サイズって言うのかな。

 透明な羽が生えてる。

 可愛い。


 さて、この中から一つ選ぶんだよね。

 それが私の姿になる。

 どれにしようかなー。

 なーんて。

 心の中ではもう決まってた。

 だから。


「スノーフェアリーにします」


 私の分身となるアバターの姿を決めた。

 種族名を見た時から決めていた。

 他の種族を見たのは確認に近かったと思う。


「わかりました。種族はスノーフェアリーとなります。

 容姿の細かい設定に移ります」


 ナビゲーターがそう言うと私を囲むようにウインドウがいくつも開いた。


「変更できるメニュー項目になります。

 スワイプすればウインドウが次の項目に切り替わります」


 髪型はファンタジーなら腰まであるストレートロングかな。

 邪魔になりそうならリボンとかつければ良いよね。

 次は髪色か、これは銀っぽい感じにして。

 目の色は薄い青。

 体型も変えれるんだね。

 ん~、身長は小さくなってるけど体型はこのままで良いかな。

 選択出来る羽も種類があるみたい。

 うーん、どれも可愛くて迷うなぁ。

 細い葉っぱのような形が4枚2対になってるこれが良いかな。

 色も変えれるみたいだし白で半透明っと。

 わ、よく見ると雪の結晶の模様があって可愛い!

 服装は種類がないけどフィッシュテールスカートのノースリーブドレスにした。

 普段着る事無い恰好の方が良いかなって思って。

 ドレスの色は瞳と同じ薄い青、白で雪の結晶の模様があるデザイン。

 う、下着も決めるんだね。

 ドレスに合わせるならレースのがいいかな?

 色は白で良いよね。

 下着まで選べるのはちょっと恥ずかしい気がするなぁ。

 声も変えれるみたいだけどこれは良いかな。

 こうやってキャラクタークリエイトするのって楽しいね。

 妹が楽しみの一つだって言ってたのが理解できた。

 角度を変えていろんなアングルから見てみる。

 うん、これで良し!

 決定っと。


「可愛らしいですね。

 では最後に名前を教えて下さい」


 ナビゲーターさんに可愛いと言われてちょっと嬉しくなった。

 決まった台詞なのかもしれないけど最初の会話から何となく違うような気がしたからだ。

 さて。

 名前だ。

 ずっとどうしようか考えてた。

 けど、種族を見た時にこっちも決まってた。

 雪菜と言う両親がくれた名前。

 母さんが雪月風花という言葉が好きで子供には一文字ずつつける様にしたらしい。

 私は雪。

 だからスノーフェアリーにした。


「私の名前は「ユキ」でお願いします」


 安直だと思われるからリアルに結びつけにくいんじゃないかと思う。

 大丈夫だよね?


「はい……。ではこれでキャラクタークリエイトは終わりです。特殊チュートリアルに移ってよろしいでしょうか?」


 特殊…?

 普通と違うって事だよね。

 受けておいたほうが良さそう。


「はい、お願いします」


「では、特殊チュートリアルに移ります」


 そうナビゲーターさんが言うと周りの景色が一転した。

 森だ。

 周りを森に囲まれた泉の畔にある石の上に立っていた。

 ナビゲーターさんは湖の上に浮いている。

 あ、私立ってる…。

 ゲームだからって言うのはわかるけどちょっと嬉しいな。


「まず最初に種族的な特徴から説明していきますね。

 フェアリー種は小さく華奢ですので重いモノが持てません。その代わりに念力と呼ばれる能力を有します。

 練習のためにこの指輪を泉に落とすので念力を使ってそれを手元に引き寄せて貰います。

 念力を使う上で大事なのは 何を どうしたいか と言うイメージです。それをしっかり思い浮かべて下さい」


 そういってナビゲータさんは持っていた小さな指輪を泉に落とした。

 私はその指輪を見つめながら両手を向けて祈るように念じた。

 落ちてる指輪…、私の手が届く位置まで来て!

 現実ならこんな事念じても無駄だ。

 落としたなら拾いに行くしかない。

 けど、これはファンタジーなゲームの世界。

 念力が強く思うことで使える力ならできるはず!

 最初は小さく揺れただけだった。

 揺れは少しずつ大きくなって水の中で浮き始める。

 そしてそれは泉から出て私の手が届く位置で止まった。

 両手を伸ばして包むようにして引き寄せる。


「できた…。できました!」


「凄いです!こんなに早く成功したのはユキさんが初めてです!」


 嬉しくて普段より大きい声で言う私にナビゲーターさんも凄いと言ってくれる。

 けど初めては言いすぎじゃ無いのかな…?


「ちなみに運営サイドでこれができたのは早い方で6分。一番遅い方で1時間と54分でした。

 ユキさんはわずか2分弱なので最短記録ですよ」


 そう言って笑いかけてくれたが最短記録というのにびっくりだ。

 と言うか約2時間粘ってた方もいるんだ…。


「では次は飛ぶ練習をしてみましょう。羽は飾りみたいなモノなので大事なのはイメージです」


 飾りって言った!

 可愛い羽を飾りって!

 確かに動かしても飛べそうにない感じはしてたけど。

 そっか、飾りかぁ…。

 とりあえずやってみよう。

 目を閉じて浮くイメージ。

 下りるエレベーターに乗った時にふわっとする感じかな。


「え!?」


「へ?」


 急にナビゲーターさんの驚く声が聞こえたので気の抜けた声が出て目を開けて見る。

 驚いた表情で固まっていた。


「ど、どうかしたんですか…?」


「ハッ…。凄い、凄いですよ!!運営内で浮けるようになるのに最短で4分は掛かってたのに1分ぐらいしか経ってないんです!」


 えぇ!?

 またやっちゃったのかな…。

 とりあえず飛ぶ練習だから前後左右、自由に移動できるようになった方が良いよね。

 そう思って練習を開始する。

 10分経つ頃にはある程度自由に飛べるようになっていた。


「ユキさんは現実世界でも妖精さんなのでしょうか?」


 唐突にそんな事を言ってきて落ちそうになる。


「そんな訳ないじゃないですか!」


「ですよね。失礼しました」


 何かしょんぼりしてる?

 実際に妖精とかいたらきっと研究者に追い回されて捕まったらモルモットで最後は標本にされるんだよ。

 怖い、怖すぎる…。


「もう飛ぶのは良さそうですし次は魔法の説明に移ります。

 フェアリー種はほぼ武器を持ったり扱うことができません。なので基本的に攻撃手段は魔法になります。

 この世界での魔法は基本的に[属性][形状][種類]の組み合わせで決まります。例えば[火属性][玉][攻撃]とすれば良くあるファイアボールの様な魔法となります。

 と言っても人それぞれ違いは出たりするみたいです。現状で確認されている属性は基本6種と上位8種があります」


「あの、上位の事は言って良かったんですか?」


「問題はありません。ユキさんは種族的に特殊で最初から氷属性を持っているんです。もちろん他にも上位魔法を持っている種族の方はいますから特別って訳じゃないですよ。なので他の人に伝えたり拡散しても大丈夫です」


「最初から上位魔法を…」


「ただ上位を持っている種族の方はデメリットがある場合もあります。けどデメリットを軽減する手段はちゃんとあります。

 魔法ですが属性毎に多用途で使える魔法がありそれは最初から組み合わせなしで使えます。

 まずはメニューと言って表示させて下さい」


「メニュー」


 するとキャラクリエイトの時に出たウインドウが1つ出てメニューが表示された。


「そこにある魔法を選択して下さい」


 魔法と書かれている所に触れる。

 すると3つの属性が表示された。

 水属性・風属性・氷属性。

 と言うことは水と風の魔法を覚えていると氷が使えるようになるのかな?


「開いたらどれでも良いので一つ選んで下さい」


 どれでも良いと言われたら氷属性を選ぶ。

 すると次に表示されたのは。

 ・組み合わせ

 ・氷生成

 の二つだ。


「水属性なら水生成。風属性なら風生成。氷属性なら氷生成。

 それに組み合わせるが表示されたと思います。

 まずはどれでも良いので生成を選んで下さい」


 氷生成を選択する。

 消費MP量の指定ができるらしい。


「ところでMPってなんですか?」


 妹に聞いてネットで色々見てたけど調べてた内容にMPがどういうモノか書いてなかったんだよね。


「え、ゲームはあまりされませんか?」


「はい、テレビゲームとかやった事なかったから初めてで」


「このゲームではHPが生命力でなくなると死んでしまいます。MPは魔力で減りすぎると最悪意識を失います。SPは体力でなくなると疲労状態になり動けなくなります。

 ちなみにメニューのステータスで確認できます。メニューを戻る時は左上の左矢印で戻れます」


 氷生成の使用魔力が0/250になってるって事はMPは250あるのかな。

 とりあえず10消費して使ってみよう。

 一瞬地面に魔法陣の様な物が見える。

 直後アニメであるようなピキピキッっという凍るような音がして目の前に氷ができた。

 横1メートル縦1メートル高さ1メートルぐらいの正方形だ。


「大きいのを作りましたね。

 氷生成で何か作る時は作りたい物を思い浮かべる事で形状も変えれるようになります。

 水だと水量を調整したり風は風量ですね。他にも変化させる事はできるので試してみて下さい。

 使用MPによって大きさ等が変わるんですがユキさんの場合氷の魔法は種族スキルでボーナスがあるので消費MPが少なくても他の人より効果があると思いますよ」


 なるほど、氷にボーナスがあるのは嬉しいかも。

 常夏の島だから絶対暑いもんね。


「次に組み合わせですが上位の魔法を使えると項目が増えます。

 [上位魔法][基本魔法][形状][状態][種類]の5つになります。

 ちなみに最初から[状態]の項目が増えるのは特殊チュートリアルを聞いた方だけになっています。

 聞いてない方は使用して熟練度を上げていくと使えるようになります」


 チュートリアルやってて良かった。

 特殊って言ってたし何かあるはずだもんね。


「組み合わせに関しても想像次第で変化があるので色々試して自分なりの魔法を生み出して下さい。

 こういうのも楽しそうだと思いませんか?」


「思います!」


 魔法を生み出すかぁ…。

 どんなのが作れるんだろう。

 絶対楽しそう。


「最後にデメリットの方を伝えておきます」


「はい」


「スノーフェアリーは名前の通り寒い所に住んでいるという設定です」


「そうなんですね」


「なので暑さに弱いです」


 暑さに弱いのかー。

 ん?

 暑さに弱いって…。

 ゲームの舞台は《常夏の楽園》だよね。

 絶対暑いと思うんだけど…。


「暑い所にいるだけでHPが減っていくので気をつけて下さいね」


「えっ?」


 HPがなくなったら死んじゃうんだよね?

 暑さで減っていくって凄くまずいんじゃ…。

 聞こうと思ったらナビゲーターさんが口を開く。


「長いお時間頂きましたが特殊チュートリアルはこれで終わりです。

 最後までお付き合い下さりありがとうございました」


 そう言ってお辞儀をするナビゲーターさん。


「ちょ、待って…」


「それでは楽しんで下さい!」


 凄く良い笑顔で手を振ってる。

 待って待ってー!

 私の懇願は届かずに落ちていく感覚。

 妹の言っていた初期位置に飛ばされているんだろう。

 不安が大きくなっていく中のスタートとなるのでした。

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