13
目を開けると保冷バッグの中にいた。
氷は溶けていない。
もしかしてそこまで時間が経ってない…?
メニューに表示される時間を確認してみる。
ゲーム内の時間で5分ほどしか経っていなかった。
「あら、妖精さんお帰りなさい」
「ぁ、ただいま戻りました」
待ち合わせまでまだ時間はあるけどシュティナさんはもうインしてたみたいだ。
「早いインだったんですね」
「そうですね。それを言ったらシュティナさんもじゃないですか?」
「妖精さんの寝顔をもう一度見たかったのですが出遅れてしまいました」
寝顔って…。
「見ても面白くないと思いますよ」
「可愛らしかったですし綺麗でしたよ」
「綺麗ですか?」
可愛いというのはちっちゃくなってる時点でそう見られてもおかしくないけど。
綺麗というのはどういう事だろう?
シュティナさんは何かを操作してるようだ。
「これですね。どうぞ」
シュティナさんがそう言うとメールの受信マークが視界の隅にでた。
開いてみると写真が一枚。
写っているのは保冷バッグの中に作った簡易ベッドで横になる私。
それに何故かキラキラと光る雪?が舞っている。
「これは?」
「ログアウト中の特殊エフェクトがスノードームみたいで綺麗でした」
詳しく聞くとログアウト中だとわかるように特殊エフェクトが表示されていたらしい。
パターンはいくつかあって設定で変更できたみたい。
これが表示されていると他のプレイヤーは触れることもできないし一定距離より近づけないみたい。
ただログアウトしてるというのが丸わかりになるから待ち伏せされる事もあるとか。
宿の中などならある程度安心できるみたいだけどね。
ログインしたまま寝てるかログアウトしてるか把握されないように切ってる人の方が多いらしい。
とは言っても触ろうとすればわかってしまうので適当な場所でログアウトするのはダメだそうだ。
初期のままだと設定されてるみたいだ。
「切っておいた方がいいのかな」
「妖精さんと特殊エフェクトの素晴らしい組み合わせが見れなくなるなんてこのゲーム最大の損失です!」
それほど大げさなことじゃないと思うんだけどシュティナさんの目が本気っぽくて反応に困るね。
何か凄く楽しみにしてるみたいだし切らない方が良いのかな。
「じゃぁ、試しに別パターンにしておこうかな」
「今度は写真だけでなく動画も残してお渡ししますね!」
自分では見れないみたいだったので気になるし頷いておく。
何というか撮られるのは気になるけどシュティナさんだからしかたないかなと思えてしまう。
会ってそんなに経っていないはずなのに慣れてしまったみたいだ。
それから写真や動画でどんな設定だとどういう時に良いとか聞いたので参考にしようと思った。
「そういえばルナさん遅いですね」
「母さんに捕まってたからしばらく掛かるんじゃないかな」
「悪い意味で、ですか?」
「ううん、興味持ったみたいで画像とか見せてって」
そんな事を話しながらも雑談を続ける。
約束の時間まで10分を切った頃に寝ていた待ち人がガバッと起き上がった。
「お待たせ!」
「お帰りなさい」「早かったね」
「待たせると悪いからって説明してデータ移して渡してきた」
そう言いながらサムズアップするルナ。
理由を聞いて早かったのに納得。
ルナがいない間のことを伝える。
初めは普通に聞いていたルナの顔が曇っていく。
「何て言うか胡散臭い名前だね」
「ですね。それよりも初めて名前を聞きました」
あれ?
βをプレイしてた二人も名前を知らなかった?
そういえば会社名も公式サイトを見ていたときに目にしなかったような。
どこかに小さく書いてあったのかな。
そう考えるとゲーム自体が何となく怪しく思えるけど。
「んー、それよりもお姉ちゃんは鑑定スキル持ってる?」
「ううん、取ってないけど何で?」
ルナは気にしないことにしたのかスキルの鑑定を習得してるか聞いてきた。
習得できるポイントはあるけど取ってないので素直に伝える。
「鑑定スキルで確認しないと情報が不足してたりするんだよ。何でかβでは表示されてたレアリティーも隠してあるの」
そういえばβの情報を調べた時にアイテムや装備にレアリティーが設定してあった。
☆~☆☆☆☆☆までの5段階で特殊なのがユニークだったかな。
ドロップ品は基本的に、
☆→エリアモンスター
☆☆→エリアボス
☆☆☆→エリアレイドボス
☆☆☆☆→?
☆☆☆☆☆→?
こんな感じになってた気がする。
滅多に落ちないレアドロップは☆が一つ上になるとか。
☆4と5はβ時に実装されてないからわからないけどイベントボスかレアボスみたいなのが落とすんじゃないかって噂みたい。
「武器や防具で一番厄介なのが耐久値が隠されてることだけどね。 今問題なのはお姉ちゃんの武器の指輪だね。普通の初期装備だと☆で耐久値∞だけど…」
「間違いなくユニークの耐久値∞でしょうね」
「効果次第ではお姉ちゃんの奪い合いになるねぇ」
え?
奪い合いってどういう事!?
「PTにいるだけで熟練度の取得量が増えるのはやはり魅力的ですからね」
「だねぇ、最悪は貰ったホーム生成アイテム使ってそっちに拠点移せば良いかな」
「装備は情報公開しなければ良い?」
「ですね」「それが一番だね」
武器の指輪に関しては公開しない方がよさそう。
下手に人とPT組むのも危険そうかな?
もしそうならちょっと残念かな。
二人の会話はもう次の話題に移っていた。
拠点を作る場所だ。
「やっぱり森の中が良いんじゃないかな」
「それは賛成ですが、どのエリアに隣接した所が良いですかね」
へー、森の中にも作れるんだ。
そういえば創使さんは洞窟内にも作れるって言ってたっけ。
暑さをしのぐ為だと氷穴みたいにするとか?
氷穴とか風穴は雪解けの地下水や強い風が吹くから寒いんだっけ?
鍾乳洞みたいな感じでも十分涼しい空間になるかな?
「妖精さんはどんな拠点を考えてるんですか?」
私が会話に入ってなかったからかシュティナさんが振ってきた。
ルナも気になるのかこちらを見ている。
「森の中で鍾乳洞みたいな洞窟だったら涼しいんじゃないかなと思うんだけど…」
「ぉー、洞窟型かぁ。良いんじゃないかな?」
「でもそんな都合の良い場所は簡単に見つからないよね?」
「いえ、ある程度なら外観だけでなく中も設定できるので問題ありませんよ」
安全地帯を作るって言ってたからずっと良い場所を見つけてから使うと思っていたんだけどどうやら違ったみたい。
「お姉ちゃん事前に設定はできるから項目とか見てみたら?」
ルナにそう言われて頷く。
二人はどこに設置するかをまた話し合うみたいだ。
単純に森と言ってもエリアでメインの敵が変わるからだろう。
私は言われた通り結界珠を選択してみる。
《管理権限を行使しますか?》
yesを選択っと。
・拠点設定
・管理設定
拠点設定の項目から見てみる。
人工と天然の二つからまずは選ぶみたい。
試しに人工を選んでみると素材や建物を選ぶことができるみたい。
戻って天然を選ぶ。
ぉー。
巨木や洞窟だけじゃなくて崖や谷、沼地みたいな地形も選択できるみたい。
しかも組み合わせることもできるんだ。
私達は森に拠点を構えるから。
巨木と洞窟の組み合わせにして入り口は巨木の幹に。
初期で設定できるのは大部屋が一つと小部屋が二つか。
巨木の中に階段を作って部屋を作ることもできるみたいだけど階段を作ると内部を削るからあまり良く無さそうだし大部屋も減るみたい。
大部屋から地下へ階段を作ることもできるけど地下に一部屋できる代わりに小部屋が二つなくなると。
階段降りて通路があって終わりはちょっと微妙だよね。
ちょっとの通路なら問題ないけど階層が変わるとか大きな変化があると部屋が減るみたい。
とりあえず入り口から少し通路を作って大部屋を設置してその左右にも通路を作って小部屋を繋げるだけの簡単な作りにした。
説明を読んでいると設置後は魔力で結界の範囲拡張もできるみたい。
それと地形等は周りの環境に近いモノを選んでないと使用できなくなるそうだ。
人工の場合は初期で設定できる結界の範囲がかなり広くできるようで基本的に居住区は材料を自分で揃えて増築したり新しく建造して拡大していくみたい。
他にも地下を作ったりもできるけど初期設定が人工の建物一つからって事のようだ。
私が選んだ天然の場合は自然を生かした拠点作りになるみたい。
とはいえ巨木に足場を付けて家を建てたりもやろうと思えばできる様で自由度は高そう。
拘ろうと思えばいくらでもやれることがあるって事になるのかな。
楽しみの一つだね。
「お姉ちゃんどうだった?」
「巨木の幹から洞窟に入っていく感じにしたよ。色々やれること多そうで凄く楽しみ」
「それは良かった。一応話してたんだけど植物メインの北エリアと昆虫メインの北西エリアの間に作るのが良いんじゃないかなって話してたの」
てっきり森なら動物か植物のエリアだと思ってたんだけど違ったみたい。
拠点はエリア内に作るパターンとエリア間に作るパターンがあるみたい。
エリア内に作ると人が行き来しやすくするための中継拠点にできる代わりに周囲の環境にいる敵の襲撃イベントがあったりするみたい。
襲撃は多くの敵が来るから場合によっては大量の素材が稼げるとか何とか。
逆にエリア間に作る場合は隠してあることの方が多いみたい。
デメリットは拠点の外が迷いの森みたいに方向感覚を狂わす様になるらしく急いで帰りたい時に大変らしい。
「何で虫と植物の間なの?」
「北東の動物は食べれる素材が多いのですが妖精さんが肉は避けた方が良いかと思いました。北西の昆虫エリアは花や果実などが多かったはずで敵さえ何とかできればこちらの方が良いかと」
「後は装備にする時の素材かな。動物は毛皮や皮、牙や爪に骨等と素材の種類が多いし肉が取れるから狙いに行く人って多いんだよね。それに対して昆虫の素材は軽くて硬いのもあって防具に良いから需要は高いけど取りに行く人が少ないんだ」
「虫系は見た目の問題があって男女問わず苦手な人は多いですからね」
確かに納得できるから頷いておく。
特に女性に苦手な人が多いと思うけど男性でも苦手な人はいると思う。
βの時でも最初のエリアは大きい芋虫、蝶とバッタ?に希に蜂がでるとか。
見た目的には芋虫がキツいらしく次いでバッタだそうだ。
強さは蜂が一番強くて次がバッタだそうだ。
蜂は滅多にでないらしいからバッタが一番厄介なのかな。
2人は大丈夫なのか聞いてみるとβの時のイベントで虫が大量に襲ってくるイベントやゾンビとかが出てくるダンジョンがあったそうで気持ち悪いのとかグロイのはある程度慣れたとか。
ちなみにイベント、ダンジョン共に慣れるまでプレイヤー側は阿鼻叫喚だったそうだ。
「あれ、植物のエリアは?」
「採取では木材や木の実に樹液等が取れたはずです」
「薬草や毒草みたいな調合に使える素材が多いから調薬系の生産スキル持ってる人は嬉しいエリアかな。
βだと敵は踊る野菜と走るキノコに巨大百合だったかな?」
なるほどー、敵からは野菜が取れたりするのかな?
私としては特に場所はここが良いって言うのは無いんだよね。
どうやって決めるんだろ…。
「お姉ちゃんはどこが良いとかわからないと思うから北1と2、北西1と2ぐらいまで行ってみるとか!」
「北のボスはβだとトレントでしたね。北西が何がでてくるかが問題ですが行ってみるのは賛成です」
「私も下見は大事だと思う」
緩い感じに次の行き先が決まった。
まずはギルドに行って依頼を確認してから北西のエリア2を目指すことに。
ギルドに着くと相変わらず混んでいる受付を避けてクエストボードの前に移動した。
私も眺めていると以前はなかったメイプルベアーの素材の取得クエストがあった。
「他のエリアもボスが倒されてるところがあるみたいだね」
ルナがそんな事を言ったので理由を聞いてみる。
「ボスが倒されるとクエストの種類が増えるんです。新しく増えたクエストをこなすと町の発展に繋がる場合もありますよ」
シュティナさんが説明してくれた。
ルナの方は受けていくクエストを選んでるみたい。
「これらかなー」
受けるのが決まったみたいで指を動かすとクエストの受注確認がでたので受注していく。
内容は個人用が3つとPT用が1つ。
どれも採取系みたいだ。
「目的は先を目指すことで戦闘ではありませんからこの辺が妥当ですか」
シュティナさんも納得のクエストチョイスみたい。
《クエスト「フルーツの収穫を」を受注しました》
《クエスト「キノコの採取依頼」を受注しました》
《クエスト「染色に使えそうな花の採取」を受注しました》
《PTクエスト「木材確保!」を受注しました》
詳細を見てみると果物は指定なしで10個。
キノコも種類の指定なしで20個だけど毒は気にしなくて良いのかな…。
花の採取は種類が多いほど報酬が増えるみたいで量は必要無いようだ。
PTクエストの木材は最低5本でクリアでき一定数毎にボーナスがあるそうだ。
個人のクエストとPTクエストの違いは討伐、採取どちらでも一定数毎にボーナスがあるのが特徴らしい。
ちなみに果物と花の採取が北西エリアでキノコと木材が北エリアだ。
確認を終えてルナを見上げる。
場所はすでにボードの前から移動してたみたいだ。
「とりあえず行ってみよっか」
そう言って移動を開始する。
すると突然前を塞がれる。
体格のいい男とヒョロリとした男の二人だ。
「これからクエストに行くんだろ?手伝ってやるよー」
「俺達はβ勢だから結構強いぜ」
そんな事を言う二人。
β勢と言うことはルナとシュティナさんの事も知ってるんじゃないのかな。
それに装備を見ればβだってわかるってルナが言ってた気がするけど…。
そう思って二人を見上げる。
するとあまり感情を出さないシュティナさんだけじゃ無くルナまで機嫌が悪そうになっていた。
「シュティナさんどうしますか?」
「決まってます。すみませんが貴方達のことは見たことがありませんしはっきり言って迷惑ですので決闘でお二人が私に勝てたら考えます。ここにいると邪魔ですし外へ行きましょうか」
シュティナさんはルナの質問に答えると威圧的に男達に向かって声をかける。
なんて言うか喧嘩腰?
シュティナさんと威圧されビクビクしている男二人が移動するのについて行くルナ。
それに加えて周りの人達も動き始めてる。
男達が声をかけた時から周りの人達がざわついてたけど何でかな?
「今から男二人と魔剣の悪魔の決闘だー!男に賭けるヤツはいねぇかー?」
後ろの方からそんな声が聞こえてきた。
魔剣の悪魔というのはシュティナさんの事だろうか。
そういえば調さんもシュティナさんの事をβ一番の問題プレイヤーだって言ってたっけ。
声を上げているのは獣人の方みたい?
―誰が賭けるかよ!―
―相手が悪すぎだろ―
―あいつら終わったな―
そんなヤジが聞こえてくる。
相手の男達も聞こえたのだろう、腰が引けてキョロキョロと周りを気にしている。
「さて、私達の邪魔をした自分達の愚かさを呪いなさい。《-」
「シュティナさん!」
嫌な予感がして声をかける。
何かのアーツだろうか能力が発動する前に振り返ってしまったためにキャンセルされたようだ。
それを見て男二人は迷わずに走って逃げていく。
―何だ?―
―アレが例の妖精さんか―
―可愛らしい!―
―悪魔を止めただと!?―
周りが騒がしくなってくる。
間違いなく私が止めてしまったことが原因みたいだ。
「ちょっと面倒くさそうですね」
「まぁ、いずれはこうなってたと思うよ」
二人はそう言うと北門の方に向く。
『お姉ちゃん走るからしっかり掴まっててね!』
そうPTチャットで言ってからルナが走り出す。
私はルナが抑えててくれているが普段より揺れる保冷バッグの中でしがみつく。
シュティナさんは併走しながら宙に指を彷徨わせている。
二人は人通りの少ない道を進んだりしながらあっという間に門に到着した。
『シュティナさんさっきは…』
『妖精さんは対人戦はして欲しくないですか?』
言われて少し考えて答える。
『必要なら仕方ないと思います。けどさっきは相手の方は戦う意志がないように見えたので…』
『そうですか。これからは無理矢理対人を行わないようにします』
『良いんですか…?』
『はい、嫌われたくありませんし悩ませたくないですし…』
そう言って何かを言いかけるも言葉にはならず行きましょうと言い先に進んでいくシュティナさん。
「お姉ちゃん」
小さい声で私を呼んだルナを見上げると複雑そうな表情をしていた。
何か言いたいというのはわかるけどこちらも言葉にできないようだった。
『二人とも早く行きましょう』
森の入り口でシュティナさんはこちらを振り返っていた。
「行こう?」
氷像を作り周りに浮かせて飛び上がるとルナの方を向いてそう言う。
ルナは頷いて保冷ボックスを閉めてアイテムボックスにしまう。
私達は手招きするシュティナさんの方に向かっていった。




