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 目が覚めたのは見慣れない清潔な白を基調とした部屋のベッドだった。

 カーテンで仕切られている。

 ベッドの横に棚が有り冷蔵庫とテレビがあった。

 病院だ。

 私が目を覚ましたのを様子を見に来た看護婦さんが気づいて報告に行った。

 それからはドタバタと慌ただしかった。


 母さんと妹が来て凄く心配してくれてたのがわかった。

 当時の記憶がなかったが酷い事故だったそうだ。

 脊髄を損傷して身体に障害がでていた。

 私の場合は対麻痺、両足が麻痺してしまった所謂下半身不随だ。

 働き始めて4年目、仕事にも慣れて任される事も増えてきたところだったのに。

 8ヶ月の入院期間を経て退院する事になった。

 これから車椅子での生活が始まると思うと気が重い。

 一人暮らしをしていたアパートは引き払って実家に帰ってきた。

 この時にはもう何もかもどうでも良くなっていた。

 思ったように動けない自分にイライラとストレスを募らせていく日々。

 気にして声をかけてくれる母さんや妹に怒鳴り辺り散らかして八つ当たり。

 後になって後悔する日々。

 死のうと思った事もあったけど結局怖くなってできなかった。



 そんな私に対して妹は家にいる時はずっと付いて声をかけてくれていた。

 話す内容は特に重要な事じゃなく学校で会った事や友達とその日あった事等だった。

 そんな妹に私は。


「良い加減にして!私がこんなになったから優越感でも感じるの!?もう放っておいてよ!!」


 妹とは高校に入ってバイトや勉強で話すことが少なくなっていた。

 私は高卒で就職と同時に家を出たから最後にきちんと話したのはいつだったか。

 そんな妹が事故を切っ掛けにずっと側にいるのが理解できずにそんな事を言っていた。

 わからなかったから出た拒絶。

 私の暴言を聞いた妹は驚いた様に顔を歪める。

 そして目尻にいっぱいの涙を溜めてこっちを見ていた。


「……っ…わたし…っ…お姉ちゃんと、前…みたいに……っ。うぅぅ…うぁぁぁぁ……」


 ベットに座る私の目の前で泣き出した妹。

 この時の私は頭が真っ白になってどうして良いかわからなかった。


「嫌だよぉ…。嫌いに……っ…ならないでよぉ…」


 次の瞬間には縋り付かれていた。

 この時になってようやく私にべったりで甘えてきていた幼い妹の姿が今縋り付いている少女と重なった。

 恐る恐る手を動かし泣いている妹の頭を撫でる。


「酷い事…、言ってごめんね」


 そう自然と口にしていた。

 それを聞いてぐずりながら私の顔を見上げる妹。

 すぐにまたぽろぽろと涙を溢れさせながら私に抱きついて泣いた。

 お姉ちゃんお姉ちゃんと言いながら。



 それからは離れていた互いの距離を縮める様に沢山話をしていった。

 私は殆ど仕事とか職場であった愚痴や苦労した話だけど妹はにこにこと嬉しそうに聞いていた。

 拒絶しなくなった事で妹は今までより積極的に私の補助をしてくれる様になった。

 父さんが亡くなってからは母子家庭で大変な思いをして育ててくれた母さんにも謝った。

 母さんは笑いながら。


「大変なのはこれからなんだから過ぎた事なんて気にしなくて良いのよ」


 そう言ってくれた。

 自然と涙がこぼれてきた。

 でも今は特に何もやる気が起きない。

 それを伝えると母さんはしばらくゆっくりしてれば良い、と言って家事に戻っていった。

 私はぼーっとしてる時間が増えた。

 何かやろうと思ってもやりたいことが思い付かないのだ。

 そんなある日、妹からあるお願いをされた。


「お姉ちゃん私と一緒にゲームやって!」


 拝むように手を合わせながらそう口にした。

 困惑しながら話を聞いていくと。

 妹がVRオンラインゲームのテスト版と言われるモノに以前参加していたらしい。

 それが数日後に正式版としてリリースされるそうだ。

 専用の器機がいるらしいがそれはすでに手に入れてきたらしい。

 話には聞いたことはあったが結構な値段がしたはずだ。

 私が断ったらどうするつもりなのだろうか…。

 うーんと考えていると。


「いいじゃないの。今まで相手してあげてなかった分遊んであげなさい」


 そう母さんに言われ、否定できなかったので頷いた。


「やったぁ!お母さんもありがとー!」


「はぁ。アンタがあまりにもうるさく協力してってせがんでくるから静かにする為に仕方なくよ」


「ちょ!それは内緒にしてって言ったじゃん!?」


 そう言いながらも母さんの口元は弧を描いておりどことなく嬉しそうだった。

 正面にいた妹は母さんに頬を膨らませ抗議した後、素早く私の隣に移動してタブレット端末でゲームのサイトを開いて見せてくれた。


《常夏の楽園》


 とりあえずタイトルを見て南国を想像した。

 舞台となるのは一つの島みたい。

 大きさは…ちょっとわかんないかな。

 南西の端に港町があって東に平原、北が森になっていて島の中央に近づくほど緑が減って荒れ地になっており大きな山に続いている。

 街の南側が入り江になっていて港湾施設と思われるのが建っている。

 西側は海岸で潮干狩りもできるのかな?

 島の南西部以外は黒く塗りつぶされており[secret]と書かれている。


「設定だとリゾート開発が目的で冒険者は島の調査が主な役目だよ!だから未到達エリアは隠されてるんだ」


 私がsecretって書かれてるのを見て止まっていると妹が横から教えてくる。

 へー、そうなんだ。

 ちゃんと設定があるんだねぇ。


「実際ゲームとしては最初から全貌がわかってるよりわからない方が楽しみがあるでしょ?」


 言われて確かにと思って頷く。

 サイトのページをめくっていくと妹が教えてくれたことが難しくそれっぽく書いてあった。

 魔法があるファンタジーな世界でさっき言った通り島の開拓がメインみたい。

 プレイヤーキャラクターは器機に付いているカメラで容姿を撮りそれを元に変更したりできるようだ。

 種族も人間以外にファンタジーの定番であるエルフやドワーフ、それ以外にも色々な種族があるようだ。

 フルダイブと言う技術を利用したMMORPGらしい。

 MMORPGとは大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲームだそうだ。

 うん、いまいちわからない。


「大きな1つの世界を舞台に参加している人達が一緒に遊ぶみたいな感じだよ。フルダイブはその世界にいる一人の登場人物になって五感も現実みたいにある思ってくれれば良いんじゃないかな、多分」


 そう言われるとわかった様な気がする。

 ゲームの戦闘システムのページを開く。

 一人で戦ってたり集団で戦ってる映像、派手な魔法を使ってるのやアーツと呼ばれる攻撃技の映像なんかがあった。


「こういうゲームで定番のレベルはないから有名狩猟ゲームみたいな感じ…って言ってもお姉ちゃんはわからないかぁ。プレイヤースキル…要は自分がどれだけ動けるかがゲームにも影響するって言えば良いのかな…?」


 ゲームには詳しくないからわかんないけどレベル上げるのは大変なんだと思う。

 それがないって事は簡単なんだろうか?って思ってたら妹の言い方だとあまり運動してない私には難しそうな気がしてくる。

 職業みたいなのは特になくてスキル構成?でやりたいことをやっていくみたい。


「とりあえず内容は後でも確認できるし器機の登録と設定とかやっておこうよ!」


 言われるままに頷くと車椅子の後ろに回った妹が部屋まで押してくれる。

 部屋に戻るとベッドに横になる。

 妹は慣れた手つきで新品の機器を取り出していく。

 受け取ると説明を聞きながらVR機器をつけて初期設定をしていく。

 指紋、虹彩、静脈、声紋等の生体認証にパスワードを設定していく。

 登録された情報を元にアバターを作成していく。

 ゲームでも変更はできるらしいのでココでは特に変更しないでおいた。

 これはVRゲーム全般で使用できるそうだ。

 他のは特にやる予定もないけどね。

 最後に専用のアドレスを設定した。

 これはゲーム内と外でもやりとりできるようになるそうだ。

 一通りの設定は終わりみたい。


「終わった?お姉ちゃんのアドレス教えてー」


 そう言われて設定したアドレスを教える。

 するとありがとーと礼だけ言って部屋を出て行った。

 しばらくすると戻ってきたからどうしたのか聞いてみると自分の器機に登録してメールを送ってくれたそうだ。

 それと母さんにも教えてきたらしい。

 外部とも連絡できると言っていたから何かあった時に連絡できるようにだろう。


「楽しみだな~。お姉ちゃんと早く遊びたい」


「はいはい」


 ベッドに座っている私の膝に頭を乗せ嬉しそうに緩んだ顔をしている妹の頬をつつきながら返事をする。

 妹を見ていると何となく私も楽しみに思えた。


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