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警戒する少女と笑顔の彼





 彼らと出会った事で、彼女の日常は賑やかになっていく。

 そして、彼女の存在を、彼女の本当の姿を知っている人物が二人。その人物達に彼女が再会した時。

 再び巡り出した歯車は、あの時へ向かって加速する―――――――。














 気が付けば、私が転校して来て、この町にまた戻って来てから、一ヶ月と少しが経とうとしていた。

 あの日、部活見学の時に知り合った蘭翔先輩、大雅先輩、煌哦先輩、雪斗先輩の四人。この四人の先輩達とはあの日以来、先輩達の方が頻繁に私達のクラスにやって来る様になった。毎回、彼らは私に話しかけにわざわざやってくるのである。

 それだけでなく、雪斗にい以外の三人からは「姫咲」とも呼ばれる様になった。偶に、雪斗にいも「姫咲」と呼ぶけれど。

 しかし、先輩達は私の事を気遣って、必ず私の他に、ハルか一夜くん、それかふうちゃんの中で誰か一人は一緒に呼んでくれる。そのお陰か、特に何も問題なく学校生活は送る事ができているけれど。正直、蘭翔先輩だけは未だに私に対してかなりトゲトゲしい。

 まあ、その原因は私にあるのだけれど。





 その原因となったのは彼等と知り合ってから三日後の事。

 放課後になり、ハル達もあの日は偶々部活が無かったので四人で教室に残って話していた。ふうちゃんが用事を思い出して慌てて帰って行ったのを見送り。暫く三人でのんびりしていた時の事だった。

「…………あれ、悠夜に一夜じゃん。珍しいな」



 その時私は京都のおばあちゃんから電話がかかって来てベランダに出ていたのだが、しっかりと声は聞こえていた。



「あ、蘭翔先輩。それに大雅先輩達まで。先輩達はこれから帰るんですか?」

「ああ。……てか、お前らは何で残ってるわけ⁇居残り⁇」

一夜くんの問いかけに大雅先輩が答える。

「いや、話してただけですよ」

「お前ら2人で⁇」

煌哦先輩に聞かれ。

「そんな訳無いじゃん、先輩。姫咲と綾野の4人で」

「姫咲ちゃん達と⁇その彼女達は帰ったの⁇」

雪斗先輩の問いかけにハルが答える。

「綾野はさっき帰ったけど、姫咲はまだ居るよ、ベランダに出てるけど」



 顔だけでも出した方が良いのかな⁇と思いながらもおばあちゃんと会話をしていると、ヒョイ、とベランダに顔を出した一夜くんが手招きするので、通話しながら近寄って行く。



「あ、本当に居た」

「姫咲ちゃんだ~」

「3日ぶりだな」

「姫咲ちゃん、まだ電話中⁇」

次々に先輩達に話しかけられて、とりあえずペコリと会釈だけは、返しておくと。





『あら、お友達といたの⁇』



 おばあちゃんにもその声は聞こえていたみたいだ。

「あ、うん。あ、いや、違う、かな⁇」

『違うの⁇姫咲ちゃんって呼ばれていたじゃない』

おばあちゃんがキョトンとしているのが想像出来て少し笑う。

「…………今の声の4人は、先輩。友達も一緒に、居るけどね」

おばあちゃんにちゃんと言えば。

『ふふふ、そうなのねぇ。良かったわぁ。おじいちゃんと2人で心配していたのよ』

「………なんで⁇」

『姫咲ちゃんにお友達ができていると良いわね、って。でも、良かった。ちゃんと楽しく学校生活送れているのね』



 そういえば、殆ど毎日連絡しているけれど、おばあちゃん達にハル達の話は今までしてなかったかもしれない。心配してくれていたおばあちゃん達に嬉しくなりながら、答える。



「うん、安心して。私は大丈夫だよ。友達もちゃんと、出来たから。学校も、とっても、楽しいから」

おばあちゃん達には心配させたくなくて安心して欲しくて、ちゃんと素直に伝えた。

『ええ、おじいちゃんにもちゃんと言っておくわね』

「うん、お願い」

『はいはい。………姫咲ちゃん、ごめんなさいね』

「………え、なんで謝るの⁇」

おばあちゃんからおじいちゃんに言って貰えば大丈夫かな⁇



 なんて思いながら話していれば、おばあちゃんは突然謝ってきて。

『だって、お友達と居たのでしょう⁇それなのに電話してしまったから』

なんで謝ってきたのかと思ったら、私の事を気にして居たからだった。おばあちゃんの優しさに顔が緩む。

「……ふふ、大丈夫だよ。ちゃんと断って出てる。それに、待ってて、くれてるから」

『…………そう。なら、今はこれで切るわね⁇また夜に電話しますからね』

「うん、分かった。また、夜ね⁇」

『ええ、夜に、おじいちゃんと掛けるわね』

「うん、待ってるね。………それじゃ」

それ最後に通話を切った電話。通話画面を消して顔を上げると、何故か先輩とハル達は私の事を凝視していた。





「………あの、どうしたんですか⁇」

「……なあ、今の電話の相手って誰⁇」

ハルにそう聞かれて、そういえば会話で名前呼んでなかったっけ、と気づく。…………なんて言おうか。



 実の祖母、祖父では無いけれど、私にとっては掛け替えのない人達であることに変わりはない。迷った私は、無難な答えを選ぶ。

「………京都の家から」

これなら、何と無く家族である事を察するだろう。



 私とおばあちゃん達は本当の家族では無いけれど。私にとっては、小三の頃からずっと育ててくれた人達で家族みたいなものだから。



 嘘ではない、事実だけを述べただけだ、私は。

「………だってよ〜⁇よかったな先輩方⁇」

私の答えを聞いて、ニヤリと笑みを零したハルはウリウリと、側にいる煌哦にい達をつついている。



――――何が良かったのか、私にはさっぱり分からないが。



「京都って、確か姫咲ちゃんが此処の前に住んでた所だよね⁇」

「……はい、そうです。煌哦、先輩⁇」

危ない、煌哦にいって呼びそうになってしまった。

「そこから電話って、もしかして、今一人暮らし⁇」

「…………え、はい。そうですよ⁇」

それがどうかしたのだろうか。

「え、両親と離れてまでこっちに来たの⁉︎」



―――――ああ、そっか。私はハル以外には何も教えてすらなかった事に此処で気が付いた。



「…………まあ、そう、なりますね」

曖昧に笑う。

「なんでわざわざそんな事をしてまで、こっちに来たの姫咲ちゃん⁇」

やっぱり雪斗にいは私の事を疑っているのだ。私が、あの事件で居なくなった「姫咲」じゃないか、と。

「…………家庭の事情……というのですね。私が、こっちに1人で、来たのは」



―――――ごめんなさい、雪斗にい、煌哦にい。



 まだ、二人に「久しぶり」っていう時ではない。だから、あまり他者が踏み込めない言い方で私は逃げる。狡くて、弱い、私は。本当の事なんて何一つ、誰にも言えずにいるのだ。





「そうなんだ、大変だね。姫咲ちゃんも」

私の言い方で誰も踏み込めなくなった、空気をぶち壊す様にそう言ったのは蘭翔先輩だった。

「………あ、あはは。そうでも無いですよ」

胡散臭い、笑顔は嫌いだ。何故か、見ていて吐きそうになる。



 それだけじゃない、何かが頭をよぎる。その何かがとても憎くて、でもそれ以上に哀しくて、行き場のないこのどうしようもない感情がぐるぐると体を廻って気持ち悪い。

「だって、家族と離れて1人って寂しく無い⁇」

やっぱり変わらない仮面の様な笑顔の蘭翔先輩。



 お願いだからその胡散臭い笑顔を私に向けないで。辛く、苦しくなるから、やめて。ああ、何でこんなに苦しくなるの。私の頭をよぎるのは何、何なの。………何で、涙が出そうになるのだろう。






 さっきから脳内をチラつくのは、私の、記憶⁇




――――――炎と、涙、優しい声と、怒声。




 やめて、嫌だ、悲しいの。置いていかないでよ、イヤだよ。






――――――罵声と、笑顔、暖かい腕と、悲鳴に、綺麗な歌声と、誰かの胡散臭い笑顔。




 やめて、私達から奪わないで、返して。嫌、いや、駄目、ああこれ以上はダメだ。




「………ぃ」

「………え、何⁇姫咲ちゃん⁇」

頭が痛い、炎が、見ていて吐きたくなる笑顔がチラつく。

「……その笑顔、辞めてくれませんか、蘭翔先輩」

ああ、痛い、いたいの、頭も、心も。

「猫被ってる方、私、嫌いなんです。……何よりも、その胡散臭い笑顔。それ仮面みたいで、一番嫌いです」



 口が止まらないとは、この事だ。気が付いたら、思っている事を蘭翔先輩本人にはっきりと言ってしまっていたのだから。



「無理して、猫被られるより、どんなに嫌な人でも、素で接してもらった方が、何倍も、マシです」

先輩相手にとんでも無い事を言ってしまった。全て言ってから気が付いたってもう遅い。後の祭りである。

「…………突然、勝手な事言って、すみません。私、帰ります。さようなら」

何だかもう居心地悪くて、この場に居たくなかった。

「ハル、一夜くん、明日ね」

先輩方と、ハル達に簡単に挨拶して私は、逃げる様に教室から、学校から立ち去ったのだ。その後の教室で蘭翔先輩が爆笑していたなんて知らずに。







 次の日、蘭翔先輩にたまたま廊下で会った時。

「姫咲、よく俺が猫被ってるって分かったな」

昨日とはほぼ180度違う態度で話された。

「こっちが、素だから。それと、俺。お前のこと嫌いだよ」

そう言ってすれ違う瞬間に、私の耳元で彼は。

「…………だから、精々覚悟しとけよ。姫咲ちゃん⁇」

低い、意地悪な声音でそう囁いて、クスリと微笑むと、嵐の様に去っていった。





 それからだ、蘭翔先輩が私に対しては容赦なくなったのは。まあ、いっそコッチで最初から話しかけてくれればよかったのに、とすら思うくらいだ。

 でも、それはできなかったのだろう。だって、彼はこの学校じゃ爽やかな人気者なのだから。






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