プロローグ 青春はキスの味らしい!?
本話は物語の根幹部分、導入部分でありますので大事なパートになります。
以降は、一定数の評価を頂くたびに本編進行、それまでは詩歌のほうを投稿していく感じになります。よろしく。
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ボクたちは目的も無く、川にいる。
左腕をきっちりホールドする、容姿端麗でポエミーちっくな彼女はボクの隣を離れようとはしない。
川の流れは速い。滝壷に激しく打ち付けられた水が、瞬く間に下流へと下っていく。
彼女はふと組んでいた手を崩し、しゃがんで落ちていた葉を拾うと、透き通る綺麗な水の上にちょこん、と置いた。葉はそれからするりするりと岩肌を縫って泳ぎだして、やがて見えなくなった。
彼女を柔らかそうな石の上に座らせて、ボクは上流へ歩きながら考える。
久しぶりの一人は、寂しくてさびしくて正直たまらない。昔の自分はとうに抜け落ちて、残ったものは、当時からすればありえないifの形だったのかもしれない。
薄っぺらい石を、スナップを効かせてサイドスローで投げる。
ぼちゃん
そうか、案外、退屈ではない日々だったのかな。楽しかった。
心を清めたボクは彼女の元に戻る。
麦わら帽子に白ワンピースの似合う彼女は、浅瀬に足を投げ出してバシャバシャと水を味わっている。水面では鮮やかな肌色がゆらゆらと揺れている。
目線をあげると、彼女は自分の右どなりの薄っぺらい石の上を叩いて、笑顔で手を振っていた。
ボクは笑顔で手を振り返し、足早に彼女の右隣に座る。
ちょぽんっ
いい音がした。
するとボクの脚の周りから強めの波紋が広がり、彼女の脚からは優しく返ってくる。
水は程よく冷たくて、何より風が気持ちいい。・・・・・・嘘ついた、何より彼女の隣が一番落ち着いて心地いい。
そう思って左を見れば、左手で帽子を抑えつつも、水辺に微笑む彼女の横顔がいつもより数倍綺麗に見えた。
「青春、ってなんでそんな名前なんだろうな」
「そんなの、決まっているじゃない」
「そうだな・・・・・・うん、そうだね」
「あ、もしかして分かってないんだ」
そう言うと彼女はボクに近付いて、いつも通りボクの左腕と右腕を絡めてきた。
彼女の手際はいったい・・・。
考えつつ、少し恥ずかしながらもだいぶ落ち着いたと思えば、今度は肩に彼女の頭が預けられてきた。
どうにか耐えながらすぐさまボクは左を向く。寝顔を見るためだ。
「んっんんんんんんむちゅっぱっ」
ボクの唇はすっかり吸われている。
彼女の、唇に。
それだけでもう、何年も今日という日を忘れない確信が、心の中で大きくなっていくのを感じた。
「どう? これが青春の味よ?」
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〇テンキの日記 ?/4/6
桜舞う4月。新たなるステージへ踏み出す季節。
個人的ベストシーズンである春は非常に快適な生活を送れる。
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ろーどとは
──運命を隔てる『道』ですか
──或いはキミの『人生』ですか
──はたまた神にも等しい『支配者』ですか
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出会いは類希なる奇跡、と言う。青春での経験が今後に大きく影響するらしく、年1度新しい感触を得るチャンスがボクら学生には「進級」という形で与えられている。
端的に言えば、彼女はアブノーマル。
その異質さは、せっかくのクラス替えで勝ちくじを引いたボクの、カンストしたボルテージを初期化するほどだ。
壇上での佇まいは、それはそれは凛として可憐。耳も蕩けるくらい美しく透き通った声と、魔眼のような恐ろしい瞳に、水色のロングヘアに茶髪がちょこっと混ざっているロングヘアを合わせれば、次元を疑うほどの美人であることは言うまでもない。
彼女の問題点は見た目ではなく内面的なものだ。
価値観が、見ている世界がボクらとはまるで違う。
初めて、彼女の思考を垣間見た時、強烈な刺激をボクは受けた。自作の詩らしきものを見せてくれたのだ。ランチタイムにいつも一人でいたボクには、その行為の意図がわからなかった。
けれども、ボクは何度も何度も気づけば読んでいた。
「あぁ、愛しきあなた。私の場所がおわかりですか。
さようなら、憎きお前。死後の世界は楽でいい。
可愛いね、麗しの姫。どうかお国に勝利をください。」
そして理解した。
これは闘いだ。自分との、激しい戦い。
クリエイトするということはそういうモノだと、理解した。
ボクはその晩人知れずひたすら文を書いた。
書いて書いて、消して消して、最後は推敲した。人生で初めて、自分の書いたものを真剣に何度も読み直した気がする。
『ろーど』とは
──運命を隔てる『道』ですか
──或いはキミの『人生』ですか
──はたまた神にも等しい『支配者』ですか
これは詩じゃない。決まりきった答えのない、ただの文字遊びに過ぎない文。
それなのになぜか、心は満たされていて、同時に彼女に対して特別な感情が芽生えるのをボクは感じていたんだ。
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〇テンキの日記 ?/5/20
自分が心底嫌っているはずの人と1日中共に過ごすようになったのは一ヶ月前くらいからだった気がする。
今や彼女と一緒のの登下校は日課になっていた。ランチタイムも同じ場所で二人きりで食べるようになった。
「もう一度、問題を」
「続きを自由に考えなさいよ、最初の文はあげるから。
『ダメです、ダメです』」
「だって辛いもの。私を縛るあなたの影は、あなたであってもあなたでない。愛したことは無いもの」
「それじゃあまとまりが甘いわね・・・・・・」
そんな時、今みたいに会話は自然と盛り上がる。もちろん話題は「創作について」だから尽きることは無い。彼女はいつでも笑顔で答えてくれる素敵な人だから、ボクも辛いなんて思えない。
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?/5/22
「詩歌、今度デート行こ? ・・・・・・あ」
ボクは彼女の目をまっすぐ見つめたまま、言いたいこととは別のコトバを突然に発していた。
直前まで、何を考えていたっけ・・・まぁいい。
彼女の表情が徐々に笑いに変わっていくのを眺めながら、自分の愚行に気づいて、詰み筋を見逃していたことに後悔するかのような、弱々しい声を出してしまった。
対する詩歌は咥えていたプチトマトを急いで飲み込み、動揺しながらも箸を落とすこと無く続きを食べている。
そんな数秒前の出来事を早く忘れたくて、急いで弁当を片付けると水筒の水をがぶがぶ飲む。
久しぶりに美味しいと感じた麦茶であった。
ボクは癖で、キャラを実在する人物に当てはめる。自分の作品のキャラにはよく彼女──詩歌の名を借りて、彼女をベースに創作をするし、無意識で小説でのセリフについて考えてしまっていて、それをうっかり口にした・・・という事かな。
ボクは忘れたいと思いつつ、冷静になって原因をすこし考えていた。これが一番確率として高い・・・のかな。
そこまでを終えて、ちらりと詩歌を見れば、わざとらしく顔を伏せて髪の毛に遮られ、顔色を伺うことは出来ない。
しーん、とする間がつらくなって水筒の水をカラになるまで飲み干したあと、立ち上がり、一番近くの柵にもたれかった。そこから少し身を乗り出して、校舎の下層の様子を見てみると、テラスやベンチスペースは同級生で埋まっている。
おそらくは、屋上階までに6階登るよりは1階のベンチスペースの方が近くて便利だから優先的に使われるのだろう。
「遅くなってごめんなさい・・・・・・返事だけど、ええ、いいわよ? どこに行くのかしら」
突然、後ろから声をかけられて、状況を思い出す。同時にあることを自覚する。
どうやら、ボクも変わってしまったようだ、と。
詩歌の肯定は、「演技の」流れとしてのものなのか「個人的」回答なのか、という問題があることだ。
演出だと思ってノッてくれたのか、それとも本当にOKなのか。
それはきっと、自分にはわからない気がした。
だけど、気になって仕方がない。
「・・・・・・今日はエイプリルフール、じゃないですよね?」
言い訳の切り札も今日は発動できる日ではないし、この答えがノーであることくらいは理解している。でも、心の余裕がどうしても欲しくて。
「あーりゃ、理解されてないんかな? 私はネタでそんなこと言える人じゃないでしょ? ・・・・・・ってあらぁ? 赤くなってるじゃない〜なんだ、可愛いところもあるのね」
「え、えっと・・・・・・」
「堅苦しいのはなし、いいね、私は今日から彼女になる」
彼女・・・彼女・・・彼女
頭の中で甘い要素が飽和しているせいで、脳が暴走しはじめた。
ボクは・・・彼氏。なれたんだ、ボクでも。
でも、事実は依然として重くのしかかってきて。
「ありゃ、なんでボクはこんなことになったんだっけ・・・・・・」
TIPS
左上の数字は日付を表しているよ