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7本目 ツインテールを愛す男七瀬銀次郎

「ふー、周りに知らないやつばかりだと緊張したぜ」


時はたって、入学式が終わり教室でのんびりと太郎は一息ついていた。


(喜多にウエンディは同じクラスか。なんだかんだでいい方向に風は吹いてるな)


太郎が割り振られたクラスには同じ寮に住んでいる明日香とウエンディもいた。新一年生は200人。それが大体一クラス30人弱で7クラスに分かれているので、3人が同じクラスとなると、なかなかの確率ではある。持っている男、それが仁志太郎。


「じー、あーいい」


しかも明日香とウエンディが前の席で、太郎は後ろの席。しかもそこまでは離れていないので、ワリと堂々を髪を見れる位置ではある。


「ちょっと! そんな気持ち悪い目つきでこっちを見ないで!」


だが、明日香には警戒されているようで、目があって注意されてしまう。


「学校ではあまり近づいてこないでよ! 変な噂でもたったらたまらないから!」


(ずいぶんないいようだな、まぁ別にいいけどさ)


「まったく、俺は髪が好きなだけだし、別に嫌がることもするつもりもないんだけどな。やっぱこういう考えが間違ってんのかな」


太郎は頬杖をついて、愚痴をこぼす。事実、彼の性癖は田舎時代あまり理解されることは無かった。


「いやいや、君は実に見る目がある」


そんな太郎の耳元に急に声がささかかれる。


「な、何だ?誰だ?」


「まぁまぁ、ちょっと話がある。入学式が終わればあとは自由だから、ちょっと付き合ってくれたまえ」


「ま、待て。拒否権はないのか。わー!」


太郎は謎の人物に廊下に連れ出され、そのまま引っ張られていった。


「い、いったいなんなんだよ」


「急にすまない。だが、あまり公にしていい話ではないからね。ちなみにここは元写真部の部室。とは言っても現状部員は僕1人だがね」


「待てよ、おまえは1年生じゃないのか?」


「ああ。君と同い年だ」


「なんで新1年生だけの部活があるんだよ」


「この学校は中高一貫だからね。運動部は異なるが、文化部は中学高校でまとめている活動も多いのさ。僕は中学生のときからここに所属していて、昨年先輩が引退したから僕1人さ」


「なるほど」


「ではあらためて、君はさきほど明日香君の髪がいいと言っていたな」


「あ、ああ」


「すばらしい。君は実に見る目がある、先輩がいなくなって寂しくもあったが、このボク七瀬銀次郎ななせぎんじろうの同士がまだいるようで安心したよ」


その怪しい男は銀次郎というらしい。眼鏡と七三分けが特徴的な男子生徒であった。


「同士って、どういうことだ?」


「ふっふっふ、これを見てくれたまえ」


そして銀次郎は写真を取り出し、何枚か太郎に見せる。


「こ、これは」


そこには、多種多様の女性の写真があったのだが、全て髪だけが丁寧にとられていた。


「ボクはね、女の子が綺麗に結んでいる髪が大好きなんだ。ポニーテールにはじまり、種類の多いツインテール、ワリとこだわりのあるおさげ、お団子ヘアーに編みこみ、ポンパドール、いずれも長い髪を大事にれ手入れしてこその美しさがある」


写真の1枚1枚が丁寧にされていて、銀次郎の本気度が伺える。


「そして、これまで見てきた中でも、明日香君のツインテールは最高だ。あの抜群の髪質に、ゆらゆら揺れる高めのツインテール。あれをまさに天使の髪(エンジェルウイングと御幣なく言うんだろう」


「そ、そのとおりだ。分かってる人はやっぱ分かってんだな」


勢いにおされ気味だった太郎だが、銀次郎の意見にはほぼ反論するところはなく、明日香に関してはほぼ一致する意見を感じていたので、立ち上がって、銀次郎を指差す。


「だが、やはり髪は年をとるたびに経年劣化するものだ。だから、ボクはできる限り好みの女性の髪をカメラに収めておく、そのためにここで先輩とともに3年間頑張ってきた」


眼鏡を押し上げて謎のポーズを銀次郎が決める。


「ときには、警察を呼ばれ、ときにはストーカーと間違われ、ときにはカメラを壊され、それでもボクはやってきた。君もそれくらいの覚悟があると見た」


「ああ、だが、俺達は女性を傷つけるようなことはしない」


「そのとおりだ。だが、同士よ。ボクは今だに、明日香君の髪は写真に収められていないのだ」


「へー、3年間中学一緒なのにか?」


「いや、違うな、正確には2年だ」


「何でだ?」


「明日香君は中学1年生の3学期にこの学校に転校してきているんだ」

「そうなのか」


「何かあったんじゃないかと見ているがね。偶然転校してきたときはクラスが一緒だったのだが、ボクがはじめてみたときの彼女は、今のようなとげとげしい感じではなく、人嫌いという感じだった」


「まじか。そんなそぶりなかったけどな」


「ボクは彼女に直接的な接点があるわけじゃないし、そのときは髪もくすんでいて興味がなかったから、気にしていなかったが、2年生になったくらいから、少しずつ話すようになって、2年生になって少し経った頃には、大分今の彼女に近くなった。だが、それはあくまでも女子に対してだけだ。男に対しての彼女は、とてつもなく敏感でとげとげしい。どれだけこっそりつけても、ボクはばれてしまった」


「そっか、大変だな」


「そこで君の協力を仰ぎたい。どうやら君は明日香君と仲がいいようだから、是非写真に彼女を収めていただきたい」


「いや、全然仲良くねぇよ。もう教室で近づくなって言われてんだぞ」


太郎は銀次郎の話を聞いて、彼女の自分に対する態度になんとなく納得がいっていた。


一応助けたりしても、彼女がまったく友好的にならなかった理由はそういうことだと理解できた。


「いやいや、そもそも男と明日香君が会話している時点で、君特別なんだ。よく言うじゃないか。好きの反対は嫌いじゃなくて、無関心だと。ボク含め男子はそもそも会話にならない。話せるということは、これから友好的になれる可能性は少なくともボクよりある」


「そんなもんかね」


「と、いうわけで、先ほどの話に戻るが、是非このカメラに収めていただきたい、同士よ」


(なんか勝手に同士にされてんな。まぁいいか。写真くらいならなんとかなるかもしれんな。それにカメラに取るって発想はなかったな。つーかカメラ持ってねぇし)


「OKOK。ただ、俺もまだそこまで友好的じゃないから、今日明日とはいかないぜ」


「問題ない。彼女の髪はそこまですぐに衰えるものではない。ボクはいつでもここにいるから、成果が出たら来てくれたまえ。それなりのお礼も約束しようじゃないか」


「まぁお礼とかいいけどさ。じゃーなー」


太郎は別に友人がいないというわけではないし、拒絶はされないとしても、これだけ完全に賛同されたことはなかったため、ちょっとだけ気分よく写真部を出た。

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