6本目 太郎の高感度アップ作戦後編
「ふー、暑いですね」
うぐいすが汗をぬぐう。他のメンバーと比べてやや汗っかきのようだ。
「お鍋を食べればそれは仕方ないですよ」
「先生、これをどうぞデス」
「あ、ありがとうね、ゴクゴク」
「あ! ウエンディ! 何してるの!」
突如明日香がウエンディの行動に怒る。
「どうしたんだ喜多さん。別にウエンディは気遣ってやっただけだろ」
ウエンディは汗をかいて暑そうにしているうぐいすに飲み物をあげただけである。
「そうじゃないの! 先生はお酒を飲んじゃいけないの!」
「あ、あれお酒だったのか。え? 先生ってまだ未成年?」
「そうでもなくて! 先生は24歳よ」
見た目的には未成年でも成り立ちそうな見た目のうぐいすだが、きちんと大人の年齢であった。
「じゃあ、何が問題あるんだ?」
「ギューでs」
「先生! 男子いるからまずいですって!」
うぐいすは明日香の背中にすりよって、顔を頬ずりしはじめた」
「オー、先生今日はこうなりましたかデス」
「あーもう、先生お酒弱いんだから、こういうことさせちゃ駄目って言ってるでしょ! のんきなこと言ってないで、止めなさい! ウエンディがことの発端なんだから!」
「……もぐもぐ」
「詩ちゃんも黙々と白滝を食べてないで手伝ってよ!」
「……こうなったお姉ちゃんは明日香ちゃんじゃないと止めれないから……。私にできることは、この醜態を太郎君が見てなかったという優しい嘘をお姉ちゃんについてあげるだけ……」
「あーもう! 仁志君、離れて……、あら?」
明日香が太郎のほうを向くと、太郎はいつの間にかおらず、キョロキョロする。
「先生、そんなふうに顔を押し付けたら、髪が引っかかって痛みますよ。それに、年頃の女性としては、ちょっとはしたないです」
「えー」
「えーじゃなくてですね。お願いしますよ。ほら、お水です」
「はーいー」
太郎の説得? によりうぐいすは黙って席に戻る。
「さてさて、俺も肉肉ー、詩ちゃん、なくなってるけど、また豆腐取る?」
「ま、待って」
太郎が何事も無かったかのように、食事に戻ろうとするので、明日香が止める。
「ん? どうした?」
「え、えーと」
明日香は止めたはいいのだが、コメントが無かった。
(さっきの対応は、いい人ぶってるだけに見えなくも無いけど、先生のあの行動に対してすごく紳士的だった 本当にこの人は私が思ってるような人じゃないの?)
冷静に太郎の発言を思い返してみると、髪の心配しかしていないのだが、太郎のあまりにも淡々とした対応のインパクトが大きすぎて、ワードが気にされていない。
「すごい……、太郎さんあの状態のお姉ちゃんをあっさり止めた……」
「えー、もう終わりデスカ? じゃあ私がそうしますかデス?」
「もうこれ以上ややこしくしないで……」
やや騒動があったが、無事に鍋パーティーは終わった。
(よしよし、俺の対応も良かったし、最後までとりわけできたから、鍋の水蒸気が皆の髪にかかることもなかった。最悪喜多さんには断られても、あの子はしっとりヘアーだからセーフだしな)
太郎のジェントルマン作戦と、髪を守る作戦は無事に大成功したということだ。
「さーて、片付け片付けっと」
太郎は中身の無い鍋を片づけしようとする。
「ちょっと」
「なんだ、喜多さん」
「…………、さんはいらないわ。あなたは一応ここに居ても大丈夫そうだって分かったから、妥協して呼び捨てで呼ばせてあげるわ」
「そっか、じゃあ喜多、これからもよろしく」
「で、でもね、ちゃんと住めるところが見つかるまでって話は忘れないでね!」
「はいはい」
明日香もとげとげしいながらも、一応太郎のことを認めたようだ。
「……、わ、私も片付け手伝うね」
「迷惑かけましたし。私も手伝いますデス」
詩とウエンディも自分の皿を持って片付けをする。
「あー、私も手伝いますよー」
うぐいすも手伝おうとするが、やや足元がおぼつかない。
「先生、あまり無理しないでください。片付けは私たちでやりますから」
「あっ」
明日香がそういう間に、うぐいすが足をもつれさせて倒れる。
「きゃっ」
「ワー」
それに前を歩いていた詩とウエンディも巻き込まれて2人とも前に向かって倒れる。
「ほっ! はっ!」
倒れた衝撃で詩とウエンディの持っていたお皿が落ちそうになるが、それはうまいこと明日香がキャッチする。
どーん!
しかし、2人はそのまま倒れてしまった。
「だ、大丈夫!?」
2人の倒れた先にはちょうど太郎がいて、2人が直接倒れなかった代わりに、2人の下敷きになってしまっていた。
明日香が心配してかけよる。
「うーん大丈夫……、ひゃっ!」
「失敗失敗、怪我なくてよかったデス……、フワッ!?」
詩とウエンディは倒れたまま明日香に答えるが、なぜか頬を赤らめて様子がおかしい。
「どうしたの2人とも」
「た、太郎君、嗅がないで……」
「く、くすぐったいデス」
「すんすんすんすん」
2人が倒れたところにちょうど太郎がいて、その頭が太郎の顔に偶然位置してしまった。
目の前に来たあこがれの髪に、太郎は理性がふっとび、本能のままに堪能していた。
「こ、この大バカ! 変態野郎!」
そして、その変態としか思えない行動と表情により、太郎は明日香にとてつもなくおしおきを受け、女子寮への無断立ち入りが禁止となった。ジェントルマン作戦など成功するはずも無かった。