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5本目 太郎の高感度アップ作戦 前編

「ふぁ~、ねみー、あれここは」


太郎が目を覚ますといつものこなれた風景ではなかった。


「あ、そうだった。今日からここの寮に世話になってるんだった。一瞬忘れていたぜ」


太郎は窓を開けて、女子寮の本館を見る。


「ああ、まじで最高だ。15年間田舎でもまったく見つけられなかった、俺の理想の髪がいきなり4つ出てきて、しかもそれが知り合いで、同じ学校ですむところまで一緒だと? さすが東京だ。俺はなんて幸せなんだ。明日から気をつけて歩かないとリアルに交通事故に会いかねないぜ」


「失礼しまーす。今大丈夫ですか~」


「あ、はーい、どうぞ」


太郎の部屋にうぐいすが声をかけて入ってくる。


「どうされたんですか? 何か連絡ですか?」


「あ、はい。今日皆さんの自己紹介も兼ねて、歓迎会を行いますから予定空いてますか?」


「ええ、というか俺何の予定もないっすけど」


「なら良かったです、今日の18時半に来てください」


「ありがとうございます」


(ふーん、歓迎会か。まぁ親睦を深める意味では……、親睦?)


太郎は何気なく考えていたが、かなりチャンスであることに気づいた。


「あの綺麗な髪を持っている皆とお近づきになれるチャンスではないか。いや、待てよ。歓迎会とは岩r手も、俺ってそもそも歓迎されてんのか? 特に喜多さんには、いや、ウエンディさんは良く分からんし、三波さんはいきなり変なことしちまってるし、先生は教師だからな」


太郎は腕を組んでいろいろ作戦を考えた。


(これ以上嫌われるような出来事があったら、本当に追い出される。昨日はああいったが、実際には野宿はつらい。それで、学校に通えなくなって、あの素敵ヘアーの4人から距離を置かれるのも困る。いや、むしろチャンスか。まだ印象が固まっていないなら、ここで超ジェントルマン仁志太郎として任命されればいいんだ。東京でも何も変わらない。俺がしっかりしてればいいんだ」


太郎は田舎では長い時間をかけて、髪を眺めていてもばれない立ち位置を築いていたが、田舎育ちである彼は、進級どころか進学でも周りにいる女子があまり変わらなかったので、ここ何年かは、自然体で過ごしていた。


だが、東京ではまだ彼のことは知られていない。だから、また1からその立ち位置を築き、信頼関係を築く。それが彼の考えた作戦であった。


「よし、まだ時間はある。入学式の準備が終わったら、行動開始だ!」



「えーというわけで、これから仁志太郎くんの歓迎会を始めます!」


「イエーイ、ドンドンパフパフー」


「……、ど、どんどん、ぱふぱふー」


うぐいすの号令に、ウエンディが悪乗りし、それに詩も乗って歓迎会が始まった。


「あ、ありがとうございます、改めてだとなんか照れますね。そういえば、他にはいないんですか?」


「はい。この学校はもともと寮制度が最近まで無かったので、そこまでまだ人数を受け入れられないというのと、最近の親は子供を寮には入れたがらないみたいで」


(おー、揺れてる)


ちょっと顔を振り振りさせながらしゃべる癖のあるうぐいすは、髪もそれに釣られてゆれて、顔が止まると、一拍遅れて、髪も止まる。


(いかんいかん、ガン見しちゃいけない。それができるのはもう少し後だ。今日は紳士たれ)


「じゃあ順番に紹介していきましょうか。まずは、この子から、じゃあお願いします」


「私は、喜多明日香。今年高等部に進学だから、一応あなたと同い年になるわね」


「ちょっと素直じゃないところもありますけど、責任感のあって頼れる子ですよ」」


「先生! 余計なことは言わないでくださいね」


「はいじゃあ、次は」


「私デス! 私の名前はウエンディ=小山=イーストサイドデース。ダディが日本人、マミィがイギリス人でいわゆるハーフデス。日本大好きデス」


「えーと、見た目が限りなくイギリス人で、適当なことを言いますけど、日本語ペラペラですから、気軽に話してくださいね。ちょこちょこ間違えてますから、変だと思ったら突っ込んであげてください。この子も今年高等部進学です」


「次は……、できる?」


「……、うん。でももう自己紹介はしてる。でもせっかくだから、私は三波詩……」


「よくできました。この子は私の従姉妹でもあります。この子は13歳で中等部の1年生です。そして私が、軟戸うぐいすです。よろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします。先生。そういえば、皆さんのことはなんて呼べばいいですかね?」


「一応言っておくけど、明日香って呼んだらその時点で追い出しだからね! 分かったわね、仁志くん!」


「肝に銘じとくよ。まぁよろしく、喜多さん」


「ふん、変な動きを見せたら、絶対に追い出しだからね」


(うーん、一応危ないところを助けたつもりだったが、高感度は低いままか。まぁ高感度とかいいけど、いい感じに揺れ動いてるし)


ツンとした態度で明らかな嫌悪感を示すが、怒って体が動くと、太郎のお気に入りヘアーが動くので全く問題は無い。


「わ、私のことは……、詩って呼んでください……」


「いいのかい? まだそこまで親しくない男女が名前で呼ぶのはちょっと女子は嫌なんじゃないか?」


「い、いいえ。私、自分の名前好きですし、一緒の空間で生活していくんでしたら、これくらいはいいと思います。なので、私も太郎さんって呼ばせてください……」


「ああ、よろしく、詩ちゃん」


(詩ちゃんにはそんなに嫌われてないのかな? いや、あまりがっつくのはよくない。あまり苗字で呼ばれたくないだけかもしれん。この子がいい子である可能性もある。つーかいい子だ)


「私はウエンディと呼んでくださいデス」


「よろしく、ウェンディさん」


「さん付けなんて、他人定規デス。仲良くしましょうデス」


「ああ、ウェンディ、よろしく。あと多分だが、他人行儀だそれはもしくは杓子定規だ」


「日本語難しいデス。ですから、教えてくれると嬉しいデス」


にっこり笑顔が非常にキュートで、欧米人特有の青色の大きな瞳は見る人をとりこにするほど輝いている。あまりにもまっすぐすぎる瞳は、ふと逸らしてしまいそうである。


(うーん、毛ヅヤやべぇ。何食べてるんだろう)


もちろんそんなことは太郎には関係ない。髪を見ているので、目線を逸らすようなことはない。


加えて、とりあえず明日香以外には悪い目では見られていないことに、とりあえず安心感を感じていた。


「春ですけど、皆で食べやすいように鍋にしてみました」


食卓の真ん中には、いわゆる鍋の王道中の王道すき焼きが準備されていた。


「じゃあ、いただきまーす」


「「「「いただきます」」」」


うぐいすの号令で食事が始まる。


「先生、俺がとりわけしますよ」


「あ、そんな悪いですよ。仁志くんの歓迎会なのに」


「いえいえ、先生にはご無理をいいましたし、他の3人にも、俺がいることで不便をかけることはあると思うんです。ですから、これくらいはしますよ」


「で、でも」


「グッドデス。いわゆる鍋代官デス」


「多分それは鍋奉行だろ。代官分かるんなら、間違えんなよ」


うぐいすが遠慮しようとするが、ウエンディが独特のノリで、太郎に意見に賛同する。


「いえいえ、とりわけをして欲しくない人いますか~?」


「あまり好意を無下にするのもなんですし……、じゃあお願いしますね」


「……ありがとう……」


「気が利く男はナイスデス」


「まぁ、やってくれるならそれに越したことはないし、確かに迷惑うけてるから、これくらいはね」


一応反対者はいないようだ。実際鍋奉行的な人がいると助かる場合も多い。


「はいはい、皆さん好きなものや嫌いなものはないですかー、ちゃんと避けますよ」


「そ、そこまで気を使わなくても大丈夫ですよ。おまかせします」


「…………白滝と豆腐がいいな」


「肉! 肉、そしてネギデス!」


「わ、私は何でも食べれるけど、強いて言うならキノコ類は入れないで」


「はいはい、これは先生の分で、これは詩ちゃんだね、お豆腐大目に入れとくよ。ウエンディは肉とネギで、あとは喜多さんの分」


「ありがとうございます」


「……ありがとう」


「サンキューデス」


「あ、ありがと」


4人とも太郎の対応に、少なくとも悪い感触は得ていないようである。もちろんこれは太郎の作戦である。


(うん、ジェントルマン作戦とりあえず第一歩は成功だ。無理やりやる感じじゃなくて、一応了解を取って、とりわけもおのおのに合わせる。はっはっは)


「じゃあ、俺も頂きますね」


(そしてもちろん、この箸はとりわけ用にして、俺が口をつける箸は別にする。やましさ0だぜ)


太郎は思い通りに物事がすすんで、満足げに時間を過ごした。



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