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4本目 切れたら怖い

「あー、もううっとうしい。気になる!」


女子寮では明日香が1人頭を抱えていた。


「私は間違ってないのに……、でもあの男にも落ち度はない……。それに私だけが反対したせいで……」


明日香の発言や行動はそこまで、世間の常識に外れたものではない。だが、それでも全く罪のない人間を1人着の身着のままで知らない土地に追い出してしまったことに、どうしても負い目を感じてしまっていた。


「それに何よ。私の胸じゃないって……。でもあの目はごまかすような感じでもなかった……。もし本当に誤解だったら、私はひどいことをしたみたいになる」


『次はお天気です。ただいま日本全土に寒冷前線が停滞しておりまして、夜は12月から1月並の冷え込みとなるでしょう』


(あいつ……、野宿よね……)


その天気予報が追い討ちになり、明日香は立ち上がった。


「あ、どこにいくんですか? もう門限ですよ」


「えーと、あのちょっと、コンビニに行ってきます」


「ふふっ。気をつけてくださいね」


うぐいすは顔がほころんだ。


明日香はコートを着ているのだが、その手にはもう1つコートを持っていたからである。


「明日香は、素直じゃありませんデス」


「でも……、それが明日香さんのいいところですよ」


ウエンディと詩も笑顔で答える。


「はい、じゃあきっと喜多さんはきっと仁志くんを連れて帰ってきますから、暖かいものでも準備しておきましょう」


「ハーイ」


「……ハイ」


「きゃあああ!」


「「「!?」」」


3人が穏やかにキッチンに向かおうとすると、外から悲鳴が聞こえた。



「どうしました! 喜多さん!」


3人で外に走っていくと、明日香は男に捕まっていた。


「ちっ、お前らいつもはこの時間は部屋に戻ってるくせに……、何で今日に限って……」


「だ、誰ですかあなたは! 喜多さんを離しなさい!」


「へっへっへ、俺はな、寮を爆破すんのがすきなんだよ。俺は家のないホームレスなのに、学生だろうが社会人だろうが、安い価格で暮らしやがって」


「まさか、男子寮の爆破事件は……」


「ああ、俺だ。あとはこの起爆装置を準備して、明日爆発するようにするだけだったんだけどな。寮なんて管理がずさんで、ガスの近くで爆破すれば、事故扱いだったからな」


「おう、計画犯罪デス!」


「うっせぇ。邪魔すんならお前らごとドカンだ。へっへっへ」


(うわぁ、やべえやべぇ。つけてきたらまさか女子寮だったとは、これは明らかにくろだもんな、警察に連絡しとこう)


太郎はスキルを活用してうまく後をつけていたが、まだ怪しい要素が無かったので、通報できずにいた。


だが、既に自供をしていたので、110に連絡をしていた。


「離しなさいよ! こんなことをして、ただですむと思ってるの!」


「うるさいな! お前の顔を切り刻んでもいいんだぜ。このガスの事故に見せかけるために、ガスのホースを切れる切れ味抜群の鋏でな」


「う……」


「ほらほら、簡単に切れるぞ。このまだ若そうな髪の毛も……」


そして、男は明日香のツインテールの片方の付け根に挟を当てる。


「や、やめて……」


「もう遅いぜ!」


「誰か助けてー!」


ボコッ!


「ゴフッ!?」


カランカラン!


そのとき、明日香を拘束していた手が急激に緩み、鈍い音と、男のうめき声と、鋏の落ちる音が、響き渡った。


「だ、誰だ!」


「てめぇ、何しようとした!? ああん?」


「な、何だ、ゲフッ!?」


「なんだじゃねぇ! お前の汚れた手で髪を触ったあげく、何切ったかわかんねぇような鋏で、髪を切ろうとしやがっただろう? しかも、この女子寮にいる女子を爆破すんだって? ふざけんな、寝言でも言ってんじゃねぇ」


「あ、あの……。助けてくれてありがとう。それにさっきは……」


まだ付き合いが短いとはいえ、どちらかといえば穏やかそうに見えた太郎の暴走に、4人とも膠着していたが、明日香が真っ先に動いて、太郎にお礼を言う。


「あ、大丈夫だったか? 髪切られてないか? 触られて、乱れてないか?」


「あ、うん、大丈夫だけど……」


「おいこら! お前、寝てんじゃねぇぞ。もう警察呼んでんだからな! きっちり反省しろや! 髪は女の命なんだぞ。つまりそれを切ろうとしたってことは、命を切ろうとしたってことだぞ、殺人未遂だコラ!」


「あ、あの……、明日香さん、やっぱりあの人はいい人だと思います……、住まわせてあげられませんか?」


「……うん、そうね」



「ご協力ありがとうございました! さぁ乗れ」


警察に男が引き渡され、再び女子寮に静寂が訪れる。


「いやー、本当にいいのか、喜多さんは俺を嫌ってたと思ったけど」


「か、勘違いしないでよね。この寒空に1人追い出すのも悪いし、入寮を認めたわけじゃなくて、ちゃんとあんたが住めるところが見つかるまでの一時的な対応ってだけなんだから」


明日香が認めたことにより、太郎の離れとはいえ、女子寮での生活が認められることになった。


「じゃあ、遅くなりましたけど、軽く暖かいものを飲んでから休みましょう」


「……はい」


「そうですね」


「私はレモンティーをお願いしますデス」


4人が皆いっせいにキッチンに向かう。


この場所の立地を知らない太郎は歩き出しが少し遅れた。


「おお……」


だが、その出遅れのおかげで、4人の髪が揺れ動くのを同時に見ることができた。


揺れては戻るうぐいすのシルクヘアー。

逆にがっしりして動かない詩の漆黒コシヘアー。

ツインテがゆらゆら上下する明日香のしっとりヘアー。

金髪で1本ずつ動きが分かるウエンディのふわふわヘアー。


自分の理想が同時に動く様子は、基本的に顔には出さないようにしていた太郎でも、思わず顔がにやけてしまっていた。


「ところで、あんたは何を飲むのかしら……」


そしてその状態で明日香に振り向かれてしまう。


「あ」


「何ニヤニヤしてんの!」


「ぎゃふん!」


こうして、波乱万丈の展開ながら、太郎の東京での新生活は始まるのであった。




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