3本目 女子寮に男子が住むのは現実的には問題がある
「全く、2人とも、暴力を振るうなんて何を考えてるんですか!」
「ですけど、詩ちゃんが危ない目にあってると思って……」
「詩ちゃんも明日香ちゃんもメッチャ大事な友達デスカラ」
「違います。今回は良かったですけど、もし本当に危ない人で、凶器とか持ってたらどうするんですか。まずはちゃんと報告をしなさい。分かりましたか」
「はい、すみません」
「ゴメンナサイ」
「う、うーん」
「あ、目覚ましました?」
太郎が目を覚ますと、ツインテ少女明日香と金髪少女ウエンディがうぐいすに説教されていた。
「くすぐったいな……、何だ?」
太郎は自分の頬の辺りに何か触れるものがあって、妙にこそばゆい感じがした。
「大丈夫ですか?」
太郎の視界には、とても愛くるしい顔が映っていた。
「ああ、三波さん……んぁ?」
「ど、どうしたんですか? 急に立ち上がったら危ないですよ」
(やべぇ、やべぇ、俺の頬に髪が触れてた。しかし柔らかかったな……)
太郎の頬にくすぐったい感じがしていたのは、詩の髪の先端であった。
その感触に悪い感じがしたわけではなかったが、綺麗な髪を自分に触れさせることは彼には許しがたいことだった。
彼は髪を触るために、手は常に清潔にしてあるが、顔で髪に触れるようなことはないので、顔は気遣っていない。
自分の欲望<髪が綺麗であることなのである。
「それよりも、何で男の人が女子寮にいるんですか?」
「もしかして、先生のいい人デスカ?」
「ち、違います。仁志君は新しい同居人です」
「先生何言ってるんですか? ここは女子寮ですよ」
「それはですね」
うぐいすが事情を説明し、3人がそれを聞く。
「そうだったんですか」
「おもくろそうデスネ」
「何言ってるんですか! 仮にもここは女子寮なんです! たとえ離れだろうが、ここに住まわせるわけには行きません! あとおもくろいじゃなくて、おもしろいね! そして、おもしろくないから!」
事情をうぐいすが説明したが、明日香だけは大反対する。ついでに、ウエンディのいい間違いも突っ込みをいれる。
「そこをなんとかお願いできませんか? 住むところがないんですし、ずっとというわけではなくて、学校の対応が決まるまででいいですから」
「べ、別にわたしはいいよ……。そんなに外に出ないし……。寮長のうぐいす姉さんが伊井って言うなら」
「私も別に構いませんデス。男の人との生活も楽しそうデス」
「絶対に反対です! どうしてもというなら、私が出て行きますから! こんな胸を触る痴漢男と一緒にはすごせません!」
3人中2人は反対意見を出していないが、明日香だけは、猛烈に反対し、本当に出て行きそうになっていた。
「先生すみません。やっぱ、俺出てきますわ」
「仁志くん、でも……」
「しゃあないですよ。もともとここに居る人の意見が優先ですから。きっと学校もなんとか対応してくれるでしょう。すいません皆さん、迷惑をかけて。特に三波さん、急に部屋に押し入ったりしてごめんね」
「い、……いいえ」
「えーと、明日香さん?」
「喜多明日香よ。名前で呼ばないで」
「ああ、すいません、喜多さん、迷惑をかけてすいません。でも俺は君の胸とかじゃなくて、本当に見ていたのは……」
「な、何よ」
「いえ、なんでもないです。じゃあ先生、お世話かけました!」
そして、太郎は出て行った。
「はぁ~。どうしよう、明日風邪とか引いてないといいけど……」
「え、先生どういうことですか?」
うぐいすのつぶやきに明日香が反応する。
「仁志くんはですね、田舎から上京してきたばかりで、行くところが無いんです。親戚や友人もこの町にいないらしくて……」
「明日香ちゃん……」
「明日香、あの人私はエロイ人だとは思いませんけど……」
「ふん! 知らない知らない! 私には関係ないもん!」
ちなみに、ウエンディは悪いとエロイを言い間違えているのだが、その突っ込みをする余裕は無かったようだ。
「よし、ここなら寝れそうだな!」
しかし男太郎、全くめげていなかった。公園の遊具の中で、決意を新たにしていた。
「これは確かに不運ではある。だが、それに見合う幸運はあった。俺の好みの髪が一気に4人だぞ。これだけの幸運があったなら、交通事故にあってもお釣りがつくぜ。宿無しがなんだ! あの4人と学校生活を共有できるんだぜ。それに学校の不手際なんだ。何か対応はしてもらえるはず」
彼は変態だが、ポジティブであった。
グゥゥ!
「そういえば、何も食ってなかった。掃除で意外と体力使ったしな。って、もう20時か。そろそろ出歩いてると通報されかねん。どっかのコンビニで調達してこよう」
そう思って、太郎は公園の外を見る。
「え、何だあの男は」
太郎の視界に入ったのは、大荷物を持って、マスクとサングラスをして、キョロキョロと辺りを見渡している男だった。
見た目が怪しすぎて、逆に疑わしくないレベルである。
「まさかなぁ……。いや、でも一応」
太郎は不安になって、後をつけていった。
女子の髪を眺める上で、気配を消すスキルを彼は身に着けていたのである。
ぶっちゃけそこまで必要なスキルでもない。