2本目 更なる出会い
「よし、綺麗になった」
2時間ほど掃除をすると、大分見れるような感じになり、住む場所にするには問題ない程度になった。
「さてと、そういえば、先生が奥の部屋見ていいって言ってたな」
腰を落ち着けようとしたところで、太郎はふと思い出し、女子寮に入っていった。
「あ、そういえば、普通に入っていいのか? まぁ話せばなんとかなるか。邪魔しまーす」
あまり深く考えない太郎は、一応挨拶をしてから入った。
特に返事も帰ってこなかったので、大丈夫だろうと思いずんずん入る。
「えーと、1階の奥、1階の奥……、あ、あそこかな?」
太郎が歩いていくと、1部屋だけ明らかに遠くの部屋があった。
「人の気配もないし。大丈夫だろう」
ガチャ。
「う、暗いな……。電気電気」
ドアを開けると、中が真っ暗で、全く何も見えず、手探りでスイッチを探すしかなかった。
「お、見っけ」
太郎が電気のスイッチを発見し、電気をつけると、視界が良好になる。
「うわ! まぶしい! 何? 何?」
「へっ?」
だが、倉庫であるはずのこの部屋からは、なぜか女の子の声が聞こえてきていた。
「誰! 誰! 何で勝手に入ってきてるの!」
「痛って」
何かが投げられたようで、太郎は頭に痛みを覚えていた。
「す、すいません。部屋を間違えたみたいです!」
「あ? その声は男? 何で男がこの部屋にいるの! 警察を呼びますよ!」
「いや、違う違う…………」
太郎はようやく声のするほうを見ることに成功するが、しかしそこで固まってしまう。
そこにいたのは、体を毛布で覆い、顔は髪の毛で覆われていて、わずかな毛布の隙間から細く白い手でものを投げている少女だった。
ただ、その髪があまりにも綺麗だった。色は闇、漆黒が似合う本物の黒色でそこだけ光が存在しないようであり、1本もカールしないで、全て重力に引っ張られるかのように、地面に向かって接している髪も乱れることなく綺麗にそろっている。
(漆黒コシヘアーだ)
「…………?」
太郎がその場で固まってしまったので、毛布少女は不審に思って、ものを投げる作業を停止する。
ギュッ。
「あうう?」
すると太郎が急に動き出して、その少女の右手を握り、驚いて少女は声を上げる。
「急にお邪魔して申し訳ないです。怪しいものじゃないです。一応うぐいす先生から許可は得ていますので」
「……、そ、そう……?」
「俺は仁志太郎といいます。君の名前は?」
「わ、私は……、詩、三波詩……」
「急に驚かせて悪かった。でも君は、俺の理想(の髪)なんだ」
「で、でも、私こんなんだし、外に出ないし……」
「大丈夫だ。だからこそ、君(の髪)は綺麗なんだ。なんなら俺が一生面倒をみてやるから……。(髪を)守るために」
詩はそのほぼプロポーズに近い発言と、それが冗談ではないことを感じさせる真剣な太郎の目で、白い肌を真っ赤にして目を逸らした。
「髪とても綺麗だね」
「で、でもあまり外に出てないから、長くなって見た目がお化けみたいに……」
「そんなことない。穢れてない綺麗な髪だ。ほら、こうして触ってるだけでも、俺は気持ちいいよ」
「…………、なんか変態さんみたいですね」
「それほどいい髪なんだよ。俺が触っても1本も乱れない、綺麗でしっかりとした髪だよ」
「詩ちゃん、ただいま~。今日は何もなかった~?」
途中からお互いに言葉もなくただ黙っていたが、その静寂はドアが開けられたことにより、奪われた。
「あ」
「……あ」
「……え?」
部屋に入ってきたのは、制服姿の女子。
うぐいす同様童顔だが、間違いなく整った顔立ちと、うぐいすとは異なり、抜群のスタイルが目立つかなりの美少女だった。
「な、な、な、なんで男が女子寮に!」
その甲高い声で叫ばれ、本来なら動揺するしかない。
(うわ、しっとりヘアーだ。しかもラビットスタイルツインテール、いわゆるエンジェルウイングツインテールだ)
その少女の髪型はツインテールであるが、ツインテールには大きく分けて3種類ある。
ツインテールの位置が耳より下ならカントリースタイルツインテール、耳周辺ならレギュラースタイルツインテール、耳寄り上ならラビットスタイルツインテールというものだ。
太郎はこの中でも、ツインテールの王道であるラビットスタイルツインテールがお気に入りである。
その王道を行く上に、別名までついており、それがエンジェルウイングというのである。
そして、その髪型をしっとりした髪の子がすることで、髪の重みによりゆらゆらと揺れる仕草がかなりつぼなのである。
つまり、太郎の目の前にいる少女は、太郎のつぼにはまるツインテールの持ち主なのだ。
「あ、すいませ」
ゴン!
詩のときと同じように説明しようとしたのだが、その前にグーで殴られていた。
「変態! 侵入者! 泥棒! いいえ、どれでなくても」
「ちょ、ちょっと待ってあげて……、明日香ちゃん」
「詩ちゃん! そんな場合じゃないの! これは危機よ! あっ!」
「あ。危ない!」
興奮しすぎて少女は毛躓いて前につんのめる。
太郎は止めようとしたのだが、さすがに至近距離すぎて対応が遅れる。
ふわっ。
むにゅん。
「あ」
太郎の向かって思い切り倒れこんでいて、少女の豊満な胸部は太郎の左手に覆われ、ツインテールがちょうど太郎の右手に納まっていた。
(すげぇ、瑞々しすぎる。オフロでも入った後なのか?)
もちろん太郎は躊躇泣く右手を動かした。
「きゃぁぁぁぁ!」
だが、少女は自分の胸が触られていると思い、叫び声を上げる。
太郎がが恍惚な表情を浮かべていたのも問題だったので、一概に太郎が悪くないとも言えない。
「ウエンディ! こっちきて」
「なんデスカ~。わお! シュバラ?」
太郎の視界に入ってきたのは、ウエンディと呼ばれる金髪少女だった。
(あ、あの子も……、金髪で……、ふんわりヘアーで、細毛で……、ああ、ここは天国だったのか……)
「シュバラじゃなくて、修羅場よ! いえ、修羅場でもないわ! 痴漢よ痴漢!」
「痴漢! つまりスケベな男? 成敗デス!」
その金髪少女の一撃がいいところに入り、太郎は気を失ったが、とっさに受けようとして触った金髪は、まさに毛布のようなふんわりヘアーで彼は笑顔を浮かべて気絶した。