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19本目 放課後の買い物デート?

「今日は詩ちゃんがちょっと体調悪いみたいだから、俺が料理当番やっとくけど、洗濯とかは喜多がやっといてくれるか?」


「ええ、それでいいわ。でも明日は私がやるからついでに明日の分も買い物を一緒に行きましょ。男手があったほうが、早くことが片付きそうだし」


「ああ」


太郎と明日香が登校中にとりとめもない会話をする。


男子と会話をほとんどしていなかった明日香が、いくら生活空間をともにしているとはいえ、これだけ特定の男子と話すことは珍しい。


と、なれば、女子の興味は1つになる。


「なんか最近明日香変わったわよねー」


「え?」


明日香が昼に仲のいい友人と3人で昼食をとっていると、そのような話題を振られる。


ちなみに、昼食時は太郎やウエンディと一緒にいることはない。


太郎は言わずもがなだが、ウエンディも毎回朝と夜は食卓をともにするので、あえて昼は違う友人と過ごすことが多いのである。仲が悪いわけではない。


「うん、そう思う。中学のときから付き合いあるけど、何かくだけてきたというか、明るくなったっていうか」


「そ、そうかな?」


明日香は心当たりがないのか、首をかしげる。


「うん、転校したての頃は大変だったよね~。なんか死んだ目してたし、声も低かったし」


「今思うと、こっちも意地になってた感じだったもんね。絶対仲良くなってやるって感じで」


「そのことは忘れて……」


明日香の黒歴史である。


「仲よくなってからは、ちょっと男の子と話さないのと、あまり自分からは遊びに誘わないことくらいしか気にしてなかったんだけどさ。最近、明日香のほうから寄り道を誘ってくれたりするじゃん」


「え、私って、寄り道してなかったっけ?」


「ううん、誘えば来るよ。でも絶対に自分から言い出すことはなかったもん」


「あ……そういわれればそうか」


明日香としては、誘われれば絶対に寄り道や遊びに付き合っていたので、自分自身が付き合いが悪いとは思ってなかったが、確かに良く考えれば自分から友人を遊びに誘ったりすることは無かったことに気づいた。


「それってやっぱあれが原因?」


「原因って?」


「仁志くんでしょ?」


「ハァ!?」


明日香含めて、視線が太郎を向く。


「そうだよねー、男嫌いは相変わらずだけど、仁志くんとだけは仲いいもんねー」


「そ、そんなこと無いわ!」


「でも、朝違う友人からの情報をもらったけど、今日一緒に買い物行くんでしょ~。デートじゃん」


「ち、違うわ! あれは寮生活をする上で必要なことだから!」


「でも、前までの明日香だったら、絶対1人で買い物するか、せめて別行動でしょ?」


「やっぱ、明日香が変わったのって、仁志くんでしょ。恋は人を変えるって言うしね」


「ば、バカなこと言わないで! 誰があいつのことなんて!」


明日香は顔を赤くして、必死に否定する。


「まぁ恋については冗談だとしても、やっぱりきっかけは仁志くんでしょ」


「男子との口げんかも明らかに減ったもん」


(……、全然自分じゃ分からなかった……、仁志君のおかげ……? せい……? で私が変わったの?)


明日香は2人の言葉を受けて、改めて自分を見直してみた。


確かに太郎と一緒に買い物しようと、自分から言っているし、最初の頃のような不快感もない。


引きこもりがちな詩や、男子へのガードが割りと固いウエンディが、嫌っていない時点で悪い人ではないことはもう理解している。


(それでも違う! あんな男を私が好きになるわけ!)


冗談だと言われたのに、いつのまにか恋についてまで心配してしまうのは、そこら辺の経験が少ないからであろう。


「おーい、喜多。今日俺さ、放課後に用事できたからさ、一緒に買い物行くんなら待っててくれるか?」


「ひゃっ?」


そんなもんもんとしているところに、急に話しかけられたものだから、普段出ないような声が出てしまった。


「ん? どうした?」


「なんでもないし!」


「そっか、で、どうする?」


「待ってるわよ! そんな何時間もかかるわけじゃないでしょ!」


「あ、ああ、長くても20分くらいだと」


「それくらいなら、言わなくてもいいから!」


「あ、ああ。悪かった」


(うーん、やっぱ怒ってるときの髪が1番いいな)


明日香は感情が高ぶると、声もそうだが、動きも激しくなる。


それで揺れるツインテールに、太郎は夢中であった。


ちょっとでも怒られそうな要因があれば、太郎は明日香をある程度不快にしない程度には怒らせることがある。




「おっす、明日香待たせたな」


「べ、別に待ってないわ」


「悪いな。どっちにしても、誰かに一緒に来てもらおうかと思っててさ」


「な、何で?」


「前に買い物に来たときさ、1番近くて大きいスーパーにいったんだけど、俺の田舎のちっこいスーパーとはレベルが違いすぎて、何買えばいいかわかんなくてさ。先生は忙しいし、詩ちゃんは外には出ないんだろ? ウエンディか喜多しか厳しいと思ってたからさ。ウエンディに頼むつもりだったけど、朝喜多から言ってくれてうれしかったぜ」


「それくらいなら、言ってくれれば付き合ったのに……」


「でも喜多にこっちから言ったら、『誰があんたと2人きりで!』とか言われそうでさ」


「うぐっ」


明らかに否定はできないので、明日香が口ごもる。


確かに太郎側から誘われていたら、結果的に付き合うことになったとしても、あっさりとはいと言えたかというと自信がなかったので、全く反論できなかった。


「まぁ、それでもありがとな。ウエンディだとなんか適当っぽいし」


「ウエンディは別に適当じゃないわ。ただ、あまり好きじゃない野菜は絶対に買わないから、肉類中心になるところが困り物だけどね。あと、うぐいす先生は、あまり料理が上手じゃないから、買い物もちょっと下手ね。詩ちゃんは料理は上手だけど、買い物は物理的にできないわね」


「その辺考えると、喜多で良かったよな。じゃあ頼むぜ」


「ええ」


ウィーン。


スーパーに到着し、太郎が買い物のカートを押して入店する。


「おお、2回目だけどでけーな」


「2回目なら新鮮に驚いてるんじゃないわよ。さっさと済ませましょ。せっかく2人いるんだから、大目に買っときましょ」


「さてと、詩ちゃんに一応必要そうなものは聞いといたけど……、まずは米か?」


「お米はこれでいいわ。いつものやつがこれなのよ」


明日香が5キロのお米を抱えて籠にいれようとする。


「それでいいのか? 誰かお米にこだわりのある子がいるのか?」


「別にないけど……、何で?」


「いや、前のときは米を買う必要は無かったから気にしてなかったけど、こっちの方が安いじゃん」


「ふーん、でもこのお米いわゆるコシ○カリとか、あきたこ○ち的なブランド物じゃないわ。大丈夫なの?」


「ああ、これは俺の親戚がよく出してくれたご飯だ。安い割には美味しくて、おススメだぞ」


「へー。あんた味覚音痴とかじゃないわよね」


「少なくとも、田舎育ちの俺は添加物に侵されてないから、普通程度はあると思うぞ」


「へー、じゃあこれにしてみようかしら。安く済むならそれに越したことはないし」


そして、明日香は自分の持っていたお米を戻して、太郎の薦めた米を選ぶ。


「えーと、次は野菜野菜……」


お米の次は生鮮野菜コーナーに向かう。


「大根はこれがいいかしら?」


「ああ、それだろ。身も締まってるし、大きすぎないしな」


「あんた割りと詳しいわね。ウエンディもうぐいす先生も何回説明しても、大きいのか太いのか選んでくるのよ」


「俺は買い物を田舎でしてることも多かったからな。ある程度は分かる。でも、都会のスーパーでも結構いいもんがそろってるんだな」


「ここのスーパーは大きいからね。安さを押したものから、品質重視まで多くそろってるもの」


「喜多って意外に家庭的なんだな。あのメンバーじゃ1番荒っぽく見えんのに」


「意外って失礼ね!」


「褒めたつもりだったんだけどな」


「一言多いのよ。ふん」


そして、首をひねって頬を膨らませる明日香。その動きを見て、髪をまた眺める太郎。


一見すると制服姿の学生カップルがいちゃいちゃしているようにしか見えないが、周りは基本的に奥様ばかりなので、目線が暖かく、2人がそれに気づくことはなかった。


「大体買えたわね。あら」


「どうした喜多」


籠にものが一杯になったところで、明日香が何かに気づいて立ち止まる。


「カレールーがめちゃくちゃ安い。どういう原理でカレールーが安くなるの?」


「いや、原理とかねーだろ」


「だって、カレールーって、日持ちもするし、基本的に人気もあるから、賞味期限切れサービスとかもないもの。これは逃す手はないわ」


「カレー好きなのか?」


「好きとかそういう次元じゃないわ……」


(おお、怒りよりもさらに揺れてる。これは喜怒哀楽の楽の感情か?)


はしゃいで、自然と体が跳ねている明日香は、髪が上下に揺れていた。


普段首を振って横に揺れる動きと比べて、不規則な動きは、また太郎の目を釘付けにする。


「普段だと俺の家はクク○カレーだけど、女子寮はどんなのだ?」


「女子寮も一緒よ。時々熟カレーも選ぶけど……」


「期限も全然余裕あるし……。あ、でも1人1個までか。とりあえず、クク○カレーは確定としてと、お、これいいんじゃね?」


太郎が手に取ったのは、カラフルなカレールーの箱の中で、全体的に真っ黒なパッケージが異彩を放つクロカネカレーと書かれたものだった。


「……くやしいけど、私もそれがいいと思ってたの。前から1度食べてみたかったけど、高いし、味が分からないから、勇気がなくて……」


「じゃあそれにすっか」


「ええ」


そして、無事に買い物は終わり、いい買い物ができたということで、明日香は常時笑顔で、それを女子寮に戻って指摘されるまで気づくことは無かった。

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