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17本目 金髪好きな男 北斗ルイジ




「いやー、実にいいね。感謝しているよ」


「なんか知らんが、喜多がおだやかになってくれたからな。家に友人の写メール送るって言ったら、取らしてくれたぜ。さすがにカメラでは取れなかったけどな」


太郎と明日香の関係は、かなり劇的によくなり、太郎の提案を飲んでもらえたので、ようやく銀次郎の望みをかなえることに成功した。


「いやいや、十分だ。しかし、いい顔をしているね。学校では見せない顔だ」


「喜多は写真を取られるときは結構いい顔になるらしいんだ。絶対門外不出にしてくれよ。ばれたら、関係悪化どころじゃないからな」


「もちろんだ。これだけいいものはきっと君とボクしか持っていないだろう。特別感が欲しいからね」


太郎はまた銀次郎の写真部でのんびりしていた。


「しかし、この全体写真はすばらしいな。この子は軟背教諭の従姉妹の詩君だったかな?」


「知ってるのか?」


「ボクはずっと明日香君のことをチェックしていたからね。彼女の知り合いなら大抵分かるよ。学校では見ないようだがね」


「まぁ、いろいろあんだよ」


「そこはボクのたずねるところではない。んー、これはウエンディ君の写真か。彼女もショートヘアーだが、珍しい天然物の金髪だから、興味深くはある」


銀次郎と太郎は太郎の携帯の画面を見つつ、2人で感想を言い合っていた。


「この写真もボクのパソコンに入れていいかな」


「ウエンディのか? でも銀次郎は確か喜多みたいな髪が好みだろ?」


「これはボク用ではないよ。あ、そういえば今日は活動はしてないかな? 連絡してみよう」


銀次郎は電話を取り出して、連絡をとる。


「あ、もしもし、銀次郎だ。ああ、いいものだ。もしよければ……。ああ待ってるよ」


ピッ。


「誰に連絡してたんだ?」


「ああ、ボクと君と同じ同士だよ」


「へ? でも確か写真部に所属してるのは1人じゃなかったか?」


「彼はボクと違って多忙だから。なんでも運動ができて、人数が少ない部活の助っ人をしてることも多いから」


「まじかよ。同い年か?」


「ああ、1年生だよ。中学の頃から抜群の運動神経を持ちながら、特定の部活動には所属しない自由人だ」


「やぁ、銀次郎!」


そんな話を太郎と銀次郎がしていると、1人の男子生徒が写真部に入ってきた。


175センチ近い太郎より身長こそわずかに小さいが、整った顔立ちと、全体的にすらっとしたスタイルに、健康的に焼けた肌はさわやかさをまさに体現している。


「よく来てくれたね。彼が今回、いい写真を持ってきてくれた仁志太郎くんだ」


「いやぁ始めまして。1年の北斗ルイジだ」


「あ、はい、はじめまして。さわやかですね」


「はっはっは。君もなかなか悪くないよ」


まぶしい笑顔に白い歯がまぶしい、まさにモテそうな男という感じである。


「じゃあこれをどうぞ」


「おおぅ、さすがの金髪だ。たまらないね……」


だが、太郎の持ってきた写真を銀次郎がプリントアウトしたものを渡すと、そのイケメンが台無しになるほどのニヤニヤ顔で写真を見つめていた。


「おい、この北斗くんだっけ?」


「おいおい、同士なんだから、名前で呼んでくれたまえ。太郎君」


「じゃ、じゃあルイジ君だっけ。彼はショートヘアーが好きなのか?」


「いや、違う。ルイジくんは金髪フェチだ。しかも、その金髪を洗髪することへのフェチだ」


「えらいピンポイントだな」


「そう、金髪は髪として神がかっている。最初は見るだけでも満足だったが、あのふわふわでキューティクルがかかった猫のような毛に手を突っ込んでわしゃわしゃしたい衝動に10歳頃に駆られるようになった」


「まぁそれは分かる」


普通に人が聞くとややドン引く話ではあるが、髪フェチの太郎には気持ちは十分理解できた。


「うん、もうそれだけで僕はうれしいよ。銀次郎が同士というのだから、信用はしていたが、その一切疑いの無い目は安心する。だがね、僕が触ると、それだけで髪は痛んでしまうんだ」


「それもすげー分かるぞ。俺はそれが嫌だから、基本的には触らないんだ」


「僕は頑張って努力して勉強もスポーツも学び、そして英語を覚えて、金髪の外人と会話ができるチャンスを待ち続けた。加えて、僕の叔父がヘッドスパ専門店を経営していて、そこで練習もさせてもらったんだ」


「えらい本気だな」


「こういうことをやっているから、スポーツマンなのに、特定の部活には入れず、基本的には多忙なんだ」


「ああ、なるほどな」


「それで、タダとかでもいいからってことで、お客さんの練習もさせてもらって、英語ができるから、実際に金髪の外人を相手にすることも成功したんだ」


「すげぇじゃん。じゃあもう願い叶ってるじゃないか」


「いや、そうでもないんだ」


「へ?」


「金髪の外国人というのは、結構居るけど、さらっさらの髪を持っているとなると、なかなか出会えないんだ。本当にしっかりケアをする人は僕はやらせてもらえない……。だが、この学校で理想の金髪を見つけたんだ。それが、ウエンディさんなんだ!」


ちょいちょい。


「うん? どうしたんだい?」


太郎が銀次郎を手招きして側に呼ぶ。


「この人は大丈夫か? 危害を加えるようなことはないだろうな?」


「ははは、心配しないでくれたまえ。彼は行動がボクたちよりアグレッシブなだけさ」


「なんだい。そんな心配をしていたのか。まぁ。一般的には髪に欲情して、勝手に触ったり切ったりするような輩は確かに存在する。そして、そんな人間のせいで、僕たちのような変わった性癖を持っている人間は、マスコミから犯罪者予備軍にされて、日陰者の暮らしを余儀なくされるのさ」


「なんとなく分からんでもない」


太郎はある程度オープンにしてはいたが、友人には変わり者扱いされていたし、納得はされても理解はされていないことはよく分かっていた。


「だが、ここではそういう心配はない。髪を愛するものは、その愛する髪を持っている存在含めて、傷つけてはいけないんだ。それは基本的に自由に髪への愛を叫ぶ我々がただ唯一犯してはいけないものだ。もちろん、僕もウエンディさんをこっそり襲うとか、だましたりするつもりなど髪の毛だけに毛頭ない」


「なんでちょっとうまいことを言ってんだよ」


「というわけで、ルイジ君にも写真をあげることに反対はないかね?」


「ああ、別にいいよ」


「おお、ありがとうありがとう。お礼にこれをあげよう。是非ウエンディさん達にあげてくれたまえ」


「なんですかこれ」


「保湿効果の高いアミノ酸シャンプーと、有機ゲルマニウム配合のヘアローションだよ。実際に店でも使ってるんだけど、数が多すぎるのは処分することもあるから、安くもらってきたんだ」


「いいのか? ルイジからあげたほうがいいんじゃないのか?」


「いいんだ。いきなりがっつくと、ひかれるかもしれないし、もしこれをウエンディさんが気に入るようだったら、店のことを紹介してくれるくらいでいいよ」


「そっか。じゃあさっそく聞いてみるわ」


そして太郎にはまた同士が増えた。

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