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0本目 理想の髪を求めて

「なーなー、お前は誰がいい?」


「俺か? 俺はダントツで4組の向井だな。あの胸は反則だろ」


「俺は足が綺麗な2組の鈴木かな?」


「いや、5組の高橋だろ。笑顔も可愛いし、気も利くだろ」


とある田舎の中学校。男子生徒4人か固まってたわいもない話をしている。


よくある思春期の男子のトークであり、別段珍しくも無い。


「やっぱみんな狙いは一緒か~。じゃあ太郎、お前は?」


「俺はな、1組の山田だな」


「「「へ???」」」


太郎と呼ばれた少年は、名前を仁志太郎と言う。


彼の発言に他の3人はさきほどまでの盛り上がりから一転、困惑の表情となる。


「おいおい、太郎本気か? 山田って、見た目小学校1年生みたいだし、しかもバカなんだぞ」


「そんなもんどうでもいいんだよ。この学校の中なら山田がダントツで髪が綺麗だろ?」


「髪?」


「ああ、見た感じ手入れはしていないんだろうが、それが逆に髪を傷めていない。多分親が綺麗好きなのと、あまり紫外線を浴びるようなことをしてないんだろう。ただ惜しいのは、黒髪の大和撫子ヘアーにしては、やや毛が細いせいか、太陽の光を浴びるとやや茶色がかるところと、わずかに跳ねてるところが俺としては惜しい」


「どんだけ見てんだよ」


「じっくり見たに決まってんだろう。あとちょっとだけ触ったんだが、わずかに枝毛があった」


「何さらっと触ってんだよ」


「まぁ確かにさらっとした髪ではあったな」


「はぁ、お前はなんでそんなんなんだよ」


「ははは、まぁあきらめとけよ。こいつは女子を髪でしか見てないんだ」


4人の周りに、また他の男子生徒が来て説明をする。


「もったいねーな。太郎は顔も悪くないし、服とか見た目とか気遣ってんの仁」


「そりゃそうだろ。髪をじっと眺めたり触ったりする以上は、不細工で見た目が悪かったら女子に悪いだろ」


「成績も悪くねぇのに」


「そりゃ頭の悪いやつに髪を見られたくないだろう」


「お前まさか」


「ああ、髪を眺めても女子から不審に思われないように、努力した」


太郎は、とてつもないほどの女子の髪フェチなのであった。


見た目をさわやかにして、成績上位をキープしたのはそのためなのである。


同じ髪を眺めるたり触られたりするにしても、どんよりした地味な男子よりは、さわやかなほうがいいだろうと、バカよりは、成績上位のほうがいいだろうと。彼の行動原理は自分の欲望のため。自分の好きな女の子を眺めるためなのである。


事実、元々見た目が不細工というわけではなかった彼は、女子を眺めていても、あまり女子に敬遠されることはなかった。


彼の目線は胸とかお尻とか顔ではなく、基本的には髪。つまり彼は女子をいやらしい目線……、いや、ある意味ではそういう目で見ているのだが、目線が高いので、がっついている感じを与えないためか、むしろ他の男子より好意的に見られている傾向にあった。


「こいつこの前、高橋に告白されてたんだぜ。断ってたけどな」


「なんだと!」


「なんで断ってんだ! いや、断ってくれていいんだが」


「だって髪染めてんじゃん。それだけで髪が痛んでんだぞ」


「まじかよ。髪以外にはないのか……」


「どうなんだろうな。昔からそればっか見てたからな」


太郎は他の男子の質問に首をかしげる。彼には髪以外で女子の好みを判別する手段がないのである。


「まったく、それだけ好きなら、とりあえず付き合って、触ればいいじゃないか」


「何言ってんだ! そんなことできるわけないだろう!」


男子の1人の発言に、太郎は本気で怒る。クラスがちょっとざわつくぐらいに。


「あ、ああ悪かった。そうだよな。好みでもない女子の告白を受けるなんて」


「いねぇんだよ。この小さな町には完全に俺の理想を満たしてる髪は」


「そっちか……」


「実際、太郎の好みの髪ってどんなのだ?」


若干引き気味になりながらも、太郎にさらに尋ねる。


「ん? そうだな。ほとんど茶色くならない闇色みたいな真っ黒で、重力への抵抗が全く無いコシのある髪か、常に水に濡れているようなしっとりとした髪か、金髪でキューティクルのある細い髪か、あとはシルクみたいなふんわりとした手に全然絡まない髪かな」


「条件厳しすぎだろ」


「金髪とか、染めてるの駄目な時点で外人確定だし」


「しかも、さっきの山田への発言を考える限りだと、ちょっとでも駄目ならアウトなんだろ」


「じゃあ髪さえよければ、後はどうでもいいってか」


「ああ!」


「言い切りやがった」


「だから俺は今まで恋をしたこともない」


「威張れる発言でもねぇぞ」


発言がどう考えてもどうかしているのだが、考え方はある意味純愛なのだろう。


「まぁ、太郎は来年から都会の学校に行くからな」


「それは聞いてたけど、まじかよ」


「ああ。お袋に無理言ったけど、なんとかな」


彼らは中学3年生で、既に受験も終えて進路を決めている。


この地方では、皆同じ高校に通うことが多いが、たまに都会の高校にいく生徒もいるにはいる。


「いろいろ大変だと思うぞ。都会は。そこまでして何をするんだ」


「俺は都会に期待してるんだ。もっと世間を見てみたい。俺の理想の髪を持った女にはまだ出会っていない。俺はそれを探しにいきたいんだ。きっと都会なら、いるはずさ」


「「「「やっぱりそうか!!!!」」」」


全員から総突込みを受けても、彼はどこふく風だった。

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