結婚
「……デュラン、君は百年前に亡くなった剣神デュラン・ライオットの生まれ変わりかい? 答えたくなければ答えなくてもいいけど」
「――俺が生まれたときから知ってたよな、前世と同じ名前であるデュランって名付けたんだから。今さら改まって訊くようなことなのか?
髪と目の色が黄色だから気がついたんだろ、光竜ライオード以外だとこの色を持っているのは俺だけだからな」
クラインハルト家の庭で父親であるレウスへそう投げやり気味に告げたデュランは生まれ変わってからもう五年も経つのにも関わらず、何故今さら前世のことを訊いてくるのか分からなかったが。
レウスは無駄なことをしないことをよく理解していたため、そう質問してみると――
「アンナと相談して決めたんだ。デュランの自意識がハッキリするだろう五歳の誕生日までデュランのことを剣神様じゃなく、ただの子供として育てようってね。
デュランの前世が誰であれ、今はボク達夫婦の子供なのだから特別扱いしたくなかったんだ。家族だから」
――という予想外の言葉が返ってきたため。デュランはポカンと大きく口を開けた後、腹を抱えて笑い出した。
何故デュランが笑っているのか分からなかったレウスは困惑していたが、しばらくして笑いが収まったデュランが「レウス達はやっぱりいい親だな、結構好きだぜそういうところ」と言ったのを耳にすると頬を紅く染め上げた。
……憧れの剣士であるデュランからの言葉がクリーンヒットしたようである、可哀想に。
「まあ、何はともあれ訊いてきたってことは何かしらあるんだろ、国へ報告でもするのか?」
「……鋭いなデュラン、その通りだ。伝説の剣士の生まれ変わりがいるだなんて世間に知れたら大事になるからね、この五年間はまだそうとは確定していなかったから国へは報告しなくとも問題はなかった。
だけどデュランが剣神様の生まれ変わりであることが分かったからにはもう隠すことはできない、ボクも剣帝の一人である以上はね」
「剣帝? ……あぁ、俺が創った剣士に関する制度の最高階級だったか、百年も経つのにまだ続いてたのか。
この分だと俺に関する祭りとかも続いてそうだな、面倒くさい」
デュランはそうしてため息を吐きながらもアリス達と会えるのであればまた祭り上げられるのも一興かと思ったが、よくよく考えたら別にアリス達と会うだけだったら祭り上げられる必要性はないなと判断してレウスへ「じゃあ、今からウィンクルム連合王国へ行こう」と言った。
「えっ、何故だい。普通に神聖プライド王国へ報告を上げればよくないかい?」
「このことを知っている人間が増えれば増えるほど大事になるからな、直接会った方が早い。
剣帝は確か剣神に会える権利を持っているだろ、午前中で許可を取ってきてくれ」
「分かった、デュランはその間どうしてる?」
「修行してる、少しでも早く前世の水準まで戻したいからな」
そう話してレウスと分かれたデュランは木刀を手に修行を再開するため意識を集中し、前世の自分自身であるデュラン・ライオットの最も強かった時期の現し身を光属性の魔力を使ってその場へと創り出した。
――そして一瞬で移動した現し身に弾き飛ばされ、木の葉のように空を舞った。
「ッ!! ――まだだッ!!」
デュランは木刀で現し身の攻撃を完璧に受け流した上で余波だけで意識を刈り取られかけたことを驚くこともなく、空中で体勢を立て直すと光属性の魔力で創り出した足場を蹴って突撃した。
現し身は向かってくるデュランを叩き落とすため木刀を上段に構えているがまず間違いなくアレはブラフだろう、何故なら現し身は今の弱体化したデュランとは違って斬撃を飛ばせるのだから待ち構える必要性はない。
それでも上段に構えたということは――
『嵐流刃――嵐』
「――そいつを待ってたぜッ!!!」
――気合いで叩き落とした上でデカいのをぶち込んでくるッ!
デュランは現し身の気合いを気合いで相殺してから木刀を足で挟みながら両手へ魔力を集中し、目の前へ迫る巨大な砲撃の側面を滑った。
そのまま現し身の至近距離まで辿り着いたデュランは足で斬撃を放ち、現し身の木刀を斬った。
「しまっ――」
デュランが現し身が木刀を囮に使ったと気がついた時、もう腕を掴まれておりどうしようもなかった。
将棋やチェスで言う王手をかけられたデュランは地面へ叩きつけられて気を失った――ふりをして反撃しようとしたが。
油断のない現し身に首の骨を足でへし折られ、今度こそ意識を失った。
「アハハッ、負けた負けた! やっぱり前世の俺は強いな!!」
『……戦闘狂にもほどがあるだろう、それだけ退屈だったのか。体を動かせない十年間は』
「まあな、当たり前に出来るはずのことが出来ないのは辛かったぜ。仮に無理をする前に戻れても同じことをするけどな!!
――それじゃあ、もう少しやろうぜッ!!」
『……やれやれ』
現し身が首の骨を元通りに治したことで息を吹き返したデュランは現し身とそう会話を交わした後、地面から木刀を拾い上げて構えた。
光属性の魔力で木刀を元に戻した現し身は今度は斬撃を飛ばしてデュランを斬ろうとしたが、デュランは最小限の力で斬撃の軌道を曲げて突っ込んでくる。
現し身は前世の五歳の頃よりもはるかに強いと思いながらもアリスと出会う前は惰性で修行していたのだから当たり前かと思考を打ち切り、デュランの修行相手として全力で闘った。
そしてデュランは結局今日も現し身へ一太刀も入れることが出来ず、百回ほど意識を失った。
……死ぬことが前提の修行とか頭おかしいだろ、イカれてらぁ。
「――でゅ、デュランッ!? 可愛いっ!!!」
「……前よりも更に綺麗で美しくなったな、アリス。素敵だ」
デュランは百年経ってエルフとして大人となったアリスの姿が見られて嬉しかったけど、可愛いと言われるのは不服だったが。褒められてるんだし、別にいいかと思考をぶん投げた。
それはそれとして本当に美しくなったと。アリスの顔を見つめながら短く息を吐いた後、今度はこちらからプロポーズするためアリスの手を取った。
「アリス……俺はあなたのことが大好きです、愛しています。
必ず幸せにすると約束します――もう一度俺と結婚してくれませんか?」
「――はいっ、よろしくお願いします」
デュランは自身がまだ子供であることを承知の上で今プロポーズした。
何故ならこれほど素敵なアリスを狙う男が多いだろうと予測していたため、一分一秒だろうと先延ばしにしたくなかったのだ。
……ちなみにアリスはどこぞのボケナスのせいで脳を焼かれているため、そんな可能性は一欠片もありません(笑)
「アリス、結婚式は十年後にしよう。式場の場所はどこにする? 新婚旅行はどこへ行きたい??」
「そういうのは別にいいよ、僕はデュランが一緒にいてくれるだけで嬉しいから」
「いや、どちらも絶対にする。前世ではどちらも出来なかったからな」
デュランがそう言い返すとアリスは苦笑しながら分かったと短く返事をし、式場や旅行先へついて悩んでいるデュランの顔を見つめながら嬉しそうに微笑んだ。
周囲で二人を見守っていたレウス達もよかったとため息を吐き、幸せそうな二人の姿を見守った。
「待ってくださいお父様! 今結婚するのは早計じゃありませんか!! もっと好きな人が出来るかも知れないじゃないですか!!!」
「絶対にないから安心してくれ、ステラ。それと今少し忙しいから話しかけないでくれ」
「――ガッ!??」
若干一名。目の前の状況が全然よくない人物がいたが、デュランに言葉で斬り捨てられて崩れ落ちた。
恋している相手であるデュランからの拒絶はメチャクチャ効いたようだ、床の上でピクピクと震えている。
「父上、ステラは私が連れて行くのでお二人でゆっくりしてください。
レウス様達も隣の部屋でゆっくりとお茶でも飲みましょう、ついてきてください」
「あぁ、頼んだ。レウス達もまた後でな」
「……もう息子が結婚しちゃったよ、まあ知ってたけど」
「えぇっ、私達の子供ですものね!!」
首を掴まれて引きずられるステラはラブラブなレウス達の姿で追加ダメージを受けて気絶し、そんなステラを無視してデュランとアリスは様々な話に花を咲かせている。
……デュラン達は娘であるステラへ対して少し薄情かも知れないけど、ステラは過去に色々とやらかしているから仕方ないねww