ケース1 谷原公人 48歳 会社員の場合 ①
まだ前置きです
選挙から1週間経った日曜日。休みを家で満喫しているとチャイムがなった。一緒に暮らす妻が外出していることを思い出し玄関を開けるとスーツを着て妙にニコニコしている若い女とがっしりとした警察官が立っていた。
若い女が谷原の顔を確認すると口を開いた。
「谷原公人さんでお間違いないですね?」
「はい、そうですが…」
谷原が怪訝そうな顔で2人を見ていると警察官が谷原の前に立ち手錠を取り出すと、
「谷原公人、国政選挙法違反の罪で逮捕する」
谷原の両手首には手錠が嵌められていた。
「はぁ!?逮捕ってなんだよ!?」
ため息をつきながら若い女が質問をする。
「谷原さん、あなた投票にいきませんでしたよね?」
「ていうか、警察はともかくあんたはなんなんだよ」
「申し遅れました、わたくしは内閣府特務班の白雪小梅と申します。今回の選挙で選挙権を行使しなかった方へのペナルティーの通達に参りました」
「して谷原さん、先ほどの質問にお答えいただけますか?」
「その日は得意先とゴルフの予定だったんだ。行ってない。それがなんだってんだ!?」
「ほうほう、当日は予定があっていけなかったと。期日前投票には行かれなかったんですね」
「仕事してるんだ。行ってる暇なんてない」
「一応今回は公示の日からいつでも行けるようにしてたんですがねぇ」
「そんなこと知るか!それに俺は今まで一度も投票なんて行ったことないんだ!政治家なんて信用してないからな」
「左様でございますか。これはかなり深刻ですねぇ」
「何がだよ!?というかはやく手錠を外せよ!」
谷原は今にも暴れ出しそうであったが手錠に繋がれた紐を警察官が握っており何かをしようとすればすぐに抑えられてしまうのは明白であった。
それでは、と白雪が切り出した。
「今回のペナルティーをご説明いたします。谷原さんにはこれから選挙権を行使する重要性を時間をかけて学んでいただきます」
「さっきも言ったが仕事があるんだ。お前らにやる時間なんかないぞ」
「ご心配なさらず。これから暫く仕事をする必要なくなりますから」
「は?」
困惑する谷原をよそに白雪は笑みを崩さず続ける。
「谷原さんは選挙権を得てから一度も行使をしていませんね。それも自分勝手な理由で。なので選挙の大事さを時間をかけて学んでもらうためにこれから幼稚園の年中さんになってもらいます」
「何を言いだすかと思えば、からかっているのなら他所へ行ってくれないか」
「まぁ、論より証拠です。じゃいきますよ」
そう言い白雪が指を鳴らすと辺りが眩い光に包まれた。
ようやく本題です