はるかぜの出会い
初めまして!
今ここを見てくださっている方々、本当にありがとうございます。
小説自体が初投稿ですので、不備がたくさんあるかもしれませんが、よろしくお願いします!
それでは、どうぞお進みください。
新入部員には片うさ耳がはえる。
耳機嫌症
世界でごく稀に発生する奇病。
産まれた時から自ら持った感情によって反応する、人間以外の耳が存在している人間、またはその病気。
普段は変わりないが、ある特定の感情が芽生えると、頭やこめかみに生えるというもの。
生える耳も多種であり、その動物によってどの感情で生えるのかがかわる。
耳機嫌症一覧
現在確認できる事項のみ記す。
ライオン…自信がわく、勝利感、成功
ゾウ…平和を感じる、喜び、退屈
ウサギ…寂しさ、孤独、恐怖、危機感、劣等感
窓を開けるとそよ風が心地よさを運んできてくれる…とでもいっておこう。校舎の周りに植えられている桜の木から、ひらりと花びらが舞い降りる。その花びらが、ある男の頭によりそう。
「春の初めはのんびりできなかったからな…。今日ぐらいはいいよね」
その男は一人、校舎の片隅にある部室で窓の外をぼーっと眺めている。
床はそよ風のせいで紙が散らばり、机の上もごちゃごちゃしてしまっている。が、今のこの男には目にもはいっていない。
「はあ…。のどかだ」
彼は八重野九十九。
私立家慶高等学校二年生。
そして、この春からたった一人でのスタートとなる『新聞部』の部長だ。
「バレー部で一緒に青春しませんかー!」
「バドミントンをやってみない?」
「自宅警備部に入って、君もニート生活はじめよう!」
校舎の外では、毎年恒例の部活動勧誘が盛り上がっている。
家慶高校は部活のマンモス校と言われるほど部活動が盛んだ。その数高校ながらに120種類。全国大会に毎年出場しているサッカー部はじめ、人数や規模に関わらず多くの部がそれぞれの活躍をしている。のびのびと自分たちのペースで進めている部活もある。
彼、九十九がいる新聞部もその内だ。
しかし、九十九の耳も勧誘の声は入ってきていた。九十九は体をひょいと起こす。
「さて、みんな頑張ってるんだし…。そうだな、次の話題は部活動新入生争奪戦だね。よし、ちょっとのんびりしたらやる気出てきた。取材許可を取れるとこから取っていこう」
体を起こした九十九は早速活動に取り掛かろうと準備をはじめる。
と、その時
ビュウ!
「うわっ!」
強いはるかぜが部室の中に入ってきた。そのはるかぜはぐちゃぐちゃになっていた床や机をさらにぐちゃぐちゃにして去っていった。
「…まずは片付けからか…」
がっくりしながら床に散らばった紙を拾いはじめる。
しばらく紙を集めていると、見慣れない内容のプリントが紛れていた。そのプリントには、
新入生部活動入部、仮入部(体験)について
とかかれていた。
「これ去年のじゃないよな。もしかして風で運ばれてきちゃったか?」
九十九はプリントを拾い、整理された机の上に置く。そしてまた部室の整理に戻る。
このプリントがこれから出会う誰かのものとも知らずに。
「ふぅー。やっと終わった。どんだけぐちゃぐちゃになってたんだろ」
部活動勧誘も聞こえなくなった夕方、ようやく部室の整理を終えた九十九は、椅子の上で力が抜けたようにへなっとしていた。
「整理はいいけど、このプリントどうしよう。こういうのって部活興味ない人は絶対捨てるプリントだよねぇ…。んー、まあいいか。帰るついでに一年担当の先生に渡しておこう」
九十九はカバンとプリントを持って部室を出ようとする。
コンコン
先ほどのはるかぜと同じように、唐突に部室のドアがなる。
「おかしいな。もう下校時間なのに」
そう思いつつも、開けないわけにもいかないので、はーいといいドアを開ける。
そこには、ひとりの女生徒が立っていた。制服のバッチを見る限り、一年生だ。
「あの、新聞部にご用ですか?」
きたからには何かあるのだろうと思い、いつもお客を向かえるように声をかける。しかし。
「…」
その女の子は俯いて何も喋らない。新手のいたずらか?とも感じたがもう一度声をかけてみる。
「…?どうしたんですか?」
それでも俯いたまま何も話さない。用事があったのではないのだろうか。もう下校時間なので早く帰らないと先生にどやされるのが面倒だ。かといって彼女を強く責めるようなことはしたくないし…。
九十九は悩んであごに手をあてると、あることに気づいた。
(この子…。もじもじしてる、というよりか震えてる?)
彼女がここにきてからそんなに時間は経っていない。緊張にしては少しおかしくないだろうか。具合でも悪くなったのだろうか。
「あの、体調を崩しましたか?」
心配になって一応確認を取る。そして彼女は首を横に振り、はじめて九十九に反応を示した。
九十九は一瞬見えた彼女の顔を見逃さなかった。
ひたいには暑くもないのに汗が湧き出ており頬を伝って垂れている。その頰は真っ赤に染まっていた。
(これは具合悪くないで済ませていい状況なのかな…!?)
高熱でたから保健室教えてくださいとかじゃないのだろうか。だんだん不安にかられていると、目の前の彼女に異変が起きる。
ぴょこっ
「…え?」
「…!!」
目の前に立っている一年生の少女の頭に。
うさぎの耳が片方だけはえてきた。
何が起こったのか全く理解ができない九十九。ぽかんとしながらその場で硬直する。
「ぁ…。でちゃダメなのに…。ぉさえ…」
一方でうさぎの耳がはえた彼女は、やっと顔を上げ、はえてきた片方の耳をぐいぐいと頭に押し込んでいる。
元々アホみたいな顔がさらにアホにさせていた九十九はハッとして彼女を見直す。
九十九が見たのは今にも涙が流れそうになっている、なにか助けを求めているような、そんな顔だった。
(この感じ…どこかで…)
彼女の顔を見ていると、どこかで見たことあるような気がした。それと同時にある一つのことを思い出す。
(引っかかることは思い出せないけど…。この耳のはえるタイミングは、そういうことか…)
「ねえ、君」
「…!!はぃ」
彼女はビクついて弱々しく返事をする。その時に、うさぎの耳はぴこぴこと動いていた。
「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったんだ。えっと、なにかあったんだよね?ゆっくりで大丈夫だから、話してみて」
彼女を落ち着かせようと、囁くように優しく言葉をかける。
そう言われ、彼女はうさぎの耳から手を離して何かを言おうと小さな口をパクパクさせはじめた。離した手は今度は制服のスカート裾を強く握りしめていた。
それを見て九十九は彼女の目を見ようとする。そうしようとすると、彼女はばっと顔をそらす。それでも、九十九はムッとすることなく、むしろ包み込むかのようにほほえんだ。
「話しにくいなら、紙とかに書いてもいいよ。…ゆっくりでいいよ。僕ちゃんと待ってるから」
彼女を安心させてあげたい。九十九は知らずのうちにそう思っていた。
「…ぇ」
彼女は震えた、かすれて今にも消えてしまいそうな声を返す。
「うん、自分が言えるって思った時でいいよ」
そういうと、彼女は体をしっかり九十九の方に向けて、モスキート音のような小さい声で話した。
「ここに、一年生の部活動のプリントがきませんでしたか…」
一年生の部活動の…?
あぁ、と九十九は自分の持っているプリントに気づく。これのことだろうな。
「それってさ、これのこと?」
「ぁ…。えと、ぁ、ぁりがとうございます…」
九十九がプリントを手渡すと、彼女は少しだけ安心したように見えた。プリントを受け取ると、また緊張したようになって九十九に向き直る。
「す、すみません、お時間、取らせてしまって」
「大丈夫だよ、気にしないで。それより君も早く帰らないと、先生がうるさいよ」
「は、はぃ、それでは、すみません、失礼します…」
彼女はそういうと、ギクシャクした駆け足で帰って行った。
九十九はその様子が心配でしばらく見ていたが、いなくなると安堵のため息をついた。
「あの子…。どうもほっとけないかもな…」
直感で。九十九はそう思った。
少し、懐かしい感じがした。
そしてあの優しい声、近くにいるだけで感じる安心感…。
もしかしたら、あの人かもしれない。
私がずっと会いたいと思っていたあの人かもしれない。
いかがでしたでしょうか?
見ていて自分が悲しくなってきました。
もしよろしければ、ご感想ご意見をお願いします。
それでは、ここまで見てくださってありがとうございました!またぜひ見てください。