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もしも幽霊が勇者になれたなら  作者: 鯨鮫 鮪
第1章 ブロンド美少女に功績を
2/3

たぶんここは異世界でして

 



 ーーー今の現状を簡潔に話そう。


 俺、宮瀬 真琴は3年前から所謂、幽霊。

 俺氏、成仏を志願し寺へ

 謎の頭痛や眩暈に襲われて意識を失い、目が覚めたばかりだ。


 3年ぶりに睡眠したかのような気分で、目を開けてみれば、寺にあった地面の土臭い香りはないし、頭痛とかの不調もない。


 なんならここは室内。

 なんで目覚めたばかりでわかるかって?だってフローリングが目の前にあるんだよ?馬鹿でもわかる、外にフローリングなんてあるわけないじゃない。


 ゆっくりと身体を起こして辺りを見回すと、洋風な民家のようだ。

 小さなテーブルが俺の真横にあって、少し奥には木製のベッド、本棚、タンス、全身鏡なんかもある、扉の向かいには窓があって光が差し込んでいる事から、昼間なんだろう。


 …って冷静に分析している場合じゃない


 「ココハドコ、ワタシハダレ」


 立ち上がって呟くけど背中は冷や汗でびっしょり。幽霊が冷や汗かくぐらいだから相当焦ってる。


 ちょっと待てよ、俺は寺にいたんだ、それは間違いないはず…

 だって俺、睡眠とかとは無縁だし夢なんか見るはずないし、てかまずこんな洋風な民家、俺がさ迷ってたお国では見た事無い。


 ははぁ〜ん?わかったぞ、ここは所謂、天国ってやつなんじゃないか?

 よく見れば窓から差し込む光も神々しく見えなくもないぞ


 ついに俺、念願の成仏果たしたんだな、OK把握


 しっかし、天国ってのは想像と違うもんなんだなぁ

 もっとこう仙人とか女神とかが出てきて、次の転生先の相談とか受けてもらえるもんだとばかり思ってたわ

 雲の上、みたいなところでさ。


 なのに民家て、民家て。

 現実味溢れ過ぎだろ、とりあえず部屋の中を探索して……


 ……ん?あ、あれ?


 「んん〜……」


 ちょっと待てちょっと待てちょっと待て

 てっきりこの部屋には俺しかいないもんだとばかり思っていたけど、ベッドの中に何かいるぞ

 モゾモゾしてる、モゾモゾしてるよ、今度は何なのよもぉ!!


 あ、もしかしてあれか?女神様とか?

 よく異世界転移ものでいるんだよなぁ、おとぼけ女神

 貴方がなかなか来ないので、寝ちゃってましたぁ☆みたいなパターンか?

 あー、でも仙人とかだったらやだな、寝起きのおっさんとは普通に見たくないわ、なんも面白くない。


 モゾモゾモゾモゾ


 未だに動いてらっしゃる。俺の角度からだと布団がひとりでに動いてるみたいでホラーなんですけど。


 まぁ、俺も幽霊だ、ホラーなんてもん当の昔から怖くなくなった、ホラー映画も余裕で見れるしなんなら幽霊に共感さえ出来る。

 ついでに男だし、意を決してベッドに近寄る


 横にたって覗き込んでみるけど、どうやら対象は布団を頭まで被っているらしく、姿が見えない。


 「姿なき敵、か…フッ」


 中二病全開でキメ顔してみたんだけど、それから数秒の事


 「…んん、んん…!?や、やばい!!寝坊したぁぁあ!!」


 「ひょえっ!?」


 身体がビクッと跳ねた、漫画みたいな驚き方しちゃった、俺あんな声だせたんだ

 驚いた理由は、そう。

 対象が急に布団をバッと捲り、姿を現したからだ


 布団から現れたのは、少女。と言ってもたぶん俺とそんなに年齢は変わらないんじゃないかと思う

 ブロンドの腰まであるんじゃないかってほど長い髪はウェーブがかかっているがツヤツヤだ。

 目はクリクリで緑色だし、外国人って感じの見た目だな。

 身体はそんなに発達してないみたい。特に胸周り。

 ヨレヨレの白いワンピースを着ているから目のやり場に正直困った、見え…って感じなんだもん


 それにしても可愛い、こりゃ女神か天使に違いない。

 羽とかははえてないけど、まぁ確定でいいだろう

 さっきは驚いてしまったけど、慌てて枕を謎にボフボフ叩いているその少女に声をかけた。


 「…あ、あのぉ、俺、真琴っていいます、3年前に死んでそっから幽霊になって3年ほどたってから成仏したみたいなんですけど、ここは何処なんですか…?」


 「くそ、くそ、くそぉ!私としたことがぁ!ハッ!?今何時…だめだ、あー最悪だぁぁぁ、大型ギルドにせっかく入れるチャンスだったのに、寝坊して面接バックレとか普通に有り得ないよぉぉおお!!」


 「…?あの、何の話かわからないんですけど、ここはど…」


 「…いやでも今から走れば目の前に迷子の子供がいてお母さんを探していたら遅れましたって言い訳も出来るんじゃないかしら…そうよ、それよ!そうすれば私の好感度もUPする上に、寝坊という情けない理由も悟られないわ!私ってなんて天才なのかしら!そうと決まればさっそく着替えなきゃ!」



 ねぇ


 聞いて。


 この少女、いやクソ○マ、俺のことガン無視するんだけど。

 ちょっと可愛いからって調子乗ってねぇ?マジありえないんですけどぉ!


 なんか勝手に暴れてホコリたてて、勝手に納得してパァっと表情明るくなってるし百面相が凄い。


 少女は慌ててベッドから降りると、ベッドの横にいた俺に突進してきた。


 「いったっ!?」


 「ん?あれ、可笑しいわね?何でここ通れないのかしら?何も無いはずなのに何かにぶつかっているような…」


 そう呟いて何度も何度も俺に突進、いや、タックルをかましてくる。

 屈みながらとかもやってくるから、この少女実はラグビー選手なんじゃないか?とか思える。


 5回ほどタックルを受けた頃に、少女は息を切らした。


 「ハァ、ハァ。もう、急いでるっていうのに何なのよぉ!…こっち側はどうかしら…あ、何も無さそうね」


 人にタックルを与え続けた少女は怒り出したように声を荒らげると、腹を抑える俺の真横に腕をヒラヒラと伸ばして(クウ)を触る。


 何も無いことを確認すると、スッと俺の横を通り過ぎていった。

 腹を抑えながら、少女を目で追うように振り返ると、慌ただしく出掛ける準備でもしているようだ。


 ていうか腹痛い。女の子からタックル受けるとか人生で初めての経験、まぁもう人生終わってんだけど。


 それより、なんか可笑しくねぇか?

 俺の考察によればここは天国のはずなんだけど、んで今、準備という名の部屋荒らしを行っているあの少女が女神か天使のはずなんだけど。


 今の状況から察するに、あいつ、俺の事たぶん見えてない。


 という事は少女は生身の人間なのか?

 幽霊になって3年、生身の人間に話しかけてみる事もあったけど、フルシカトを受けた。

 さっきの状況はまさにデジャヴ


 …と、なるとここが天国って話が丸っきり無くなってしまうわけなんだけど。


 天国に生身の人間なんている理由ないだろうし…

 じゃあ、ほんとに一体全体ここはドコナノヨ


 一気に絶望感。


 でも一つだけ思い当たる節がある、さっきの少女の言葉だ。


 “ギルド”


 この言葉は聞いた覚えがある、生前買ってた漫画や小説に出てきたワードだ。

 ファンタジー世界に存在するグループ、みたいなものとでも言えばいいのだろうか。

 まぁよくわかんないけど俺の認識としてはそんな感じ、詳しい説明とか見たこと無いし、そんなに詳しく知らなきゃいけない状況にも陥ったこと無いし。


 でも、ギルドだなんて俺のさっきまでいた寺とかが並ぶお国には存在しないはずなんだけどなぁ、でもあいつ面接とか言ってたよなぁ


 って事は、ここはギルドとかいうもんがある世界って事?

 中二脳な俺の考えからすると、これはまさに


 ーーーー異世界転移


 ってやつに違いない。


 少女が着替えのため、俺に背中をむけて服を脱ぎ始めたけど、俺は今それどころじゃない。

 目線は綺麗な小さな背中から離れてくれないけど。パンツはピンクって事もしっかり脳にインプットしたけど。心とは裏腹に鼻の下はぐんぐん伸びていくけど。


 少女は短いスカートにニーハイソックス、上は露出の高めな白い装い、足元はショートブーツ。

 次々と肌が隠れていくのを少し残念に思っちゃったり。

 でもしかし、なんつーか、あれだ。

 冒険者みたい。


 だって最後に剣なんか装備してるし、まぁ剣といっても短刀を2本、腰の両脇に。どこにあったんだろ、あんなの。


 最後にウェーブがかった長いブロンドの髪をポニーテールに束ねて準備完了といったところだろう。


 少女は鏡の前でクルッと一回転して自分の姿を確認すると、最後に顔を鏡に近づけて


 「にーっ!」


 と、口を大きく横にひろげ、笑顔の練習?をすると満足そうに扉の方へと向かった。


 「あ、ちょっ、待って!」


 小走りで部屋を後にしようとする少女の後を慌てて追いかけた。

 初めて出会った人物だ、女神様じゃないにしても逃すわけにはいかない。

 どこに行くかわからないけど、付いて行ってみよう。

 ギルドってのが本当に存在するなら、1度は見てみたいし


 そう思い慌てて追いかけるも、扉はバタンと閉まってしまった


 しかし、霊体の俺。

 幽霊歴1年の頃に習得した“すり抜け”で扉なんかスイッと通り抜けてやる。


 いちいちドアノブを握らなくてもいいから、この能力は重宝している。

 めんどくさがりな奴には是非、オススメしたい。

 まぁ、まず一回死なないと無理だけど。


 んじゃ、いつも通りスィーーーッと……


 ーーーバコンッ!


 「…いっ、いっでぇええええええぇええ!!!鼻、鼻!!折れた!絶対折れた!うぉおおおおぉぉおおお!!」


 扉に激突した。

 鼻を強打。


 顔面を押さえながら床に転げ回る。

 どういうわけか1年もかけて習得した、すり抜けを失敗した、いや失敗なんてあるわけがない、出来なくなっている、ってのが正しいのかもれない。


 顔面いてぇ、特に鼻。絶対折れた、間違いなく折れた。

 でもこの痛みのおかげで、ある事に気がつけた。


 そう、それは寺でも感じたけど痛覚があるという事

 そしてこの部屋で起きた不思議。


 姿は見えないにしても、他者が俺に触れられるという事

 会話は出来ない事からはやり幽霊に間違いないのだけれど、前とは明らかに違う。


 前の俺は、人に触る事はおろか物にだって触れなかった。

 それが不便だからってのでこのすり抜けを習得したんだ。

 でも、このすり抜けが使えないという事は……?


 鼻は相変わらず抑えたまま、徐ろに起き上がる。

 視線の先には、ドアノブだ。

 ゆっくりとドアノブに片手を近づける、なるはずの無い心臓がバクバクいってる気がしてきた。

 それぐらいの緊張感ってことね


 そっとドアノブに、触れた。


 「!、触れる!触れるじゃん…!すっげぇ!!お母さぁぁん!俺ついにドアノブ握れるようになったよぉお!まこちゃん大きくなったよぉお!」


 嬉しくてわあわあ言いながら子供のように、ガッチャガチャとドアノブを回しまくっていると、


 「…ひっ!な、なに!?」


 扉の向こうから甲高い声が聞こえた。

 扉の先に、何をしているのかわからないが未だにいる模様

 手を止めた。

 だってこれ完全に心霊現象やらかしちゃってるし、俺が生身だったら失禁レベル


 俺は少女をストーキングするつもりだが、恐怖を与えるつもりはないのだ。


 しばしの間、静かになる

 たぶん少女もドアノブを静かに凝視しているに違いない。

 少したって、少女の足音と扉を開けては閉めた音が聞こえてきた。


 慌ててそれを追いかけるようにドアノブを回し、扉を開ける。


 目の前には壁、左側も同様だが横向きに廊下がある為、右側にはいけそうだ。

 右側の奥の方には玄関の扉だと思われるものがあった。

 なるほど、こっから出たわけだな


 急いで扉を開くと、眩しい光が差し込んでくる。


 霊体には酷だ。

 ヴァンパイアじゃないけど、ちょっとキツイ。

 別に消えたりしないから無害っちゃ無害だけど、なんか気分的に。


 眉をしかめながら目を隠すようにおでこの前に手を置き、影を作る。

 あたりをキョロキョロ見渡せば、走る少女の背中を発見。

 後ろ姿も可愛い、走る姿もまた可愛い。


 俺はお得意の数mm浮きながらの歩行で少女を追いかけた。


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