幽霊になりまして。
なぁ、お前ら、幽霊って知ってるか?
誰もが聞き覚えのある言葉だと思うんだけど、見た事あるって奴は限りなく少ないんじゃないかと思う。
心霊写真撮っちゃったぁ!とか大体ああいうのは合成ってパターンばっかりだし、怖い体験をしたってのは作り話って事も多い。
まぁ、本当に見たことある奴も居るんだろうけど、俺は今まで会ったことない。
てかむしろ霊感ある奴なんて本当に世の中に存在するの?ってレベルで会ったことが無い。
何せその幽霊って呼ばれてる存在が、俺、宮瀬 真琴だから。
俺は今から3年前に交通事故にあって命を落とした。
大型トラックが思いっきり信号無視してきやがって、ルールを守っていた俺が死亡。
本当に理不尽極まりない、というか納得いかない。
俺なんも悪いことしてないし、大型トラックに乗ってたやつは無傷だったらしい。
まぁ、当たり前か、鉄に守られてたわけだし、生身の俺の存在なんて雑草と大差ないってわけだ。
呆気なく俺は18歳という若さで生涯を終える事となった。
ただずっと買い続けていたラノベ小説の新刊が出るという事で、本屋を目指して歩いていただけなのに…。
しかし、生涯を終えたはずの俺は今現在も現世で浮遊中。
ラノベ小説の新刊が買えなかった事が心残りなのか、理不尽に轢かれた事が心残りなのか、自分でもよくわからないけど成仏出来ず霊体となって未だ存在している。
そして今日も幽霊様御用達の白い装いに三角の布を頭につけて街を練り歩くのだ。
この身体、腹も空かなければ、時間に縛られることもない。
睡眠も不要だ。
ぶっちゃけ生身よりこっちのがいいとすら思える。
難点をあげるとするなら、会話相手がいないから暇だということぐらいだろうか?
同じ幽霊に遭遇しても、だいたい皆怖い顔してるし、なんなら生身の人間におんぶされるようにくっつく奇行をしている奴も少なくない。
まぁ、一番怖いのは突っ立って「コロスコロスコロス」とかひたすら呟いてる女の幽霊とか本当にマジで怖い。幽霊の俺からしてもすげぇ怖い。
そんな奴らばっかりだから俺は3年たった今でも幽霊友達、略して幽友は1人もいない。
生前も別に友達とか居なかったからいいんだけど、別に困ってないし、寂しくないからいいんだけど。
強がりじゃないからね、本当の事だから
でもまぁしっかし、人の多い街中や駅前を歩いたとしても生身の人間と1度も目が合わない。
生前は俺にも霊感なんてこれっぽっちもなかったし、やっぱり霊感がある奴なんて極稀って事なんだろうな
お、可愛い女子高生発見。
バス停で携帯を弄りながら、欠伸をして1人立っている。
幽霊になって得したことと言えばやっぱりこれだ。
女子高生を舐め回すように見てもお咎め無しという事。
立っている女子高生の足元にしゃがみ込んでミニスカートの中をマジマジ覗いても、髪の匂いをフゴフゴいいながら嗅いでも、お咎め無し。
警察もいなければ、法律もない。
幽霊世界は無法地帯である。
幸せ、俺、生きてた時より楽しんでる自信ある
まぁそんなこんな基本的にはセクハラしかしてないけど、幽霊デビューしてから3年になりました。
もう俺も幽霊ベテランです。
浮きながら移動なんてもはや容易い。
スィーっといけるよ、スィーっと
他にも壁をすり抜ける事とかも出来るんだけど、これを習得するには1年ぐらいかかった。
よく怖い話とかであるさっきまでは目の前にいたのにいつの間にか後ろにいる、なんていう瞬間移動は2年はないと習得出来ない。
つまりそれをやってのけてる幽霊様たちは努力をしてそれを習得しているわけだ、人を脅かせるようになるのも簡単じゃないんだよ。
まぁ、俺はまだ1度も人を脅かせた事無いんだけど。
だって、誰1人として俺の事見えたって人いないんだもん
悲鳴なんてこの体になってから1度も聞いてないよ、あ、でもこの間映画館に入った時ホラー映画で聞いたかも。
ていうか、よく良く考えたらもう3年か。
はやいもんだ、生きてたら21歳って事だもんな、成人男性の仲間入りかぁ。
なんて事をぼんやりと考えながらスィーっと街中を歩く、というか移動中
最近は正直、やることも無くなってきて飽きてきた。
フラつくかスカートの中覗くかぐらいしかやってない。
成仏って何したら出来るんだろ。
あ、そーだ
成仏って言ったらあれだ、寺だ。寺に行こう
そしたら坊主がお経読んでくれてお空に登らせてくれるかもしれない。
うまいこと成仏してイケメンに転生すれば、俺の将来安泰だ。
どうして今まで気付かなかったんだろう!
そうと決まればさっそく寺を目指そう。
確かわりと近くにあったはずだ、1キロ圏内なら俺レベルのベテラン幽霊なら瞬間移動も可能。
ひとっ飛びしてやるか、はい、せーの
ーーーーーーー
はいはい、やってきました小さなお寺。
鳥居に石の階段を登れば寺が見えてくるはずだ。
神聖な場所だからな、瞬間移動なんか使わないでしっかり登ろう。
1段1段、踏み締めてゆっくりと登っていく
まぁ踏み締めてとか言ってるけど数mm浮いてるから本当に踏み締めてるわけじゃないんだけど。
それにしてもこの身体、階段登っても疲れるって事がないから本当に便利だ。
思ったより長い階段の最後の1段を登れば、小さいながらに立派な寺が見えてきた。
狛犬って言うんだっけ?とかもいるし、なんか寺キターって感じするな。
というか、ここまで来たはいいけどまず坊主は俺のこと見えるのだろうか。
なんとなく寺の家系はみんな霊感があるイメージだったけど、もしかしたら見えないなんて可能性ないよな?
まず、見えて、なおかつ会話が出来なければお経うんぬんの話ではない。
まぁ考えてても仕方ないか。
とりあえず坊主を探そう。
と、思って動き回ろうと思ったんだけどナニコレ
すっっっっごい身体が重い。重力をモロに感じてる気分
この体になってからずっとフワフワしてたんだけど、その感覚が今は全くと言っていいほどない。
歩く度にズシッズシッて音が聞こえてくる気さえする。
やっぱり寺ってのは幽霊を受け付けない場所なのだろうか?
俺、別に悪霊になったつもりはないんだけどなぁー
人に危害も与えないし(セクハラはするけど)、無害だと思ってたんだけどなー
あー、重い。
背中に米俵でも背負ってる気分だわ
農民の気持ちがちょっとわかった気がする。
歩くのちょっと止める、マジ無理、なんかクラクラしてきたし
ん…?クラクラ…?
この体になって初めての経験。
眩暈
視界が揺れる、目の前にあった寺が横になって見える。
あぁ、そうか、俺が倒れたのか
生前だったら地面の冷たさとかも感じたんだろうな…、今となっては不思議な感覚しかしない。
高熱でも出たかのようだった。
息が苦しい、頭が痛い、クラクラする、気持ち悪い、吐き気がする。
地面に横たわって頭を抱え、身体を丸めた。
幽霊になって初めて感じた、恐怖。
ナニコレナニコレナニコレ
次第に耳鳴りもしてくるから、たまったもんじゃない。
来ちゃいけないところに自ら進んでひょいひょいやって来てしまったらしい、バカか俺は
キーーーンという耳鳴りが耳をさす、でもある事に気がついた。
耳鳴りと同時に何か聞こえてくるのを。
ーーーーーて、たす……き、……
「は、ぁ?タス、キ…?そんなん幽霊の俺は持って、ねぇぞ、うがぁ、くっそ、あた、まが割れそう…っ」
頭が痛い頭が痛い。
幽霊になって初めて痛覚がある事を知った。死んでも痛覚はあるとか最悪だ、知りたくなかった。
だめだ、意識が遠くなってきた……
俺、死ぬのかな…?いやもう死んでんだけど、わかってんだけど、そういう意味じゃなくて、消滅的な意味で。
寺なんかに来た俺がバカだった。こんな事なら変な事考えずに女子高生のスカートの中覗いておけば良かった。
あーー……だめだ、もう目も開けてられない。
ゆっくりと目を閉じると同時に意識はなくなった。