7.安心していた俺が馬鹿だった。
「…………なぁ…」
「何かしら?」俺は式ノに話しかける。
「俺さ、青春したいんだ!」俺は清々しい顔で言う。
「青春してるじゃない?」式ノはキョトンとしながら言う。
「……はは…」俺は笑った。
そして俺はこのツッコミ所満載な状況に「ッ!!!!」ツッコんだ。
「ふざけんな!!屋上で手を縛られて一緒に弁当食う青春何てねぇだろうが!!そもそもこれじゃあ弁当食えねぇしな!!しかも何で俺女子の制服着せられてんの!?何でウィッグつけられてんの!?てかこのフィット感ムカつく!!!!」
クッソ…この女……。
この、1週間、何もないと思って安心した俺が馬鹿だった……。
では、一体どうしてこんな状況となったか、説明しよう。
一時間前の事だ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
 ̄
「ん~!!最っ高だ!!この1週間何もない!式ノにも何もされてない!ってダメだろ!!」
確かにこの1週間式ノに何もされてないのはいいけど…。
「肝心の青春する好きな相手いねぇえ!!」
このままじゃこの高校生活3年間を棒に振ることになるぞ泉彼方!!!!
「てか俺って…友達すらいないんだよな…はは…」
友達は獅子野くらいか…。
なら、まず、男友達から作ってみるか…よし!
四時間目の終わりのチャイムが鳴る。
「……」よし…ここでさりげなくあの台詞を言う……あの、お弁当一緒に食べていい?、を!!
まずは…。
俺はキョロキョロとクラス全体を見る。
「ッ…!」まずはあそこの男子二人組に話し掛けてみるか…が、頑張れ…泉彼方!!!!
さぁ脱コミュ障だぁ!!!!ここから、また、俺の理想の青春のレールから大幅に外れる事になる。
「よし!」俺が席から立ち上がる。
そして、二人組に近付こうとした瞬間。
「ガラリ!」と、勢いよく教室の扉が開いた。
「ん?」そして、俺がその開いた扉の先を見ると「ッ!!!!」神無月 式ノがいたのだ。
「クッ!!」
俺はすぐに自分の席に戻り扉から視線を逸らす。
頼む頼む頼む頼む!!
こっちにだけは来ないでくれぇぇえ!!
「ふふん♪」
式ノは何故か楽しそうだった。
「ねぇ君」
式ノは彼方のクラスメイトに話し掛けた。
「な、何でしょう?」
クラスメイトの男が不思議に思う。
「このクラスに、泉 彼方君っている?」
式ノはそう言いながら彼方の方に視線を向ける。
「え?泉ですか?えっと…」クラスメイトの男がクラスを見渡す。
「あ!」
「ギク!!」
「おーい!泉~呼んでるぞ~?」
馬鹿が鈴木!!
俺はてめぇを一生恨む!!
俺の名前を呼ぶな!!頼むから呼ぶなー!!
「おい泉?」
「クッ!!!!」
殺す!!鈴木殺す!!!!。
こうなったら……「ッ!!!!」逃げる!!!!
俺は席から立ち上がり、式ノが立っている扉とは真逆の扉から出て廊下を駆け抜ける。
俺の高校生活をあいつに潰されてたまるか!!
「彼方君」
「式ノ?!」
さっきまで俺の教室にいたはずの式ノが俺の前にいた。
「クソ!!何だそのイリュージョン!!」
俺は足を止める。
「ねぇ彼方君!私とお弁当一緒に食べよ?」
「嫌だよ!!」
「あら、どうして?」
「お前がただ弁当食べるだけですむ訳がないからだよ!!」
「よくわかったわね?」
「ほぉらぁ!!!!」
と、言いながら俺は式ノに指を差す。
こいつのこう言う所全然変わってねぇ!
「でも、彼方君…」
「ん…?」
俺は急に改まった声になった式ノを不思議に思う。
「彼方君に拒否権ないから!」
「へ…?ま、待って…?何このデジャブ…?」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
 ̄
「…………」
前回と変わんねぇ!!
あの後の記憶は勿論ない。
女子の制服をいつ着せられたかもわからない。
この黒髪のストレートのウィッグをいつ、つけられたのかすらわからない。
記憶がないって…怖いね。
「おい式ノマジでいい加減にしろ!?てか俺の制服は!?」
「捨てたわよ?」
「はぁ!?」
「まぁそう慌てないで、似合ってるわよ?」
「んな事どうでも言いわ!!どうすんだよ!?」
「いいじゃないそのままで、私が言うのも何だけど違和感ないわよ?」
「それは男としてあれだよ!!」
今の俺は他人から見たらどうなってんだ…
「とりあえず、口をあけて、彼方君」
「はい!?」
式ノは自分のお弁当からウィンナーをとり、彼方に食べさせようとする。
「ほら、あ~ん」
「へ?ちょ!」
「あ~ん!」
「わかった!わかった!だからウィンナーを押し付けんな!!」
「じゃあ、改めて、あ~ん」
「ん~…はん!」
俺は恥を捨ててウィンナーを食べた。
「あれね、彼方君がその姿でウィンナーを食べてると何て言うか、エロいわね。」
「感想いらないから…」
はぁ…もう嫌だ……
「もう俺…お婿にいけない…」
「私が彼方君を貰ってあげるから大丈夫よ!」
「お前と結婚とか死んでもしない」
はぁ…俺はいつになったら青春できんだ…この障害物神無月式ノさえいなけりゃ……。俺は今日も、青春を出来ないでいたのだった。