42.お節介な人なのだ。
「彼方?」
「ん?」
俺が席に着いた瞬間横から昔から良く聞く声が聞こえた。
俺はそれに反応し振り向く。
「よっ!」
そこにいたのは…。
「き、君月さん!?」
席に座る獅子野だった。
「なんでさん付け?」
「いや!特に理由はない!」
完全にあの会長のインパクトがでかすぎて、目の前にいた獅子野が見えなかった。
てかあっぶね~…。
彼子状態の時の癖でついさん付けしちまった。
説明しよう、彼子状態とは俺が女装している時の状態の事である。
「それにしても、珍しいな、彼方が文化祭実行委員とかやるなんて」
「若さ故の過ちだ、ほっといてくれ」
「なにいってんの?」
俺も何言ってのかよくわからん。
てか気まずい!正直この状態で会うのは抵抗があるなぁ…この言い方が女装に抵抗ないみたいだな、いやあるよ?
そんなこんなしてる内に、会長の愉快な説明&副会長のツッコミで今回の会議は終わった。
渡されたのは数枚の紙のみ。
俺はそれを鞄にしまい、そそくさと帰ろうとする。
急いで帰ろうとする理由は一つしかない、と言うかむしろ察してくれ。
だが、現実と言うのはそんなに甘くない。
「つれないじゃないか彼方、一緒に帰ろう」
俺の肩に手を置いて引き留めたのは言うまでもなく、この中では一人しかいない。
獅子野だ。
こいつ…人の気も知らないで…。
「な、なんで?」
俺はつい聞いてしまった。
わかりきっている理由を。
だが、わかってくれ、俺はこいつといちゃいけないんだ。
「そんなの、お、お前と帰りたいからだ!他に理由がいるのか!?」
獅子野は顔を赤くして問う。
やめろ、そんな顔で俺を見るな。
頼むから…やめてくれよ…もう忘れさせてくれよ。
俺はお前にどうすれば…どうすればいいんだよ。
「今日は一人で帰りたい気分なんだよ」
深入りするな、これ以上の距離に俺がいちゃいけない。
「な、なんだよ?そんな邪険にせずとも…」
こいつは…。
「お前は、わかってないよ」
「なにを…っておい彼方ー!」
俺はいつの間にか走っていた。
歯を強く噛み締めて、やはり獅子野を前にすると、俺は駄目だ。
昔の罪という名の刃が、彼方に切りかかってくる。
それはもう、後悔などと言うには計り知れない程の罪を。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
 ̄
「はぁ…はぁ…」
いつの間にか、あの公園に着ていた。
思いでの公園、この公園に来たのは余波と来た時以来だ。
俺はベンチに項垂れる。
「本当に…俺って情けないな…」
そんな言葉が、カラカラな喉から出た。
昔から、過去の自分から逃げて、逃げ回って。
獅子野は俺を恨んでいない。
あいつはそういうやつだ。
それ所か、俺が罪悪感を感じているのではないか、何て言う心配までする。
有り得ないほどのお人好し。
それがあいつだ。
心配せずとも、罪悪感なんて…死ぬほど感じてるよ。
高校に入ってからはそれなりに距離を置いて、道ですれ違えば挨拶する程度、そんな仲で良かったってのに…神の悪戯か…。
俺がそんな風に物思いに耽っていると
「おや、おやおや~?そこにいるのはかなかなちゃんではないか!」
「ん?」
その陽気な声に俺は視線を向けると、そこにいたのは、夕日に照らされた黒髪ショートが眩しく光る、姫川会長の姿があった。
「う~む、悩んでる姿もなかなかに可愛い…これは由香里ちゃんに継ぐ…いやだがしかし…」
と、一人で何かブツブツ言っていた、なんか変な悪寒がしたから俺はつい声をかけてしまう。
「俺に何か用ですか?」
「ん?いやいや、何か悩んでいる顔をしていたからつい若者の相談相手にでもなってやろうと思ってね」
何故かドヤ顔をした、姫川会長がこっちに近付き、隣に座る。
「あの…なんで隣に?」
「話してみなさいな!こう見えても私は聞き上手と評判なのだよ?」
またしてもドヤ顔。
「そんな評判聞いたこともありませんけど?」
「私の自己評価だからな!」
俺は、その台詞を聞いた瞬間つい
「プッ…!アハハ!なんすかそれ!」
笑いが出た。
この人が何で会長なのか、少しわかった気がする。
この人はきっと、とても元気な人で、そして、とてもお節介な人なのだ。
「それじゃあ聞いてくれますか?
どうしようもなく、馬鹿な、男の話を」
読んでくださりありがとうございます!
長らくお待たせしてすみません…上手く文章が書けなく手こずっている状態のあだちりるです…。
そしてそして!意外に今回の章で支えてくれるのは姫川会長だったりします。
少し駆け足になってしまいましたが、これからも読んでくださると有り難いです!




