37.俺が求めたのと違う。
そして、話が盛り上がるにつれて、男子達(俺もだが)がとある事を提案してきた。
「ねぇ王様ゲームやらない!?」
金髪…確かにそれは青春イベントの内の一つかも知れない…合コンでなら当然のイベントかも知れない…けどな、今男四の女二の割合なのよ。
つまり…得することないぜ?
彼方はニコニコしながら心の中でそう思っていた。
すると、黒髪の男が鞄から用意してたと言わんばかりに、先っぽだけ赤い箸一つと普通の橋を五本出した。
いやどんだけ王様やりたいんだよ…。
必死か?必死なのか?まぁ気持ちはわかるけどさ…けどさ…俺を見ないでくれないか…?
男三人はニヤニヤしながら彼方を見ている。
耳を少し傾けていると…
「彼子ちゃんにどんな命令しようかなぁ…」
とか、そう言った内容が聞こえてくる。
男にどんな命令をさせると言うのか。
てか俺ってそんなに男に見えないか?
はぁ…自信なくしてきた…。
てか、美月先生の友達さんがめちゃくちゃ睨んでいるのだが…えっと、確か、国見 千秋さん、だっけか。
一応自己紹介は既に終えている。
男三人の名前は、彼方の記憶から既に抹消されている。
と言うか単に覚える気がなかった。
ちなみに、この合コンは千秋さんの為に美月先生が協力しているらしい、昔からの親友だとか。
それに巻き込まれたのが俺って訳だ。
国見千秋、彼女の仕事は美容師との事らしい。
そんな千秋の姿は、すごく大人びていた。
赤い前髪をヘアピンでとめ、長い赤髪を靡かせている。
服装は、白のTシャツ、灰色のカーディガンを羽織り、黒のデニムを履いている。
そして、黒い低めのヒールを足にしている。
茶色い肩掛け鞄を席の隣に置いている。
実に大人らしいファッションである。
ピンク色の口紅をしており、その口紅のせいか物凄い色気を感じる。
色気の種類で言えば美月と同じくらいであろう。
流石は元同級生、似てる部分がある気がする、と彼方は思った。
それに対しての、美月の格好は、黒のセーターを着て、灰色のコートを羽織っている。
そして、濃い青のジーンズを履いている。
黒のヒールが美しさを強調しているかのようだった。
大人っぽい女性を絵に描いたようだ。
それに比べて俺の場合かなり子供っぽいと思うが…最近の若者には可愛い系の方が人気なのか…?
世間に疎い俺にはわからんな。
彼方をジーッと見ている千秋の視線を置いて、王様ゲームが開始された。
「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」
六人の掛け声と共に、黒髪の男が持っていた箸を、五人同時に引いた。
黒髪の男は、余ったくじを見る。
「よっしゃ!俺が王様だ!」
と、黒髪の男は飛び跳ねて喜ぶ。
あぁ…嫌な予感…。
「じゃあ!王様と二番が抱き合う!」
ほらねぇ…まぁ男ならそういう命令するよな。
えっと…俺の番号は…。
「ッ!」
俺だあああああああああああ!!
ま、まぁ…男同士のハグなぞ誰が得するのか知らんが、やるしかねぇな。
「わ、私です…」
俺は愛想笑いを浮かべながらそっと手を上げると、男が両腕を使ってガッツポーズする。
喜びすぎだろ…と、彼方はやや引き気味。
他の男二人は、チッ、と、同時に舌打ち。
そして、俺が、とほほ、と言う顔をしていると、美月が肩をポンと叩いて一言。
「あの男私が殺してきてやろうか?」
物凄い満面の笑みだった。
そして俺は、抵抗がありながらも、黒髪とハグ。
「彼子ちゃん…なんか柔らかいね…」
黒髪の男は、セクハラと受け取っていい解答を、頬を染めながら言った。
そして今の俺は、泉彼子ちゃんであるからして、俺の解答はこうだ。
「そ、そうですか…?
何か照れますね…えへへ…」
あ、やってて恥ずか死ぬ。
何やってんだろ俺、これ俺が求めてたハグ違う。
てかこいつのコメント流石の俺もフォロー出来ないレベルに不味いだろ…あ!ほら、千秋さんが滅茶苦茶引いてる顔してるよ。
美月先生はと言うと、何かすんげぇ怒ってた。
そして、再び、王様だーれだ!、と言う掛け声と共に箸のくじが引かれる。
すると、手を上げたのは。
「あ、王様私だ」
千秋さんだった。
俺は安堵の表情を浮かべる。
千秋さんならまともな命令が下りそうだ。
千秋は人差し指を口の方に当てて、ん~、と考えた後、発言した。
「じゃあ、三番と一番が、キス、って言う事で!」
千秋は右目を瞑りウィンク。
全然まともじゃなかったあああああ!
なんならさっきよりか酷い方向に!
いやまぁ、そんな二回連続で番号を引く訳…。
「一…番…」
彼方が、箸に視線を落とすと、あまりの驚きに声に出してしまう。
「ん?私が三番だな」
「ッ!!
しれっとそう答えたのは、美月だった。
彼方はあまりの驚きに美月の方へと視線を向けた。
え?美月先生?マジで?
彼方のその驚きを置いて、美月は「それでは」と言って彼方の方へ寄る。
彼方はソファに座っていた体を後ろに、だが、そんなのはお構い無しに迫ってくる美月。
それをまじまじと見詰める男三人。
てめぇら見てねぇで止めろよ!?
こんな百合キスシーン誰得だよ!
てか別に百合にはなんないけどさ…俺男だし…けど…けど…。
段々と二人の顔が近くなる。
それを頬を染めながら、じっと見ている千秋。
命令した張本人だと言うのに、恥ずかしいのか手で顔を覆い隠している。
指の隙間から見ているが。
そして、彼方と美月の唇が、もはや互いの吐息が吹きかかる距離まで到達した。




