36.彼子ちゃん再登場。
放課後を知らせるチャイムが鳴る。
彼方はその音がなると、余波と式ノに「今日は美月先生に呼ばれてるから先に帰ってて」と言って、バッグを持ち、保健室へと向かった。
今日は美月先生に呼ばれているのだ。
何か用事でもあるのだろうか。
まぁ、それは行ってみればわかる事だが。
彼方が保健室の扉の前に到着し、扉をガラリ、と横にズラす。
「こんちわー」
と、彼方が挨拶を軽くすると、目の前にメイド服を着て、セクシーポーズをしている美月の姿があった。
「ッ!」
彼方は扉を閉める。
「俺…疲れてるのかな…」
俺は人差し指と親指で鼻の上を摘まむ。
今のは幻覚だろうか…?
そうに違いない。
あっちは教師だ、常識ぐらいある。
学校でコスプレとかそんな趣味全快な事をするはずがない。
そうだ幻覚だ。
俺が見た幻にしかすぎない。
気を取り直して…。
「こんちはー!」
彼方は再び扉を開ける。
そこには、チャイナドレスに着替えようとしている美月の姿があった。
まだ着替え途中の為、下着が丸見えである。
真っ白い肌と、持て余すその胸に彼方の目が行かない訳がなかった。
呆然と見ている彼方。
美月はチャイナ服を下に落とし、胸を隠す。
少し頬を赤らめ、笑う。
「泉、私にも羞恥心がない訳ではないのだ。
少し、後ろを向いててくれないか?」
「す、すみません!」
彼方はバッと後ろを振り返る。
クッソ…美月先生にドキッとさせられる日が来るとは…いやでも、先生ってスタイルめちゃくちゃいいんだな…顔もいいし…むしろ俺のドストラ…っていやいやいや!!
危ねぇ…美月先生に惚れる寸前だったぞ今の俺。
と、彼方が心臓の音が落ち着くと、美月が一言。
「もういいぞ」
と、先程の照れた声ではなく、いつも通りの美月の声のトーンに戻っていた。
そして、彼方も美月の方へ体を向ける。
そこには、いつも通りの白衣を羽織っている美月の姿があった。
とても見慣れていて落ち着く。
「…さっきのコスプレなんだったんすか?」
「泉に見せたくてな」
「はぁ…で、美月先生、今日は何か俺に用事があるんですよね?」
と、彼方は溜め息混じりに本題に入った。
「あぁそうだ。
とても重要な事だ」
美月先生は真剣な眼差しで俺を見る。
こんな美月先生は見たことない。
俺はゴクリと唾を飲み込む。
「それって一体…?」
「それはな…」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
 ̄
何故だ…。
「ねぇ美月ちゃんは先生やってるんだよね?
凄いね~」
と、金髪の男がチャラチャラと言葉を発する。
「いえいえ…教師と言っても大した事はないですよ」
と、美月は愛想笑いとわかるような笑みを向ける。
「美月は昔から変わらないね~」
と、右にヘアピンをつけて、前髪を抑えている赤髪の人が懐かしそうに呟く。
「で!彼子ちゃんはどんな仕事してんの?
見た目もすごく若いよね?
何歳なの?それとめちゃくちゃ可愛いね、俺好みだわ~」
何故こうなったんだぁ!?
彼方の現在の状況を一から説明しよう。
彼方は美月に今日の合コンの人数が足りない、と言う事で数合わせとして助けを求められた。
彼方は美月に夏休みの仮があるため断るにも断れず…。
そして、美月の用意した女装グッズに身を委ねたと言う訳である。
黒髪ロングのウィッグに、白いワンピースとピンクのカーディガンを前開きにし、最後は美月によるナチュラルメイクで完成である。
泉彼子ちゃんの出来上がり。
知らない人の為に教えておこう。
彼方の女装レベルはそこらの美少女以上に可愛いのである。
それは男がそそるような顔をしている。
彼方自身が自身に告白してしまった程に。
そして、合コンの場所は、王道と言えようカラオケである。
メンバーは、男三人に女三人。
一人くらい呼べなかった物だろうか…と、彼方は溜め息をつきながら思ったりもしていた。
てか…このチャラ男の問いに俺は答えねばならぬ。
この男子諸君らに美月先生が伝えた俺のキャラは、とても愛想がよく、恥ずかしがりや、とても可愛い仕草をする子で、笑顔が素敵…か。
無茶苦茶すぎる!
いや…ここで美月先生に仮を返さなくては。
よし、全力で自分を捨てろ。
女になれ、なりきるんだ。
私は泉彼子、二十歳、教師。
よし!行ける、行くぞ!
ちなみにこの設定を考えたのは美月である。
「仕事は美月ちゃんと同じく先生をやってます!えぇまぁ…よく言われるますがこれでも二十歳なんですよ…?」
と、俺は最高に可愛い声&最高に可愛い仕草&最高に可愛い照れ笑い、そしてラストの決めは少し頬を赤くする。
(彼方が思う可愛いである)
ちなみにこの萌え声に近い声は、美月にこの数時間で鍛えられた技である。
今の彼方をもはや男と思う者はいない。
「「「ッ!!」」」
「へ、へぇそうなんだ!」
と、金髪の男が心臓を掴まれたかの様。
言葉に動揺が見える。
そして、他の男二人も、黒髪と茶髪も頬を赤らめ、面食らっている。
三人は、こそこそと話しているが、その会話の内容は丸聞こえで、「彼子ちゃんめちゃくちゃ可愛いくね?」と、茶髪が「それな!俺狙っちゃおうかな~」と、黒髪が「あ!ずりぃ!俺が先に目、付けたのに!」と、金髪が言う。
そんな会話を聞いていた彼方は、こう思っていた。
(男なんだけどなぁ…)
彼方は、ただ愛想良く笑うしかなかったのだった。
読んでくださりありがとうございます!
獅子野がメインとは言っても毎回登場する訳ではございません!w




