35.ダルさと危機感。
夏休みが終わると、皆、最初はダルそうに学校に通う、だが、しばらくすればまた元通りになる。
恐らく、この法則は何年経っても変わらないだろう。
そして現在、九月の終盤。
俺は未だに…ダルさが抜けていない。
その理由は至って明白なのだが…。
彼方は机に突っ伏していた顔を上げる。
「彼方くん!
今日一緒に帰ろうよ!」
「彼方ー!
今日放課後寄り道してかない!?
新しいクレープ屋が出来たから行きたいんだ~」
目の前にいるのは、式ノと余波である。
旗から見れば、仲良さそうな二人なのだが…。
「「っ…!」」
式ノと余波は睨み合う。
やめて…そんな嫌悪なムード出さないで、怖いから…いや本当にその目怖いから。
「あら~子供みたいな理由で彼方くんを困らせた蓮野さんじゃない~?」
「そう言う貴方は、彼方と友達になりたくて馬鹿みたいに素直になれなかった月野宮さんじゃない~?」
「「ッ!!」」
なにこの龍と虎の睨み合い、怖すぎる。
この状況の説明を簡単にすると、余波と式ノは和解した。
お互いにお互いの事情を知り、お互いに握手を交わした。
その握手は仲直りの印であり、それは恋の宣戦布告でもある。
蓮野余波は言わずと知れず、彼方にぞっこん。
そんな余波に負けないくらい月野宮式ノも彼方が大好きである。
そう、それは長い長い片想いをした程に。
だが、彼方は式ノのそんな気持ちには気づいていない。
「なぁお前ら」
「「なぁに彼方!?」くん!?」
余波と式ノはバっと彼方の方へ顔を動かし、見詰める。
その顔には歓喜に満ち溢れている。
そして、彼方はそんな二人に対して、とある人物を指差した。
「授業、始まってる」
先生である。
「「あ…」」
余波は、無言で席へと、式ノは自分の教室へと。
最近の彼方の毎日はこんな感じである。
そう、彼方は現在とても波瀾万丈な日々を送っているのだ。
友情と言う名の青春のレールを順調に歩いているのだ。
そして、そんな彼方を見て不思議にいや、驚愕を隠せていない人物が一人…。
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彼方とは別クラスな私は、合間を縫って彼方の様子をこっそりよく見に行く。
そして、ここ最近の観察で、私はこの状況にとてつもなく、危機感を覚えている。
「彼方が…女子と…しかも…二人…」
そう、この私、君月獅子野は、恋のライバルが二人も出来てしまったのだ。
あの二人は確実に彼方に行為がある。
何故ならあれは恋をしている瞳だからだ。
だからこそ、危機感を覚えているのだ。
彼方に今まで女の子の友達なんていなかった。
それがだ!
夏休みが終わったと思えば…二人の女の子と仲良くなってるって…。
なにそれ!?なに!?
夏休みそんなにエンジョイしてたの!?私と言う友人をほっぽって!?
散々連絡してたのに夏休みの最後の日になってメールで、ごめん、気づかなかった、ってふざけてんのかー!!!
そんなに夏休みが楽しかったの!?
一体どんなアバンチュールを…!
私がどんだけ勇気を持って誘って…。
「はぁ…」
獅子野は、授業に集中など出来るはずもなかった。
窓から、曇り空を眺める。
空がまるで今の獅子野の心情を表しているかの様だった。
私は、君月獅子野は、思う。
私は勇気がない、うじうじとした女の子だ。
勇気を出して、髪を少し金に染めて、髪をセットして、女の子らしい行動を心掛けた。
けど、そんな事をしたって私達の関係は変わらない。
私達はいつまで経っても、ただの友達であり、泉彼方にとっての私は、ただの恩人と言うだけなのだから。




