34.台風の後の。
俺と余波は、屋上から立ち去っていた。
今は学校の教室にいる。
学校の中は結構綺麗で、余波は、懐かしそうに見ていた。
「彼方、びしょびしょ」
「そう言う余波こそびしょびしょ」
椅子に座り、お互いに背を向け会う。
今、顔を会わせるのは恥ずかしい。
あんなに泣いて、泣き喚いて、子供みたいに。
そんな後の顔なんて、見られたくない。
だから背を向け会う。
背を向けて、これからに向けて話すんだ。
「ねぇ彼方」
「ん?」
「私、彼方の親友でいていいの?」
当然の台詞、当然の流れ。
余波が疑問に思うのも当たり前。
だが、彼方にとってもそれは当たり前の様に返せる言葉。
「こっちから土下座でお願いするよ」
俺は笑いながら言う。
輝く月が、教室を照らす。
「…彼方。
私ね、彼方の事が好き。
どうしようもなく好きなの」
「うん…知ってる…」
知ってる。
けど俺は…その気持ちには…答えられないんだ。
「けど、思ったの。
私にはまだそんな権利はない。
だから、やり直そうと思う」
「やり直す?」
「そう!」
余波はそう言うと、椅子から立ち上り、彼方の前に出る。
その姿は、月に照らされていて、とても輝いている。
眩しくも、清々しい笑顔。
胸に両手を持ってきて、ぎゅっと、優しく抑える。
その姿を見て、俺は思った。
これからの余波はきっと、大丈夫だと。
そして、余波は口を開く。
「私のこれからの人生は、人に、一人一人の人に、優しくするんだ。
助けてあげるんだ!絶対に一人ぼっちにさせないように、彼方見たいに、全力で友達を助けられるような人に…これからの私は、そうでありたい…うんうん…」
余波は首を横に振る。
「そうでありたいんじゃない。
そうなるの、そうやって、人と関わって行きたい」
「…そっか」
ほらな…こういう奴だから。
こういう奴だから、俺はこいつを守りたかった。
親友に戻りたかったんだ。
あぁ…今はこの時間が、心地いい。
いつまでも二人で、こうやって話していたい。
いや…きっといつまでも、こうやって、楽しい日々が送れるのだ。
本当の…本当に…親友に…なれたんだ。
彼方は、上を向いて、余波を見詰める。
その目には、安心と、信頼と、そして、優しさが詰まっていた。
「どうしたの?」
「いや…何でもない…。
なぁ、余波、俺さ、お前と出会えて良かった」
「…私もだよ」
二人は、微笑んだ。
その笑顔が、二人の未来を表しているかのように、そう思えてしまう優しい、笑顔だった…けれど、そんな笑顔を知るのは、彼方と余波だけだった。
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翌日。
俺と余波はこっぴどく怒られた。
余波はお母さんとお父さんに。
俺はと言うと…。
「彼方くんって本当に馬鹿っ!」
「お兄ちゃんはなんでそうやって心配ばっかかけるの!?
私がどんな思いで…本当に馬鹿っ!」
とまぁ…こんな感じで、式ノと花菜から怒られた。
正座をしていたせいで足が痺れる始末。
何か色々と疲れた…。
けど、これで先生に出された宿題を提出出来そうだ。
美月先生には夏休みが終わったらお礼しに行かないと。
こうして、日々が流れ、俺の夏休みは終わった。
この、波瀾万丈な日々。
色々とありすぎて纏めるに纏めきれない。
初めて出来た女の子の友達。
初めて女の子から告白されたこと。
けれど、断ってしまったこと。
けれどまた仲直りしたこと。
ずっと恨んでいた相手と友達になったこと。
けれどその相手が本当はただ友達になりたかっただけだった、と言う事。
本当に、色々あった。
悲しくも、楽しくもあった日々が、終わりを告げる音がした。
さぁ、新しい日々の幕開けである。
青春したいのに青春出来ない俺の日々はまだ続く。
友情面では青春をこれから謳歌できそうだが、まだ『恋愛』と言う面では、俺自身に好きな人がいない。
だから、全力で俺は探す、運命の相手を!
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始業式当日。
彼方が学校に向かっていると、そこには夏服の制服に包まれ、純白の肌をさらけ出している長い黒髪の少女がいた。
少女は、後ろを振り返る。
右につけているウサギのヘアピン。
風で靡いている黒髪を左手で抑える。
その姿を見たとき、四月の桜を思い出した。
そこにいたのは…。
「彼方くーん!」
手を振る、神無月式ノだった。
「おう、式ノ、おはよう」
俺は笑顔で挨拶をする。
この友達と。
何の違和感もなく…違和感も…なく…ん?
あれ?式ノなんで制服を着て…しかも通学路に…あれ?
彼方はとんでもない違和感に気づいてしまった。
「どうしたの彼方くん?」
「お前…なんで鞄もって制服着てるんだよ…?」
俺はプルプルと震えながら式ノを指差す。
「え?それはそうでしょ。
私も学校に通ってるんだから」
「は?だって…先生にお前の名前を聞いたとき…そんな生徒はいないって…」
「あ!そっか!彼方くんに言ってなかったね!」
「どういう…」
「私が引っ越した理由ってのが、親の離婚が原因なの、それで私はお母さんに付いていって、で!お母さんが再婚を決意した訳」
「つまり?」
「つまり!私の名前は、神無月、ではなく!
月野宮 式ノになりました!」
「あぁ…なるほど…」
別にこいつは、珍獣でもなんでもなく…ただ苗字が変わっただけで、家の学校の生徒だった、と言う訳だ。
なんだか、本当に新しい日々の幕開けって感じがする…では神無月式ノ改め、月野宮式ノと言う友達と、蓮野余波と言う親友との生活を、謳歌しようじゃないの!
そして、泉彼方は再び青春の一歩を踏みに行くのだった。
読んでくださりありがとうございます!
これにて!第四章は終了とさせていただきます!
いやぁ…なんか第四章色々ありましたね。
本当に色々…とまぁ!お次は第五章となります!
ここで!やっとあの子がメインの章となります。
では、次の章でお会いしましょう!




