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青春したいのに青春出来ない俺の日々。  作者: あだち りる
第四章「仲直りは青春への近道。」
30/44

30.嫌われてたんだよ。

まさか、あんな痛い視線を貰っていたとは。

俺達はファミレスから出て、場所を代えていた。

その理由は、俺達がファミレスに入った頃には客は全然いなかったと言うのに、式ノをその…泣かしてしまってから客がわんさかと入ってきていたらしく…。

とても痛い目で見られたので、一気に恥ずかしくなり、俺達はファミレスを出たのだ。


で、現在。

場所を変えて、近くの湖に来ている。

俺は夏にはぴったりな、アイスクリームを買い、式ノが座っているベンチへと向かう。


式ノにイチゴ味のアイスクリームを渡す。

俺は王道のバニラ、スタンダード最強。


「彼方くん、顔真っ赤だったね~」


「るっせ!」


式ノは、ニヤニヤしながらその笑みを見せた。

俺はそれに笑顔で答える。

前の俺なら、このニヤニヤした顔を見れば心の奥底から怒りと言う感情が沸いてきたろう。

だけど、この笑顔は本物だと確信できる物だ。

本当に…俺達は友達になったんだ。


彼方は無言で空を仰ぐ。

雲などひとつもないその空を眺めている時間が、とても心地よく感じる。


式ノは彼方を横目に。


「彼方くん」


「ん?」


「やっぱり、謝らせて欲しい。

ごめなさい、本当に、ごめなさい」


式ノは彼方に深々と謝る。

彼方はそれに対し、間の抜けた顔になる。


こいつは…本当に、馬鹿でどうしようもないお人好し…。

俺はこのお人好しにどう答えたらいい。

いや、決まってる。

俺の、返答なんて、一つだ。


「式ノ、俺はお前との今までの嫌がらせや何やらを忘れるつもりなんて毛頭ない」


「っ…!」


俺がそう返すと、式ノはなんとも悲しい顔をするんだか…「そんな顔すんなよ」と、俺は一言つけて、言葉を続ける。


「俺はお前との思い出を、忘れるつもりなんてない。

俺達が友達になれた…今までの事はきっとそれを証明する証だと思うから。

だから、俺はそれを忘れないし、お前が謝る必要もナッシング!ok?」


彼方は、後から少し照れ臭くなったのか、後半、少し頬を赤くしながら人差し指を上に突き立てはぐらかす。

式ノは、ポカンとした顔をしながら、少しの間を置いて、


「ok!」


涙を流しながら答えたのだった。

その後は、ただの雑談。

いや、思い出話と言い換えておく。

俺達の間にある昔の思い出なんてものは、ろくなもんじゃない。

俺がただのいじめられっ子で式ノはただのいじめっ子。

今こうやって、笑い話に出来る間は、きっと…俺等がこれからも友達でいられる証拠なんだ。

いや、違う、俺はどんな事があって友達でいてやるんだ。


そんな事を思いながらの思い出話をしていると、式ノがふとした疑問でも抱いたかの用な顔で口を開く。


「ねぇ、彼方ってなんで…

仕返しとかしなかったの?」


「…」


「辛いなら…痛いなら…。

自分で、いや自分でやろうとしなくたって先生や親に相談すれば…」


そこで、言葉は途切れる。

彼方は、少しの間を置いて口を開く。


「…俺はさ、昔友達がいたんだよ。

お前が転入する前、結構クラスの中心って感じで…」


「確かに昔の彼方くんの性格から言うと皆から好かれそうだもんね」


式ノは彼方を横目にそう答える。


「かもな、けど俺はさ。

馬鹿だったんだよ、あの時の俺は何も知らなかったんだ」


「何を…?」


彼方は、額にシワを寄せている。

その顔は、何処か悲しい顔をしている気がする。

そんな顔のまま、彼方はゆっくりと答えた。


「俺は、皆に嫌われてたんだよ」


そう、嫌われていた。

泉彼方と言う人間は。

いや、正確には、徐々に嫌いになっていた、と言うべきだろう。


最初は皆とただ楽しく遊んで、ただ馬鹿みたいに笑ったりして、そんな普通の楽しい日常が続いてた。

けど、いつのまにか、俺の、手から零れて行った。


一人一人…一人一人…。

段々と…じっくりと…ゆっくりと…。

周りから消えていった。

その理由は簡単だった。

俺は、皆に嫌われてたんだ。

子供の頃の俺は単純な、そんな答えしか出なかった。

俺が調子に乗っていたから、とか、そんな理由でハブられてるとも気付かずに。


けど、一人、一人だけ友達がいた。

花野 喜美ちゃん。

喜美ちゃんだけが残ってくれた。

たったひとつの支え。

そんな柱をとある人物が壊した。

誰かは言うまでもあるまい。


その日に気付いた。

俺はすぐに切り捨てられるような、そんや奴なんだって。

なんだか、考えるのも馬鹿らしくなった。

今思えば、あの時、なんで俺は喜美ちゃんに一言も、何も言わずに、あの時、顔を背けてしまったのか。

喜美ちゃんにも何か理由があったんじゃないのか。

けどそんな後悔はもう遅かった。

遅かったからこうなった。

だからここに、今の俺が…いる。


「…何か色々わかったよ。

どうしてあんなにも彼方くんをいじめると言う事に抵抗がなかったのか、何であそこまで簡単に受け入れたのか…けど、彼方くん、まだ肝心なことがわからない。

どうして、何もしなかったの?」


彼方はまだ答えていない。

どうして何もしなかったのか。

彼方はゆっくりと目を閉じた後に、目を開け空を仰いだ。


「俺は…たぶん友達が欲しかったんだ。

あの頃の俺に接したのはお前だけだった。

話をちゃんとしたのも、何もしてこないのもお前だけだったんだよ。

だから俺は何処かできっとお前と、式ノと、友達になれるって思ってたんだ」


彼方は呆然としている式ノを気にせずに言葉を続ける。


「きっとなれる。

そう何度も思った。

けど、お前は転校しちまった。

あの時の俺の中では、やった、とか、もう何もされない!、とかそんな事を思ってた。

けど、本当の気持ちは違った。

俺は…お前に裏切られたと思ったんだ」


「私に裏切られた…?」


「そう…まぁ俺の勝手な想いで…片想いで…お前は知らないと思うけど、お前が転校した後もいじめは続いてたんだよ」


「え…?」


「正直俺の体と精神はもう保てない状態だった。

その内に諦めていった。

もう友達なんてできっこないって。

中学に上がってもいじめは続いてて…。

その時に助けてくれた奴がいてさ…いや、とにかく!今こうやって式ノとも友達になれた訳で!今の俺がいるのもお前のお陰で蓮野と出会えたのだって…」


そこで、彼方の言葉は途切れる。

蓮野余波、彼方にとって大切な人。


「彼方…くん…」


式ノは、下を向き、ただ申し訳なさそうな顔をしていた。

式ノは、俺と蓮野との関係を壊した張本人。

だけど、もう過ぎた事はしょうがないんだ。

だから、俺がどうにかしなくちゃいけない。


「式ノ、お前に頼みがある」


彼方は真っ直ぐと式ノを見つめる。


「…」


式ノはそれを無言で見つめ返す。


「俺は、蓮野とまた、友達になりたい。

協力してくれるか?」


その先にどんな未来が待ち受けているのか。

それはわからない。

そんなわからない先の未来に向けて、式ノは頷き、彼方は覚悟を決めたのだった。

読んで下さりありがとうございます!

いやぁ…早いもので30話目となりました。

いや、まだ30話目と言った感じなのでしょうかw

この物語の完結までの道程は決まっているのに、それを文にするまでが本当に長い長い。

完結に向けて、これからも頑張って書いていきたいです。

それではまた!

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