27.こうして二人のデートが始まる。
「それじゃあ泉、頑張れよ!
夏休み明けに提出だぞ?」
と言う言葉を置いて笹塚先生は帰っていった。
俺は何を迷っていた。
何を恐れていた。
全てを犠牲にしろ。
自分の何かもを犠牲にしたって、守りたい奴がいるなら、守ればいいだろ。
泉彼方は決意する。
守りたいものを守ると。
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 ̄
泉彼方はとある約束のため、学校に向かっていた。
歩く道歩く道、昼だと言うのに、人と会うことはなかった。
空は雲で埋め尽くされていた。
それが不気味で、これから会う奴を表しているようだった。
そして、校門前に到着した。
「お?来たねー彼方くん!」
「よぉ…式ノ」
さぁ…始めようぜ。
地獄のデートを。
こうなった状況を説明しよう。
昨日、夜に知らない番号からかかってきて、それに恐る恐る出てみたら、神無月式ノからだった。
用件を聞くと、デートをしよう、とのこと。
この誘いは、悪魔の誘いでもあり、俺にとってはチャンスでもあるのだ。
蓮野を守る、式ノとのこの関係を変えるチャンスなんだ。
「ちょっと彼方くん!」
「ッ!?」
式ノが下を向いてる俺に顔を近付けてきた。
「親友とのデート中に何を考えてたのかな?」
「…」
その笑顔、言葉、行動、奴の全てがまるで、俺と言う存在の、人との関わりを、否定されている用な気がした。
お前には友達などいないんだ。
お前に人との関わりは持てないんだ。
そう…言われてるような気がしたんだ。
「ふ~ん…答えてくれないんだ。
まぁいいや、じゃ行こっか」
そう笑いながら式ノは歩く。
ここで追求してこないのがなんとも不気味だ…。
だが今は黙ってついていくしかない…。
「って…なんでプールなんだよぉ!」
「え?いってなかったっけ?」
「言ってねぇよ!」
今、俺と式ノはプールの入り口前にいる。
ただ黙ってついていけばこれである。
何処に行くかくらい聞いとけば良かった…。
いやまぁ季節的に間違ってないんだけどさぁ…。
「じゃあ水着は?」
「ねぇよ!」
「それじゃあこれを彼方くんにあげよう!」
と、式ノが満面の笑みで上に突き上げたのは、ブーメランだった。
しかも、それはわざとだろと言わんばかりの色、そう、肌色のブーメランだった。
「ってバッカじゃねぇの!?履かねぇよ!?
てかそんなもん履くんだったら今すぐ溺れ死んでやらぁ!」
「もう…仕方ないな。
ちゃんとこっちも用意してあるから」
式ノは肩に下げているトートバッグをごそごそと左手を探索させる。
「なんだよ。
あるなら先にそっち出せよな…たく」
って…何俺普通にツッコミとか入れちゃってんの?
相手はあの悪魔だよ?
何処までも人を絶望に落とす悪魔だよ?
てかこれじゃあ言うタイミング…。
と、彼方が心の中でモヤモヤと考えていると、彼方の視線にとある物が映った。
「はいこれ、もうひとつの水着!」
笑顔それを提示してきたお前の性格はよくわかった。
「ってこれただ柄が変わっただけでブーメランに変わりねぇじゃん!?」
「じゃあさっきの履く?」
「こちらを着させて頂きます」
彼方は察した。
このまま嫌々言っていれば、最終的あの肌色ブーメランを履くことになると。
そして、俺と式ノはプールの内部へと行くこととなった。
お一人様です、と言ったら足を踏まれた事は言うまでもあるまい。
俺は抵抗しながらも赤と黄色が半々になっている柄のブーメランを履いた。
「…てかあいつ遅いな…」
俺は女子更衣室から少し距離をとり、周りの視線を気にしながら式ノを待つこと十五分。
やっとその声は後ろから聞こえた。
「彼方くん!」
「たく…おせぇよ…っ!?」
俺が後ろを振り返ると、驚く光景がそこにあった。
式ノが着衣していたのは、黒ビキニだった。
それも何か少し露出が多い奴。
これに動揺したのも、これに少しドキッとしたのも認めよう。
てか…式ノって以外にスタイルがいいんだな…そ、それと…結構…むむむむむむ胸も…。
「あれ~?何処を見てるのかな~?」
「べべべべべべべべべべぇつぅにぃ~?
どこも見てねぇしぃ~??」
「ぷっ!彼方くん動揺しすぎ」
式ノは上品に少し口を右手で抑えながら笑う。
俺は恥ずかしさのあまり右手で口を覆い隠す。
てかなんだこれ…これじゃあまるで…ただのデートじゃないか。
普通の…普通の…。
そして、彼方と式ノの一日が、こうして始まるのだった。




