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青春したいのに青春出来ない俺の日々。  作者: あだち りる
第四章「仲直りは青春への近道。」
26/44

26.家庭訪問。

七月七日。

泉彼方は、ただ部屋でボーッとしていた。

もう昼間だと言うのに、部屋の明かりを消していた。

何もせずに、ただベッドの上で。

そして、ギシギシ、と彼方の扉に近付く音が聞こえた。


「お兄ちゃんーご飯出来たけど?」


扉の向こうから花菜の声が聞こえた。

返事したくないな…けど、それじゃあただのヒキコモリ、それに…今はこんな感情を、誰かに勘づかれる訳にはいかない。

花菜にはたまには心配をかけさせろと言われた…けど、こんなの、相談出来る訳…ないだろ。


「あぁ、すぐ行くよ」


俺は、声だけいつも通りに振る舞った。

けど、姿自体は、ただのヒキコモリ。

なぁ…俺はどうしたらいいだろうな…。

どうしたら良かったんだろうな…。

いや…どうしようもなかったんだろうな。

…そろそろ行かないとまた来るよな。


彼方は立上がり、扉をただ重々しく開けるのだった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄

そして、お昼を過ぎる頃に事件は起きた。


「やぁやぁ泉!」


「えっと…何で?」


「何でって…家庭訪問だ!」


と、元気が眩しくなるような笑顔を向けるのは、笹塚先生だった。


「えっとその…お久し振りです、それじゃあ夏休み明けにまたお会いしましょう」


俺は玄関の扉を閉めようとする。


「ッ!おいおい、扉を閉めようとするんじゃないよ泉ッ!」


美月はそれを足と手を使って止める。

そして、仕方なく、笹塚先生を家に入れる事にした。

(俺の部屋)


「で、何しに来たんですか?」


「ん?あぁ、家庭訪問と言う言い訳を使って遊びに来た」


「本当あんた帰れ」


一応説明しておこう。

この人の名前は笹塚美月。

家の学校の保健室の先生だ。

外出時ですら白衣を来ていると言う保健室の先生の鏡である。

そして、この人はたまに、俺の家に家庭訪問と言う理由を使って遊びに来ているのだ。


「まぁまぁそう邪険にするなよ、泉が心配で来たのだから」


「心配って…別に俺は…」


彼方が否定をしようとした瞬間に、まるでその言葉を遮るように美月は口を開ける。


「嘘つけ~なら何でメールを返さないんだ?」


「メール…?」


俺は久し振りにスマートフォンを手に取り、開く。


「うっわ!なんだこのメールの件数…」


そこに表示されてるメールの数は百三十五と表示されていた。

見てみると、全て笹塚先生からだった。


「お前は、悩んでいる時、何かあったとき、スマートフォンを見ない癖があるからな~」


「何処情報ですかそれ…」


「私情報だ!」


この先生の情報網マニアックすぎんだろ。

てかこの先生、俺の事なんでもお見通しかよ。

先生の情報は確かな物だと確信した瞬間だった。


「で、それを知ったとして、どうするですか?」


俺は諦め、開き直る。


「話せ」


「は?」


美月は、いつもの表情に対し、彼方はポカーンとしている。


「いや、は、じゃないだろ?話せってば、お前は一人で抱えすぎなんだ」


「はぁ…本当に貴女って人は…」


「泉、お前は一人で悩む必要はない。

甘えたっていいんだ、頼ったっていいんだ。

私なんかいつも人に頼りっぱなしだぞ?だから」


「ッ…」!


俺は、先生から視線をそらしていた。

今の顔を見られたくない。

きっと、涙が溢れそうな顔をしてるから。

その瞬間だった。

俺は、とても暖かい感触に、感覚に、包まれた。


彼方は、美月に抱き寄せられていた。

ベッドの上で、ただ暖かさを彼方は感じていた。


「泉…苦しいときはな、泣いていいんだぞ?」


その言葉に、その優しい声に、俺は、前が見えなくなっていた。

前が見えない。

目の前が滲んでいる。

あぁ…泣いていいのか…。


「…先生…くっ…俺…頑張ったんです…!」


「あぁ…」


「俺…俺…ッ!自分がどうなったって…!

自分をいくら犠牲にしたって良かったんです…!」


「あぁ…」


「それで…っ…守れるなら…それで良かったんだッ!!

でもダメだった…!

俺は…俺は…こんなにも…無力なんだって…そこで俺はわかったんですよ…。

俺は、誰かと関わる権利なんて…ない…」


彼方は美月の胸の中で、全てをぶちまけた。

その感情に、その言葉に、その台詞に対し、美月が向けた言葉。


「泉、二つ、間違えがあるな」


「まち…がえ…?」


俺は、笹塚先生の方へ顔を上げる。


「まず一つ、お前は無力なんかじゃない、お前は自分の全てを犠牲にしてまで救うつもりだった、それが無力な訳があるか?いやない、それを無力だと言う奴がいるなら私がそいつを殴ってやる」


「ッ…!でも…俺は…」


「そして二つ、誰かと関わる権利なんてない?馬鹿言うな。

人は、誰かと関わらなければ、繋がらなければ、生きていけないんだよ。

誰かとの繋がりがあって、人、つまり人生は成立するんだ。

それに泉、お前はもう既に、私や、君月、と関わりを得ているんだ。

お前と言う大切な友人が出来てしまったんだよ。

関わる権利がない?

なら私達はいったいどんな権利でここまで関わるようになったのだ?

それは私達と泉の今までの関わり全部嘘で、上部で、偽善だったって事か?」


「違う!そんな訳!」


「…答え、出てるじゃないか」


「え…」


「お前は、人との関わりを求めているんだ。

守りたい、全てを犠牲にしても、なら、全てを犠牲にしても、どんなことを犠牲にしても、関わりを持てばいい。

求めている繋がりを、手にすればいい」


美月は、今、彼方が求めている台詞を、言葉を、全てを、口にした。

伝えた。

この瞬間、彼方は感じたんだ。

あぁ…これが優しさなんだな。


「俺…関わっていいんですか…?」


「なんで関わっちゃいけないんだ?

むしろ全力で人との繋がりを求めろ」


「ガッカリさせたり…失望されたりしませんか…?」


「そんなのされるに決まってるだろ。

その中でも繋がりを求めて、仲直りして、更に強い繋がりが生まれる。

それが関わるって事なんだ。

だからいくらでもガッカリさせて失望させろ!」


満面の笑みを向けて、美月は言った。


「…いいんですか…?こんな、一人の生徒に固執して…」


「いいんだ。

私は、お前を特別扱いしたいんだ。

お前を慰めてやりたいんだ。

お前を可愛がりたいんだ。

お前を守ってやりたいだ。

教師としても、友人としても、女としても」


「…笹塚先生…ありがとう…ございます」


俺は、涙で前が霞む中、笑いながらお礼を言う。


「それじゃあ泉彼方、お前に宿題を出す!」


美月は彼方を指差し、言葉を続ける。


「今、お前が最も大切としてるものとの関係を、関わりを、繋がりを、取り戻してこい」


「…はい!」

読んでくださりありがとうございます!

やっと美月を登場させる事が出来ました!

次登場させる時は絶対にここだ!と決めておりました!

いやぁ…何かすごく長く感じましたw

それでは自分がはこれで失礼します。

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