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青春したいのに青春出来ない俺の日々。  作者: あだち りる
第二章「いじめられっ子の復讐は青春に繋がる。」
18/44

18.彼方の復讐劇。

「どうして…お前が…」


俺は動揺を隠しきれなかった。

当たり前だ。

呼ばれた奴とまったく違う顔がそこにあれば誰だって動揺のひとつはするはずだ。

それに加えこの世で最も恨めしい奴だったら尚更だ。


「あれ~?彼方君まだ気づかないの~?ぷぷ~頭いい癖に~まったくこれだから童貞は」


と、式ノはニヤニヤしながら言う。


童貞は関係ないだろ。

と、口に出そうとしたがやめた。

今はそんな事より、この状況の整理だ。

奴はなんて言った?まだ気づかない?何が何だか…「……」俺はこの状況が何かと重なった。

昔にも、経験したような、この状況に。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄

「かなたくん!」


「なーに?」


「ひまわり見に行こ!」


「うん!」


これは、彼方が小学四年生の頃のお話。

この女の子名は、花野はなの 喜美きみ

彼方と同い年で同じクラス。

髪の毛を後ろに束ねてて、大きなリボンを着けたポニーテールがとても特徴的だった。

女の子はとても元気で、優しくて、お花が好きで、彼方と良く遊んで、一緒にお花を見に行ってたりした。

それが二人の関係。

彼方と喜美は、ある日、一緒にひまわりを観に行った。

その時の季節はとても暑い夏で、でっかいひまわりを見ながら二人は、すごいデカイね!、何て言ってニコニコ笑っていた。

小学四年生の身長ならばひまわりは確かに自分の身長の倍はあるはずだ。

だが、今の彼方の身長は、百七十六。

もはやデカイね!何て言える身長でもなかった。

喜美の今の身長はわからない。

わかるはずもないのだ…この夏が、彼方の今の状況と、重なるのだから。


「ねぇ…かなたくん」


喜美は、ずっと見上げてたひまわりから視線をそらし、こちらに顔を向けた。

気のせいか、喜美の顔は何故か少し赤かった。


「なに?喜美ちゃん」


そんな喜美の顔など気にせずに彼方はキョトンとしている。


「えっとね…そのね…明日…いつもの公園に来て?」


喜美は、もじもじと言う。

それに対し、彼方はバっとりょうてを広げ「明日は何して遊ぼっか!?」と、ウキウキしながら言った。

この彼方の返答は、小学生だから許される。

もし、青年ならば、鈍感童貞野郎と言われ、ぶん殴られるだろう。


「明日は…特別な事だよ…?」


「…?」


その言葉の意味がこの頃の彼方にはまったくわからなかった。

そして、次の日。

彼方は鼻歌を歌い「ふふ~ん♪」走りながらいつもの公園へと向かった。

そしてその公園には着いた。

けど、喜美はいなかった。

ただ遅れてるだけ…何て言う思考には至らなかった。

だって、そこには全てが理解出来る光景があったのだから。

そこには、あいつがいたのだから。


「あ、かなたくん!きたきた!」


神無月 式ノ。

今とは似ても似つかない短い髪の毛。

でも、いつもつけてるうさぎのヘアピンはそのままで、白いワンピースを身に付けていた。

そして、その悪魔の笑みは、こちらを振り向いた。


「式ノ…ちゃん…?」


彼方は、つい尻餅をついてしまった。

この頃の彼方にとって、式ノほど怖い人物はいなかったからだ。

この頃の優位つの友達。

喜美が彼方の心の支えだったのだ。

だけど、この日、彼方の支えは消えた。

裏切られたのだ。

信じて、信じきっていた喜美に。

そして、彼方の心は、折れてしまった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄

「そう言う…事かよ」


「やっと気づいた?」


この笑みが、昔と重なる。

思い出したくないのに、とても些細な嫌がらせまで思い出してしまう。

もう忘れてしまおうと思っても、こいつを前にすれば、何もかもを諦めてた自分を、感情を失った自分を、否応にも思い出すんだ。

そして、俺は、今までの、そして今の、憎しみを込めて、叫んだ。


「式ノおおおおお!!!」


今、俺はどんな目をしているだろう。

恐らく…俺の瞳は憎しみを宿しているだろうか。

いやいい。

そんな事はいいんだ。

俺が今、やらなきゃいけないこと。

それは、こいつと言う人間を、神無月式ノを、ぶっ飛ばすこと。


「もう…彼方君…そんな憎しみの叫びを聞いた後に…そんな目で見られたら私…私…イッちゃうよ…」


式ノは、ぷるぷると震えながら顔を赤く染め、両手で体を抑える。

だが、今の彼方にそんな式ノの姿を気にも止める要素はなかった。

今ただあるのは、憎しみだけ。


「俺は、お前を…ぶっ飛ばす!!」


力を込めて、その言葉を彼方は式ノへと放った。


「いいよ…最高だよ…彼方君!!その顔!その声!その姿!あぁ…今の彼方君の全てが愛おしい…その顔を…もっと…ぐちゃぐちゃにしたいわ~」


式ノはその悪魔の笑みを、彼方へと向けた。そして、彼方は式ノとの距離を積めて行く。

彼方はいつの間にか走っていた。

式ノはその姿を見ながら、ただ笑う。

彼方は式ノの前へとそして式ノの肩を左手で掴み、思いっきり屋上のフェンスに、ドン!、と叩きつけた。

フェンスが、カシャン!、音をたて、明らかに強く叩きつけた事がわかる音だった。


「ッ!」


彼方は拳を思いっきり後ろに下げた。


「…」


式ノはニヤァっと笑う。

まるでこの時を待っていたかのように、ゲスい笑みを、見せながら。

だが、彼方の拳は下げたっきり前へとは放たれない。

彼方はぷるぷると震えている。


「なんで…だよ…」


「…」


歯を噛み締めている彼方に対し、式ノの顔は先程の表情とはまったく違う、無表情になっていた。

そして彼方は、式ノの肩から手を離し、地べたに両膝をつけた。


「何でなんだよ!!何で俺なんだよ!!俺がなにしたってんだよ!?俺はお前がわからない…お前が憎い…お前が嫌いだ…なのに…なのに何で殴れないんだよ…何で…俺は…こんな弱虫の自分が…大っ嫌いだ…!!」


彼方は、式ノを、殴れなかった。


「…興醒めね」


式ノは、彼方を見下ろしながら、そう答えた。

興醒め、式ノにとってはもう何の面白味もないのだろう。

こんな彼方にもはや面白味など求めること事態がおかしかった。

そして式ノは無言で屋上の扉の方へと歩いた。

そんな式ノを彼方は見て、もう聞けるチャンスは今しかないと思い、ゆらゆらと立上がり、式ノに問い掛ける。


「式ノ…蓮野はどうしたんだ?」


式ノはつまんなそうに彼方の方へ振り向いた。


「蓮野?あぁあの子ならもう用住みだし帰らせたわよ」


「帰らせた…?」


「えぇ…あの子も本当に面白くなかったわ…うるさいのなんの、脅したらすぐに帰ったけど」


式ノは少し思い出したのかニヤリと笑う。


どういう事だ…?

帰らせた?てことは蓮野は一度…ここに…「ッ…!」彼方は気づいた。

蓮野は俺の事をまだ友達だと思ってくれている…?と。

だってそうだろ?じゃなきゃここに来るはずもない…式ノに脅されてて尚ここに来るってことは…蓮野は…蓮野は…。

彼方の口元はニヤリと笑う。


「なに笑ってるの?」


式ノは癇に障ったのかムッとした表情になる。


「いやぁその言葉が聞けて安心したわ、蓮野はまだ俺の事を友達だと思ってるし、蓮野がお前に傷つけられた訳でもない」


「何が言いたいの?」


「つまり、俺と蓮野はまだ友達!そしてこれからもだ」


彼方のこの怒りと憎しみは、昔の物ではなかったのだ。

さっきまでの怒りと憎しみは、蓮野余波と言う人物を傷付けた、と思ったから、そう言う物だった。

けど、わかった。

蓮野はまだ友達だ。

裏切られた訳でも、ましてや約束を破った訳でもない。

なら、彼方の怒りは何処にもない。

それが答えなんだ。


さっきまでぐちぐちと何かを考えて憎しみやら怒りやら沸いてたのが馬鹿らしくなってくるぐらいに、そう言った感情は何処かへと消えていた。


「…」


式ノは無言でこちらに視線を向ける。


「式ノ、お前への復讐の仕方が決まったぜ、喜べ」


「え!なになに!?どんなの!?」


式ノは急な満面笑みでこちらを向く。

そう、俺の復讐劇は、復讐の仕方は…


「お前と゛友達゛になることだ!」


これが俺の、復讐。

復讐劇だ。

恐らく、式ノにとって、一番つまらないシナリオ。


「本当に興醒めね」


式ノは無表情の中にも、怒りが混ざった表情を彼方に見せた。

彼方の復讐劇は、ここからだ。

これで!第二章「いじめられっ子の復讐は青春に繋がる。」は終了もなります!

どうだったでしょうか!たのしくもたまにスカッとするような、だけどたまに悩ませるような…そんな章に出来ていたらとても嬉しく思います!

ではではまた!お次は第三章でお会いしましょう!

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